20.幸子、カブを抜いたそのあとで
「いやぁ、面白かったです! いつの間にか、私まで夢中になってしまいました」
紙芝居のお披露目が終わり、先生はお茶をひと口飲むと、顔を輝かせながら言った。
その表情が、まるでユリカちゃんのようで、思わず笑ってしまった。
「……ふふふ、ありがとうございます」
「子どもたち、みんな本当に楽しそうでしたね。
紙芝居を先に見せてもらったときも面白そうだと思いましたが、実際は想像以上でした!」
先生はそう言って、嬉しそうに笑った。
紙芝居の中の“ゆりかちゃん”になりきって感情移入していたユリカちゃん。
あまり自己主張が得意ではないけれど、一緒に大きな声を出していたシンイチロウくん。
そして、先生が一番驚いていたのは──マナミの反応だった。
「まだ赤ちゃんのマナミちゃんにとっては、この物語は少し難しかったかもしれません。
でも、お姉ちゃんが楽しそうにしているのを見て、お兄ちゃんのお膝の上で体を揺らしながら、マナミちゃんまで楽しそうにしていました」
先生の言葉を聞き、私も先ほどの光景を思い出す──
最後、紙芝居が終わり、余韻に包まれる中、ユリカちゃんがマナミに笑いかけた。
「マナミ、ありがとう! “まなみちゃん”がいっしょにやってくれたから、カブ抜けたよっ!」
そう言って、マナミをぎゅっと抱きしめた。
マナミはお姉ちゃんと、もともと後ろから支えてくれていたお兄ちゃんに挟まれ、声を上げて笑っていた──。
「このお話……大筋は、ただカブを抜くだけの、なんてことのない話ですが、
ひとりでは難しいことも、みんなで力を合わせれば成し遂げられる。
そして、最後にあえて一番力のない“まなみちゃん”を呼んだのは、『小さな力も大切だ』ということを伝えたかったのではないですか?」
先生はそう言って、私に微笑みかけた。
私はにっこりと笑顔を返した。
さすがは先生。この物語の“ねらい”に、すぐ気づくとは。
私の笑顔を見て、先生は拍手をする。
「本当に素晴らしすぎますよ。ただの物語に、こんなにたくさんの“ねらい”を──様々なメッセージを込めるなんてっ!」
「えっ? あー……それほどのことでもないですよー。ははは……」
最初は絶賛されて嬉しかったが、あまりの賞賛に後ろめたくなってきた。
……だって、このお話。ほぼパクリだもん。
元々はたしか、ロシアの民話だ。
オリジナルだと、おじいさんがカブを抜こうとして、おばあさん、孫、何匹かの動物たちと協力するお話……だった気がする。
そして、赤ちゃんの“まなみちゃん”ではなく、最後はネズミの協力によってカブは抜けたのだ。
まあ、いっか。それは、幸子が生きた異世界の話なのだ。
私以外、誰にも分かりはしない。
そう思いながら、湯のみへと手を伸ばした。
「……あの、もしかして」
コソッと内緒話をするように、先生が聞いてくる。
なんだろう? と思っていると、先生が口を開いた。
「紙芝居……もしかして、マナミちゃん用もあるんですか?」
「紙芝居はありませんが、絵本ならありますよ」
「ええ!? 本当にあるんですか?」
先生がキラキラした目で、私を見てきた。
その顔には「見たいなぁ。見せてほしいなぁ」と書いてあるようだった。
私は先生の勢いに押され、笑いをこらえながら侍女に声をかけた。
「悪いけど、私の部屋から──
“私がマナミのために作ったもの”を、持ってきてもらえるかしら?」




