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魔王とプリンセス  作者: 藤ともみ
23/54

3-5 白と青と・・・

 ……サラとアレク二人の様子を、ルークは水晶玉でじっと見ていた。

 それをセリアは心配そうに見つめている。

 そして部屋の窓枠には、青い髪の少年……ブラウが座って、赤い林檎をムシャムシャと食べている。

「これで良かったのかい?ブラン。」

「ああ……あれで良い。」

「君はずば抜けた体力・攻撃力を身に付けた代わりに、人間の心に入り込む術を持たなかったからね。また僕の“誘導”が必要になったら呼んでよ。」

「……すまなかったな、手間をかけさせて。」

 ルークは一気に脱力してソファに座り込んだ。

 つややかな黒髪が根元からサラサラと輝く白髪に変化し、細い顔を被った。

肌からは完全に温かみが消え、蝋のように白くなった。

「あれ?いつになくお疲れじゃないか。」

「ブラン様……」

ルーク……いや、“白の魔王”は返事をしない。ただソファでぐったりとしている。

「しかし、僕も驚いたよ。まさかザガイア帝国の生き残りがいたなんてね。」

 少年は林檎を食べ終えると、りんごの芯を窓から放り投げる。

「しかも君の命を狙って、このフェトラ公国までやってきた。」

 ブランはふわりと窓枠からソファに降り立ち、白の魔王の隣に座ると当然のように彼の首に両腕を絡めてくる。その細い腕がまるで蛇のようにおぞましいものに、セリアには見えた。

「…君はまだ、あの帝国を恨んでいるのかい?」

 耳元で囁く“青の魔王”を、“白の魔王”はむりやり払いのけようとするが、“青の魔王”はどこうとしない。

「いや……子供だったあの青年に罪はない……。」

「僕にまで綺麗事を言う必要はないんだよ~ブラン。君があそこで味わった悲しみ、怒り、怨みを忘れたわけじゃないだろう?」

「……それはもちろんそうだ。だが、あの青年に恨みは無い、というのは本当だ。」

「ホントにいぃ?」

「しかし……」

「しかし?」

 ブランは少年を払いのけるのを諦めて、首だけをセリアの方に向ける。

「……セリア、アーク公爵に手紙を出すぞ。彼との平和協定を一時破棄せねばならない。」

「な……!?どういうことですか?」

「そろそろ、私も本気で“英雄”と戦わねばならん時が来たようだ。」

 ブランの口から出る“英雄”という言葉にたじろぐセリア。

「英雄……、まさかあの青年が聖剣の英雄だと仰るのですか?」

「……あの青年が聖剣を手に入れられるかどうか、それは私には知る由もない。」

 “白の魔王”はようやく“青の魔王”を引きはがすと、立ち上がった。純白の髪がふわりとなびく。

「しかし、のんびり英雄を待っている余裕はない。彼は一般人を巻き込んで私に戦争を仕掛けてくる気だ。」

「え!戦争するの~?」

 一気にワクワクした表情になる“青の魔王”。まるで新しいおもちゃを見つけた子供のようだ。

「そうなる前に、一騎打ちで決着をつけねばなるまい。一般人を私の闘いに巻き込むわけにはいかない。」

「ちぇーつまんないのー」

「私にもしものことがあれば、あとは予定通り……、頼むぞ、セリア。」

 そう言って赤い瞳でセリアを見る“白の魔王”。セリアは黙ってうなずくしかなかった。

「さて、私は彼を迎える準備をせねば。セリア、こいつを送ってやってくれ。」

「そこは、『もっとゆっくりしていきなさい』って言うところだよ、ブラン。」

「そろそろサラが帰ってくる。お前の姿をサラに見せるわけにはいかないだろう。」

「やれやれ。」


 “白の魔王”が部屋から去って、“青の魔王”はまた窓枠に飛び乗った。

 外には少しひんやりとした秋風が吹く。少年の青い髪と水色のマフラーがバタバタと風になびいている。ここは塔の最上階。はるか下に森が広がっている。

「ザガイア……今は僕の領地だけど、あそこに比べるとここはあったかいねえ。生温くって気持ち悪いくらい。」

「……ブラウ様、一つお伺いしたいのですが。」

 セリアは少年を見上げて、すこぶる丁寧な口調で尋ねる。

「どうしたの?」

「率直にお尋ねします。アレクサンダー・ベルクールは聖剣の英雄たりえますでしょうか?」

「それは…僕に聞くまでもなく、君ならわかるんじゃないのかな?」

「私には、二つの魔剣の気配が感じられるのみです。」

「ははは、さっすが~!よくわかってるじゃないか!」

 ブラウは嬉しそうにカラカラと笑う。

「しかし、私には正確な位置や性質までは把握できません。教えてください。アレクサンダーの前に、聖剣が現れるかどうか。」

「僕だって正確な位置まではわからないさ。ただ、僕にわかるのは、聖剣が近いうちに人の前に姿を見せるだろうということ。そして……久しぶりに、奴が来る。」

「奴……?」

「最強最悪の“黒の魔王”シュヴァイツさ。」

 セリアがハッとして眼を見開く。

 ブラウはすうっと、金色に光る目を開いて、真顔になった。

「そして奴の狙いは、おそらく、君の主“白の魔王”だ。このままだと“聖剣の英雄”が来る前に大変なことになるかもしれない。くれぐれも気をつけるように、君から言っておいてあげてくれ。」

「……本音は?」

「おもしろいことになりそう♪」

 途端に、満面の笑を浮かべるブラウ。

「……あなたという人は……。」

「だって彼が8年ぶりにやっと本気を出してくれるんだよ~。わくわくしちゃう。」

「あなたたちはそうやって……ますますあの人を苦しめるんですね。」

 セリアは自身の金色の瞳で冷たく“青の魔王”を睨む。

「人聞きの悪いこと言わないでよ。君だって僕と同じ穴のむじなだろう?」

「……私は、あなたたちとは袂を分かち、ルーク様に仕える道を選びました。絶対にあなたたちの思い通りにはさせません。あの人のことは私が命に換えてもお守りします。」

「言ってくれるねえ……“アッシェ”」

「……私はセリアです。」

「……まあ、なんでもいいや。好きにしたら?君は裏切り者とはいえ、昔からのよしみだ。何かあれば、気休めの相談程度には乗ってあげるからさ」

 じゃあねー、と少年は手を振って、窓枠からふわりと飛び降りた。

 セリアは彼の飛び降りた先を確認しようともせず、早々に窓を閉めた。



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