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【WEB版】転生した空間魔法使いは正体隠して目立ちたい!~それ俺ですとは言いません~  作者: 岳鳥翁
第3章:魔法学校の雇われ教師

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第63話:木彫りと張り合う魔女

 スウォームクローの討伐と森の深部での新魔法の試し撃ちを終えてボーリスへと戻った俺は、エリーゼさんに依頼達成の報告と討伐証明部位を提出してから『白亜の剣』のハウスへと向かった。


 一体どんな話があるのかと依頼中にもいろいろと考えてはみたのだが、これが全く見当がつかない。


 彼女らと俺の共通点と言えば冒険者であることぐらいであるため、何かの依頼だろうか。

 しかし、星3つの冒険者でしかない俺が彼女らの依頼に関わるようなことはないだろう。


 となると、先日の王都での一件に関わる話だろうか。


 ただ『白亜の剣』の中でも共に行動したのはマリーンとウィーネくらいで、あとはヴィーヴルヴァイゼン(アホ)アデルハイト(アホ)とハインツの三人が主だった。


「(正体バレ……は、流石に違うだろう)」


 俺にとって一番嫌な展開を想像したが、それはないと首を振る。

 仮にそうだとすれば、『白亜の剣』が……特にアイシャさんがあんなに落ち着いているはずがない。


 きっとあの場で腕を掴まれて連行されている。


 それに王都から帰って来て暫く経っているんだ。それまでの間に何のアプローチもないことを考えれば、万が一にも正体バレの可能性はないはずだ。


 だがそうなると、本格的に俺に対する用と言う物が思いつかないわけだが……


「……まぁ、いけばわかるか」


 とりあえず、一番の懸念点でもある俺の正体については心配することはないのだ。


 どんな話になるのかと今から緊張していては疲れるだけ。ここはひとつ、サランさんが作成したという魔物の木彫りでも見てから彼女らの元に向かうことにしよう。


 一度宿に戻って軽鎧を外して『拡張』した背負い袋にそれらをしまうと、灰色のローブだけ羽織ってアイシャさんから教えられていた店に向かった。


 店頭にいた女性店員に魔物の木彫りについて聞いてみると、こちらです、と店の奥にある棚まで案内される。


 2メートル程の高さの棚。幅は俺が片腕を拡げたくらいだろうか。

 その棚の中には、アイシャさんの言っていた魔物の木彫りの他にも、武器や小物を模した木彫りなどがいくつも並べられていた。


「この棚に置いてある木彫りが『獣狩り』のサラン様の作品になります」


「え、この棚の奴全部ですか?」


「はい。サラン様とは専属の契約を結ばせていただいております。売っていただける木彫りができ次第、この店に卸していただいているんですよ」


 へぇ、と改めて棚の木彫りに目を向けていると、店員さんがその中の一つを手に取った。


「こちらはサラン様にお売りいただけた最新作ですね。どうですか? 王都で出たという悪魔らしいのですが、木彫りでも伝わるこの恐ろしさ。まるで本当に『勇者物語』の悪魔が飛び出してきたかのような不気味さでしょう?」


「……そうですね」


 見たことのある悪魔を象った木彫りを手にして、少々語り口調が速くなった女性店員。

 そんな彼女の言葉に相槌を打ちながら、俺はその他の木彫りも見て回る。


 最終的に、「これめちゃくちゃかっこいいのでは!?」と妙に躍動感のあるワイバーンの木彫りを衝動買いしホクホク顔で店を出るのだった。


 さて


「まじで、金が、ねぇ……!」


 壊れないようにと布を敷き詰めた木箱に入った木彫り。

 金がないというのに、なぜこんなアホな買い物をしているのだろうか。


 腕に抱えた木箱の重みを感じながら、とりあえず『白亜の剣』のハウスに向かうかと中央広場の方へと歩を進めるのだった。







「お待ちしておりました。アイシャ様たちがお待ちですので、こちらへ」


「あ、どうも……」


 中央広場から少し離れたいつもの白亜の家に赴くと、以前にも見たメイドさんが門の前に待機していた。

 一瞬その姿を見て足を止めた俺だったのだが、俺の姿を見るや否やいつの間にか目の前にメイドさんが立っていたのだ。


 な、何を言ってるのかわからないと思うが、俺も何をされたのかわからなかったぜ……俺の頭がおかしくなったのかと思ってしまった。


「メイドの嗜みでございます」


「そんなもの嗜みにしちゃ駄目だと思うんですが」


「恐縮です」


「褒めてないです」


 そのままメイドさんに促されるままにハウスに入り、アイシャさん達が待つという応接間まで案内される。


 思えば庭には来たことはあったが、中に入ったことはなかったなと案内中家の中に目を向けた。


 五人……いやメイドさん入れて六人で住むにはかなり広く感じる石造りの二階建て。


 通りがかりにチラと見たが、一階には食事のスペースがあるようだ。後は階段を上らないのを見るに応接間も一階なのだろう。


 となると、共有スペースが一階で個人の部屋が二階になっているのだろうか。


「こちらが応接間です。よろしければ、お荷物はこちらでお預かりいたしましょうか?」


「そうですね……お願いします」


 ワイバーンの木彫りが入った木箱を受け取ったメイドさんが頭を下げてその場を去っていく。

 応接間の扉の前に残された俺は、とりあえず服装大丈夫だよな? と妙な緊張感とともに自分の姿を見下ろしてから扉をノックした。


 すると中から「開いてますわよ」とアイシャさんの声が聞こえたため、そのまま中へと入る。


「待っていましたわよ、トーリさん。ようこそ『白亜の剣』のハウスへ」


「……前にも来ましたけどね」


「ふふ、以前は庭だったでしょう? 男性の冒険者で中まで入ったのは、あなたが初めてですわ。もっと喜んでもよろしくてよ?」


 扉を開けてすぐの正面に座っていたアイシャさんがクスクスと笑う。

 以前にも見た、緩く髪を縛ったラフな姿だ。唯一異なるのは腰に剣を携えていないことだろう。


 そしてそのまま周りに目を向ける。

 俺から見て左手のソファーには、いつもの魔法使いの姿はどこへやら。部屋着らしいラフな格好をしたマリーンがせっせとお菓子を食べていた。


 髪色にあった、青い服。袖や裾の丈が短いため、いつもよりも肌の露出が目立っている。


「グルルルルルルルルル……!」


 そしてそんなマリーンの隣で俺を威嚇しているウィーネ(ワンコ)


 いったい今度はどんな理由で敵視しているのかと内心で溜息を吐きたくなるが、たぶん今回の話に関わることなんだろうなぁと当たりをつける。

 そしてアイシャさんに促されて右手のソファーに腰を据えると、「そういえば」とアイシャさんが口を開いた。


「サランの木彫りは見に行きましたの?」


「ああ、見たぞ。あれは見事なものだった。ちょうどここに来る前、金がないのに思わず一つ購入したぐらいだからな」


「あら……ふふ、後でサランにも伝えておきますわ。きっと喜ぶでしょうから」


「是非頼む。今にも動き出しそうなほどの出来だったし、懐に余裕があればまた買わせてもらうよ」


 個人的には今日討伐したスウォームクローのような獣型の魔物の木彫りを取り揃えたいくらいだ。できるなら色を付けてくれる職人がいればあの木彫りももっと良くなると思うのだが、流石にそう簡単にはいかないだろう。


 そんな風に少しだけ熱く木彫りの出来についてアイシャさんに語っていた俺であったが、不意に視線を感じて正面に目を向けた。


「……」


「……どうした、マリーン」


 先ほどまでせっせとテーブルのお菓子に伸ばしていた手がピタリと止まっていたマリーン。

 そんな彼女の目がジィッと俺に向けられていた。


「トーリ」


「お、おう、どうした」


「ボク、魔法の本、出してる」


「お、それはすごいじゃないか。やっぱマリーンくらいの魔法使いになると、そういうのを出すのか」


「……えへん」


 ムフーッ、と得意げな様子(当社比)のマリーン。

 まぁ彼女は珍しい三属性が使える魔法使い。おまけに魔法学校をトップで卒業し、宮廷魔法使いにも負けない程の実力者だ。


 そういった魔法についての書籍を出していても、何らおかしいことではないだろう。


 俺の持つ『サルでもわかる楽しい空間魔法』と似たような本なのだろうか。少し気になるところではある。


「トーリ、買う」


「いや、俺が買ってもあまり意味がないだろ。魔法の出力はカスだし」


「…………」


 一応表ではそう言うことになっているため買っても仕方がないことを伝えれば、少し左右に揺れたマリーンがパタリとソファーに背中を預けるように倒れてしまった。


「ちょ、師匠!? あなた! な、何てこと言うんですか!」


「え、俺が悪いのか……?」


 いつものジト目を、いつも以上にヌボーっとさせているマリーンの肩を揺するウィーネに何故か文句を言われてしまう。


 助けを求めてチラとアイシャさんに目を向けたのだが、彼女は彼女でそんなマリーンの様子を見て口元を抑えて笑みを浮かべていた。


「ん。ちょっとだけ待ってて」


 どうしようかと思っていると、倒れ込んでいたマリーンが起き上がり、そう一言告げて応接間から出て行ってしまった。

 急にどうしたのかと思っていると、少ししてから一冊の立派な本を抱えたマリーンが戻ってくる。


「ん。ボクの本」


「お、おう……随分とすごそうな本だな……」


 タイトルは『先天的な属性と後天的に属性を獲得する可能性について』というもの。また随分と難しそうな本だ。


「あげる」


「……え? いや、悪いって。こんな高そうなもの」


「ん。ボクのサイン入り」


「そう言う話じゃないっての」


「あなた! 師匠のサイン入り著書が受け取れないって言うの!?」


「絡むな話がややこしくなるから」


 悪いから、と差し出してくる本を押し返そうとするのだが、なかなかどうしてマリーンが引いてくれない。

 どころか、ちょっと自棄になってないかこいつ。「ん」と差し出してくる圧が先ほどよりも増しているように感じる。


「トーリさん。マリーンがいいと言ってるんですのよ? ありがたく受け取ってあげてくださいまし」


「いや、そうは言ってもだな……」


「ボクは、読んでほしい」


 俺の隣にポスン、と腰を下ろしたマリーンが俺を見上げる。

 その目と視線が重なり、きれいな青い目が真っ直ぐに俺を見据えていた。


「……まぁそこまで言うのなら、ありがたくもらっておくけど」


「んっ」


 仕方なしそう言って差し出された本を受け取った。

 少しだけ口角が上がったように見えたマリーンは、隣で小さく揺れながらその場に居座った。


 向かい側に座るウィーネの顔が「え?」と目を見開いていた。


「っと、そうだ。そういえば、俺に話があってここに呼んだんだよな? いったい何の用なんだ?」


 いろいろとあって忘れていたが、もともとの用件を思い出した俺がアイシャさんに尋ねる。

 するとアイシャさんも「そうでしたわね」とマリーンに目配せする。


「これ」


「ん?」


 隣に座っていたマリーンに肩を突かれて振り向けば、一枚の封書を差し出された。

 受け取って表を見てみれば、『ボーリス トーリ殿』と言う文字。


 どうやら俺当ての手紙らしいが……ボーリス以外での知り合いなんて王都の二人くらいなものだ。

 だがその場合『白亜の剣』経由で渡される意味が分からない。となると、別の誰かか?


「それはトーリさん宛の指名依頼ですわ」


「指名、依頼……?」


「ん。ボクと同じ」


 指名依頼……確か依頼主が依頼を受注する冒険者を指名する特別な依頼だったはず。

 星5つや6つの冒険者に出されるのが一般的であったはずだが、そんなものがどうして俺に来るのだろうか。


 疑問を胸に抱きながら、とりあえずマリーンが持つ手紙と同じ封書からその中身を取り出して読んでみる。


「魔法学校からの、指名依頼……?」


 そして俺の疑問はますます大きなものになったのだった。

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