第49話:突撃!トーリの泊まる宿
「ナーハッハッハ! そうかそうか! おめぇら、口ではああだが実は気の合う仲間なんだな!」
「違います」
「フッ、そうだぞアッくん。こいつはこの僕にとってはまさに宿敵! いやライバルだ! だがしかし、その活躍についてほんの少し程度であれば……まぁ認めてやらないこともない。感謝してくれてもいいぞ、『新人遅れ』!!」
「結構です」
「だけどよヴィー! こいつが本当に俺以上に強いってかぁ? とてもそうには見えねぇなぁ……星もヴィーと同じ3つだろ? 『纏い』が使えるとはいえ、その程度じゃ俺には敵わねぇぜ?」
「ふっ、アッくんは知らないだろうが、こいつは冒険者になってからまだ4か月も経っていないんだ。にも関わらず、誠に遺憾ではあるが僕は惜敗ばかりだ。実力は保証しよう」
「何だと!? あのヴィーを負かしてんのか!? そりゃぁ楽しみじゃねぇか! おい、確かトーリだったか? 明日パレードが始まる前に一戦やろうぜ!」
「いやです」
「ふっ、流石は『新人遅れ』。この僕の好敵手! この僕を完璧に打ち負かすまでは他の者にうつつは抜かせないと、そう言うわけだな!」
「熱いな! それでこそ好敵手ってやつだ! ヴィーはいい相手を見つけたな!」
「それほどでもないさ!」
「「アーハッハッハッハッハ!!」」
「……帰ってもいいか?」
「僕が大変だから、できるだけいてくれると助かる……かな? 昨日は大変だったし」
「「はぁ……」」
上機嫌に酒を呷るアデルハイトとヴィーヴルヴァイゼン。
そんな二人とは対照的にため息と共に肩を落とす俺とハインツ。
どうやら昨日の訓練場での騒ぎの後、お互いの健闘を称え合った二人は仲良くなったらしく、ハインツも伴って三人で王都周辺の日帰り依頼を受けていたらしい。
どうりで昨日は静かだったわけだ。一人で過ごせたことを最高だと笑っていた罰なのかもしれない。
あと、ヴィーヴルヴァイゼン。嘘を吐くな嘘を。惜敗どころか惨敗だろうが。
ちびちびと果実水を飲みながら、運ばれてくる料理に手を付ける。
まったく、今日一日はまた一人で王都の下見をしようとしていたというのに、その計画が全部パァになってしまった。
酒を飲み、肩を組んで陽気にはしゃぐアデルハイトとヴィーヴルヴァイゼン。
お前そんなキャラじゃなかっただろう、とその様子を横目に、腹いせに食えるだけ食ってやろうと会話にも混ざらずひたすらに料理を口に運ぶ。
特に肉はボーリスでよく口にするランページファングの肉ではなく、王都の生産区で養殖されているカームノーズと呼ばれる家畜化された魔物の肉を使用しているらしい。
要は豚である。
ランページファングの野性的な感じの肉ももちろん好きなのだが、カームノーズの肉はそれ以上に柔らかく、脂の味も良い。
食レポなんてできないが、これはこれで美味い。
他にも、カームホーンという牛に似た魔物の肉に加えて、色とりどりの野菜のサラダなど味わうものは数多い。
今日はおごりと言うことだし、金は気にせずに食べることにする。
そして食べるのに集中してます、という姿勢で面倒な二人の相手はハインツに任せることにしよう。
「だめだよ」
「だめか」
考えていることがバレたのか、きっぱりと言われてしまった。
笑みなのに目が笑っていないのが怖いぞおい。
「そういや、ヴィーとトーリはいつまで王都にいる予定なんだ? もしかしてそのまま王都に定住か? そうなるなら俺たちは歓迎するんだが……」
今までナハハと馬鹿笑いしていたアデルハイトだったが、ふと思い出したかのようにそう口にすると「確かにそうだね」とハインツも頷いた。
「なんなら、俺たち4人でパーティでも組もうぜ! きっと星5つ……いや! 星6つは確実の最高のパーティになるぞ!」
「そうなったら僕も嬉しいな。ヴィーくんはアデルハイトと気が合いそうだし、僕もトーリくんとはうまくやれる気がするよ。主に苦労人枠で」
まるで仲間を見るような目で俺に微笑みかけて来るハインツ。
顔がいいだけに様になっているが、全力で拒否させていただく。そもそも、ヴィーヴルヴァイゼンを俺の仲間と認識するのを辞めていただきたい。
「ふっ、確かにアッくんの言うことは最もだ。この四人が揃えば、いずれは星6つの頂へと手が届くことは確実だろう。しかし残念なことに、僕らはパレードが終わればボーリスに戻る予定なんだ」
「そうなのかい?」
ハインツの問いかけに対して、俺はその通りだと頷いた。
「そもそも、こいつはともかく俺は『白亜の剣』の厚意で王都に連れてきてもらったからな。『白亜の剣』の用が終われば、そのままボーリスに帰ることになっている。こいつは知らんが」
「『白亜の剣』……『白亜の剣』ぃ!? あの『白亜の剣』か!?」
「驚いた……君達、そんな有名な人たちと知り合いなのかい?」
「まぁね! この僕の人望あればこそなのさ!」
「お前は勝手に付いてきたおまけだろうが」
目を見開いて驚くアデルハイトとハインツ。
そんな二人を相手に自慢げな様子のヴィーヴルヴァイゼン。呆れる俺。
メニューに載っていた一番高そうな料理を注文し、果実水で口を整えた俺は「ともかく」と話を続ける。
「そういうわけで、王都にいるのはパレードが終わった二日後の朝までだ」
「そんなことより、どうやって『白亜の剣』と知り合ったんだよ!! 教えてくれ!! 『剛槍』のリリタンってすごいのか!? 『纏い』を使える奴よりも力が強いって本当なのか!? エロいのか!? あと、『獣狩り』のサランの顔は見たことあるか!?」
「ぼ、僕も気になります! と、特に『斬姫』アイシャ・ガーデンさんについての話を是非!!」
食事中だというのにテーブルに身を乗り出して詰め寄ってくる二人。
そんな二人の様子を見て、隣のヴィーヴルヴァイゼンがフッと笑った。
「せっかくだ、僕らと『白亜の剣』の皆様との関係、聞かせてあげたまえ『新人遅れ』」
「オマエ、アトデ、ハッタオス」
「何か怖くないか貴様!?」
◇
話をしないことには絡みがもっと面倒になりそうだと感じた俺は、いやいやながらも『白亜の剣』の話を軽くすることにした。
途中、ヴィーヴルヴァイゼンが『魔女』様がぁ『魔女』様がぁとマリーンの自慢話を始めたことで、俺が話さずとも勝手に三人で盛り上がっていた。
ハインツまでその盛り上がりに入っていたことには少々驚いたが、彼も『白亜の剣』のファンだと考えれば納得もできるだろう。
追加注文した果実水を呷りながら誰もウィーネの話をしないなぁとしょうもないことを考えていると、何かを思いついたのか「そうだ!」とアデルハイトが呟いた。
「『白亜の剣』はリュミネール王女の護衛でパレードに参加すんだろ? なら、この四人で明日のパレードも見に行こうぜ!」
「え」
「おお! アッくん、いい提案ではないか! それに、あの『竜殺しの魔法使い』の姿も拝めるのだろう? ふっ、いずれは超えるべきその顔を拝んでやるいい機会だからな!」
「え」
「僕も見に行きたい! きっと、この四人ならパレードを見るのも楽しいと思うからね! それにパレード中はおいしい屋台がたくさん並ぶんだ。みんなで食べ歩きでもしようよ」
「え」
「なら明日の朝、トーリとヴィーが泊まる宿の前に集合だな!」
「異議はない!」
「わかった!」
「……え?」
俺を置いてけぼりにして勝手に決められていく予定の数々。
いや、ちょっと待て。そもそもの話、明日はパレード。つまり、俺が王都に来た目的でもある最大の見せ場だ。
その見せ場を作るためには、周りに知り合いがいない状況を作ることが必須になる。
ヴィーヴルヴァイゼン一人程度であれば簡単に撒ける予定だったんだ。
それが更に二人増える?
「いや待て、俺は明日は一人で……」
「トーリも楽しみだな!」
「『新人遅れ』! 貴様、この僕から逃げるとは言わないだろうな!!」
「ふ、ふふふ……一緒に二人の手綱を握ろうねぇ……」
完全に酔いのまわっている三人。
特にハインツだけ酔っているはずなのに変な圧のようなものを感じる。魔力じゃないのに何だその圧は。
「(朝から『転移』で逃げるか? いや、それだと部屋から出てないのにいないことを疑問視される。なら、パレード中、何かと理由をつけてこいつらの傍を離れるのが一番安全か……いや、離れた瞬間に魔法使いが出てきたら後でどこに行ってた問題が浮上する。となると、朝こいつらが来る前にすでに出かけたことにしてパレード中はこいつらから逃げ回る! これしかねぇ!!)」
酒に酔った三人に絡まれながら、酔っていない冷静な頭をフル回転させてこいつらの攻略方法(好感度に非ず)を考える。
よし、明日の朝日が昇る前に宿を出て逃げることにしよう。
そうしよう、とアデルハイトとヴィーヴルヴァイゼンに肩を組まれながら考える俺だった。
◇
「突撃トーリの泊る部屋!! お、何だトーリ。もう起きて準備万端なんて、乗り気じゃなかった割りには楽しみだったんじゃねぇか!!」
「ふっ、わかっているぞ。貴様もこの僕と回れるのが楽しみだったんだな! ふははは! 僕も寝不足だぞ『新人遅れ』!!」
「あの、ごめんね? こんな時間に突撃するのは流石に非常識だって伝えたんだけど止まらなくて……ほら二人とも、他の部屋に迷惑だから静かにしてよ」
「…………ハハッ」
俺はその場に崩れ落ちた。




