表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/18

【空を落とす欺瞞】

空を落とす欺瞞


『警告。機体内部温度、危険域を突破。冷却システム、限界。フレンダ、このままではガバナーの生命維持が不可能です!』


「熱い……!熱い熱い熱いッ!!」


第4渓谷は地獄の釜と化していた。

アグニレイジが吐き散らすインペリアル・フレイムは、岩盤を溶岩に変え空気を毒ガスに変えていた。

ロータスプロトレクスのコクピット内はサウナを超え、火傷するほどの熱気が充満している。

フレンダの意識が朦朧とする。

汗が目に入り、視界が滲む。

だが、足を止めることは許されない。止まれば、蒸し焼きだ。


ゴォォォォォ……ッ!!

頭上を巨大な影が旋回する。

アグニレイジ。

あいつは空から優雅に、逃げ惑うネズミを焼き払っているだけだ。

安全圏からの一方的な虐殺。


「ふざけるな……!降りてきなさいよ……卑怯者ォッ!!」


フレンダは焼け付く喉で絶叫し、ガトリングガンを空へ向けて乱射した。

だが、弾丸は真紅の装甲に弾かれ傷一つ付けられない。


『反応、上空から分離!敵小型攻撃機、来ます!』


アグニレイジの翼から自律機動兵器が分離し、フレンダ目掛けて急降下してくる。

竜の爪だ。


バババババッ!!


「くっ……!邪魔ぁッ!!」


フレンダはロータスをジグザグに走らせ、ビームの雨を回避する。

だが、回避行動を取れば取るほど、逃げ足は遅くなる。

そして、その隙を本体は見逃さない。


カッ!!

再び、空が白むほどの閃光。

二度目のインペリアル・フレイムが放たれる。


「しまっ――!?」


直撃は避けた。

だが、爆風と熱波がロータスを吹き飛ばす。

機体は岩壁に叩きつけられ、無様に転がった。


「がはっ……!」


フレンダの口から血が噴き出す。

全身の骨がきしむ。

熱い。痛い。苦しい。

モニターには「SYSTEM ERROR」の文字が並び、メイの声もノイズ混じりだ。


『フレンダ……!起きて……!次が……来ます……!』


「……まだ。まだだよ」


フレンダは震える手で操縦桿を握り直した。

死にたくない。負けたくない。

あんなトカゲに、焼肉にされてたまるか。


(どうする?どうすれば勝てる?あいつはずっと空にいる。届かない。……なら、降ろすしかない)


フレンダは、充満する熱と煙を見た。

アグニレイジのセンサーは優秀だ。だが、今のこのエリアは、あまりにも高熱源が多すぎる。


溶岩、燃えるスモーク、爆発の余熱。


「……メイ、ガルド班長のおもちゃを使うよ」


『おもちゃ……?広域音響・熱源欺瞞ユニットですか?ですが、あれは静止状態で設置しなければ……』


「走りながら使う!私が影になって、こいつを本物にする!」


フレンダは機体を起こし岩の裂け目、崖と崖が交差する、狭い谷底へと走った。

そこは、上空からの視界が通りにくい天然の要塞。

そして、竜が獲物を追うために降りてこざるを得ない場所。

フレンダは谷底のど真ん中で急停止した。

背中のコンテナから、四角い箱・広域音響・熱源欺瞞ユニットを射出する。


「メイ、欺瞞ユニット起動!熱源パターンメルトダウン寸前!音響最大出力!」


『了解!』


ドクン……ドクン……ギュオオオオオオオン!!!


欺瞞ユニットからロータスプロトレクスのエンジンが暴走しているような轟音と、強烈な擬似熱源信号が発せられる。

それはセンサー上では、自爆覚悟でエネルギーを溜めている瀕死の機体に見えるはずだ。


「よし……!ここからが勝負だよ、メイ!」


フレンダはロータスをユニットのすぐ横にある岩陰に滑り込ませた。

そして、恐ろしい命令を下した。


「全システム、シャットダウン!エンジン、カット!生命維持装置も切って!」


『なっ!?正気ですか!?この高熱地帯で冷却を切れば、貴女自身が蒸し焼きになります!』


「やるの!!私が『冷たく』ならなきゃあいつは騙せない!」


プシュゥン……。


ロータスの光が消えた。

エンジンが停止し、機体はただの鉄塊となる。

同時に、コクピット内の空調も止まる。

外気の熱が断熱材を越えてじわじわと侵入してくる。

フレンダは自身の体温すら消すように、息を止めた。

上空のアグニレイジは、谷底の反応を感知した。

獲物は追い詰められ自爆しようとしている。

あるいは、最後のあがきか。


竜のAIは、確実なトドメを選択した。

インペリアル・フレイムのチャージには時間がかかる。

ならば、格闘戦。


あの狭い谷底なら、逃げ場はない。


キィィィィィィン……!


空気を切り裂く音。

アグニレイジが高度を下げた。

雲を割り、翼を畳み、谷底へ向かって急降下してくる。

狙いは暴走する熱源、欺瞞ユニット。


(来た……!熱い……意識が飛ぶ……!でも……今じゃない……まだ……!)


コクピットの中、フレンダは滝のような汗を流しながら、コンソールの再起動ボタンに指をかけていた。

竜の咆哮が近づく。

巨大な爪が、ブイを粉砕しようと迫る。

あと100メートル。50メートル。

アグニレイジが、攻撃体勢に入り、翼を大きく広げた瞬間。

速度が落ちる。


「……今だぁぁぁッ!!」


フレンダは再起動ボタンを叩き込んだ。


ズガァァァン!!

ロータスのエンジンが爆発的に覚醒する。

アグニレイジの注意は完全に欺瞞ユニットに向いていた。


その真横。死角となっていた岩陰から、沈黙していたはずの獲物が飛び出した。


「堕ちろぉぉぉッ!!」


フレンダは背中の追加武装、ガトリングガンのトリガーを引き絞った。

狙うのは胴体ではない。

飛行を司る要、翼の飛膜とメインスラスターだ。


バララララララララッ!!

至近距離からの不意打ち。

数百発の徹甲弾が、無防備に広げられたアグニレイジの右翼を食い破る。

繊細な飛膜がズタズタに裂け、スラスターノズルが粉砕される。


『ギャオオオオオオッ!?』


竜が驚愕の声を上げる。

だが、もう遅い。

片翼を失った揚力バランスは崩壊し、急降下の勢いはそのまま墜落へのベクトルへと変わる。


「地面に這いつくばれ、トカゲ野郎!!」


ズドォォォォォン!!!


アグニレイジの巨体が谷底の岩盤に激突した。

凄まじい衝撃が渓谷に走る。

巻き上げられた土煙と破片が、ロータスを襲うが、フレンダは踏ん張った。

煙が晴れる。

そこには右翼が折れ曲がり、無様にひっくり返った元空の王者が悶えていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


フレンダは荒い息を吐きながら、コクピットの冷却システムを最大にした。

冷たい風が吹き込み、茹で上がった体を冷やす。

生きている。賭けに勝った。


『……敵機、飛行能力喪失。メインスラスター、沈黙。やりましたね、フレンダ。本当に、空から引きずり下ろしました』


「……当たり前でしょ。喧嘩売る相手を間違えたって、教えてやるの」


フレンダは、地に伏した竜を見下ろした。

だが、油断はしない。

アグニレイジは飛べなくなっただけで、その火力は健在だ。

そしてまだ一番の大物、ブロッケード・アイビーが残っている。


「さあ……、次は泥沼の殺し合いだよ」


フレンダは血の混じった唾を吐き捨て、戦術刀を構え直した。

狩りは、最終局面へと突入する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ