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【WEB版】転生した空間魔法使いは正体隠して目立ちたい!~それ俺ですとは言いません~  作者: 岳鳥翁
第3章:魔法学校の雇われ教師

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第74話:後方腕組みするつもり

 『纏い』の講義を終えて実技場を出たティラは次の講義の教室へと向かっていた。

 いつもより速足になっているように感じるのは、すぐにでも実技場……もっと言えばトーリから離れようとしているからだろうか。


「(……久しぶりに聞いたなぁ)」


 己の内情を打ち明けたことに対して自分のことながら驚きを隠せないティラは、何となくその理由についても見当がついていた。

 速足になっていた足を止めて立ち止まる。


「才能がある、かぁ……」


 ポツリ、と呟いたその言葉は人気のない廊下に良く響いた。

 そして自然と彼女の口角が上がる。


 言動はともかく昔から物覚えがよく何でもすぐに理解できるほどの才媛だった彼女は、それと同時に魔法の才能も併せ持っていた。


 貴族だからと言って必ずしも得られるとは限らない魔法の力。それを持って生まれた彼女に「これならミラディンガ家初の宮廷魔法使いも夢ではない!」と両親が期待するのも当然のことだった。


 12歳~15歳にかけて、魔法使いは一番成長すると言われている。幼いティラが少量の土を操作する程度の魔法であっても、彼女ほどの天才であればすぐに頭角を現すはず。


 そう両親から期待されていたティラは、やがて自身もその宮廷魔法使いに憧れるようになる。


 きっかけは幼少期。

 幼馴染の少年と二人でこっそりと森へと出かけた時のことだった。


 ちょっとした冒険のつもりで入ったその森は、浅瀬であれば魔物の出ない安全なはずの森だった。

 しかしその時は運悪くゴブリンと遭遇し、幼馴染を庇って怪我を負った彼女は、その後近くを通りかかったという宮廷魔法使いに助けられた。


 その姿が、今でも忘れられない。


 以来、自身も必ず宮廷魔法使いになって誰かを助けるんだと、そう希望を胸にティラ・ミラディンガは魔法学校へと入学した。


 最初は良かった。


 筆記では常に満点。魔法の力こそ下位ではあるが、教師の教えを受けて成長すればすぐにでも上位に食い込むだろうと、きっと将来は素晴らしい宮廷魔法使いになれるだろうと教師陣にも評価されていた。


 しかしそんな周囲の期待に反して、彼女の魔法は成長しなかった。


 筆記を重要視される一年生はまだ何とかなっていた。

 だが実践的な魔法の実技講義が重要視される二年生から、彼女に対する周囲の評価が変わり始めた。


 周りがどんどん魔法使いとして成長していく中、彼女だけが取り残されることになったのだ。


 そして三年時になっても変わらぬ彼女に対して、教師たちは言う。


 『彼女には、魔法の才能だけがなかった』と。


 帰省した際、あれだけの期待を向けてくれていた両親は言う。


 『そうか、残念だな』と。


 たったの二年で一変した周囲の目。

 誰も自分に期待していない、そんな目。


 努力していないわけではない。

 むしろその逆、彼女は誰よりも努力した。


 唯一誇れる筆記では、毎回満点を取れるほど勉強した。

 皆から一歩も二歩も百歩も劣る魔法は、放課後寮に帰らず時間限界まで一人で特訓した。


 遊ぶ余裕もなく、寝る間も惜しんで、必死になって。


 けれども、努力は実らなかった。


 彼らの目は変わらなかった。

 そしてその目はこうも告げるのだ。

 『きっと彼女は、この娘は、退学になるのだろう』と。


 自身が魔法使いとして有益であることを示せなければ、待っている未来は退学の二文字。

 もちろん、退学になったからと言ってすべてが無駄になるわけではない。過去退学になった生徒は、魔法を生かしてそれなりの職に就いている者も多い。中には卒業生には実力で劣るものの、冒険者になる者もいる。


 だが、ティラ・ミラディンガがなりたいのは宮廷魔法使いなのだ。

 

 国のために堂々と魔法を操り民を守る、そんな憧れた魔法使い。

 あの日、守りたい人を助けてくれた魔法使い(ヒーロー)になりたい。


 だからこそ今迄足掻いてきた。


 魔法の力が一番伸びるのは12歳~15歳。もしかしたら、あと半年で伸びるかもしれない。


 時間さえ確保すれば可能性はある。

 そのためには、まず一か月後の披露会を乗り切らなければならない。


「そのためには、披露会までになんとか奥の手を……」


「随分とご機嫌なようだが……無駄だ。諦めた方がいいぞ、ミラディンガ」


「っ!?」


 よし、と意気込んで両手を握りしめたティラだったが、そんな彼女の言葉に否定の言葉を返す者がいた。

 ティラが振り返ると、階段の影から男子生徒が現れる。


「……何の用ですか、ケセラ。嫌味でも言いに来ましたか?」


「移動の途中でたまたま聞こえたからな。無謀なことに時間を割くなら、諦めた方が身のためだと事実を言ったまでのことだ」


「ご親切にどうも。学校で最強のあなたが言うことは違いますね」


「実技はな。筆記は次席だ」


 フンッ、と不満げな様子のケセラと呼ばれた男子生徒。

 名はワンダ・ケセラ。現在の魔法学校において、その魔法の腕はトップだと噂される生徒であった。


「それで? わざわざそんなことを言うために呼び止めたんですか?」


「ただの親切心だ。何度でも言おう。いくら筆記が良くても、魔法使い……とりわけ宮廷魔法使いに求められるのは魔法の実力。今のお前では無謀なことは明白だろう」


「……まだ、そうだと決まったわけじゃありません。卒業さえできれば宮廷魔法使いになれる可能性は残ります。それにもしかしたら、あと半年で成長する可能性だってあるんです」


「確かに、可能性がないわけじゃない。過去には三年時に急激に伸びたという例もあるからな。だが、それでも二年までの間に多少の成長は見られていたと聞く。対して、お前は成長したのか?」


「……前例がないだけです」


「かもしれん。だが一か月後の披露会で奥の手の一つでも見せられなければ、どちらにせよ退学だ。お前の魔法ではそれも難しいことはわかっているだろう? 披露会で恥をかく前に、自主退学することを勧めておく。お前ほどの魔道具制作の腕があれば、それだけでやっていけるはずだ」


 それだけだ、と彼女を追い越して先へ行くワンダ。

 しかし、そんな彼の背に向けてティラは「それでも……!」と言葉を投げかける。


 ピタリ、とワンダの足が止まった。


「私、まだ諦めたわけじゃありませんから」


「……だろうな。お前の諦めの悪さは、よく理解している」


 そう言って再び歩を進めるワンダ。

 その背中を睨みつけるように見送ったティラは、首を振ってよしっ、と気合を入れると次の講義の教室へと急ぐのだった。





「フェイルさんに相談する……? いや無理だ。そんなことすれば、何で俺が空間の属性について知っているのかと言う話になる。知り合いが……なんて誤魔化しが効く相手でもない」


 そんなことすれば、どこの誰なのかと言う追及が始まってしまう。

 そしてその末に嘘がバレて、結果的に俺が怪しまれる未来しかねぇ……!!


 一足早く拠点の部屋に戻った俺は、ソファに寝転がりながらどうするか考える。


 もちろんミラディンガの空間属性についての話だ。


「全部見なかったことにもできる。今まで通り、俺は一か月依頼のことだけに集中すればそれでもいいんだ。それでいい。いい、んだけど……」


 ――『私は落ちこぼれなんです』


 ――『二年半、頑張ってこれでした』


「……無視するのも、できないんだよなぁ」


 六日間。それも講義の間でしか関わりのない相手ではあるが、それでも彼女が努力家で真面目な生徒であることはわかっているつもりだ。

 でなければ、本来魔法使いが覚えるものではない『纏い』を単位のためとはいえあれだけ真剣に習得しようとは思わないはずだ。


「宮廷魔法使いに憧れて、か……」


 趣味のために魔法使いであることを偽っているのが申し訳なくなってくる。


 魔法を使いたくても、うまく使うことができずに夢を断念されそうになっている子供と、趣味のために魔法が使えるのにそれを偽る剣士。

 なるほど、並べてみれば後者はなんてひどい字面だろうか。涙が出るね、やめないけど。


 なら、話は早い。

 夢を断念させなければいい。叶えてしまえばいい。


 それに、だ。


「目の前で夢を実現させようって頑張ってる子供の手助けを、できるのにやらないってのは違うよな……」


 勢いをつけてソファから起き上がる。

 動く理由も目的もできたんだ。これでやめますなんてカッコ悪いことは言えないぞ。


「ふぅーっ……予定にはなかったが、大丈夫だ。魔法使い()ならできる」


 剣士()が動くのは絶対にNOだ。空間魔法を扱う以上、魔法使い()として動く必要がある。

 そしてそれは、あまり公にならないようにこっそりと動かなければならない。


 ……仕方ない。たった一人の生徒のために、今回は生徒を立てて縁の下で動こうじゃないか。


「そうと決まれば、さっそく計画を……」


「ただいま、トーリ。えっと確か……ごはん? お風呂? それとも……えっと……あ、ボク?」


「……一応聞くがマリーン。それは誰に教えてもらった?」


「ん。先生が、トーリが喜ぶって言ってた。……怒ってる?」


「大丈夫だ、怒ってないとも。それより俺はちょっとフェイルさんに用ができたから、先に休んでいてくれ」


「わかった」


 マリーンと入れ替わるように拠点を飛び出した俺は、全速力で研究室へと駆けた。

 先に話を付けなければならない奴がいるため、計画はその後考えることにしよう。

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