第62話:『悪魔狩る輝炎の灯』解散!!
ついこの間まで王都にいた俺であるが、あの一件で臨時収入があったおかげで、ボーリスに帰ってからもある程度ゆっくり過ごすことができた。
ここ最近はよくリップちゃんと街をぶらぶらしたり、そろそろ武器を変えてみようかと検討してみたり、ヴィーヴルヴァイゼンの与太話をBGMにギルドで食事をしたり。
だが残念なことに、金は使えばなくなってしまうのが世の理。
少々懐が寂しくなってきたところで、俺は手ごろな依頼を受注するため再びギルドへと訪れていた。
「というわけで、エリーゼさん。何かちょうどいい依頼とかありませんか? ついこの間まで村への遠征依頼ばかりだったので、『帰らずの森』での討伐依頼だと嬉しいんですが」
「そうですねぇ……それなら、あの依頼なんてどうでしょうか」
「ちょっと待っててくださいね」と一度受付から出たエリーゼさんは、掲示板から一枚の依頼書を手にして戻ってくる。
「お待たせしました。こちらですね」
「これは……オーガの調査依頼、ですか?」
「はい。最近、『帰らずの森』の中層部でも見かけるようになったと報告が上がっていまして……」
エリーゼさんから手渡されたのはオーガに関する依頼であった。
確かオーガは『帰らずの森』の深部に生息している魔物だったはず。
二足歩行の人型をした魔物であるが、その体躯はオークと同じく2メートル以上が基本。しかし見た目は全く異なっておりオークが太った豚だとすれば、オーガは筋骨隆々のまさに鬼と言ってもいいだろう。
鈍重で力が強いのがオークであれば、速度もあって力がそれ以上のオーガ。脅威度については比べ物にならない。
そのため、このオーガの討伐には最低でも星4つが妥当だとされている。
「あの、エリーゼさん? これ、本当にちょうどいいやつです……?」
「はい! まだお二人とも星3つですが、その中でも突出する実力の持ち主だと思います! それにもし接敵してもお二人なら問題はないでしょうし、討伐したら星4つへの昇格は確実ですよ!」
両手の拳を握りしめて興奮気味に語るエリーゼさんは、何を言われているのかよくわかっていない俺を差し置いてそのまま話を続ける。
「そうなれば半年も経たずに星4つですよ! トーリさんはまさにここボーリスの超新星なんです! こんな一気に上がるなんてマリーンさん以来のことで――」
「ちょ、ちょっと待ってください! いや、色々と言いたいことはあるんですけどまずは一つ! 二人って? あの、俺はソロだったはずですけど……」
エリーゼさんにストップをかけた俺は、まずはその二人と言う部分について疑問を投げかけた。
いや、心当たりが全くないどころかむしろ心当たりしかないのだが、それでも確認することは大事だろう。
すると俺の言葉に「あれ?」と首を傾げたエリーゼさんは、受付の下から紙の束のようなものを取り出すとそれを捲って何かの確認をし始める。
そしてどこかのページで捲るのを辞めると、そのページを俺に見せるように差し出してきた。
「つい先日ですが、ヴィーヴルヴァイゼンさんからお二人のパーティ申請が来ていましたよ? 最近よくお二人でいらっしゃいましたし、王都でもご活躍だったと聞いています。ソロだったトーリさんがついにパーティを組んだのかと、ギルドも受理したのですが……」
ほらここに、とエリーゼさんが指さした部分。
そこに書かれていたのは、俺とヴィーヴルヴァイゼンの名前。そしてその上に書かれた『悪魔狩る輝炎の灯』という、恐らくパーティ名であろう体がかゆくなりそうな名前が書き記されていた。
「ヴィーヴルヴァイゼェェェェェェェェン!!!!」
「おや、呼んだかなトーリ。そんなに叫ばなくても、君の良き相棒はここにいるとも」
思わず振り向いて叫べば、併設された酒場の方で王都での武勇伝(誇張)を他の冒険者たちに語り聞かせていたヴィーヴルヴァイゼンがやってくる。
そんなアホに、俺はエリーゼさんが見せてくれた紙の束を突きつけた。
「このパーティ申請、どういうことか聞いてもいいよなぁ……! 俺は一言も、良しと言った覚えはないんだがよぉ……!」
「ああ、それか。ふふん、この僕の親切心さ! 君のことだから、この僕とパーティが組めるとわかっても恥ずかしがるかと思ってね。なに、同じく王都での危機を乗り越えた仲じゃないか。悪魔をも燃やし尽くしたこの『輝炎』ヴィーヴルヴァイゼンと、剣を取り悪魔と勇敢に戦った君のパーティなら星6つも難しくはないはずだからね! だからこそ、パーティリーダーであるこの僕自らが申請を通して肘が逆方向に曲がろうとぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」
ペラペラ得意げに話しているヴィーヴルヴァイゼンに問答無用で関節技を仕掛ける。
腕十字である。
俺の膝をタップしてくるヴィーヴルヴァイゼンは無視だ無視。
「この野郎勝手にパーティ申請なんかしやがってぇ……! 俺はパーティ組まないって何回も言っただろうがぁ!」
「そ、そこまで嫌がることはないだろ!? あ、ちょっと待てそれ以上はまずいもう曲がらないからぁぁぁぁぁ!?!?」
パーティは解散した。
◇
「ったく……優しくし過ぎたな。今度からもうちょっと強く言わんとだ……」
エリーゼさんからは確認せずに申請を受理したことを謝罪されたが、ギルド側としては基本パーティを組むことを推奨しているのだ。
そこに関しては俺の都合であるため、あまり攻められるところではない。
なおヴィーヴルヴァイゼンに慈悲はない。今もギルドの隅で白目を剥いて転がっているだろう。
ともかく、これで俺はソロに戻ったわけだ。
流石にソロにオーガの調査依頼は出せないということで、エリーゼさんにはスウォームクローの討伐依頼を受注した。
久しぶりのソロでの依頼に、心なしか足取りが軽いように感じる。
「(依頼分が終わったら、森の奥で空間魔法で無双でもするかぁ! 『削除』も試したいしな!)」
王都からボーリスへと戻って来て、すでに半月以上経過しているのだ。
その間ただ無為にゆっくりしていたわけではなく、『安らぎ亭』の部屋に籠っては新しい空間魔法を覚えていたのだ。
今日は初めて魔物相手に使えるため、普段よりも足取りが軽い。
すると、東門の方から見知った集団がこちらに向かって歩いて来る。
「あら、トーリさん。これから依頼ですの?」
声をかけてきてくれたのはボーリスを拠点としている『白亜の剣』のリーダー、アイシャさんだった。
王国でも屈指の実力者で構成された『白亜の剣』。そんなパーティをまとめる彼女も星6つと冒険者としては頂点に位置する実力者である。
「ああ、ちょっと懐が寒くなってきたんで。アイシャさん達は今が帰りか?」
「ええ。ワイバーンが出たと聞いて、その討伐に行ってきましたの。これくらいなら、私達には朝飯前ですわ」
ほら、とアイシャさんが後ろを指さした。
見れば、面々のその後ろに5メートルはありそうな巨大な魔物がリリタンさんの曳く荷車に乗せられている。
「ワイバーン……初めて見たな」
ワイバーン
確か討伐するなら星5つ以上複数人が最低ラインだとされている魔物だったはず。
竜種の下位互換のような扱いを受けてはいるが、それでも炎の塊や毒の弾を口から吐き出してきたり、皮膜の張った前腕で飛び回っていることから脅威であることには変わりない。
一説では竜種が竜種以外と交配してできた魔物だと言われているが、真偽は定かではないらしい。
リリタンさんが曳いている荷車に近づいて、そこに乗せられているワイバーンをしげしげと観察すると「すげぇだろ!」と得意げなリリタンさん。どうやらとどめは彼女の槍だったらしい。
あまりこうして近くで見ることもないため結構興味深い。
翼になっている前腕の片方が斬り落とされているのを見るに、戦闘時に空から叩き落とされたのだろうか。
「随分と興味深く見ますのね」
「まぁな。意外だったか?」
「ええ。そんな興味津々になるなんて。トーリさんも意外と子供っぽいところがありますのね」
ふふっ、と笑みを浮かべるアイシャさんに「別にいいだろ」と苦笑を浮かべながら俺も荷車から離れた。
「もし興味があるなら、近くに魔物の木彫りが売っていますわ。そちらも購入してみたらどうですの?」
「へぇ、そんなのがあるのか。初めて聞いたが、また帰りにでも覗いてみるよ」
「ええ、是非。うちのサランが作っていますの。かなり精巧ですので、お勧めしますわ」
ね、と後ろにいたサランさんの方をみたアイシャさん。
いつもどおりフードで顔はよく見えないが、軽く会釈されたのでこちらも返しておく。
しかし、アイシャさんがおすすめする程の魔物の木彫りか……サランさん、かなり手先が器用なのだろうか。
高くなかったらいいけど、と内心でお金の心配をしていると、不意にクイと灰色のローブを引っ張られた。
「師匠!?」という悲鳴を無視して下を見れば、いつもの青いジト目で見上げている魔法使いの少女。
彼女の名はマリーン。
『魔女』という通り名を持つ、アイシャさんに並ぶ星6つの冒険者にして魔法使い。
王国への帰り道で『竜殺しの魔法使い』の魔法について、夜番の際に交代も忘れて語り聞かせてくれた魔法バカでもある。
おかげで次の日は俺だけ不調であった。めちゃくちゃ聞いてて楽しかったけど。
「どうしたマリーン」
「ん。トーリ、今日暇」
「断定するんじゃないよ。せめて疑問形で聞いてくれ、暇人になっちゃうから」
今から依頼があるというのに、何てこと言うんだこの娘は。
「あら、マリーン。あの件ですの?」
「ん」
「あの件……?」
アイシャさんの言葉に、コクリと頷いたマリーン。
対する俺は何の話か分からないため詳しい話を聞きたいのだが、「今は依頼を優先してくださいまし」と言われてしまう。
「いや、気になるんだが?」
「少々込み入った話ですの。用を片付けてからの方がいいですわ」
「……まぁ、それもそうか」
「ええ。依頼が終わったら、是非うちのハウスを訪ねてくださいまし」
ゲェ、と顔を顰めそうになるのを我慢する。
話すだけならギルドでできそうなものだが、わざわざ『白亜の剣』のハウスでするほどの話……面倒事のような気がしてならないのだが、今からキャンセルできないものだろうか。
では、と荷車を曳いて去っていく『白亜の剣』の面々を見送り、俺も息をついてから『帰らずの森』へと向かう。
どうか変な話じゃないように、と祈りながら俺は依頼をこなし、暫くの間は新魔法の試し打ちで心を癒すのだった。




