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血月の新選組――未来が見える俺、人を斬れないのに新選組最強と勘違いされる。吸血鬼の姫だけが俺の秘密を知っている。――  作者: 鷹司 怜


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【第三章 千年の約束】 第三十六話 血月城

 比叡山。


 夜明け前の山道を、新選組は黙々と進んでいた。


 昨夜の戦いから、まだ半日も経っていない。


 隊士たちの身体には傷が残っている。


 包帯を巻いた腕。


 血の滲んだ羽織。


 それでも誰一人、足を止めなかった。


 先頭を歩く土方歳三は、険しい山道の先を見つめていた。


 その隣には近藤勇。


 後ろには沖田総司、斎藤一、永倉新八、原田左之助。


 そして月夜。


 しばらく歩いたところで、月夜が突然立ち止まった。


「……見えました」


 木々の向こう。


 巨大な城が姿を現していた。


 黒い石で築かれた、異様な城。


 壁には赤い紋様が走り、まるで生き物の血管のように脈打っている。


 空には赤黒い月。


 その光を浴びた城は、まるで血を吸っているようだった。


「ここが……血月城です」


 月夜の声が震える。


 近藤が静かに尋ねた。


「千年前からあるのか?」


「はい」


 月夜は頷いた。


「始祖たちが、人間の世界を見下ろすために造った城です」


 土方は鼻で笑った。


「千年も居座ってるのか」


「だったら、今日で出ていってもらう」


 月夜が土方を見る。


「怖くないんですか?」


 土方は少しだけ考えた。


「怖ぇよ」


 意外な答えだった。


「死ぬのも怖ぇ。仲間を失うのも怖ぇ」


 土方は刀の柄を握る。


「だがな」


「怖ぇから守るんだ」


 月夜は、その言葉を心の中で繰り返した。


 血月城の巨大な門が、突然開いた。


 ギィィィ……。


 誰も触れていない。


 なのに門は、まるで新選組を招き入れるかのようにゆっくりと開いていく。


「罠だな」


 斎藤一が呟いた。


「分かってる」


 土方が答える。


「だが、入るしかねぇ」


 その瞬間だった。


「グオオオオオッ!」


 城の奥から咆哮が響く。


 無数の吸血鬼が門から飛び出してきた。


「来たぞ!」


 永倉新八が刀を抜く。


「新選組、行くぜ!」


 真っ先に飛び込んだ。


 刃が一閃する。


 一体。


 二体。


 三体。


 だが倒れた吸血鬼は、すぐに黒い霧となって立ち上がった。


「くそっ!」


 永倉が構え直す。


 その横から原田左之助の槍が伸びる。


「心臓を狙え!」


 槍が胸を貫いた。


 吸血鬼の身体が崩れ、今度こそ動かなくなる。


「なるほどな!」


 永倉が笑う。


「最初から言え!」


「聞いてなかっただろ!」


 二人が同時に敵へ突っ込んでいく。


 その横を斎藤が通り抜けた。


「道を開ける」


 一閃。


 二閃。


 三閃。


 敵が次々と崩れ落ちる。


「今だ」


 土方が叫ぶ。


「進め!」


 新選組は一気に城内へ突入した。


 城の中は不気味なほど静かだった。


 壁には古い壁画が描かれている。


 月夜が足を止めた。


「これは……」


 そこには、人間と吸血鬼が共に暮らす姿があった。


 人間が畑を耕し。


 吸血鬼がその隣で子どもたちを守っている。


 争いのない世界。


 今では想像もできない光景だった。


「昔は……共に生きていたんです」


 月夜は呟く。


「人間と吸血鬼は、敵ではありませんでした」


 近藤が壁画を見る。


「では、なぜこうなった?」


「分かりません」


 月夜は首を振った。


「千年前の記録は、王によって消されました」


 その時。


「違う」


 暗闇から声が響いた。


 黒椿だった。


 階段の上に立ち、月夜を見下ろしている。


「消したのではない」


「人間に奪われたのよ」


 黒椿の声には怒りがあった。


「私たちは人間を信じた」


「共に生きられると思った」


「なのに、人間は我らを恐れ、殺した」


 月夜は静かに答える。


「だから、人間を支配するのですか?」


「当然でしょう!」


 黒椿が叫ぶ。


「奪われたものを、奪い返すだけ!」


 月夜は悲しそうに黒椿を見る。


「あなたは……本当は憎みたくないんですね」


 黒椿の表情が凍った。


「……黙りなさい」


「私はあなたを憎んでいません」


「だからこそ、止めます」


 黒椿は一瞬だけ目を伏せた。


 そして消えた。


「待って!」


 月夜が追おうとする。


 しかし土方が腕を掴んだ。


「今は先へ進め」


「でも……!」


「九条を倒すのが先だ」


 月夜は頷いた。


 長い廊下を抜けると、巨大な広間へ出た。


 その瞬間。


 ドンッ!


 背後の扉が閉じる。


 四方から無数の吸血鬼が現れた。


「囲まれた!」


 原田が叫ぶ。


 土方はすぐに状況を判断した。


「近藤さん!」


「ああ!」


「ここは俺たちが食い止める!」


「しかし!」


「月夜を先へ!」


 土方は奥にある巨大な扉を見る。


 その向こうから、異様な殺気が漏れている。


「九条はあそこだ」


 月夜は息を呑んだ。


「土方さん……」


「行け!」


 近藤が背中を押す。


「俺たちは大丈夫だ」


 永倉が笑う。


「こんな奴らに負ける新選組じゃねぇ!」


 原田も槍を構えた。


「さっさと王様を倒してこい!」


 斎藤は刀を抜く。


「ここは任せろ」


 月夜は涙を堪えた。


「……必ず戻ります」


 土方が笑う。


「それが新選組だ」


 月夜と沖田は走り出した。


 背後から剣戟の音が響く。


 振り返りたい。


 だが振り返らない。


 仲間を信じる。


 それが今、自分にできることだった。


 長い廊下の先。


 沖田が突然、壁に手をついた。


「沖田さん!」


「大丈夫です」


 だが、その顔は青白い。


 口元から血が滲んでいる。


「もう……身体が限界なんですね」


 月夜が涙を浮かべる。


 沖田は笑った。


「そうみたいです」


「でも、ここまで来られた」


 そして月夜を見る。


「だから、最後まで行きましょう」


「一緒に?」


「はい」


 月夜は頷いた。


 二人は最後の扉の前に立つ。


 沖田が刀を抜いた。


 月夜も構える。


「行きます」


 扉が開いた。


 広大な玉座の間。


 中央に九条羅刹が座っていた。


「よく来たな」


 九条が立ち上がる。


 その瞬間、城全体が震えた。


「月夜」


「千年の逃亡は終わりだ」


 月夜は刀を構える。


「逃げていたんじゃありません」


「私は……自分の生き方を探していただけです」


「そして決めました」


 一歩前へ出る。


「人間と共に生きる」


 九条の瞳が赤く輝く。


「愚かな娘だ」


 沖田が月夜の隣に立つ。


「そうですか?」


 九条が沖田を見る。


「貴様は、死にかけている」


「ええ」


 沖田は笑った。


「でも、生きてます」


 九条の表情が変わった。


「ならば。」


 魔剣を抜く。


「その命ごと、奪ってやろう」


 黒い瘴気が広がる。


 月夜の黄金の瞳が輝く。


 沖田も刀を握り直す。


 二人は背中合わせになった。


「沖田さん」


「はい」


「怖いです」


「僕もです」


 月夜が笑う。


「それでも……戦います」


「はい」


 沖田も笑った。


「それが僕たちです」


 九条が踏み込む。


 大地が砕ける。


 月夜と沖田も同時に走った。


 刀と魔剣が激突する。


 轟音が血月城を揺らした。


 千年続いた因縁が――。


 ついに最後の戦いへ突入した。

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