第54話:俺を残して先に行け作戦
「しゃおらぁ!! こいつで最後ぉっ!!」
「シッ!!」
アデルハイトがオークに蹴りを叩き込み、怯んだところをハインツが後ろから剣を振るって首を斬り飛ばす。
今ので商業区に放たれた魔物は全部だ。『探知』で辺りを探ってみたが、残っている魔物はもういない。
「深紅ローブの奴らはどうだ! 手は空いたぞ!」
「大丈夫だアッくん! 全員兵士が処理している。僕らの出る幕はなさそうだ」
周りを見れば、兵士の人たちに任せていた深紅のローブの集団が何人も斬り伏せられているのが目に入る。
どうやら勇者教の奴らは魔物程強いわけではなかったらしい。
あの時のように爆発することも懸念して兵士の人たちには注意するようには伝えていたが、どうやらそれもなかったようだ。あるいは、爆発する前に斬られたか。
首輪の方も今のところ爆発する様子は見られない。
まぁ、一般市民の避難はできているのだ。今爆破されても、街が壊れるくらいで人的被害はないだろう。
なんにせよ、商業区での騒動はこれで終わったと考えていいはずだ。
「こっからどうする? 他にも被害が出てるってんなら応援に行った方がいいと思うが」
アデルハイトが肩を回しながら俺、ヴィーヴルヴァイゼン、ハインツの三人に問いかける。
その質問に対して、ここだと他二人が何かを言う前に切り出した。
「なら、ここからは二手に分かれた方がいいだろう。アデルハイトとハインツはここから冒険者区の方に向かってくれ。俺と美術館は生産区に向かう。魔物の魔力反応なら、俺が感知できるからな」
「ヴィーヴルヴァイゼンだ。あの魔法の気配は、貴様の物だったか」
「別れるのか? このまま四人で行動した方がいいと思うが……」
「でもトーリくんの言うこともわかるよ。魔物の脅威がこの程度なら二手に分かれた方が効率は良いのは確かだし、僕とアデルハイトはもともと王都所属の冒険者だ。今王都がどうなっているのか、状況確認のためにもギルドに行くのはありだと思う」
ナイスアシストだハインツ! と内心でガッツポーズを決めながら俺はその言葉に頷いた。
実のところ、アデルハイトやヴィーヴルヴァイゼンを説得するのはともかくハインツをどうするかが一番の問題だったのだ。
そのハインツが俺の提案に賛成してくれるというなら、これほどやりやすいことはない。
三人と一人に分かれるのはあからさま過ぎるため二手を提案したが、一緒になるのがヴィーヴルヴァイゼンのみなのであれば今以上に撒きやすい。
それに今の生産区は魔物とは別の何かが蔓延っているため、混乱に乗じて離脱できる可能性は高い。
ヴィーヴルヴァイゼンは向こうにいる兵士か冒険者に任せれば死ぬこともないだろう。
その後は、魔法使いになって『白亜の剣』や偽物の前に姿を現せばいい。
なんなら今の生産区の状況を俺一人が何とかしてしまえば、目立つ&本物の証明で一石二鳥だ。
「ああ、この程度の魔物が相手なら、別れたところでそれほど大きな問題はない。だからこそアデルハイトとハインツはギルドに、俺と美術館は生産区で『白亜の剣』の援護および他市民の避難に向かう」
「ヴィーヴルヴァイゼンだ。だが、わかった。それがいいことは確かなんだろう。ふふふ……この僕が貴様と一緒に行ってやろうじゃないか!」
「よくわからねぇが……俺とハインツはギルドに向かって、道中の魔物を狩ればいいんだな!」
よしわかった! と己の拳を打ち合わせたアデルハイトは、そのままスッとその拳を俺とヴィーヴルヴァイゼンに向けて突き出してきた。
「この騒動が収まったら、また四人で飲みに行こうぜ!」
「……そうだね。なら、また昨日の酒場に行こうか」
「フハハ! その誘い、この僕も乗ろうじゃないか! なぁ、『新人遅れ』! その時は全員で飲み明かそうじゃないか! 今度はこの僕が奢ってやってもいいぞ?」
「……ソ、ソウダネ」
俺以外の三人が己の拳を突き合わせる中、俺は気まずさで震える拳を突き出した。
あの、ほんと、ごめんなさい。
傍から見ればすっごく友情的なものが感じられる感動的なシーンなのに、俺のモノローグ的なものでそれ全部台無しにしちゃって本当ごめんなさい。
口には出せない罪悪感を他所に、冒険者区へと向かっていくアデルハイトとハインツの二人を見送った俺はヴィーヴルヴァイゼンとともに生産区へと駆け出した。
「おい美術館、『纏い』でもっと速く走れないのか!」
「う、うるさい! そもそも、使い始めたのはつい最近になってからだぞ!? 無茶を言うんじゃない!」
「お前ボーリス戻ったら『纏い』の練習しとけよ!」
生産区へと入った俺たちはまっすぐにパレードの一行が襲撃されているポイントへと急いでいた。
事前説明に合ったとおり、生産区は広い。
まぁ畑や果樹園、酪農のための場所が必要だということを考えれば当然なのだが、パレードの一行が襲撃されているのは工業区側の街中だ。
つまり、商業区から生産区に入った俺たち二人はかなりの距離を走破しなければならない。
そしてちょうど今は街を抜けて農場エリアへと入ったところだ。このまま『纏い』を使って走り続ければ工業区側の街には無事に到着する。
仕掛けるのなら、ここだ。
「美術館そこを退けぇ!!」
「だから僕はヴィーヴルヴァイゼンだと……なっ!?」
追走していたヴィーヴルヴァイゼンを押しのけるような形で振り返り、そして剣を振るう。
直後、カァンッ!! という音と共に腕に衝撃が走った。
『……NA?』
「な……何だそいつは!? 魔物なのか!?」
背後でヴィーヴルヴァイゼンの驚いた声が上がる。
現れたのは二本の捻じれた角とボロボロの羽を生やした、口しかない顔を持つ化物だった。
……
…………
いや、顔気持ち悪いなおい!? ホラーじゃねぇか!?
デザイン的な造形は『探知』での把握である程度察してはいたが、流石にこれは予想してないよ!?
いやよくよく考えれば顔はのっぺらぼうだったか……?
わからん。わからんが、今はそんなことどうでもいい!
ここはあの台詞を言える最大のチャンスじゃないか!!
「こいつはさっきのゴブリンやオークとは格が違う! 俺が足止めするから、お前は俺を残して先に行け!!」
言ってやったぞおりゃぁぁぁぁぁ! と内心で狂喜乱舞しながら剣を構えて化物と対峙する俺。
そんな俺の言葉に、ヴィーヴルヴァイゼンは「ふざけるな!」と叫んだ。
「こ、この僕に逃げろと言うのか!? 僕と貴様が揃えば――」
「揃っても難しいんだよ。なら、どっちか一人でも向こうの援護に行った方がいい。周りからの援軍が望めない以上、強い方が足止めで残った方がいい」
「ならなおのこと、僕が残った方が――」
「こんな見た目からして接近戦が得意そうな相手を、典型的な魔法使いのお前が相手にできるわけがないだろ! わかったのなら、さっさと行け! 決して振り返らずまっすぐ走れ。いいな!」
周りを見てここはどこかとキョロキョロしている化物に目を向けながら、後ろのヴィーヴルヴァイゼンに語り掛ける。
それでも何か己の中での葛藤があったのか、クッ……! と声を漏らして黙っていたヴィーヴルヴァイゼン。
しかし覚悟を決めてくれたのか、「すぐに応援を呼んでくる」と一言告げて駆けだしていった。
「それまでは、負けるんじゃないぞ!」
『纏い』も使っているようだし、見えなくなるのもすぐだろう。
立ち去っていくヴィーヴルヴァイゼンには決して聞こえないだろうが、言いたいことが言えて満足な俺は「よーし」と目の前の化物を見据えた。
行ったか?
……行ったな?
よし行ったぁ!!
「(やった、やったぞ……! アホ共の試練を乗り越えて、ついに俺は一人になれたんだ……!!)」
ふつふつと心の底から湧き上がってくる達成感に喜びそうになるが、まだここで満足してはいけないと無理やり抑え込む。
とにかく、これでこの場には俺とこの化物以外の人影がなくなった。
『探知』で周囲を探りながら、相変わらず周囲を見回している化物に「ご苦労様」と告げてその首を『断裂』で斬り落とす。
そもそもの話、この化物がこの場所に湧いたのは俺がそう仕向けたからである。
『探知』で探った化物のうち、誰かに襲い掛かる寸前だった個体の目の前に『接続』の穴を用意。
あとはその『接続』の先を俺たちの背後に設定すれば、いきなり背後から襲い掛かってくる化物の完成と言うわけだ。
ヴィーヴルヴァイゼンを先に行かせる口実にもなったし、俺は俺で言いたいことも言えたので大満足の結果であると言えよう。
……マッチポンプであることについては、真剣だったヴィーヴルヴァイゼンには申し訳ないと思うが……そもそもの話、王都まで勝手に付いてきたあいつのせいでここまで苦労することになっているのだ。
うん、俺は悪くないな!
『NAAAAAAA!!』
「……ん?」
首を斬り落としたはずの化物が、いつの間にか復活して再び襲い掛かってきたため、その攻撃を『分隔』で防いでから『圧縮』で体そのものを押し潰す。
だが、少し時間が経てばまた復活して襲い掛かってきた。
「うーわ、お前そういうタイプ?」
『NANANANANANA!』
俺の言葉に対して、口しかない顔が笑みを浮かべたように裂けた。
なるほど、殺しても殺しても意味がないタイプですかそうですか。
きっと元凶を倒さないと意味がない奴なのだろう。
「なら、殺さなければいいんだろ?」
『NA?』
振り下ろされる鋭利で巨大な爪が、俺に振れる直前でピタリと止まる。
「竜種みたいに巨大ならともかく、お前くらいの大きさなら『固定』で全身止めるのも難しくはない」
『……』
口さえも固定しているため、先程のような不快で意味の分からない言葉はもう出せないだろう。
「それじゃ、地中深くでおやすみ」
化物の足元に開いた地中深くに『接続』した穴が、重力によって瞬く間にその化物を呑み込んだ。
ちゃんと生き埋めになって復活しないように、『分隔』で守ってのサービス付きだ。問題が解決するまでは、地面の中でゆっくりしていてくれ。
「……さて、漸くってとこだな」
軽鎧と灰色のローブをしまい込み、代わりに黒のローブと仮面を取り出した。
いや本当に、何で俺こんなに苦労してるんだろうかと今日までの三日間を振り返り、思わずほろりと涙が零れそうになる。
「んじゃ、思い切り目立ちに行きますかぁ!」
一度上空に『転移』した俺は空中からパレードの一行のいる工業区側の街を見据えると、後は連続での短距離の『転移』で向かうのだった。




