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血月の新選組――未来が見える俺、人を斬れないのに新選組最強と勘違いされる。吸血鬼の姫だけが俺の秘密を知っている。――  作者: 鷹司 怜


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【第三章 千年の約束】 第三十二話 鬼と姫、共闘

――夜明け前。


壬生屯所には、重苦しい空気が漂っていた。


黒椿が姿を現した。


それはつまり――


血月十三将が、新選組を敵と認めたことを意味していた。


土方歳三は静かに煙管を置き、幹部たちを見渡した。


「全員、聞け。」


近藤、沖田、斎藤、永倉、原田。


そして山南敬助も、その場にいた。


「これから先は、浪士だけを相手にする戦じゃねぇ。」


誰も口を開かない。


「化け物相手でも、新選組は京を守る。」


低く、しかし揺るがぬ声だった。


――鬼の覚悟


会議が終わると、土方は一人で道場へ向かった。


朝日が床板を照らしている。


そこへ月夜が現れる。


「土方さん……。」


「来たか。」


二人は向かい合う。


「昨夜の女。」


「黒椿。」


月夜は頷く。


「十三将の中でも、暗殺を得意とする吸血鬼です。」


「なら、いずれまた来る。」


「はい。」


土方は刀を手に取る。


「俺は鬼と呼ばれてる。」


月夜は黙って聞いていた。


「だが、本物の鬼なんざ見たことはなかった。」


ゆっくりと刀を抜く。


刃が朝日に輝いた。


「だから教えろ。」


「吸血鬼はどう斬る。」


月夜は驚く。


「……信じるんですか?」


「近藤さんが信じた。」


「総司が命を懸けた。」


「それで十分だ。」


月夜の胸が熱くなった。


――吸血鬼の弱点


月夜は道場の中央へ立つ。


「吸血鬼は不死ではありません。」


「心臓。」


「首。」


「そして――」


少し迷ってから続ける。


「始祖の血を宿す者の力。」


土方が眉をひそめる。


「始祖?」


「私の一族は、王の血を継ぐ家系でした。」


「その血を奪えば……。」


「昼でも活動できる完全な吸血鬼になります。」


土方は小さく舌打ちした。


「面倒な話だ。」


「だから私は逃げていました。」


「でも。」


月夜は真っ直ぐ土方を見る。


「もう逃げません。」


土方は静かに頷いた。


「その顔なら十分だ。」


――襲撃


その日の夕刻。


新選組屯所から少し離れた寺町通。


巡察中だった斎藤一が立ち止まる。


「……殺気。」


風が止まる。


次の瞬間。


屋根から黒い影が降ってきた。


「死ね。」


鋭い爪。


斎藤は紙一重でかわす。


「誰だ。」


男は笑う。


獣の牙。


紅い瞳。


「第十二将――餓狼。」


爪が石畳を裂く。


「人間にしては速い。」


斎藤は刀を構えた。


「自己紹介は終わったか。」


一瞬。


二人が消えた。


金属音が町中へ響く。


――鬼と姫


その頃。


月夜と土方は異変を感じていた。


「斎藤さん!」


「行くぞ!」


二人は屋根を駆ける。


月夜の身体能力は人間離れしている。


しかし。


その横を。


土方が同じ速度で走っていた。


「速い……。」


月夜が思わず呟く。


土方は笑う。


「鬼だからな。」


「え?」


「冗談だ。」


珍しく笑う土方に、月夜も少しだけ笑みを浮かべた。


――餓狼


寺町。


斎藤の肩から血が流れる。


餓狼は狂ったように笑う。


「いい血だ。」


「食わせろ。」


再び飛びかかる。


その時だった。


「そこまでだ!」


土方の一撃。


餓狼は大きく後ろへ跳ぶ。


「鬼の副長か。」


「噂以上だ。」


月夜も静かに前へ出る。


「餓狼。」


「もう誰も傷付けさせない。」


餓狼は目を見開く。


「姫!」


「ようやく会えた。」


その笑みは獲物を見つけた獣そのものだった。


――共闘


餓狼が突進する。


土方が真正面から迎え撃つ。


重い斬撃。


だが餓狼は笑う。


「遅い!」


横へ回り込む。


その瞬間。


「そこです!」


月夜の細身の刀が閃く。


餓狼の腕を浅く斬り裂いた。


「何!」


土方はその隙を逃さない。


「総司から聞いた。」


「お前らは連携を嫌うらしいな。」


餓狼の顔色が変わる。


「人間ごときが!」


怒りに任せて突っ込む。


それこそが罠だった。


「終わりだ。」


土方の刀が餓狼の胸を貫く。


同時に。


月夜の刃が首元へ走る。


餓狼は悲鳴を上げた。


身体が黒い灰となり、夜風に散っていく。


――初めての勝利


静寂。


月夜は息を整えながら立ち尽くしていた。


十三将を倒した。


初めてだった。


「勝った……。」


しかし土方は刀を納めない。


「違う。」


「え?」


「敵は様子見だった。」


その言葉と同時に。


遠くの寺の屋根。


黒椿が静かに立っていた。


その隣には。


長い白髪の男。


九条羅刹。


「餓狼が敗れたか。」


黒椿が微笑む。


「予定通りです。」


九条は月夜を見つめる。


その紅い瞳には、懐かしさと狂気が宿っていた。


「姫……。」


「ようやく力が目覚め始めた。」


彼は静かに笑う。


「次は私が迎えに行こう。」


その姿は月光の中へ消えていった。


月夜はまだ知らない。


十三将を一人倒したことで、彼女自身の中に眠る**「始祖の血」**もまた目覚め始めていることを。


そして沖田総司の身体を蝕む病もまた、静かに進行していた。


歴史の歯車と、千年続く血の因縁。


その二つは、もう誰にも止められない。

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