17.幸子、スマホの代わりにがんばる
──あれから。
私は、少しでも時間があれば、シンイチロウくんの勉強を手伝った。
最初は、私自身も戸惑うことばかりだった。
どこまで簡単に伝えればいいのか、
どんな絵を描けば、わかりやすいのか。
……ああああーっ! やっぱりスマホが欲しい!
マナミの写真を撮るために。
ディスレクシアのことを調べるために。
今までも何度かスマホが欲しいと思った。
でも、シンイチロウくんの勉強を見ていると、「スマホがあればなぁ」と思うことが、格段に増えた。
文字の色を変えるのも、拡大するのも簡単にできるのに。
文章も、書くよりずっと楽に入力できるのに。
絵はもちろん、動画でも確認できるのに。
読み上げ機能だって使えるのに──。
考えたらキリがない。
でも、ないものは仕方ない。
なら、私がスマホの代わりになるんだっ!
今まで、本を──絵本さえ避けてきたシンイチロウくん。
いきなり本を渡すのではなく、まずは読み聞かせから始めた。
読みづらい文章には、言葉の区切りに斜線を入れる。
読む行以外は紙を当てて隠す。
理解しにくい箇所は、絵や図で補う。
工夫次第で、本を読めることもわかった。
ただ、文字を読み書きすること自体が、やはり疲れるらしい。
無理をさせると、ぐったりしてしまう。
そんなときは、彼が大好きな紙芝居で息抜きしてもらった。
「いやぁ、この“紙芝居”も本当に素晴らしいですね」
あれから、ときどき様子を見に来てくれる、あの眼鏡の園長先生のような先生が、新作の紙芝居を手に取って言った。
「……素人が作ったものなので、お恥ずかしいです」
「いやいやいや……この前いただいた紙芝居!
最初は、読み書きが苦手な子たちのために使っていたんですが……今や、他の子たちにも大人気でして。
特に、ユリカちゃんくらいの小さい子たち。
絵本の代わりに読んであげると、ものすごく喜ぶんですよ」
先生は笑いながら、手にした紙芝居を何度も眺めた。
(この先生は……本当に子どもたちのことを考えてくれているんだな)
私は、嬉しそうに紙芝居を見つめる先生を穏やかな気持ちで見守りながら、口を開いた。
「そうですね。
紙芝居は文字こそありませんが、そのぶん想像力を育てることができますし、病院や保育施設のように大人数で楽しめる場にも向いています。
みんなで見ることで、共感力も自然と育つと思います。
今、お渡ししたのは、うちの子──シンイチロウくんとユリカちゃん向けに作ったものなので、ユリカちゃんより小さい子には少し難しいかもしれませんが……」
そこまで話して、先生がぽかんと私を見つめているのに気づいた。
「やだ、私ったら……つい話しすぎてしまいましたね」
苦笑いすると、先生は慌てたように首を振った。
「いえいえ! ぜひ、もっと続けてください!」
「そうですか? ……あっ、ちょっと待っててください」
私はそう言うと、近くのテーブルから一冊の紙芝居を取って、先生に手渡した。
「……これは?」
「これも新作です。
ただ、今回はシンイチロウくんではなく、ユリカちゃん用に作ったものなんです。絵はマナミに伝わりやすいようシンプルにしました」
先生は驚きの表情で顔を上げた。
「ユリカちゃん用で……マナミちゃんに分かりやすい!?
マナミちゃんって、まだ6ヶ月ですよね?」
「はい、まだ赤ちゃんです。
だからシンプルな絵にしました。それと、ユリカちゃんが楽しめるよう、ちょっとした参加型にしてみたんです」
「さ、参加型……!?」
まあ、見てもらったほうが早いだろう。
私はそう思い、紙芝居をめくりながら説明を始めた──。




