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【WEB版】転生した空間魔法使いは正体隠して目立ちたい!~それ俺ですとは言いません~  作者: 岳鳥翁
第3章:魔法学校の雇われ教師

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第71話:トーリの初講義

「俺もマリーンの授業、ちょっとでもいいから見てみたかったんだがなぁ……」


 はぁ、とため息を吐いて天井を仰ぐと、天井までかなり距離があることがわかる。流石魔法の実技講義で使用される魔法実技場だ。


 今はどこかの教室で、マリーンが教鞭をとっている頃だろう。


 どんな授業なのか様子とかいろいろ見てみたかったのだが、俺が担当する『纏い』の習得および実践の講義がマリーンの講義のすぐあとのコマになるということで、見ることができなかった。


 まぁ一か月もあるのだ。どこかで機会は巡ってくるだろうと、諦めて講義の準備をしていたが……事前に準備するのは木剣とフェイルさんから貸し出してもらった本くらいなもの。


 意外にも早く済んでしまったため、暇を持て余している真っ最中だ。


「……『纏い』の練習でもしておくかぁ」


 講義として改めて誰かに教えるとなると、色々と自分の中で確認しておかなければならないこともある。というか、何となく知っているでは教える物も教えられないだろう。


「どうやって教えるかなぁ……っと、もう終わりか」


 『纏い』を使って体と木剣の強化を行い、魔力の浸透のさせ方や強化方法などを確認していく。

 すると、それだけで時間が経っていたのか講義終了を告げる鐘が学校中に響き渡った。


「時間か……はてさて、俺の講義にはどれくらいの生徒が来るのか……ちょっと楽しみだ」


 フェイルさん曰く、希望者は少ないとのことだし木剣も20くらいあれば足りるだろう。

 異世界で教師の真似事なんて不安も多少はあるが、それ以上に興味や楽しみと言った部分が大きいことも事実。


 フンフンフーン、と鼻歌を歌いながら剣を振るっていると実技場の入り口から一人の女子生徒が入ってきた。

 どうやら一番乗りの生徒らしく、俺の姿を見つけるとそのまま壁際に座って何かの本を読み始める。


 なるほど、興味もなさそうな様子からしてあまりコミュニケーションを取ろうとするタイプではないらしい。なら俺もそれに応えて、講義までは不干渉でいようじゃないか。

 話しかけられるのは好きじゃない、というか話しかけないでくださいってオーラがすごいんだもの。


 さて他にも生徒は来るかなぁ、とそのまま木剣を素振りしながら入り口の観察を続ける。

 時折入り口の前を幾人かの生徒が横切っていくのだが、他の教室への移動らしく実技場へと入ってくる様子は見られない。


 そしてそのまま、特に他の生徒が入ってくることはなく……ついには始業の鐘が学校中に響き渡るのだった。


 ……

 …………

 ………………あれ?

 

「どうしたんですか、始めてください」


 いつまで経っても来ない他の生徒達に首を傾げていると、いつの間にそこにいたのか、先ほどまで壁際で本を読んでいた生徒が立っていた。


「……えっと、ごめんな? 一つだけ聞きたいんだけど、この講義を受けるのは君だけ、ということになるのか……?」


「フェイル先生からは、この講義を受けているのは私だけだと聞いています」


「……そ、そうか」


「はい。なので、早く始めてください。時間が無駄になりますから」


「……だいぶと急かすな、君。まぁいいんだけど」


 とりあえず、これが終わったらフェイルさんに一言くらい文句を言ってやろう。うん、そうしよう。希望者一人って言えよ。


「まずは名前を教えてくれ。俺はトーリ。この講義のためにフェイル先生に雇われたボーリスの冒険者だ。一か月だけだが、よろしく頼む」


「三年のティラ・ミラディンガといいます」


 それだけいって礼をするミラディンガに、俺は「よろしく」と短く言葉を返した。

 さっき実技場に入ってきたときの様子や今も最低限で挨拶を済ませるあたり、やはり人と積極的に関わろうとしないタイプなんだろう。


 俺と同じく黒髪の長髪は後ろで一つにまとめられており、琥珀のような目はきりっとした目元も相まってクールな一匹狼のようにも見える。


「にしても、一人とはねぇ。俺も『纏い』を覚えるなら普通に魔法を伸ばすって知り合いの魔法使いから聞いているが、やっぱりそういう考えの生徒が多いのか?」


「……そうですね。私くらいでしょう、こんな講義を受ける落ちこぼれは」


「落ちこぼれ?」


 ミラディンガは「ええ」と頷くと自嘲気味に笑って続ける。


「普通に魔法が使える生徒なら、まずこんな講義受けませんよ」


「こ、こんな……そうなのか。まぁ事情は置いておいて、この講義での単位取得条件から言っておこう」


 何やら重そうな事情を持っているように思われるため、とりあえず話を切り上げる。

 そして用意していた木剣の一つをミラディンガに手渡すと、「あれを見てくれ」と実技場の端に用意したものを指さした。


「あれは……丸太?」


「そう、丸太」


 フェイルさんに頼んで魔法で用意してもらった丸太である。

 俺が手を回して手がつくくらいの太さだ。


 実技場の端っこに直立している光景は、生徒としてこの場を知っている彼女にとっては見慣れないものだろう。


「あれを、この木剣を使って一撃で折る。それが単位取得条件だ」


「……はい?」


「ちなみにフェイルさんからもこの条件ならあげていいと言われてるから、変更はない」


 自分の手に持っている木剣を丸太を見て、何言ってんだこいつ、と言いたげな目を向けて来るミラディンガ。

 いきなりそんなこと言われれば、そんな反応するわと肩を竦めた俺は、木剣片手に丸太の傍に立った。


「とりあえず見本を見せようか」


 ミラディンガの方を見てから視線を目の前の丸太に向ける。


 そして集中。

 まずは体。心臓が全身へ血液を送るように、魔力も心臓を起点として全身に送り出すイメージを。

 送り出された魔力は手足の指の先端までしっかりと浸透させ、そこから手にした木剣にも魔力を通して内部構造の強化に入った。


 構える


「ハァッ!!」


 柄を握りしめ、大きく身を捻りながら大上段に構えた木剣を振り下ろす。

 丸太を袈裟切りにする形で振るわれた木剣は、普通であれば丸太を傷つけるられるかどうか。そして俺自身の力が強くとも先に折れるのは丸太ではなく木剣の方だ。


 だが『纏い』によって強化された体と木剣は、そんな常識を覆して丸太を破壊しながら突き進む。

 そして俺が木剣を振り切った時には、折れた丸太が地に落ちる音が実技場に轟くのだった。


「……っと、これができれば単位獲得だな」


「無理では?」


 割と真面目な顔で即答されてしまった。


「無理じゃない。魔力があって十分に時間をかければ、『纏い』を使ってこれくらいはできる」


 確かに集中する時間と、全身と武器に魔力を通す明確なイメージは必要になるが、そこさえクリアできるならヴィーヴルヴァイゼンにもできるはずだ。

 それにこれは講義。『纏い』を実戦で使用するならともかく、そこまでのレベルは求められていない。


 あくまでも、丸太が破壊できればOKなのである。


 ちなみに余談ではあるが、アイシャさんレベルで『纏い』と剣術の技術が高いと破壊ではなく木剣での切断も可能だったりする。

 

「さて、それじゃあミラディンガ。目指すべき目標が分かったところで、だ」


「っ……も、問題ありません。貴重な実技の単位のため、どんなしごきにだって私は耐えてみせます……!」


 木剣片手に振り返った俺を見て、一瞬だが怖気づいてしまうミラディンガ。

 しかし彼女は、その怯えを振り払うように一歩前へと踏み出すと意志の籠った目で真っ直ぐに俺を見据えた。


 やる気があって実に結構、と俺はその様子に満足しながら木剣と一緒に準備していた本を手に取った。


「その意気やよし。なら最初はこれだな」


 ババンッ! と俺がミラディンガに向けてそれを見せる。


「医学書……?」


「そう。『纏い』を使うなら、まずは自分の体のことを理解しなくちゃ始まらない。というわけで、記念するべき第一回目はお勉強の時間だ」


 そう言えば、先ほどまで何が来ても耐えてやる! という気合の入っていたミラディンガの顔が呆気にとられたそれに早変わりするのだった。

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