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血月の新選組――未来が見える俺、人を斬れないのに新選組最強と勘違いされる。吸血鬼の姫だけが俺の秘密を知っている。――  作者: 鷹司 怜


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【第三章 千年の約束】 第三十一話 血月十三将――京を狙う影

夜明け。


池田屋から運び出された負傷者たちのうめき声が、まだ京の町に残っていた。


しかし、人々が語るのはただ一つ。


「新選組が長州浪士を討った。」


その名は一夜にして京中へ広がった。


だが――。


その事件を、もっと遠くから見つめる者たちがいた。


――鴨川の闇


鴨川沿い。


誰もいない河原。


月だけが水面を照らしている。


そこへ、一人の男が現れた。


黒い羽織。


異様に白い肌。


そして――真紅の瞳。


男は血の付いた扇を静かに閉じる。


「池田屋……失敗したか。」


その声に応えるように、闇から十二人の影が姿を現した。


老人。


僧。


女。


武士。


童子。


遊女。


医者。


陰陽師。


それぞれが違う姿をしている。


だが全員に共通していた。


紅い瞳。


「十三将、全員集合いたしました。」


黒衣の女が頭を下げる。


男は静かに頷く。


「月夜は生きている。」


空気が変わる。


「姫は始祖の血。」


「放置すれば我らの悲願は終わる。」


老人が笑った。


「ならば殺しますか?」


男は首を横に振る。


「いや。」


「生け捕りだ。」


「始祖の血を取り戻す。」


その瞬間。


十三人全員が笑った。


人間ではない笑い声。


京の夜に、不気味に響く。


――血月十三将


男は一歩前へ出る。


「我らは何者か。」


全員が右手を胸へ当てる。


「血月十三将。」


「千年続く王の剣。」


「闇を支配する牙。」


男は名乗った。


「第一将――九条羅刹。」


その名だけで空気が凍る。


続いて、


「第二将・黒椿。」


「第三将・不知火。」


「第四将・骸。」


「第五将・白蓮。」


「第六将・夜叉。」


「第七将・紅蜘蛛。」


「第八将・無貌。」


「第九将・常闇。」


「第十将・鳴神。」


「第十一将・雪鬼。」


「第十二将・餓狼。」


そして。


最後に。


まだ姿を見せぬ一人。


九条が空を見上げる。


「第十三将……。」


その名だけは誰も口にしなかった。


――壬生屯所


一方、新選組。


屯所では負傷者の手当てが続いていた。


近藤勇は静かに座っている。


土方が報告書を置いた。


「池田屋で捕縛十数名。」


「逃亡者もいます。」


近藤は頷く。


「よくやった。」


だが土方の表情は暗い。


「気になることがあります。」


「何だ。」


「池田屋に、人間じゃねぇ奴がいた。」


近藤は黙る。


土方は続けた。


「あれは月夜とは違う。」


「もっと……禍々しい。」


近藤はゆっくり目を閉じた。


「始まったか。」


「何がです?」


「俺たちの知らない戦だ。」


――沖田の異変


その頃。


沖田総司は庭で一人、木刀を振っていた。


だが突然。


ゴホッ――。


咳。


手を見る。


赤い。


血。


沖田は笑う。


「またか。」


その姿を見ていた月夜が駆け寄る。


「沖田さん!」


沖田は慌てて袖で隠した。


「大丈夫ですよ。」


「大丈夫じゃありません!」


月夜は彼の手首を掴む。


吸血鬼の感覚。


脈。


血流。


命の鼓動。


その全てが普通ではなかった。


「……どうして。」


沖田は苦笑した。


「昔から身体が弱いんです。」


しかし月夜には分かった。


違う。


これは病ではない。


命そのものが削られている。


「そんな……。」


月夜は唇を噛んだ。


(このままでは……。)


――影


その夜。


月夜は一人で屯所の庭に立っていた。


風が止む。


虫の声も消える。


「……来た。」


闇の中から、一人の女が歩いてくる。


黒い着物。


白い足袋。


そして、紅い瞳。


女は優雅に一礼した。


「初めまして。」


「月夜姫。」


月夜は刀を抜く。


「あなたは……。」


女は微笑む。


「第二将――黒椿。」


「姫を迎えに参りました。」


「王の元へ。」


その瞬間。


女の姿が消えた。


次の瞬間には月夜の目の前。


鋭い爪が喉元へ迫る――。


キィン!!


火花が散る。


その一撃を受け止めたのは。


「悪いけど。」


「うちの仲間には指一本触れさせない。」


沖田総司だった。


「沖田さん!」


沖田は静かに笑う。


「約束しましたから。」


「あなたは僕が守ります。」


黒椿の瞳が細くなる。


「人間風情が……。」


その背後で、闇がゆっくりとうごめいた。


黒椿は微笑みながら一歩退く。


「今日は挨拶だけ。」


「ですが、次は違います。」


「十三将は、一人ではありません。」


そう言い残すと、彼女の姿は夜の闇へと溶けて消えた。


静寂が戻る。


しかし、誰もが理解していた。


池田屋の戦いは終わった。


だが、本当の戦いは――今、幕を開けたのだ。

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