19.幸子、子どもたちの笑顔が見たくて
「むかしむかし、あるところに、ゆりかちゃんがいました。
ゆりかちゃんは、森で大きなカブを見つけました」
ユリカちゃんは、わくわくが隠せない様子で、じっと紙芝居を見つめている。
私は抑揚をつけてセリフを読んだ。
「『わぁ! 大きなカブ!』
ゆりかちゃんはカブをひっぱりました。
『うんとこしょどっこいしょー!』……でも、カブは抜けません」
私がそう言うと、ユリカちゃん「そんなぁ……」と、紙芝居の中のゆりかちゃんになってしまったように呟いた。
「困ったゆりかちゃんは考えました。
『そうだ! ゆりかだけでダメなら、おにいちゃんを呼んでこよう』
そうして、おにいちゃんのしんいちろうくんを呼んできました」
「えっ、ぼく?」
「お兄ちゃん、がんばって!」
相変わらず、ユリカちゃんは“ゆりかちゃん”になりきっている。
私は動作をつけながら、続けた。
「ゆりかちゃんと、しんいちろうくんは言いました。
『うんとこしょ、どっこいしょー!』
──さあ、みんなも一緒に!」
私の促しに合わせ、ふたりが元気よく声を上げる。
「「うんとこしょ、どっこいしょ!!」」
力いっぱい叫ぶユリカちゃんを、私は微笑ましく見つめながら──
「……でも、カブは抜けません」
「ええーー!」
「ゆりかちゃんは考えました。
『そうだ! 今度はママを呼んでこよう!』」
「ママ!? がんばれーー!」
ユリカちゃんが元気な声援を送る。
その期待に応えたい! ……けれど、お話の展開を変えるわけにはいかない。
「……それでも、カブは抜けません」
「なんでーーー!?」
その後も、どんどん登場人物が増えていく。
それに比例するように、「うんとこしょ、どっこいしょー!」の声もどんどん大きくなった。
そんな周りの盛り上がりに、シンイチロウくんの膝の上のマナミも、きょろきょろと目を輝かせる。
──そして。
「お次は、先生を呼んできました!」
「せんせーーっ!」
ユリカちゃんは「先生、おねがいっ!」と期待に満ちた目で先生を見つめる。
先生も照れながら、私のセリフに合わせて「うんとこしょ、どっこいしょー!」と、カブを引っぱる動作をしてくれる。
──しかし、当然ながら。
「それでも、カブは抜けません!」
私ははっきりと言った。
それを聞いたユリカちゃんは、「せんせぇ……っ」と、頼むよぉと訴えるような目で先生を見上げる。
先生は思わず「ごめんねぇぇ」と謝った。……うん、先生は悪くない。
──さあ、次でラストだ。
「とうとう、その次に呼んだのは……まなみちゃん!」
「……マナミだっ!」
みんなの視線がマナミに集中する。
当の本人は意味がわからずキョトンとしていたが、みんなに見られて嬉しくなったのか、ニコニコと笑った。
(──っ! かわいいなぁ、もうっ!)
悶絶するのは、どうにか心の中だけに抑えて、私は紙芝居に意識を戻す。
今までよりも大きな声で言った。
「みんなで力を合わせて、思いっきりカブを引っぱります!」
「「『うんとこしょー、どっこいしょっ!!』」」
子どもたちと先生。
みんなで声を合わせ、体を揺らしながらカブを引っぱる動作をする。
そして、私はページをめくった──。
「すっぽーーんっ!
とうとう、カブが抜けましたぁ!」
「やったーっ!」
ユリカちゃんが嬉しそうに拍手する。
それにつられて、先生も。
マナミはまだ自分で拍手できないが、シンイチロウくんが彼女の小さな手を握って、ぱちぱちと動かしてあげると、マナミは楽しそうに声を上げた。
私は、そんな幸せな光景に目を細めながら、最後のページをめくる。
──そこには、カブを抜いた後のみんなが描かれていた。
ここにいる人たちはもちろん、私にとって大切な人たちが、幸せそうにカブのスープを飲んでいる。
「──おしまいっ!」
また、温かい拍手が広がった。




