11.幸子、紙芝居を披露する
「では、はじめるわよ!」
私はにっこりと微笑みながら、紙芝居の一枚目をそっとめくった。
──むかしむかし、あるところに。
とてもかわいい『ゆりか』という名のお姫さまがいました──。
「えっ! 『ゆりか』? ユリカと同じ名前だ!」
「うん。ユリカちゃんと同じ名前の、とってもかわいいお姫さまだよ! じゃあ、話をつづけるね」
ユリカちゃんは目を輝かせ、食い入るように絵を見つめていた。
シンイチロウくんも、最初は少し緊張していたけれど、今では夢中になっている。
一枚、また一枚と、物語が進むごとに、二人の顔がくるくると表情を変えていく。
──そして、ゆりか姫が魔女に呪いをかけられ、眠りについた時、ひとりの勇敢な騎士──『しんいちろう』が立ち上がりました。
「『しんいちろう』!? 今度はお兄ちゃんと同じ名前だね!?」
「……う、うん」
そんな会話をする二人を、見守りながら私は紙芝居を読み進めた。
ゆりか姫を救うために、森をさまよったり、魔物を倒したり──
はらはらする展開に、ユリカちゃんは「しんいちろう、がんばれ……っ!」と小さな声で応援し、シンイチロウくんも真剣な顔で。でも、目をキラキラ輝かせて紙芝居に見入っていた。
(やっぱり、紙芝居で正解だったみたいね……)
私はある確信を得ながら、物語がクライマックスへと進んで行った──。
そして魔女が倒され、ゆりか姫は目を覚ましました。騎士・しんいちろうにより、王国は平和を取り戻したのでした──。
「おしまいっ!」
最後の一枚を見せると、ユリカちゃんがぱちぱちと小さな手で拍手した。
「すごい! たのしかった!」
「うん……すっごい、おもしろかった……!」
シンイチロウくんは頬を染め、はっきりとそう言った。
「ありがとう、シンイチロウくん、ユリカちゃん。二人がちゃんと聞いてくれて、私もすごく嬉しかった」
私は紙芝居を抱えたまま、聞く。
「──ちなみに、シンイチロウくん。どの辺が面白かった?」
「えっ!? えーと……騎士がライストリューゴーン族のホメロスと対峙して、蛇のような魔物のゴルゴーン、ステンノー、エウリュアレーを倒したところが、すごいと思った!」
ぽかんと、シンイチロウくんを見つめるユリカちゃん。
「お兄ちゃん、すごーい! 魔物の名前おぼえてるの?」
「え、うん……」
──やっぱり、私の考えは正しかったようだ。
この紙芝居の大筋は、幸子が昔読み聞かせた絵本を参考にした。
でも、ライストリューゴーン族やホメロスなんて、子ども向けには絶対出てこない名前を私はあえて入れた。
ちなみに、この紙芝居に出てきた名前たちは、私が大学生の頃にハマって同人誌を描いていた『ロボット戦隊・ギリシアシンワーン』こと略して『ギリワン』の登場人物からいただいた名前だ。
ギリワンは登場人物が、ギリシア神話から忠実に再現されており、その人物名は本当のギリシア神話から取られてるので、名前がやたら長い人が多い上に覚えにくい。
私も同人誌を描くにあたり、間違えないように原作を何度も読み返し、その名前の覚えにくさにイライラした記憶がある。
大学生だった幸子でさえ、なかなか覚えられなかった名前。それを、八歳のシンイチロウくんは1回聞いただけで完璧に覚えたのだ。
やっぱりこの子、暗記力が凄い。だからやっぱり──
「──ねぇ、シンイチロウくん。この紙芝居、今度は君が読んでみてくれないかな?」
「えっ!?」
私の言葉を聞いた瞬間、シンイチロウくんの表情がこわばり、顔色がさっと青ざめた。




