18.幸子、カブに願いをこめる
──ユリカちゃん用の紙芝居。
紙芝居は、内容はまだちょっとマナミに早いけれど、いっしょに見てもらえるように、なるべくシンプルな絵で、わかりやすく描いた。
人の顔を描くなら、写実的なものではなく、丸を基本とした──某・愛と勇気だけが友だちの正義の味方のような、単純な顔にした。
そして、ユリカちゃんに楽しんでもらうために、「参加型」に……。
「ここなんですけど、みんなでカブを抜こうとするんです。
『うんとこしょ、どっこいしょー!』って」
紙芝居を読むように、私はカブを抜く動作をしながら、抑揚をつけてセリフを言った。
先生がびくりと驚く。
私はにやりと笑いながら続けた。
「今の『うんとこしょ、どっこいしょー!』を、私だけじゃなく、子どもたちにも一緒にやってもらうんです」
先生は、その光景を思い浮かべたのか、目を輝かせて紙芝居に見入った。
「なるほど……参加型なら、小さな子どもたちも、もっと夢中になれそうですね」
「はい、そうなんですっ!」
私は頷き、続けた。
「この紙芝居は、わが家オリジナルなので、最初に“ゆりかちゃん”がカブを抜こうとするんです。
『うんとこしょ、どっこいしょー!』
──でも、ゆりかちゃんひとりの力では、カブは抜けません。
そこで、ゆりかちゃんはしんいちろうお兄ちゃんを呼びに行きます。
ふたりで『うんとこしょ、どっこいしょー!』
それでも、カブは抜けません」
紙芝居から顔を上げると、真剣な表情の先生と目が合った。
私はにこりと微笑み、話を続けた。
──そのあとの展開は、こうだ。
ふたりでも抜けなかったので、今度はみれいお母さんを呼んできて、三人で挑戦。
それでも抜けず、今度は侍女さん、さらにやよいさん、そして──先生。
「えっ! 私ですか!?」
「はい、先生も!」
私は笑顔でうなずいた。
そして、最後に呼ばれるのは──小さなまなみちゃん。
みんなで力を合わせて、
『うんとこしょ、どっこいしょーっ!』
そうして、カブはやっと抜けた。
「おしまいっ! です」
私はそう言いながら、最後のページを見せた。
先生はぱっと顔を上げ、そして、ぱちぱちと拍手をしてくれた。
「……素晴らしい! とても面白かったです」
「ありがとうございますっ!」
先生はしばらく紙芝居を見つめ、名残惜しそうにページをめくったり、もう一度最後のページを眺めたりしていた。
「この紙芝居、本当にいいですね……。
ユリカちゃんにぴったりだと思います。特に最後のページの絵は──。
ああー、実際に子どもたちがどんな反応をするか、見たいなぁ」
「……だったら、見ていかれます?」
「えっ? いいんですか!?」
もともと、先生が帰ったあとに、さっそく三人に披露しようと思って準備していた。
それに──
「もちろんです。
紙芝居は、観客が多いほうが楽しいんですよ」
私は先生と顔を見合わせると、にっこり笑って頷いた。
「じゃあ、準備しますね!」
まあ、準備といっても紙芝居は手元にあるわけで──観客である子どもたちを呼んだら、準備完了だ。
ユリカちゃんが、シンイチロウくんの手を引きながら、パタパタと駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん、はやくーっ!」
「ユリカ、そんなに急ぐと転ぶよ」
そんな会話をしながら、紙芝居を持つ私の前に座った。
そして、乳母が連れてきてくれたマナミを、シンイチロウくんが受け取り、そのまま膝に座らせた。
最近、お座りができるようになったマナミ。
そんなマナミの定位置と化している、シンイチロウくんの膝。
(本当にやさしいお兄ちゃんだわ)
と、微笑ましく子どもたちを見つめながら、私は大きな声で言った。
「はい。今日は新しい紙芝居です」
「えっ! 新しい紙芝居!?」
紙芝居大好きなシンイチロウくんは、青い目を期待にキラキラさせた。
私はにっこりと笑ったあと、息を大きく吸い、紙芝居をはじめた──。




