第95話:乾坤一擲一撃必殺
「おや? 魔道具に不備でもありましたか……?」
結界内部で動きを止めたワンダを見たメイトーリーは「どうしたんでしょうか?」と首を傾げた。
「ふんっ、やっぱり君の魔道具、欠陥品ばかりなんじゃないのかな?」
「ふふ……強がりなのは相変わらずですね」
それ、と軽い調子で言葉を発したメイトーリーに合わせて背後の腕の魔道具が動く。
ガシャン、と先端部分を開いた四つ手に魔法陣が浮かび上がると火、水、風、土それぞれの魔力が奔流となってフェイルたち教師陣に襲い掛かった。
「っ!? 『防過林』!」
「『水障壁』」
反応できたのはフェイルとマリーンのみ。
己を含めた教師陣の前方に聳え立つように生えた幾つもの巨木と、その巨木に纏わせるように展開された水の壁。
水を纏った巨木と光が衝突し、演習場内に大きな爆発音が轟いた。
「おや、反応できましたか。ふふふ……流石ですね」
「舐めてもらっては困るよ! 何せこれでも、元冒険者なのさ! 100年くらい前だけどね……!」
お返しとばかりにフェイルがワンド振るえば、壁となっていた巨木が急成長し始める。
僅か1秒もかからず、大量の葉を茂らせた巨木が大きく揺れた。
「『大葉散』! そしてついでだ、『根剛』!」
巨木が揺れたことで舞い落ちた大量の葉が刃となって宙を舞い、そして数の暴力をメイトーリーへと向ける。
更にフェイルの魔法はそれだけに留まらず、幾本もの巨木の根が地から生え、メイトーリーを叩き潰そうと振り下ろされた。
「おやおや……随分と遠慮がないものですね」
弾丸のような速度で迫る切れ味鋭い大量の葉と、見た目通りの質量で圧し潰そうとする巨木。
その様子を焦ることもなく涼し気な顔で観察するメイトーリーは、「最大出力」とだけ口にした。
瞬間、背部の腕の魔道具が今まで以上に大きく口を開き、そしてすべての葉を焼き落とし、巨木はその根元から切って落とされた。
「ふむ、上々ですね。流石私の魔道具」
自身の魔道具による成果を目の当たりにして満足げな笑みを浮かべたメイトーリーは、再び魔道具の口をフェイルたちへと向ける。
そして繰り出されるのは、先程よりも苛烈になった魔法の連続攻撃であった。
「くぅっ……! さっきからポンポンとぉ……! めちゃくちゃに撃ってくるじゃないか……!? マリーン! 手はあるかい!?」
「……今はまだ」
ビームのように撃ち出されている魔力の光がフェイルたちを焼き尽くそうと襲い掛かる。
フェイルの木とマリーンの水の守りを重ねることで、何とか防ぐのが精一杯の現状に顔を顰めるフェイル。
他の教師陣もフェイルたちに守りを任せてメイトーリーに向けて魔法を放つのだが、防御用の魔道具か何かで防がれて有効打にはなっていない。
「その無尽蔵の魔力……! それも君の魔道具かな……!? 前の君はそこまで魔力は多くなかったはずだぞ……!?」
「ご名答ですよ、モルガル先生。とはいえ、このまま消費すれば明日には尽きてしまいます。決して無尽蔵とは言えませんよ」
「希望も持たせてくれない解説をどうもだねぇ! だが油断は禁物だよ! 『樹縛』!」
悪態を吐きながらフェイルがワンドを振り上げると、メイトーリーの背後から勢いよく生えた木が彼女の体を締め上げた。
展開されていた腕の魔道具も一緒に拘束されたことで攻撃が止むと、他の教師陣が飛び出しメイトーリーを包囲して杖やワンドを差し向ける。
おまけにマリーンが『水牢獄』の魔法で拘束を重ね掛けた。
「さぁ、メイトーリー。これでもう君は動けないだろう。大人しく『写し身の聖杯』を解除してお縄についてくれたまえ」
「おや、殺さないんですか? 意外とお優しいんですね」
「どうせ君はこの後、勇者教として国から色々聞かれるだろうからねぇ? 元同僚として、少しくらいは優しくしてあげるとも」
クシシ、とメイトーリーに向けてワンドを振れば、彼女の体は更にきつく締めあげられる。
「さぁ早く解除したまえ。そして、その属性を判定する魔道具についてキリキリと吐くんだ! でないと、君の体は私の木で容易く骨を折られてしまうぞ? マリーンの魔法で水攻めにしたっていいんだ。苦しい思いをしたくないなら、急いだほうが身のためだと思うよ?」
「身のため……? ふふふ、モルガル先生は面白いことを言うんですね」
「……なに?」
尚も笑みを浮かべているメイトーリーの言葉を怪訝な様子で睨んだフェイルは、更にきつくメイトーリーを締め上げる。
常人であればすでに骨が折れていてもおかしくはなく、『纏い』の強化があったとしても息苦しくなるほどの力がかかっている。
「まったく。敵を前にして、優しさなんて見せるものではないですよ?」
「っ!? 全員ここから離れたまえ!!」
フェイルの魔法による締め付けをまったく気にしていないメイトーリー。
それどころか、彼女を中心に急激に膨れ上がった魔力を目にしたフェイルは周囲の物全員に向けて叫ぶ。
「油断、しましたね?」
メイトーリーがニヤリ、と笑って見せたその直後、彼女を中心に演習場内で大爆発が起きた。
フェイルの言葉に従ってその場から退避しようとしていた教師たちは、爆破の衝撃によって漏れなく観客席の壁へと叩きつけられる。
「……先生、大丈夫?」
「た、助かったよマリーン……」
一方のマリーンは『水障壁』を自身とフェイルの周囲に展開することで己の身を守ったが、爆心地に一番近かったフェイルは障壁ごと吹き飛ばされて演習場内を転がっていた。
とはいえ、マリーンの助力がなければ無事では済まなかったため、ボロボロになって倒れながらもマリーンに礼を述べる。
「まったく、自爆だと……? 死なばもろとも、と言う奴か。見上げた根性だねぇ」
「ほう? モルガル先生が褒めるなんて珍しいですね」
「「っ!?」」
声がした先を二人が見れば、爆発で舞う土埃の中をゆっくりと歩く人影があった。
「あ、あれほどの爆発だぞ……!? 何故生きているんだい君は……!?」
「ふふふっ……安心してください。私も、決して無事ではないんですから」
土埃が晴れていく中、笑みを浮かべて現れたメイトーリーがほら、と自身の左腕を胸元に掲げた。
見れば、彼女の左腕が二の腕の半ばから先がなくなっている。
「腕だけではなく、体の方もところどころでボロボロなんですよ。ただ、今回ので自傷の被害を知れたのはいい実験データになりました。感謝していますよ、モルガル先生」
メイトーリーのいう通りにその体を見れば、確かに腕だけではなくその体のところどころが破損している。
そしてローブの下に隠されていたその体を見て、フェイルは「まさか」と目を見開いた。
「その体、魔道具か……!?」
「ええ、この体も魔道具ですよ。言わば私の意思で動かせる人形のようなものです。私本人はまた別の場所にいますから」
「何だと……!?」
明かされた事実に驚いて体を起こそうとするフェイルだったが、まだ爆破のダメージが癒えておらずワンドを向けることすら叶わない。
そんな彼女をいつもの笑みを浮かべて笑うメイトーリーであったが、二人の間にマリーンが杖を構えて割り込んだ。
「そういえば、まだあなたが残っていましたね」
「ん。どこにいるのか教えてくれたら、優しく捕まえる」
「学生の時の君を知る者として言いますが、あなたのそれは全く信用できませんのでお断りしますよ」
「……むぅ。じゃあ、壊す」
交渉決裂、と杖を構えたマリーンが数十を超える『激流槍』を生成して速射する。
躊躇いのないその魔法に驚きを顕わにするメイトーリーであったが、特に焦ることもなく四つ腕の魔道具と、結界のような物を起動させて『激流槍』を弾き飛ばした。
「ふふ……防御結界を展開する『簡易結界石』に四属性の魔力を放ち城壁さえ破壊する『悪魔の四腕』。そしてそれらの運用を可能とする魔力を貯めこむ『魔力宝庫』に遠隔操作で自由自在に動く『傀儡子操人』! 星6つにしてグレーアイル最高峰の魔法使いとも称されるあなたに勝てば、その有用性が証明されたも同然です! ああやはり! 私の魔道具は素晴らしいの一言に尽き――」
「乾坤一擲――」
「……ん? 誰――」
人形の体をカタカタと揺らして笑うメイトーリー。
そんな彼女の背後に現れた人影は、何か小さく呟くと同時に
「――一撃、必殺ぅぅ!!」
メイトーリーの無機物の体を、威勢の良い声と共に勢いよく蹴りぬいたのだった。




