23.幸子、ベビーグッズに思いを込める
「こっちのこれは……何ですか?」
そう言ってヤヨイさんが手に取ったのは、授乳クッションだった。
「それはね、授乳クッションよ」
「授乳……? 授乳のときに使うんですか?」
私は、見せた方が早いと思い、クッションを受け取って膝の上に乗せた。
「こうやって使うのよ」
「……あっ! なるほど。このくぼみに体を入れて、クッションの上に赤ちゃんを乗せるんですね!」
私は笑顔でうなずく。
「授乳中、腕や腰にかかる負担を減らしてくれるのよ」
「へぇ……変わった形だと思ってたけど、よく思いつきましたね!」
……うっ! いや、別に私が考えたわけじゃない。これは幸子が第一子を産んだ平成の頃から普通にあった、定番の育児グッズだ。
あたかも自分の発明みたいに思われるのは、ちょっと気が引ける。
気を取り直して、話を続けた。
「授乳だけじゃなくて、赤ちゃんを寝かせたり、座る練習をさせたりするときにも使えるの」
「こんな便利なものがあるなんて……みんな、座布団やタオルを重ねて工夫してましたよ!」
「それでも悪くはないけど、授乳中にずれたりするのよね。抱っこし続けると腕も肩も痛くなるし」
そう言いながら、もう一度ヤヨイさんにクッションを手渡した。
「そうなんですね! でも、これなら……!」
クッションを受け取り、目を輝かせるヤヨイさん。
そんな彼女の様子に、私は思わず微笑んだ。
「特に新生児は首がすわってないから、授乳の姿勢ひとつで飲みやすさが全然違ってくるの。だからこういうクッションがあると、お母さんも赤ちゃんも楽なのよ」
そう、ミレイになったあと大変だった……授乳。
産後と寝不足でぐったりしながら授乳をしてて、思ったのだ。
(授乳って、こんなにやりにくかったっけ……あっ! 授乳クッションないじゃん!?)
と気がついて乳母たちに聞いたけど、「そのようなものはありません」と言われてしまって……寝不足ながらもがんばって作ったのだ。
大変ではあったけど、やっぱり授乳クッションがあった方が断然楽で、
(できれば妊娠中に作っておきたかった……っ!)
と、思ったのよね。
「すごい……赤ちゃんのことも、お母さんのことも考えられてるんですね」
「ええ。でも、実はユリカちゃんがマナミを抱っこしたがったときにも、大活躍したのよ」
「えっ?」
「今はもうマナミもしっかり座れるけど、まだ首がすわってなかった頃はね。ユリカちゃん、ひとりじゃ支えられなくて、私たちが手を貸すと『ユリカが抱っこするの!』って怒るの」
ハムスターのようにふくらんだ頬で怒る、あの全然怖くないユリカちゃんの顔を思い出して、私はクスッと笑った。
授乳クッションを使えば、少し手を添えるだけでひとりで抱っこできる。だから、ユリカちゃんもご機嫌だったのだ。
「あの……ミレイ様……」
「ん?」
ヤヨイさんが控えめに声をかけてきた。
あら、やだ。かわいいユリカちゃんを思い出してたせいで、変な顔してたかも……っ
と、少し焦ったが、そうではなかったようだ。
「これ……他の人にも紹介してもよろしいですか?
今、ミレイ様がおっしゃっていたことを……同じように困っているお母さんはたくさんいます。そんなとき、ミレイ様が作ったグッズがあれば、ずいぶん楽になると思うんです」
「──えっ?」
「あ! もちろん、作るのは自分たちでやりますので、作り方を教えていただけないでしょうか?」
一瞬、言葉が出なかった。
この世界に転生してから、「何かの役に立ちたい」とは思っていた。
でも、それを誰かに“届ける”ことまでは考えていなかった。
──でも。
授乳クッションがないだけで、「大変だぁ」と思ってしまった新生児期。
だけど前にも思ったように、ミレイには乳母をはじめとしたお手伝いさんがいれば、ヤヨイさんの手厚いサポートまである。
それは……ミレイがかなり裕福だからだ。
この世界で、一般的なお母さんたちは……幸子の生きた平成・令和の世界より、いろいろ不足してそうなこの世界で、どれほどの苦労をしているんだろう──。
そう思うと、自然と言葉が出た。
「もちろん、いいわよ。型紙を用意して、作り方を書いて渡せばいいかしら?」
「ありがとうございます! それで、できれば……」
「?」
ヤヨイさんを見ると、少し緊張したような表情で、ごくりと唾を飲むのが分かった。
心配して見ていると、ぐっと顔をあげ私の目を見て続けた。
「自分たちで使うだけじゃなく
──販売もさせてもらえませんか?」
「……販売!?」
まさかの申し出に、思わず声を上げてしまった。




