21.幸子、布で物語をつむぐ
しばらくして、大きな箱を抱えた侍女が戻ってきた。
「えっ! 全部持ってきてくれたの? 絵本だけで良かったのに……」
……うん、私の指示の出し方が悪かった。
『私が作った“絵本”を持ってきて』
とだけ言えばよかったのに、
『私が“マナミのために作ったもの”を持ってきて』
なんて曖昧に言ってしまったから、侍女はこの半年間で私がマナミに作ったベビーグッズを、全部持ってきてくれたのだ。
こんなに大きな箱を、女の子が一人で運んできたなんて……。
「ごめんね、重かったでしょう?」
そう謝ると、侍女はすぐに笑顔を向けてくれた。
「いえ、ちゃんと確認しなかった私がいけないんです。
必要なものをお持ちするのが私の仕事ですから、気になさらないでください」
うう……子どもたちはもちろんだけど、この世界に来てから、いい子ばかりに出会ってる……!
──いや、一人を除いて、だけどねっ!!
私は箱の中から、小さな本を取り出した。
「それが本、なんですか?」
先生が不思議そうな顔をした。
「はい、本ですよ。ただ、紙じゃなくて“布”でできています」
「布!?」
言葉で説明するより、見てもらったほうが早い。
私は先生に布絵本を手渡した。
先生がページをめくる──。
そこには、私の手作りの、マナミの世界が広がっていた。
布を縫い合わせ、刺繍を施し、ボタンや紐、リボンも使った力作だ。
最初は普通の紙の絵本にしようと思ったのだが……赤ちゃん向けの厚紙がなかなか見つからなかった。
赤ちゃんって、どうしてあんなに紙をビリビリ破るのが好きなんだろうね。
一生懸命描いても、マナミにすぐ破られて、挙句に食べられて──。
ボロボロにされる未来しか見えなかった。
だから、またしても私のオタクスキルを発動!
若きころ、コスプレ衣装づくりで鍛えた裁縫スキルを駆使して、布絵本を作り上げたのだ!
無言で布絵本を見つめていた先生だったが、やがて顔を上げた。
「これ……、すごすぎます……!」
ページをめくるたびに、先生の声が震える。
「あえて文字がないんですね!
普通の絵本と違って、これなら……赤ちゃんは紙を破るのが大好きですし、すぐ口に入れてしまったりしますが、これなら安全で、しかも布だから洗えて衛生的ですっ!
さらに、ボタンを触ったり、リボンや紐を引っ張ったりすることで、五感の刺激にもなります!」
興奮しながら布絵本をめくっていた先生だったが、ふと動きを止めた。
「ところで──その箱の中には、まだ何かありますよね?」
先生の目が、キランッと光った気がした。
「えっ? まあ……入ってはいますけど、教育に役立つようなものは、あまり……。
これはマナミのためというより、私や乳母が子育てを楽にするためのベビーグッズで」
だから、見ても面白くないと思いますよ?
そう続けようとしたが、先生は言った。
「ぜひ見せてください! 全部っ!」
先生の勢いに押されて、私は思わず苦笑した。
「わ、わかりました。でも、本当にたいしたものじゃないですよ?」
そう言いながら、私は箱の中に手を伸ばした──。




