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【WEB版】転生した空間魔法使いは正体隠して目立ちたい!~それ俺ですとは言いません~  作者: 岳鳥翁
第2章:紛い物の竜殺し

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第52話:悪魔の召喚術

「くそっ! 何だ!? 魔物なのか!? 応援はどうなっている!?」


「伝令! 警邏区、商業区、冒険者区、医療区にてゴブリンおよびオークの群れが暴れているとの報告が!!」


「生産区以外にもか!? 明らかに人為的な犯行だなこれは……!! モーム区長はどうした!?」


「伝令を生産区の屋敷まで走らせていますが、今のところ連絡はありません!」


「くそっ! 援護に行こうにもこれだけ同時多発的にやられれば情報網がパンクするぞ!? とにかく、動ける近衛と宮廷魔法使いはすぐに生産区に出動させろ! リュミネール王女の安全を第一に考えろ!!」


「副団長! せ、生産区に向かう道に化物が……!?」


「構わない斬り伏せて道を拓け! それでも近衛かお前たち……!」


 届けられる報告に頭を悩ませながらも、その場で最善だと思われる手を打つバイセロン。

 中央区にて待機していたはずだったが、突如として発生した各区域での魔物騒動。そして生産区で発生した魔物とは別の化物の対応に追われていた。


「どこの馬鹿がこんなことを……!」


 握り拳と肩を怒りで震わせながらも、届けられた報告を整理する。


 事件はつい先ほど。

 パレードの一行が工業区を抜けてすぐのところで起きた。


 パレードを見ようと歓声を上げて集まった市民に、荷車の上で手を振るリュミネール王女と噂の魔法使いである『竜殺しの魔法使い(ドラゴンスレイヤー)』シルヴァ・バンデラン。


 そんな中で突如、一行の目の前の地面にいくつもの不気味な魔法陣が出現した。


 そして出現した魔法陣から紫紺の光が零れ始めると、その光が異形の形を成し、周囲の人間たちを見るや否や手当たり次第に襲い始めたのだった。


「クッ……! 警邏区、冒険者区までとは……応援が来ないようにしているつもりか……! ゲリウスにも伝えろ! 手が空いている冒険者だけでもいい! 生産区へ回せと!」


「了解!」


 走り出す伝令の近衛騎士の背中を見送りながらバイセロンは握り拳を机に叩きつける。


「どこの馬鹿かは知らないが、やってくれたな……!」





「マリーン! オレはあんな魔物を見たことがねぇんだが知ってるか!?」


 襲い掛かってくる異形を地竜の素材で強化した己の武器『龍狩り・改』で叩き潰すリリタンは、叫ぶようにマリーンへと問いかける。


 魔法で異形にいくつもの風穴を開けたマリーンは、一瞬だけ考えるように顎に手を当てる。


「見たことはない。けど、思い当たるのはある」


「あるのか!?」


「うん。たぶん」


「情報の共有をお願いいたしますわ!」


 異形を斬り裂き、一度マリーンの傍まで下がったアイシャの言葉に「ん」とマリーンは頷いた。


「さっきの魔法陣。あれはたぶん、召喚術」


「召喚術!? ……って、なんだ?」


 首を傾げるリリタンにジト目を向けたマリーンは、杖の先から射出した水の槍で異形に風穴を開けながらその続きを話す。


「召喚術はこの世界とは別の存在を呼び出す魔法。一番有名なのは勇者召喚の召喚術」


「え、だったらあれって勇者なのか!?」


「そんなわけないでしょうがスカポンタン!」


 マリーンの傍らで必死に異形を燃やすウィーネがツッコミを入れる。

 しかし、マリーンほどの魔法ではないためか、燃えながらも鋭い爪先をウィーネに向けて振りかぶる異形。


 ヒェッ!? と小さな悲鳴を上げたウィーネだったが、そんな彼女を庇うようにリリタンが飛び出すと『龍狩り・改』を叩き込んで窮地を救った。


「あ、ありがとうございます……」


「なに、気にすんなよ。それより、違うならあれは何だ?」


「……たぶん、悪魔」


「悪魔……ですって?」


 マリーンが出した答えに疑問の声をあげるアイシャ。

 その通りだと頷くマリーンであったが、その続きを口にしたのは意外にも彼女ではなかった。


「悪魔……『勇者物語』にも出て来るわね。確か、勇者様が討伐した魔王が使った召喚術……だったかしら」


「それ」


「リュミネール、知ってるの?」


 読んだことあるわ、と知った様子のリュミネールにアイシャが問いかけると、「もちろんよ」とリュミネールは笑う。


「魔界と呼ばれる別世界に住まう住民。代償と引き換えに召喚者の命令を忠実に遂行する異形の怪物。特徴は二本の捻じ曲がった角に黒いボロボロの羽。そして口しかない顔と大きな体。見事に一致しているわね」


 悪魔と呼ばれた異形たちを見て、「追加設定だと思ってたけど本当にいたのね」と感心するように言うリュミネール。

 そんな彼女に「弱点はわかるかしら?」とアイシャが聞けば「一応ある」と今度はマリーンが答えた。


「悪魔は呼び出された存在。召喚者本人を倒せば、悪魔は強制送還される」


「そうね。『勇者物語』の勇者様も、魔王を倒すことで悪魔の猛攻を止めたといいますし」


「あと、悪魔は倒しても時間経過で復活する」


「それを早く言ってくださらない!?」


 先ほど斬り伏せた悪魔の体が紫紺色に発光すると、たちまち傷が癒えて立ち上がる。

 慌てた様子でもう一度悪魔を斬り伏せたアイシャは、「ともかく!」と言葉を続ける。


「この状況を打破するには、まず召喚者を探し出す必要がありますわ。リリタンとウィーネは周囲の市民の救助と共に召喚者の捜索を頼みます」


「りょ、了解です!」


「わかった任せろ! ところで、召喚者ってのはどう探せばいいんだ?」


「これだけの魔法ですわ。魔力感知で怪しい動きをしている人を探すのが一番確率が高いはず。それ以外方法がないというのがもどかしい話ですが」


 悔しそうに呟くアイシャはそう言って剣を強く握りしめる。

 そんな彼女の表情を見たリリタンは、一度彼女の傍に近寄ると思い切りその背中をバシンッ! と叩いた。


「なぁにしけた顔してんだよ! お前はここで堂々と剣を振っとけ! こっちのことはオレとウィーネに任せろ!」


「そ、そうです! 任せてください! こ、これでも私は師匠の一番弟子何ですから!」


「リリタン……ウィーネ……」


 それじゃ行ってくるぜ! とウィーネを脇に抱えたリリタン。

 予想外の行動に「え?」と呆けた顔になったウィーネは、次の瞬間弾丸のようなスピードで駆け出したリリタンによって連れ出されてしまった。


 いやぁぁぁぁぁぁぁぁ……と徐々に小さくなっていく悲鳴を見送ったアイシャは、二人の無事を祈りながら剣を構えた。


「お、茶番は終わったか?」


「バンデラン卿。あなたは何もしないつもりですの?」


 そんな彼女に向けて話しかける男、シルヴァ・バンデラン。

 今回の結婚パレードにおける主役であり、『竜殺しの魔法使い(ドラゴンスレイヤー)』とも呼ばれる魔法使いは、アイシャの問いに対して「何故俺が」と鼻で笑った。


「周りの近衛と宮廷魔法使い共は俺を守るために戦ってんだろ? なら、存分にその仕事を全うしてもらおうじゃねぇか」


「王国の市民を守ろうとは思いませんの? ここで何とかしなければ、あの悪魔は王都中に広がってしまいますわ」


「はぁ? 平民がいくら死のうが知らねぇよ。守りたいならお前らが守ればいい。俺がやる必要はねぇな」


「……偽物の分際で」


「あ゛あ!? てめぇ、人が大人しくしてるからって調子に乗るんじゃねぇぞ!? 今ここで、俺の風で斬り刻んでやってもいいだからな!?」


 アイシャが言葉に反応して見せたシルヴァは、己の周囲に風を纏わせながら癇癪を起こした子供のように怒鳴った。

 だがそんな彼の怒りも「待てよ?」と呟いた一言ですぐに治まった。


「……いや、そうだな。条件付きで俺が戦ってやるよ」


「何ですって?」


 何かを思いついたように起き上がったシルヴァは、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながらアイシャに向き直る。

 そして鎧の隙間から覗くアイシャの体をじっくりと観察し、カカッ、と笑う。


「こんな状況だ。俺とリュミネールの初夜は後日になるだろうが……その時にお前も俺の相手をしてもらうか」


「なっ!? あ、あなた何を言って……!?」


「なんなら、『白亜の剣』全員来てもいいんだぜぇ? カカッ! 全員可愛がってやるよ」


 まさかの提案に思わず一歩引いたアイシャ。

 だが、そんなアイシャの言葉を待たずに自身が乗る荷車から飛び降りたシルヴァは、「約束は守れよ?」とその身に風を纏わせて飛び出していった。


「ちょっと、(わたくし)了承していませんわよ!?」


 叫ぶアイシャであったが、そんな声が聞こえていないシルヴァは宙を風で舞い、周囲の悪魔たちを『風斬』の魔法で斬り伏せていく。


 そんな彼の姿を見て、悪魔たちを迎え撃っていた近衛騎士や宮廷魔法使い、兵士たちが「流石は『竜殺しの魔法使い(ドラゴンスレイヤー)』様だ!」と士気をあげていた。


「こんのぉ……! この騒動に決着がついたら、すぐにでも牢屋に叩き込んで切り刻んでやりますわ!」


 飛び出していったシルヴァに文句を垂れながら、リュミネールを守るために剣を振るうアイシャ。


「カカッ! どうだどうだ! 『竜殺しの魔法使い(ドラゴンスレイヤー)』様のお通りだ!!」


 そして己の魔法で斬り刻まれていく悪魔たちを見て悦に浸るシルヴァ。

 やはり己に敵はいないのだと、俺こそが本物の『竜殺しの魔法使い(ドラゴンスレイヤー)』なのだと、悪魔が再生したそばから殲滅していく。


 その指にはめられた指輪が、さらに深紅を帯びるのだった。

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