第12話 EP04-02 燕のボクシンググラブ
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。『内地』では、中学校に通う中学二年生の、ごく普通の男子だ。
◇
オレは、ビル街の端、古いビルの中にある『山之上ボクシングジム』に来た。
目的は当然、『燕』に会うためだ。フィンガーレスグローブのお礼と、活躍した報告と、報酬の増額に見合う購入金額の上乗せ。『思い』の提供者が生きている場合の、『心剣士』の礼儀であり、楽しみの一つだな。
「新実は律儀だな」
鴉羽がボーイッシュな声で微笑した。
鴉羽 梨華は、クラスメートの女子で、美月の友だちである。黒髪のボーイッシュなショートヘアで、意識高そうな、大人びた感じがある。私服も、凄くボーイッシュで大人びたスーツスタイルである。
聖高潔騎士団所属の、エリート候補の軍人でもある。
面識の薄い燕に会うから、燕と親しい鴉羽に同行をお願いした。
遠慮してもらう必要の無くなった美月も誘ったけど。『初対面の人に会うのなら、心の準備ができていないから遠慮するわ』、と遠慮された。美月は人見知りだ。
代わりに美月には、妹二人をショッピングモールから家まで送ってもらった。美月は本当に、優等生で、相棒で、頼もしい。
◇
フロアの中央にボクシングのリング、壁際に並ぶサンドバッグや姿見鏡や筋トレ器具。一目でボクシングジムと分かるフロアである。
革を鋭く打つパァンッと高い音と、床を強く踏むキュキュッって高音が、幾つも鳴り響く。
広いフィットネスジムみたいなフロアに、三十人くらい。女性専門のボクシングジムで、女の人しかいない。本格的な動きでサンドバッグを打つ人もいれば、緩いシャドーボクシングで自分に陶酔うフィットネスな人もいる。
休日だからか、フィットネス派が多そうな気がする。
フロアに燕を捜す、その前に、鴉羽に確認したいことがある。
「鴉羽さん。その手にあるドーナツ屋の箱は、何?」
「燕がジュニアの大会に出場するそうでな。景気付けの差し入れにと思って買ってきた」
鴉羽がボーイッシュな笑顔で答えた。
「ボクシングって、階級ごとの体重制限とかあった気がするから、食べものは、どうかな?、と思う」
「そうか? 育ち盛りだから大丈夫だろう?」
鴉羽はデリカシーが無い。
……まぁ、いいか。
◇
燕を見つけた。
フロアの隅の、プラスチックの大きなゴミ箱が並ぶところに立って、ゴミ箱を見ている。
燕は、中学二年生の女子だ。淡い水色髪のツインテールで、やや小柄で線が細い。服は、黒いジャージに、履き込まれた練習用シューズ。
小さな両手には、大事そうに、ボロボロもボロボロ、ボロボロのボクシンググローブを抱えている。
オレは、先日と様子が違って、声をかけるのを躊躇う。
「燕! ちょっといいか?」
鴉羽が一瞬の躊躇もなく声をかけた。
燕が慌てて振り向く。
「鴉羽! 考えてみたんだけど、やっぱり、アタシが間違ってたわ! キョウ先輩なら、きっと、『面倒くせぇぇぇっ!、アタイに頼るんじゃねぇぇぇぇぇっ!』って言うと思うの!」
燕のかわいい声で、唐突な似てない声真似だった。声は似てないけど、言いそうではあった。
「そうだな。自分勝手で、邪魔な面倒事を嫌う人だな」
鴉羽が、ボーイッシュな声で同意した。
言い方。でも確かに、敵味方入り乱れる戦場なのに強い魔物と一対一で戦いたがったり、援護してくれた仲間に半泣きで抗議してたり、何と言うか、自由な感じの人だった。
キョウとは、超戦闘狂の少女である。オレンジ色のボサボサの長い髪で、歯がギザギザしてる。体躯は、撓りの強そうな肢体で、すらりと細い。
燕は、少し寂しげに、抱えるボロボロのグローブを見おろす。
「アタシが勝手に、キョウ先輩の気持ちに甘えて、寄りかかっていただけ。キョウ先輩は何時も、アタシが自立できるように指導してくださっていたのに」
「先輩がそこまで考えているわけないだろう」
鴉羽はデリカシーが無い。
「ここは、そういうことにしておいた方が好いんじゃないか?」
オレは、さり気なくフォローを入れた。
「だから、アタシは、キョウ先輩の期待に応えるために、自分の足で前に進むの。このグローブがあると、また甘えちゃうから、今、ここで、お別れするの」
燕が、名残惜しそうに、ボロボロのボクシンググローブをゴミ箱へと放った。
◇
「ちょぉっとぉ、待ったぁぁぁっ!」
オレは思わず、ゴミ箱に飛びついた。ボロボロのボクシンググローブを拾い出して、両手で持って、燕に差し出した。
「どうせ捨てるなら、オレに売ってほしいっす!」
魔法『心剣士』は、『人が武器に残した強い思い』を力に換える。
でも、魔法の強さ故か、それなりに制限がある。使用可能な『人』が使用者ごとに限られるのである。
例えば、オレは、『少女』が武器に残した思いしか使えない。知り合いのリヒトは、『屈強な兵士』の思い。
って感じで、武器の調達は『心剣士』の悩みどころでもある。
特に、オレの場合は
「……」
燕と鴉羽が、『少女が捨てたものを売ってくれと懇願する変態』を見る目でドン引きする。
「ち、違うんだ! オ、オレは」
オレは慌てて弁明しようとした。
「そ、そうだな。新実は『心剣士』だからな」
鴉羽がドン引きの目で、察した顔をした。
「だから! 違うって!」
周囲の女の人たちの視線も、ちょっと刺さってくる気がした。
◇
「って、ことだから」
オレは、取り敢えず、弁明の機会は与えてもらえた。
燕は優しい、かわいい系の少女だ。
燕が、未だ不信感を拭えない顔で、ボロボロのボクシンググローブを見つめる。
「あのヘタったフィンガーレスグローブで四つ角の魔物と渡り合えたの? キョウ先輩に頂いたボクシンググローブは、もっと凄いの?」
まだまだ半信半疑って目ではある。気持ちは分かる。
燕は、軍人として教練を受けた過去がある。軍人としての知識と教養がある。
普通の軍人にとって、四つ角の魔物は、まともに相手をしたら人間側が成す術なく蹂躙される超強敵だ。勝てると思うな、係わるな、見たら逃げろ、が基本だ。
「でも、使ってた本人が言うのも何だけど、ボロボロよ?」
よくある質問に、オレは力説で答える。
「武器の状態は関係ないっす。『武器に残った思い』を力に換える魔法っす」
「思い、って言われても……」
燕は、よく分からない、って感じで首を傾げる。その反応も、よくある。
最強の魔法の一つとされる『心剣士』だから、情報としては、誰でも知っている。しかしながら、感覚的には、何が強いかなんて、使い手にしか分からない。
これも、よくある。
「まぁ、いいじゃないか、燕。欲しいのなら、売ってやれば。新しいボクシンググローブを買うにも、資金が必要だろう?」
鴉羽が、中学生男子の思春期に理解のある顔でフォローを入れた。
鴉羽は、気遣いはあるのにデリカシーが無い。
「だから! 違うって! 『心剣士』ってのは!」
オレはオレの名誉のために、力説した。ムダだろうとは、察していた。
悲しいかな、それも、よくあることだった。
心剣士は少女の夢を夢見るのか
第12話 EP04-02 燕のボクシンググラブ/END
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