第10話 EP03-03 時間稼ぎ
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。『内地』では、中学校に通う中学二年生の、ごく普通の男子だけど。『外地』なら、『人が武器に残した強い思い』で戦う魔法使い『心剣士』だ。
◇
魔王の居城の麓の戦場『魔城の前庭』で、人間サイズの四つ角の魔物と相対する。
大きな交差点くらいの広さの空間に、オレと人間サイズの四つ角がいる。左右は、騎士兵士たちが魔物どもと激突し、競り合う。
轟音と怒号が溢れる戦場に、ここだけポツンと静寂があるような、不思議な感じだ。
一つ角の魔物は、人型に近いものが多い。ハゲで痩せて腹の出た、手長短足の赤銅色のオッサン、みたいな見た目のヤツが一般的だ。頭の一本角、尖った耳、赤一色の目が特徴だ。
一つ角の魔物どもは、横多列で密集した大盾騎士たちと真っ向から押し合っている。騎士たちの構える大盾を爪で引っ掻いたり、引き剥がそうと獅噛みつく。
二つ角の魔物は、人間より大きく、人間と獣の中間的な形状をしてる。体高の高さ故に、魔物の集団の中でも目立つ。
三つ角の魔物は、二つ角よりもさらに大きく、形状が獣の四足歩行に近い。対峙すると、圧倒的な強者から無感情に見おろされるような、恐怖が湧きあがる。
大きな戦場だけあって、二つ角と三つ角もあちこちに見られる。ほとんどは、一つ角の集団が邪魔で人間の軍と交戦できずにいる。
ユーナベルム騎士団の役割は時間稼ぎだから、一つ角を敢えて倒さず障害物として二つ角や三つ角の足止めに使う、そんな感じの戦法だと思う。
◇
オレの役割も、時間稼ぎだ。
一張羅の中学校の制服、白のワイシャツに黒のスラックスに黒のスニーカー。手には、『燕が強い思いを籠めたフィンガーレスグローブ』を嵌める。
堂々と、遮るものの無い荒野を、人間サイズの四つ角の魔物に向けて歩く。
この状況で、人間サイズの四つ角は、近づいてくる唯一にして最も手近な獲物=オレの相手をするしかない。
ともあれ、人間サイズの四つ角なんて、オレも初めて見た。
形状は、多少は歪んでるけど、人間に近い。頭、首、胸、腹、腰、腕、脚がある。
肌というか表面というか、赤土めいて、赤黒くザラザラとした質感だ。全身にある凹凸と合わせて、人型の地面っぽい印象が強い。
そうだな、呼称、……、『大地』ってところか?
オレは、歩みを止める。
大地との距離は、二メートルほど。ザラザラした顔に、目も鼻も口も耳も髪もない。凸凹した、頭部みたいな形がある。
存在しない目で、オレを見る。オレも、存在しない目を見返す。
暫しの睨み合い。
……大地が先に動いた。
無造作な踏み込み。無造作な殴打。オレに真っ直ぐ拳を突き出してくる感じ。
速い。速いけど、目で追える。
オレは、初撃は念のため、後方へと長めに跳躍して躱した。
大地の殴打が、見た目のままの射程距離で空を切った。
観察し、情報収集し、分析する。
特殊な挙動は無さそう。速い。パワーは、たぶんヤバい。
だが、当たらなければ、どうということは無い。たぶん。
大地が再び、無造作に踏み込み、無造作に殴打を繰り出す。
オレは素早いステップで、今度は横方向に、大地の背面へと回り込む。
回り込むオレを追って、横方向に振りまわす感じの殴打だった。大地は空振った勢いで半回転して、オレの方に振り向いた。
観察し、情報収集し、分析する。
横方向も、特殊な挙動は無さそうだ。
逃げまわってばかりだと、オレに飽きて他に行ってしまうかも知れない。次は、もう一歩踏み込む。大地の殴打がギリギリ届きそうな、絶妙な距離で立ちまわろう。
危ない?、否!、問題ない! 『燕の思い』は油断しない。常に恐怖し、回避に専念し、不測の事態の警戒にまで意識を裂く。
大地の無造作な殴打を、軽快なバックステップで空振らせる。ザザッザザザッと小刻みな足捌きで、荒野に軽やかに舞う。
間髪入れず、バックステップと同じ距離を踏み込む。大地の裏拳みたいな追撃を、素早いサイドステップで置き去りにする。大地の背後に至って、赤土の地面めいてザラザラした背中へと、軽く牽制のジャブを……
……打てない! 打てなかった。『燕の思い』の恐怖に引っ張られて、もう一歩を踏み込めなかった。
オレは素早いバックステップで、大地から距離を取る。バクバクと心臓が喚く。恐怖に冷や汗が、頬を伝う。
強烈だ。『武器に籠められた思い』に引っ張られるのは日常茶飯事だけど、『思い』に接近拒否までされた。
……オレの意思で制御するしかないか。
……あ、でも、そうまでして攻撃する必要ないか。目的は、時間稼ぎだけだ。
◇
大地がオレを追って、無造作に踏み込んでくる。
無造作な殴打は、先んじて上体を捻って、軌道から外れて躱す。
目でなら追える速さの殴打だから、殴打を見てから体を動かして避けるのは難しい。大地の挙動から攻撃方法と攻撃タイミングを予測して、攻撃可能な範囲を予測して、先読みで当たらない位置まで移動する感じだ。それが可能な『燕の思い』は凄い。
実際、凄い。
オレの側頭部を狙う右拳。屈んで前ステップで潜る。
後頭部を追ってくる左拳。大地の背中と同じ速度で回り込み、置き去る。
振り向き振りあげられた赤土色の拳を、バックステップで射程距離ギリギリまで下がる。
何が凄いって、俊敏さや足捌きだけじゃない。
観察力が凄い。情報収集力が凄い。分析力が凄い。
死や痛みへの恐怖が、臆病さが、慎重さと敏感さに昇華されてるのが凄い。
「……ふぅっ」
軽く息をはき、整える。また暫しの睨み合い。大地は、存在しない目でオレを見る。
……何か考えてたりするのだろうか。
四つ角の魔物の知能は、野生の獣程度って印象がある。五つ角は、知能が高く人語を解する。その中間なら、……双方とも極端で、中間点が分からないな。
「……!」
大地が動いた。ワンパターンに、無造作に踏み込んできた。
「!?」
でも、これまでより速い気がした。
赤土色の拳を、オレの額に目掛けて、上から振りおろしてきた。
「?!」
気がした、じゃない! 明らかに速い! ヤバい!、僅かでも避け損なったらヤバいパワーだぞ!
オレはスウェーバックで仰け反りながら、同時に素早いバックステップで後退した。鼻先スレスレを、ザラザラした赤土色が突っ切った。後方へと無茶な避け方をしたせいで、バランスを崩して背中から地面に倒れた。
この武器、『燕の思い』じゃなかったら躱せなかった! しかも、まだ安心するには早い!
オレは倒れたまま慌てて、無数の破片でゴツゴツした地面を転がる。背中痛い! 慌てて立ちあがり、ボクシングスタイルで身構える。
大地は、すでにコッチに踏み込んで、赤土色の拳を振りかぶる。
ヤバい!
一瞬でも敵から目を放した。先読みが遅れた。
躱せるか? じゃない! 躱さないとマズい!、躱せ、オレ!
明らかに速い殴打が、オレ目掛けて
『うおぉぉぉぉぉっっっ!!!!!』
大軍の大歓声が轟いた。戦場の喧騒を掻き消すほどの大音量だった。
◇
人間の軍も魔物の軍も、全員が戦いをやめていた。何があったのかと、キョロキョロと周囲を見まわしていた。
オレも、驚いて、呆然と、周囲を見まわした。見える範囲で変化は無さそうだけど、予想は容易だった。
本隊が、四つ角の魔物『触手樹』の討伐に成功したのだ。
「……」
大地は赤土色の拳を引いて、無造作に、オレにザラザラした背中を向けて歩き出す。『魔城の前庭』の魔物の陣地の方へと立ち去る。
他の魔物どもも、醜悪な興奮が急に冷めたみたいに、自軍の将に付き従うように、人間の軍に背中を向けて立ち去り始める。
これは、『人間の軍の勝ち』で良さそうだ。オレも、ユーナベルム騎士団も、役割を全うできたみたいだ。
オレは安堵に息をはいて、荒野に座り込んだ。立ち去る魔物どもを警戒しつつ、鼻が無事かを触って確かめた。
ヤバかったけど、勝ちは勝ちだ。戦争なんて、だいたいこんな、勝ち負けの分かりにくいものだ。
見あげた空は変わらず薄曇りで、雨が降らなくてよかったと、今さらながらに思っていた。
心剣士は少女の夢を夢見るのか
第10話 EP03-03 時間稼ぎ/END
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