10
「いてててっーーー」
その夜、繁華街から少し離れた宿に泊まったリリーは派手な呻き声を漏らしていた。
「あんた、もうちょっと優しく消毒したらどうなのよ。染みるわよ」
リリーの背中は無残な傷が刻まれていた。ギャバの部下に背中を鞭打ちされて腫れているのだ。
叩かれたのは一発だけなのに皮膚のすべてを剥ぎ取られたかのように痛かった。
こうして横たわっていても身体がダルい。
宿の部屋はアランとは別々だが、リリーの手当をするために付き添っている。ちなみに、リリーは上半身は裸という状態である。
うつ伏せのまま振り返ろうとすると、アーサーがギョッとしたように言った。
「おい、おまえ、恥じらいはないのか?」
「そんなもん、前世で根こそぎ捨てたわよ」
撮影中に水着がポロリというハプニングも乗り越えてきた。
(そんな事よもり、傷が膿まないか心配だよ)
岡山が産んだ野生児の凛々子も痛みには弱い。
「あたしがこんなに痛いんだから、きっと、ジャンはもっと辛かったでしょうね。ジャンは無事かしら」
「ジャンは、当分の間、雲隠れしておいた方がいいだろうな」
ジャンは仲間だったヴィクトルとやらに裏切られたのだ。
「ヴィクトルは洞窟の在処を示した地図を役人に教えた」
役人が得る賞金の二割を受け取る約束だった。しかし、その役人は洞窟を見つける前にボートの中で死に、リリー達によって埋葬されたという訳なのだ。
「結局、金を受け取り損ねたヴィクトルは、ギャバにジャンの存在を密告するという形で報酬を得たという事だ」
「……そういう経緯なのね」
「ギャバは、この島のボスだ。昔から、商人が物の値段や流行を自ら操作してきた。売れなくなった香辛料や売れ残った生地も、囲い込んでいる女優や俳優によって宣伝させて売ってきた。まぁ、それに関しては商売上手という事で別に犯罪ではないけどな」
「……口コミの力を最大限に発揮するということね」
逆に言うと、事実を捻じ曲げる威力も持っているという事である。
これまでは物不足をアストラのせいにする事も出来た。しかし、ジャンのような人が現れたことで、その姑息なシナリオが崩れたという事なのだ。
「ギャバにしてみれば、内乱が起こると何かと都合がいいのさ。自分達が推している者達が勝つと、自分達の商会を贔屓にしてもらえるし、負けたとしても戦争状態の間は、いろんな物の値段が上昇して儲け率がアップする」
凛々子は日本史の授業を思い出していた。
(第一次世界大戦の頃、ヨーロッパの混乱に乗じて儲けた人達がいたわ。いわゆる、戦争成金が出たわ。特に、海運業が儲かったって歴史の先生が言ってたっけ)
異世界でも戦時によるバブルが起こる。
「ギャバは、これまでも自分の商売敵の家族を誘拐したりして色々と圧力をかけて潰してきたようだよ。脅しや恐喝の常習犯だが、さすがに、商館で、おまえ達を軟禁して拷問する訳にはいかないので、街外れの倉庫に移したらしい」
そう言うと、アーサーは手持ちの軟膏を取り出した。
「よし、傷が膿むとやっかいだから軟膏を塗るぞ」
「うん。お願いね」
アーサーは塗り終えた後、リリーの背後からシャツを羽織らせた。
「早く着ろ」
「うん。そうだね」
ベッドで胡坐をかくリリーは疲れたように溜息を漏らした。
監禁と拷問のダブルパンチにより、どっと疲れていた。
「ついてないわ。鞭打ちの傷跡って、もしかして、一生、残るのかな……?」
「……おそらく、残るだろうな」
アーサーの声は少しばかり陰っている。そんなにやばいのか。さすがのリリーの瞳も曇る。
「そっか……」
別に、傷があっても女としての価値は同じと言いたいところだが、背中が大きく開いたドレスを着るのは難しくなりそうだ。
(だけど、よく考えたら、貧乏だから晩餐会に行く機会もないから、まぁいいわよ)
心の中でそんな事を考えていると、不意にアーサーが背中から抱きしめてきた。
「……すまなかった」
「えっ」
「こんな事に巻き込んだせいで傷物にしてしまってすまない。あとで必ず償いをするからな」
そう言うと、リリーの襟足に軽くキスをする。たちまち、リリの身体が痺れるようなソワソワするような感覚が走る。
「ちょ、ちょっと何なのよ。セクハラよ」
ときどきして顔をまともに見られなくなってきた。
「セクハラの意味は謎だが、これは謝罪のキスだ」
アーサーも、どことなく照れたような顔をしている。
「リリー、おまえの言う通りだよ。オレは、王子として目の前の人間を救う事を優先すべきだった」
「……でも、あたしも反省したわ。ちゃんとした作戦なしに飛び込むのは良くなかったと思ってる。とにかく、助けに来てくれてありがとう」
「今回は助かったが、今後は街を歩き回るのはやめた方がいい」
「そうね。ベールのついた帽子でも被らないと駄目ね」
「明日からはオレだけが外に出る。いいな。おまえはここにいろよ。おまえの傷が癒えたら、アストラに帰国しよう」
アーサーはそれだけ言うと部屋から出ようとしたが、フッと振り返るとこう言った。
「おやすみ、リリー。今夜は、おまえの背中を思い返しながら寝るとするよ。おまえの腰のラインは最高だぞ」
「セクハラよ」
すると、ニヤッと笑った。
「なるほど。セクハラの使い方が何となく分かってきたぞ。リリーの滑らかな背中のラインを瞼に焼き付けておいたとか言うと、セクハラになるんだな」
「いやらしいわね。何を考えてるのよ」
リリーは怒ったフリをする。
アーサーは、どこかからかうような軽妙な顔つきだ。
「オレがセクハラしたいのは、おまえだけだ」
「うっ……どういう意味よ」
「好きなように受け取ってくれたらいいさ」
アーサーの視線が熱っぽくてワクワクする。
(こ、これって、恋愛フラグってやつなの?)
吊り橋効果というものなのか。
心も体もフアフアしてきた。
「とにかく、今夜は疲れただろう。ちゃんと休んでくれ」
「そうさせてもらうわ」
アーサーとの会話がくすぐったい。
何か得体のしれないものに胸がくすぐられているような、何とも言い難い感覚になる。
(あたしはジャンを救いたくて火の中に飛び込んだけど、ああいうのを無鉄砲って言うのよね。あたしも次からは作戦を立ててから行動しよう)
でないと、こんなふうに痛い目に遭うのだ。ああ、辛い。
(もう寝よう)
うつ伏せのまま顔をしかめていた。ああ、辛い。やはり、傷口が痛くて、寝返りを打つのにも苦労していたのである。
一方、鞭に撃たれた痛みを抱えているのはジャンも同じである。
小売業を営む男の馬小屋に匿われたジャンは眠れぬ夜を過ごしていた。そして、遠い記憶に浸っていたのである。
☆
『おい、ジャン、おまえ、文字が読めないらしいな』
ジャンが十歳の時、先輩の使用人達にからかわれて哀しかった。
『ジャンの母親は娼婦だからな』
『おまえの母親は街角で誰とでも寝るんだよな』
違いますと言いたいけれど、生憎、それは本当で、母は夫を亡くしてからは仕方なく街角に立っていた。母も辛かったに違いない、そんな母が死ぬと、ジャンは十歳で丁稚奉公に入った。
使用人達は、何かイライラするとジャンに当たり散らしてきた。殴られても抵抗する事無く我慢してきたが、ある時、ベアトリスお嬢様が割って入り、彼等を叱った。
『弱い者いじめはやめなさい。ジャンは何も悪い事をしていないのに、なぜ、そんなに意地悪なの』
ベアトリスの前では御者や庭師達は媚びへつらうけれど、ベアトリスがいない場所では、ベアトリスの事を『へちま顔のブス』と言っている。
でも、ジャンはベアトリスの事を綺麗だと思っていた。
(ベアトリスは、こんなオレに文字を教えてくれた)
ジャンはめきめきと学習の成果を発揮したのでる。ベアトリスの父もそれには驚いた。
『おおっ、ジャン、おまえは頭がいいのだな』
荷物を効率良く積んだり、倉庫の品物を分かり易く分類する知恵をジャンは持っていた。
しかも、日雇いの少年たちを統率する力もある。
ベアトリスの父は、いわゆる番頭さんを育成しようと思っており、使用人の中で最もよく働くジャンに目をかけていたのだ。
子供の頃はいじめられていたジャンだが、二十歳を過ると、メイド達がジャンに恋するようになっていた。
一方、令嬢のベアトリスは自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。
そんなベアトリスにジャンは言い続けた。
『ベアトリス様は誰よりも綺麗ですよ』
それはジャンの本心だった。
ジャンはベアトリスが好きな花を摘んで窓辺に置いたりして、さりげなくベアトリスへの気持ちを現してきた。
互いに長い間、好きだという言葉を使うことなく思い合ってきた。
ベアトリスに見合いの話が来るたびにジャンはハラハラしてきた。
『お父様、わたしは結婚なんてしたくないわ』
ずっと、ベアトリスはそう言い続けてきた。
しかし、業を煮やしたベアトリスの父は強引に見合いを勧めた。
その時、ベアトリスの方からジャンの寝室へと忍び込んできたのだ。
もう、自分の気持ちを押さえられなかった。あの時のジャンは二十八歳。ベアトリスよりも二歳年下だった。あの日、二人はついに結ばれた。
(お嬢様は生娘でなくなれば、もう見合いの話はなくなると思っていたが、そうはいかなかった)
結果的に、妊娠した事を告白したというのに、ベアトリスは子爵の元へと嫁いでしまう。
(オレ達は二度と会ってはいけない。そう思っていたが、オレは、彼女の城へと向かっている)
ザザーン、波しぶきを頬に受けながら船で移動した。
ジャンは高揚したような面持ちでフーコック島埠頭を踏みしめていたのである。
子爵の城は高台にある。城と言っても、元々は砦だった建物を住居にしたものなので質素な造りになっているが、 それでも、この島では最も大きくて権威のある建物だ。
ジャンは高揚感を抱きながらフーコック島に来ていのだが、この日、フーコック島の埠頭では、もう一艘の漁船が係留されていた。
桟橋のところで煙草を吸う男に向けて、ジャンを乗せてきた漁師が尋ねた。
「おやおや、おまえさんも送迎を頼まれたのかね? この島に二人も客が来るなんて珍しいこともあるもんだな」
「ああ、その方は、お城に用があるとか言っていたよ。身なりも立派だから、駄賃も弾んだもらえて何よりさ」
「おう、それは良かったな」
桟橋を進みながら、その会話を耳にしたジャンは警戒していた。
(オレより先に城を訪れたのは誰なんだ?)
まさか、ギャバの手下が来たとは思わないが、用心に越したことはない。
まっすぐに城へと向かうのはやめた方がいいだろう。
☆
長年、城に努めている老齢の執事がベアトリスに告げた。
「奥様に会いたいと身分の高そうな方がいらっしゃっています。何でも、お嬢様に関してお話があるそうでございます」
なんと、ジャンより先に城を訪れていたのはソフィー王妃の命を受けてアーサーを亡き者にしようとしているロークである。
しかし、そんな複雑な事情を継母が知る由もない。
「エリーゼにお見合いの話かしら。きっと、そうよね」
あちこちの晩餐会に出てエリーゼの事を売り込んだ甲斐があったと頬を綻ばせている。
「エリーゼ、どこにいるのかしら?」
「エリーゼ様はお外でお花を摘んでおられます」
「あら、そうなの」
継母がクローゼットからとっておきのドレスを引っ張り出して着替える間、ロークは居間で待たされていたのだが……。
☆
不味いコーヒーを飲んだ後、ロークは皮肉な薄笑いを漏らしていた。
(ここは辺鄙な島だ。城に入ってからも磯の臭いがするんだな。子爵の館というよりも、辺境の廃屋だな)
天井と壁には不気味なシミがある。おぞましいネズミの尿やイタチの死体の痕跡なのかもしれない。
アーサーと一緒にいたのは、フーコック島の子爵の未亡人とその娘だったと聞かされている。だから、王妃ソフィーの代わりにロークは確かめに来たのだが……。
それにしても、この家の女主人は貧相だ。
この女、ベアトリスはやけに媚びたような顔をしている。
「ローク様、お待たせしました。それで、わたくしどもに何の御用ですか」
ロークはアーサーの肖像画を手にしている。
「これがアーサー様の御尊顔です。わたしは王子を探しています。もしかして、この人と会ったことがあるのではありませんか?」
それを見た継母はハッとなる。
「あら、やだ。この人がアーサー王子ごございますか。この方なら生きておりますわよ」
継母の目は爛々としていた。
出来るだけ詳細に語って聞かせようとする。
「わたしと侍女のエリーゼは先に救出されました。生憎、アーサー様は、その場所にいなかったので帰れなかったのでございます」
まさか、あのハンサムで粗野な男が第二王子だったとは。
行方不明の王子を助けたとなれば恩賞が貰えるかもしれない。
継母は、ここぞとばかりに言う。
「王子は熱を出しておりましたが、長女のリリーのおかげで王子は元気になりましたの。野生の犬に襲われそうにになりましたが、それも乗り切りましたのよ。どうか、王妃様に、王子は生きていると教えて差し上げて下さいませ。きっと、まだ、わたくしどもがいた無人島におりますわよ」
「……なるほど。そうですか」
ロークは確信していた。
あいつは生き延びている。
「まさか、あの人が王子だなんて。皆さんに自慢しなくちゃ」
しかし、ロークは微笑みながら立ち上がると凶行に走った。
「えっ?」
継母は何が起きたのか分からない。
突然、首を絞められていたからだ。
ゲホッと咽たまま恐怖に顔を引き攣らせていた。そして、よろりと立ち上がり後ずさる。
ロークは、そんな継母をバルコニーの柵際に追い詰めていた。そして、無慈悲に微笑むと、そのまま継母を突き落としていく。ドンッ。鈍い音と共に三階から落下していたのだ。
その光景を茂みの奥から見ていたエリーゼは凍り付いていた。
悲鳴すら出せなかった。
(お母様……)
なぜ、あの男が母を殺すのか理解できなかった。
執事は王妃の使いだと言っていたけれど、物盗りだったのだろうか。
エリーゼは震えながら駆け出していた。
「お母様、しっかりしてーーーーーーーっ」
まだ、微かに息をしているようにも見える。
「リチャードソン、こっちに来てーーー」
執事の名前を呼ぶけれど、なぜか執事は来なかった。
一階に降りて来たロークによって殺されていたからだ。
「あ、あなた、誰なの?」
エリーゼは、こちらに歩み寄ろうとするロークを睨む。
エリーゼは危険を察知して走り出す。
ロークは何の感情もないような顔でエリーゼの背後に迫っていく。エリーゼは庭で転んだ。
エリーゼのことも殺そうとして、ロークは剣を振り上げるが、その時、ロークの背後からジャンが現れ、ロークを押し倒した。
遠くから、愛する女性が殺される姿を目撃したジャンの身体が震えている。
ジャンはロークにのしかかると何度も顔を殴りつけていく。
「てめぇ、お嬢様に何てことしやがる」
この場合、エリーゼの事ではなくベアトリスのことである。ジャンにとっては、四十路の女もお嬢様なのだ。
そして、誰の命令でこんな事をしたのかと問い詰めたのだがロークは吐かなかった。
エリーゼも、ロークに対して憤っていた。
「あなた、よくも、お母様を突き落としたわねーーーー」
エリーゼは転がっていいた石の先端でロークの指を力任せに叩いた。
鋭い痛みにロークの頬が歪む。利き手の三本の指は折れている。しかも、ジャンには馬乗りにされて顔を殴られ続けている。
不利な形勢だったがロークは反撃する。ブーツに隠し持っていた小刀でジャンの脇腹を刺した。
ジャンの傷はそれほど深いものではなかったが、じべたに手をついて呻いている。
この隙を見てロークは逃げたのだが……。
追いかけはしなかった。
ジャンはそんな事よりもベアトリスのことが気になっていた。そっと顔を覗き込むと、ベアトリスは驚愕の表情のまま息絶えていた。
「お母様ぁーーーー。なんでこんな酷い目に遭うのよーーー」
エリーゼは母の亡骸にすがりつく。
なぜ。ロークに殺されたのか。
その理由はジャンにも分からない。
「あいつは何者なんだ?」
「ソフィー王妃の護衛のようなの。だけど、なんで、うちに来たのか分からないわ。どうして、お母様が殺されるのかしら」
ジャンも元々はアストラの王都にいたので王家のお家事情は心得ている。ロークは王妃派の先頭に立つ男と噂されている。
三階のバルコニーに向かうと肖像画が落ちていた。
(こいつはアーサーだ……。この衣装には王族の紋章がある。ていうことは、つまり……)
この時、やっと、ジャンはアーサーの正体に思い至ったのである。
「あの、ところで、おじさんは誰なの?」
エリーゼは改めてジャンに尋ねていく。
突然、こんな形で現れたのだ。しかも、その人は、あちこち痣だらけで服も粗末だ。
普通なら、怪しい男としか思わない。それなのに、エリーゼは、その男が側にいることで安心していた。その男の大きな目に吸い込まれた。
髭もじゃの赤毛の中年男なのだが、どこか懐かしいような気がする。
「ベアトリスの恋人のジャンだ」
「えっ」
ジャンはエリーゼに自分が本当の父親だと告げた。
エリーゼは、にわかには信じられなかったけれど、母の部屋には手紙があった事を思い出した。
確か、母が愛した人の名前はジャン。そして……。
「あなた、おへその横に火傷の痕がありますか?」
「おう、あるぜ」
「なぜ、火傷したのですか?」
「オレが四歳の時、当時、まだ生きていた飲んだくれの親父が煙草を押し付けたからだ。ベアトリスはその話を聞いた後、オレに初めてキスしたんだ」
「お父様ーーーーっ」
以前、母から聞いた内容と一致している。
エリーゼは、目の前にいる豪快な男こそが、自分の父だと確信して抱きついていく。
☆
その頃、ロークは折れた鼻を押さえながらも、フーコック島からバティスト島へと移動しようとしていた。桟橋まで行くと待機していた漁師が顔色を変えた。
「旦那、どうなさったんですか?」
ギロッとロークは睨みつけると怒鳴った。
「いいから、すぐに出発しろ。黙って船を漕げ。いいな、今日の事は誰にも言うなよ。何か言ったら、おまえの家族の命はないからな」
「は、はい」
往路のロークは紳士的だったというのに、復路では鬼人の如く険しい空気を放っていものだから、漁師はヒヤヒヤしていた。
ローくの指は赤く腫れている。折れているのかもしれない。
船尾から振り返るロークは今にも誰かに噛みつきそうな顔で古城を睨みつけている。
予想外の邪魔が入ってしまった。
(あの小娘、よくも利き手の指を潰しやがったな)
念の為に殺しておくべきだったが、あんな小娘が何を言おうと王や貴族は気にもとめないだろう。
そんなことより、アーサーはまだ生きている。
(予定通りに死んでもらわねば困るのだよ)
アーサーが王都に戻る前に秘密裏に殺さなければならない。




