第92話:傀儡のペンダント
「勇者教、だって……?」
「ええ。もっとも、私自身は勇者そのものに興味はないのですが。でも身を置く組織としてはちょうどいいんですよ?」
そう言って観客席から飛び降りたパラスス……もといメイトーリーだったが、背中から生えた四本の腕が足元に展開され彼女を安全に着地させる。
そんな己の魔道具を撫でながら「流石私の魔道具」と嬉しそうに笑みを浮かべると、改めてフェイルたち教師陣と向かい合った。
「勇者教……なるほど、以前王都の方で悪魔召喚なんて騒ぎを起こした集団じゃないか。君にはぴったりだろうね」
「ええ。実に私好みですよ。おかげで色々と魔道具も作れましたしね」
「『命削りの指輪』だったかな? どうせあの趣味の悪い魔道具も君が作ったんだろ? 調査のためにこの学園都市に送られたみたいだが……魔法の力が向上する代わりに寿命を削るなんて、失敗同然の魔道具じゃないか」
「そりゃもちろん。失敗作ですからねぇ、あれ」
「……何だって?」
フェイルの言葉に、メイトーリーは「当たり前じゃないですか」と言葉を返した。
「あんな魔道具、とても自分で使おうとは思えませんよ。基本的に、私は私のために魔道具を作っているんですから。ただ生まれてきた魔道具に罪はありません。ですから、十全にその魔道具が使われるよう願って売り払ったんですよ」
「その魔道具が一人の人生を狂わせたとしてもかな?」
王都の事件において件の魔道具を使用したシルヴァ・バンデランは、強大な力を手にしたことで自ら『竜殺しの魔法使い』を名乗り、その結果処刑されることになった。
きっとメイトーリーがその魔道具を売らなければ、彼は『竜殺しの魔法使い』を名乗ることはなく、死ぬことにもならなかったはずだ。
しかしメイトーリーは「ああ、バンデランくんのことですか」と笑う。
「彼のことは存じていますよ。失敗作の魔道具を十全に活用してくれたようですし、そこについては感謝しています。流石、私の魔道具。彼の才能は平凡以下でしたが、王族さえ騙すほどの魔法の力を得られて彼も魔道具も大喜びでしょう。ただ彼については、私の魔道具がなくともいつか似たようなことになっていたと思いますがね」
「……私は心底、君が教師を辞めてくれていてよかったと思っているよ」
「私も教師を辞めてよかったと思っていますよ」
苦々しい表情のフェイルと、そんな彼女の顔を見て朗らかに笑って見せるメイトーリー。
しかしそんな両者の言葉のやり取りをマリーンがフェイルの前に立つことで終わらせた。
「……大人しくしてもらう。色々聞きたい」
「おや、実力行使ですか? 星6つの魔法使いであるあなたが相手となると……ええ、怖いですね」
一歩前に出たマリーンを見て、肩を竦めてやれやれと息を吐くメイトーリー。
しかし口ではそう言いながらも、彼女は余裕の表情を浮かべていた。
「ただ、よろしいんですか? 私にかまけていると、彼女たちは救えませんよ?」
「っ……! 君の目的は理解したよ、パラススくん……いや、メイトーリー。だがもう一つ。ミラディンガくんを狙うのに、何故ケセラくんが苦しんでいるんだ!?」
壁の向こう側でワンダの魔力は未だに膨れ上がり続けている。
メイトーリーがティラを狙うというのであれば、彼女に対して何か仕掛けようとするはずだ。
しかし壁の内側に捕らわれているとはいえ、ティラはワンダのように苦しんでいる様子は見られない。
その問いに、メイトーリーは不満げに言葉を返した。
「私も最初はミラディンガさんに使ってもらうつもりだったんですよ? 昔から魔法に関して伸び悩んでいた彼女であれば、私のことを信じてあの魔道具を使ってくれると思っていたんですが……意外なことに、彼女は受け取ってくれなかった」
困ったものですよ、と目を細めて苦笑するメイトーリー。
しかしその奥に見え隠れする瞳には、間違いなく狂気の色が浮かんでいる。
「そんなときですよ、街で憔悴したケセラくんを見かけたのは。しかも彼は、更なる強さを求めているというじゃないですか! あれだけ強いと言いうのに、まだ強さを求める彼の姿勢は素晴らしいもの。元とは言え私も教師でしたから、彼の手助けをしてあげたんですよ」
「反吐でも吐きそうな口で、思ってもいないことを言うものじゃないよ。君はケセラくんに何をしたのか、簡潔に答えたまえ」
「せっかちですね。エルフなんですから、もう少し過程を大切にしてみてはいかがですか? とはいえ、私は人間なので簡潔に答えてあげましょう。彼には魔道具を渡しただけですよ」
魔道具? と怪訝な顔を向けるフェイルにメイトーリーは「ええ、はい」と笑って頷いて見せる。
「本当はミラディンガさんのために用意していた、魔力を無理矢理増幅させるペンダントだったんですよ? あれを使えば、魔力暴走を起こしたミラディンガさんの魔法が発現し、同時にその規模と威力を被害状況から確認できる。ただそれが叶わなかったので、彼用に調整してお渡ししたんです。名付けるならば『傀儡のペンダント』でしょうか? ああ、安心してください。代償元はうちの部下ですので、以前の指輪のように彼の寿命が削られることはありませんので」
「……外道」
「ふふ……魔道具の発展には犠牲は付き物なんですよ、マリーンさん。そしてその細工ですが……無理矢理の魔力上昇による思考能力の低下、並びに事前に設定した命令の実行です。そして私が出した命令はもちろん、『ティラ・ミラディンガの殺害』。体さえあれば、魔道具への加工は可能ですからね。暴れられる心配もないのでちょうどいいでしょう?」
チラと壁の内側に視線を向けたメイトーリーは、その身には余りある魔力を宿して立ち上がったワンダを見てほほくそ笑む。
「ちなみに、壁は私が解除するか、ケセラくんが倒れるまでは解けません。ああもちろん、致命傷の肩代わりの機能は既に消失しています。ふふ……幼馴染を殺すという選択を優しい彼女は取れないでしょうから……ね? このまま彼女の死を待つだけでいい」
「……なら話は簡単だね。今から君をボコボコにして、解除させてくださいと言わせてあげようじゃないか」
フェイルの言葉とともに、周りの教師陣とマリーンが各々の杖やワンドを構えた。
「ならば試してみましょうか。あなた達が私に解除させるのが先か、ミラディンガさんがケセラくんに殺されるのが先か。楽しいゲームと行きましょう!」
「……耐えてくれたまえよ、ミラディンガくん」
壁の向こうでワンダと対峙するティラを見て、フェイルは一言小さく呟くのだった。




