幕間 異なる歴史の記録
ここで、この物語を語る者として、ひとつ書き記しておこう。
本来の歴史において、織田信長と弟・信行の道は、穏やかに並ぶものではなかった。
信長を恐れる者がいた。
信行を担ごうとする者がいた。
そして柴田勝家もまた、一度は信長ではなく、その弟の側に立った男として名を残している。
その先にあったのは、兄弟が並び立つ未来ではなかった。
けれど、この物語では、そこに一人の姫がいた。
米櫃の底を知り、葱のありがたさを知り、甥たちを食べさせることに必死だった、忙しない斯波の姫。
彼女は歴史をすべて知っていたわけではない。
年号も、細かな合戦の流れも、誰がいつ何をしたかも、正しく覚えていたわけではない。
ただ、知っていた。
織田信長には、弟との争いがあったこと。
柴田勝家が、その弟の側についたこと。
そして、その先に血が流れたこと。
だから彼女は、言った。
兄弟を争わせる者は、その兄弟のどちらの味方でもない、と。
その一言が、柴田勝家を動かした。
勝家は、信行を担ぐのではなく、止めることを選んだ。
信行は、兄を討つのではなく、兄の隣に立つことを選んだ。
信長は、弟を斬るのではなく、使うことを選んだ。
ここに、本来の歴史との最初の大きな異なりを書き記しておこう。
この物語の織田家では、兄弟は血で別たれなかった。
信長は道を切り開く。
信行は、その道を踏み固める。
勝家は、その二人を支える。
そして柴田のお藤の方となった藤乃は、きっと今日もどこかで帳面を見ながら、葱の使い道を考えている。
それが、この物語における、最初の分岐であった。
続きを、書き始めました!
二章、お楽しみに!




