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【WEB版】転生した空間魔法使いは正体隠して目立ちたい!~それ俺ですとは言いません~  作者: 岳鳥翁
第3章:魔法学校の雇われ教師

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第90話:対峙する二人

 ミラディンガの動作と共に両断された的を見て、誰もが息を飲んだ。


 未だに静寂が続く中でただ一人、ミラディンガだけはふらふらとした足取りでステージから降りていく。


 『奥の手』の使用による魔力の枯渇だろう。ポーションを配っていた教師が唖然とした様子で見てるのだが、ミラディンガが手を差し伸べて漸くポーションを手渡していた。


「す……すす素晴らしいじゃないかぁ!!」


 そんな中、今迄見たことのないようなテンションで声を上げた者が一人。

 審査員席から立ち上がり、眼下のミラディンガをロックオンしたチクショウエルフことフェイルさんである。


「た、確かに見たぞ! その魔力は基本の四属性いずれにも属さない魔法! それすなわち、この私と同じ特異属性の魔法と言うことじゃないか!」


 言うな否や、審査員席から飛び降りてミラディンガに詰め寄っていくフェイルさん。

 そしてそれと全く同じ行動に出ようとする者がここにも一人。


「トーリッ、離してっ……! ボクも行くっ……! あの魔法っ、ボクが見たやつ……!」


「気持ちはわからんでもないが、今は抑えなさいなマリーン。お前とフェイルさんに詰め寄られたら、ミラディンガが可哀想だろ」


「でもトーリも気になるはずっ。木剣……はっ、まさかトーリ……!」


「違うから。俺は『纏い』しか教えてないし、そもそもあんなでたらめ剣術使えないっての。何だよあれ、斬撃でも飛んでるの?」


 嘘である。

 内心冷や汗ダバッダバである。何してんだよあの子。木剣とか使ったら俺の関係性まで疑われちゃうでしょうが。いやミラディンガは正体を知らないんだけどさ。

 マリーンの言葉に若干早口になりながら冷静を保り、「私何も知りません」の姿勢を貫き通す。


 ミラディンガがやってみせたのは、以前俺がイーケンスにやってみせた剣を振るモーションに合わせた『断裂』の使用だ。

 恐らくだが、切断範囲が広くなるが故に、より切断するイメージを掴むために木剣を取り入れたのだろう。剣の振り方も講義内で教えているため、なかなか様になっていた。


 ……木剣使わなくても、腕を振るとかでよくないですか? 居合、かっこいいからいいんだけど。


 マリーンだから何とかなっているが、今ここにフェイルさんがいたら怪しまれていただろう。時と状況が味方をしてくれた。


 ジタバタと観客席から飛び降りようとしているマリーンを羽交い絞めにしながらミラディンガの方を見れば、彼女は空になったポーションの空き瓶を手に色々とフェイルさんから質問攻めにあっていた。


「君が魔法を使った瞬間に的が全部切れたんだ! いったいどんな魔法なんだい!? 属性は!? 木剣は必要なのかな!? いや、あれを見る限り木剣そのものは関係ないのだろう! では何故使う必要が……? イメージのため? ああもう! なんで私はこんな逸材に気付かなかったんだ……!! さぁすぐに採血だ! 問答無用! こうしちゃいられないぞぉ!?」


「あ、その……えっと……」


 フェイルさんの勢いに押されるミラディンガは、演習場内のあちこちに視線を巡らせて何かを探しているようにも見える。

 しかし……なるほど。フェイルさんのあの反応を見る限り、彼女自身空間魔法を見たことはないのだろう。


「(しかし……フッフッフ、我ながら素晴らしいネーミングセンスだ。この世界では恐らく俺しか知らないであろう、日本神話から採用した剣の名前。やっぱり、良い……!)」


 ちなみに、普通の『断裂』と何が違うのかといえばその規模と範囲を拡張しただけのものである。

 でもどうせなら、特別みたいな感じにしたいじゃん。と言うことで、ミラディンガに用意した『奥の手』だ。巨大な相手を真っ二つに一刀両断するための魔法、と言う認識でいい。


 今のミラディンガが使えば、恐らく一刀両断できる規模は小さな建物一つ程度の大きさ、といったところだろうか。

 なお、俺の場合は街一つ分を一度に両断できる。まぁやったらその後逃げられないため、今後も『奥の手』を使うことはないのだが……それでも、『奥の手』があるとないでは意味が変わるはずだ。


 これで俺も世間一般的な魔法使いだな! ヨシッ!


「さぁキビキビと話してくれたまえ! さぁ! さぁぁ!!」


「あの、えっと……フェイル先生、近いです……」


「フェイル先生。そこまでにしてください」


 いよいよ子供のように我慢の効かなくなってきたマリーンを宥めながら自分の仕事に満足していると、大興奮のフェイルさんに待ったをかける声が上がる。

 ん? とマリーンと二人そろってそちらを見れば、すでに魔力枯渇から回復していたケセラが歩み寄っていた。


「何の用かな? ケセラくん。悪いが今は、ミラディンガくんと話をしなければならないんだ。後にしてくれたまえ」


「いえ、そうはいきません。何せ、これから僕とミラディンガは決闘をするんですから」


「……何だって?」


 その一言にフェイルさんを含めた教師陣から驚きの声が上がった。当然俺とマリーンも驚いた側であるが、生徒達の様子を見るに彼らは知っていたらしく驚いている様子は見られない。


 「本当かい?」とフェイルさんがミラディンガに確認すると、彼女は「本当です」と頷いてケセラと対峙した。

 どうやらミラディンガとケセラの間で既に決闘が了承されているらしい。


「……お前なら何とかするだろうとは思っていた。だが周りはともかく、僕の予想すらも超えていくとはな。魔法の実技試験では使わずにこの披露会まで隠していたとは、粋なことをするじゃないか」


「ええ。あなたもびっくりしましたか? ワンダ」


「ああ。だが、お前がどんな魔法を使おうとも勝つのは僕だ。負けるつもりは……ない」


 ふぅ、と息を吐いたケセラが胸のあたりを服の上から握りしめる。

 そして先にステージへ上がると、ミラディンガもそれに続く。もう魔力も回復したのか、足取りもしっかりしたものに変わっていた。


 そんな二人の背中に「あ、待って!」と手を伸ばすフェイルさんであったが、「いやこれはこれでありか……?」と独り言にしては大きな声で思案していた。


 そしてにっこりと笑みを浮かべた後、自ら決闘の見届け人に名乗りを上げる。

 あの人のことだ、どうせミラディンガの魔法をもっと近くで見れるから、などと考えていそうだ。


「しかしケセラくん、また決闘とはな……何がしたいんだあいつは」


 まぁ十中八九ミラディンガの退学をかけた決闘だろう。

 披露会で力を見せたミラディンガが退学する可能性はないに等しい。だからこそ強引な手段をとってきたのだろうが……そもそも、そこまでしてミラディンガを退学させたい理由は何なのか。これがわからない。


「(……ま、例え決闘を仕掛けたところで、うちの弟子には敵うまい。『断裂』で判定勝ちよ)」


「トーリ……ボク、動けない……見たいのに……」


「おっと、やりすぎたか。ごめんな」


 既に大人しくなり、俺に羽交い絞めされながらブラブラと足を揺らしているマリーンを下ろすと、これから始まる決闘が見やすいようにと二人で揃って席を移動する。

 今の席ではミラディンガの真後ろになるため、審査員席と同じく彼らを横から観戦したい。


 その間、フェイルさん以外の教師と他の生徒達は眼下のステージから退場して観客席へとやってくると、皆が思い思いに歓声を上げて眼下の二人を応援し始めた。


 ……いや、聞いている限りではケセラの応援ばかりか? ミラディンガを応援している声はなさそうだ。


「ミラディンガー! 頑張れよー!」


 他の生徒にも負けないように、ステージ上のミラディンガに向かって声を張り上げると、その声が聞こえたのかこちらをチラとみたミラディンガが笑ってみせた。

 どうやら、ケセラとの決闘であっても緊張はしていないらしい。流石我が弟子。


「……むぅ」


「……何で不機嫌?」


「トーリ、ボクの応援したことない」


「応援する場面、今まであったか?」


「……」


「あ、ちょ、叩くな叩くな。杖は痛いだろ」


 木製の杖で脇腹をゴスゴス殴られるのは流石に痛い。

 抗議の目を向けるのだが、それを無視したまま二人の様子を見守っているマリーン。言っても無駄かと、俺もマリーンに倣って二人の方を見る。


「では始めようか、ミラディンガ。お前がどれだけ強力な魔法を覚えたとしても、どれだけの努力があったとしても、僕は必ずこの決闘に勝つ。絶対にだ」


 対峙するミラディンガに向けてワンダが宣言するように言い切ると、その言葉で観客席の生徒達がますます盛り上がった。


「……何故そこまでするのか、最後まで言ってはくれないんですね」


「……ああ」


「なら、勝って聞き出します。昔のように、泣いても知りませんよ!」


「っ……! いつまでも、昔の弱い僕だと思わないことだ……!!」


 ケセラがワンドを構え、ミラディンガいつでも動けるようにと腰を落として木剣を構えた。

 そして両者の準備が整ったことを確認したフェイルさんが頷き、それでは、と手を振り上げる。


「これより、ワンダ・ケセラとティラ・ミラディンガの決闘を始める! 両者構えて……始め!」


 手が振り下ろされると同時に、ケセラは以前のように数本の水の槍を展開し、ミラディンガはそれを迎え撃つために『分隔』の壁を前方に展開して見せる。


 それを見たフェイルさんとマリーンが興奮して身を乗り出し、俺はマリーンを観客席から落ちないように押し留めながら出だしは良いと内心でミラディンガを褒めていた。


 だがその直後


 演習場の天井に設置された『写し身の聖杯』から黒い光が爆ぜるのだった。


「ふふふ……さぁケセラくん。約束通り勝ちに行きましょうか」


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