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魔王とプリンセス  作者: 藤ともみ
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3-3 帰り道  サラ・ダーリング

 結局、アレクさんたちが運んできた荷車は空っぽになり、武器を買った大人たちは銃の出来に興奮しながら帰っていった。恰幅のいいおじさんから、小さい子供を抱えた母親まで、客層は様々だった。

 銃を手にしていないのは、神父様と、銃を買うほどのお金なんて持っていない、私たちみたいな女学生、それに、体の弱ったお爺さんやおばあさんくらいだった。

 私はアーニャと一緒に、教会を出て、外のお店でサンドイッチを食べて、それから帰り道をふらふらと歩いていた。

 二人とも、なんだか話す気分になれずに、黙ったまま並んで歩いていた。

 アレクさんが言うことは、たぶん間違っていない、と思う。

 でも、それに反対する兄さんのことも、わかる……たぶん、二人とも正しくて、どちらも間違ってはいないんだろう。

「実はさ……うちのお父様、もうアレクさん達から銃買ってるらしいんだ。」

 不意に、アーニャが口を開いた。

私はびっくりして、アーニャの顔を見た。

「貴族用の無茶苦茶高いのを、まんまと売りつけられちゃったみたいね。きっと700バルクで買えたこと知ったら悔しがるだろうなー」

くくく、とおかしそうに笑うアーニャ。

「私はさ、アレクさんが言うこと、よくわかるよ。確かに、魔王に怯えて神様に頼ってるだけじゃ、自分や大切な人の身は守れないもんね。あの時、サラと一緒に魔物に襲われたから……よくわかるよ。」

 言われて、私もあの時のことを思い出す。怖くて怖くて、とにかく私たち二人は逃げることしかできなかった。襲われても抗えず、アーニャは魔物に捕まった私を助けようとしてくれたけど、どうすることもできず。本当に、あの時アレクさんたちに助けられて居なければ、二人ともきっと死んでいただろう。

「あの時はたまたま運が良かっただけで、またいつ魔物が襲ってくるかわからない。それに、いつだってアレクさんたちが助けてくれるわけじゃない。だから、自分の身を守るくらいの武器は持つべきだって、アレクさんはお父様にそう言ったらしいよ。その時は、ザガイア帝国のことは話してなかったみたいだけど……、筋は通ってるよね。」

 アーニャの言葉に私も頷く。

「でもね、メイドに聞いたら、おじい様はカンカンになって怒ったらしいの。一般人を闘いに巻き込むことがどんなに愚かなことかわかっているのかって言ってね。」

「アーニャのお祖父さんが……」

アーニャのお祖父さんは、古くから公爵家に仕えていた武人で、武勲によってハルフォード家を大きくした人物として知られている、らしい。らしい、というのは、私にとっては街で一番の長老様、という印象しか無いからなのだけど。

「でも……強い軍人さんだったアーニャのおじいさんが、銃を売ることに起こるなんて、なんだか意外な感じ。」

「うん、でも逆に、武器は軍人しか持っちゃいけない、っていうこだわりが強いのかもね。私…お父様のことはあんまり好きじゃないけど、お爺様のことは尊敬してるの。でも、アレクさんがお父様を騙しているとも思えないし……何が正しいのかわかんないよ。」

 そんな話をしている間に、アーニャの家と私の家との分かれ道に差し掛かった。

 私はアーニャと分かれて、一人で家へと足を進める。兄は、もう帰っているのだろうか?


兄さん……アレクさんがやってることって、そんなに悪いことなの?確かに銃は物騒なものかもしれないけど……アレクさんは私たちが魔王に襲われても命を守れるようにって、武器を薦めてくれるんだよ……?


――そのとおり。無力である、ということ自体が罪悪なのさ。


 やっぱり……私も、ちゃんと戦わなきゃいけないのかな……。


――無駄だよ。弱い奴は何をやっても弱いんだ。強くなんかなれないさ。


 私なんかじゃ……やっぱり、無理?ただ逃げることしかできないの……?


――だったら、力あるものの生贄となれ。そうすれば、弱い君も少しは役に立つだろう。


 少しは、役に………


………!?

ハッとして顔をあげると、まだ3時のはずなのに、周りが真っ暗になっている。

季節はまだ秋のはずなのに、真冬の北風がびゅうううと吹いてきた。風邪に乗って、雪が舞い飛んでいる。突然の寒さに、身を固めていると、空の方から、ギエエエエッ、ギエエエエエッ……と、不気味な鳴き声が聞こえ、その方を見ると、白くて大きい、鷲のような鳥が何羽も飛んでいる。紅い瞳がギラギラ光って、不気味だ……。

地面からいきなり、氷の柱がザクザクと何本も飛び出してきた。それがどんどん大きくなって、巨大な人型となっていく……。

そして人型になった氷柱は、地面から足を振り上げて、こちらに向かって走り出してきた

「……っ!」

逃げようとなんとか走り出すけど、足が凍えてうまく動かない……!

「わっ……!」

いつの間にか積もっていた雪に足を取られて、私は転んでしまった。

 振り返れば、氷の巨人が、私を取り囲んで見下ろしていた。

そして、剣のように鋭い右手をこちらに降りおろしてくる……。

「や……きゃああああ!」

 頭を抱えてぎゅっと眼をつむる。

 ああ……私もう死んじゃうんだ……。

 ドギュウウウン!

 銃声が鳴り、火薬の臭いが漂う。

 助かった……?そっと目を開けると、目の前の巨人のうち一体がこちらに向かってどうと倒れてきたので慌ててよけた。

 それから、キンキンキンッと剣の切り裂く音が聞こえて、私を取り囲んでいた氷の巨人たちがバラバラになって崩れていった。

「サラさん、大丈夫ですか!?」

 声のする方を見れば、やっぱり……アレクさんだった。

左手に銃を、右手に剣を携えている。

「アレクさん!」

「下がっていてください、サラさん。」

 そう言って、アレクさんは剣を鞘にしまうと、左手の銃を両手に持ち直して、空を飛ぶ白い鷲たちを狙う。鷲は、口から青い炎を吐き出して、アレクさんを攻撃してくる。

 私は何もできないまま、アレクさんの後ろでへたりこんだままだ。

 そして、アレクさんが最後の一羽を撃ち落とすと、周りの空間がゆらぎ、空に夕暮れの光がもどった。そして、降り積もっていた雪もいつの間にか消えて、秋の景色が戻っていた。

「お怪我はありませんか、サラさん……。」

「すみません、また助けて頂いて……何もできなくてごめんなさい…。」

「何をおっしゃるんですか、それより、少し休みましょう。」

 さあ、とアレクさんが手を差しだす。

 その仕草はとても優しくて、私は自然にその手をとった。

と、その時。私は、目線を感じた。さっきの氷よりも冷たい視線を向けられているような気がした。

振り向くと、木々の間から、人影が見えた。

 白く長い髪に、ろうのように蒼白い肌、白いマントを羽織った人物だった。

 紅く鋭い瞳が、こちらを睨みつけている。

 その視線がとても冷たくて……雪はもう消えたのに、寒気を感じて私は青くなった。

「サラさん……ああ、かわいそうに、こんなに震えて…大丈夫ですか?」

 アレクさんに方を抱きかかえられて、私は彼の方を見た。

 それからまた木陰の方を見ると、その人物はもう消えていた。

嘘……もしかして今のが……白の魔王?

 ……なんだか誰かに似ていたような……。


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