第4話 4-0 魔物たちと魔王 サラ・ダーリング
アレクさんが教会で銃を売り出してから、ひと月が経った。その間に、フェトラでは“白の魔王”やその魔物たちによると思われる事件がたくさん起きた。
はじめは畑が荒らされたとか、家畜が怪我をしたとか、そんな程度だったけど、だんだん人が怪我をしたり、家の一部が壊れたり、と被害が大きくなっていた。そんな状態なので学校では一人で出かけないように、と先生から注意がされ、友達みんなも怖がって団体行動をとるようになっている。街の大人たちは、みんなアレクさんから買った銃を持ち歩くようになっていた。
アレクさんたちの兵団は、公爵の兵士と一緒に魔物退治をしたり、魔物に襲われて壊れた建物を修理したりと、色々助けてくれている。
でも、みんなは、アレクさんがなかなか魔王討伐に出かけようとしないことに不満を抱いていた。
そう、聖剣がまだ、アレクさんの所にやってきていないのだ。
聖剣なんか待ってないで、さっさと魔王の城に言っちゃえばいいのに、という無責任な声も多い。兵団の人から聞いた話では、白の魔王の持つ財産と、白の魔王が幽閉している絶世の美女を目当てに、昔は魔王の城を目指す若者が多かった、らしい。それが8年前に白の魔王の被害がぱったり止んでからは少なくなったそうだけど、今でも、田舎の方からはそうした目的で、聖剣など持たなくても挑んでくる人がいるそうだ。
でも、みんな行方不明になったり、帰ってきても大怪我をしていたりで、無事に帰った人はいない。やっぱり、聖剣が無いと勝てない、ということなんだろうか。
また、一回目は大きな怪我をして帰った人の中で、もう一度魔王と戦おうとする勇敢な人もいたらしいけど、いくら探しても同じ場所に魔王の城はなく、二度と城に入れることはなかったという話も聞いた。
魔王の城、というのは、フェトラ公国のどこかにあるらしいことはわかっているものの、地図上でここ!という明確な場所が決まっているわけではなく、突然幻のように人の前に現れる、蜃気楼のようなものだ、ということだった。
私が話を聞いた人も、アレクさんの兵団に入る前、ひとりっきりで魔王の城に乗り込んだことがあった、と言っていた。村一番の力持ちだった彼は、地元の鍛冶屋さんが鍛えてくれた剣と盾で魔王の城に向かい、あと一歩、というところで惜しくも魔王に襲われて、怪我を負って帰ったらしい。その後、アレクさんの兵団に誘われて一員になり、またフェトラに舞い戻ってきてしまいました、と快活に笑っていた。ちらりと見たお姫様は、とても愛らしい姿をしていた、と彼は話していた。
このひと月の間に、私は、兄には内緒でアレクさんや、彼の兵団にいる人たちの話を色々ときいて、“白の魔王”の噂や伝説、知識をだいぶたくさん集めた。時々、こっそりマルコに教わりながらお菓子を焼いては兵団に持って行ったりもして、だいぶ親しくなった、と思う。
特にアレクさんは、学校帰りによく私に会いに来てくれるようになった。あなたは魔王に狙われやすいのだから、と彼は言うけれど、他愛ない話ができて、私は嬉しかった。
でも、アレクさんに勧められる銃は、私はまだ買えていない。そしてアレクさんから預かったペンダントもまだ返せていない。
私には、まだ覚悟が足りないみたいだ。




