22.幸子、もう一度抱っこする
紙芝居を披露した日から、半月──。
「……これが噂のっ!」
「トッポンノーチというらしいです!」
「と、とっぽん……?」
ヤヨイさんが、私の作った“トッポンチーノ”を手に、先生から間違った名前を教えられて困惑していたので、私は思わず口をはさんだ。
「先生、“トッポンチーノ”ですよ」
「えっ、あ……すみません!」
ヤヨイさんに向き直って、私は丁寧に説明を加える。
「ヤヨイさん、これは赤ちゃん用の“小さなお布団”なの。おくるみに似てるけど、包むのではなく、下に敷いて使うものなのよ」
あのカブの紙芝居のあと、先生に披露した私の手作りベビーグッズたち。
抱っこ紐にトッポンチーノ、ぬいぐるみやおもちゃ、ベビー服などの小物類──。
どれも先生は感激してくれたけれど、「男の自分では分からないことが多い」と言って、ヤヨイさんにも見せてはどうかと提案され、こうしてお披露目することになったのだった。
私の話を真剣に聞いていたヤヨイさんは、トッポンチーノをそっと抱きかかえるように持ち直す。
「たしかに、おくるみとは使い方が違うんですね。布団のように柔らかいのに、しっかり形が保たれている……」
「そうなの。赤ちゃんを抱っこするときも、この上に寝かせたままトッポンチーノごと抱くと、すごく安定するのよ。
シンイチロウくんやユリカちゃんみたいに、まだ赤ちゃんに慣れていない子でも抱っこしやすくなるわ。うちは特に、私以外にも乳母や侍女がマナミを抱くことが多いので、この布団があると、私とマナミの匂いに包まれて安心できるみたいなの」
「なるほど……」
「それに、ベッドに寝かせるときも“背中スイッチ”が入りにくくて──」
「……背中、スイッチ?」
ヤヨイさんが不思議そうに首をかしげた。
しまった。また専門用語っぽく言ってしまった。
「えっと……赤ちゃんって、抱っこではぐっすり寝てるのに、ベッドに降ろした瞬間に起きちゃうこと、ありません?」
「ああっ、ありますあります!」
「それが、背中が布団に触れた刺激で目を覚ましてしまう、“背中スイッチ”よ。でもトッポンチーノに寝かせておけば、赤ちゃんにとっては常に“同じ布の感触”なので、安心して眠りやすいのよ」
「……すごい。私も、もっと早く知っておきたかったです……」
ヤヨイさんがしみじみと呟いた。
(うんうん、そうなのよ! 幸子も、まったく同じことを思いました!!)
心の中で、私は大きくうなずく。
そう、このトッポンチーノ。私が自分の子を育てていたころには、まだ知らなかった。
でも、娘が孫のコウタを妊娠したとき──
「お母さん! この“トッポンチーノ”ってやつ、すごくいいらしいの! 作れるよね? 作って!」
そう言って、作り方の載ったWebページをタブレットで見せてきた。
言われるがままに作ってみたけれど、完成したものを見て最初は、
「本当にこんな座布団みたいなので赤ちゃんが安心するの?」
と半信半疑だった。
でも、それが見事に効果を発揮!
寝かしつけのときに背中スイッチの発動を防げるし、何より、ママっ子だったコウタが私の抱っこではギャン泣きしていたのに、トッポンチーノを使えば、私の腕の中でも落ち着いてくれたのだ。
──素晴らしい! トッポンチーノ
──ありがとう! トッポンチーノ!
思わず、心の中で賛辞を叫んだ。
「次に自分が産むときには、絶対使いたい!」とまで思ったけれど、当時すでに40代に突入していた私には、その予定はもうなかった。
なのに! まさか、我が子のために作れるなんて……!
「こっちのこれは……何ですか?」
ヤヨイさんの声で、私は現実に呼び戻された。
彼女が手に取ったのは、淡い色のカバーに包まれた、ふかふかの授乳クッションだった。




