第48話:厄日は続く
「では始めよう。炎の恐ろしさを思い出させてやろうじゃないか」
「ハッ! 言うじゃねぇか! てめぇなんかの炎が俺の岩肌に効くもんかよ!」
「……」
「あ、あはは……ご、ごめんね? うちの仲間が……」
「……なんで、俺まで巻き込まれているんだ……!?」
視線の先の美術館と、それに対峙する茶色のローブを身に纏った偉丈夫のやりとりを辟易としながらみていると、隣に座った美形の男が苦笑交じりに話しかけて来る。
事の発端は、俺と美術館が王都のギルドへと寄った時のことだ。
別に依頼を受けるつもりもないため、ギルドの外観だけ見ようと近づいたのだが、せっかくなら中の様子も見ようと足を踏み入れる美術館。
入ることによるリスクはあるが、しかし大人しくしていれば見るくらいは大丈夫かと安易に判断した俺が悪かった。
いや悪いのあのアホだわ。
詳細は省くが、経緯を表すと
美術館が「僕らの実力を王都の冒険者たちに見せてやろうではないか!」と受付に直行
↓
僕たちはボーリスから来た冒険者で優秀だから何か依頼を受けたいとほざく
↓
俺が止める前にギルド内にいた奴に「ボーリスの田舎者はとっとと帰れと」絡まれる
↓
美術館激おこぷんぷん丸
↓
絡んできた冒険者も激おこぷんぷん丸
↓
よろしいならば戦争だ ← 今ここ
そんなわけで、何故か王都ギルドの訓練場で絡んできた冒険者こと『岩拳』のアデルハイト・ロッケンブローくん(19歳)と一対一の決闘を行うことになった美術館(20歳)。
そんな馬鹿騒ぎに周りの冒険者たちが乗らないわけがなく、王都ギルドの訓練場は暇を持て余した冒険者たちで賑わっている。
どっちが勝つかの賭け事までやってるのだから、冒険者というのはどこに行っても似たようなものなのだろう。
「……帰りたい」
「あははは……と、ところで君もボーリスの冒険者なのかい?」
はぁ……と深くため息を吐くと、隣でしきりに話しかけて来る人物にチラと視線を向ける。
見た目は茶髪の剣士、と言ったところか。先ほども言ったとおり、美術館と同じくらい美形の男。
いや、美形と言うよりも美人と言った方が適当かもしれない。女だと間違われてもおかしくはないだろう。
確か、美術館と対峙している偉丈夫が絡んできたときに一緒にいた男だ。
「……誠に遺憾ながら、あのアホと同じボーリスの冒険者であっている」
「そ、そうなんだ……あ、僕はハインツ。あそこのアデルハイトとパーティを組んでいる剣士なんだ。よろしく」
「……トーリだ。あそこのアホとは何の関わりもないが、一応カスみたいな魔法が使えるだけの剣士だ」
よろしく、と差し伸ばされた手を握り返すと、ハインツのスマイルが俺の汚く荒んだ心に突き刺さってくる。
アデルハイトもハインツも元々は貴族らしいが、四男五男という微妙な立ち位置であるため冒険者をやっているらしい。
「カスみたい、なんてそんな卑下するものじゃないと思うよ? 実際魔力はあっても魔法が使えないって人は多いし」
「でも使えるなら魔法使いやれるくらいには使いたいだろ? 飲み水出すくらいでせいいっぱいだよ」
「でも遠征の依頼受けるときは便利そうだよね、それ」
「それはそうだ」
ハインツとたわいもない話をしながら、眼前の二人に視線を戻す。
どうやらもうすぐ始まるらしく、言葉の投げつけ合いも先ほどよりヒートアップしていた。
「ふん、わからんようだから言ってやろう! 貴様が田舎者だと侮るボーリスの冒険者は日夜魔物という脅威と戦っているのだ! 貴様のように安全な王都に引きこもっているような者とは強さが違うということを、この『輝炎』の通り名を持つヴィーヴルヴァイゼンが教えてやろう!」
「ハッ! 上等だ! 俺の拳で打ち砕いてやらぁ!!」
アデルハイトが自身の拳同士を打ち付けると、ガンッ!! とおよそ拳とは思えない音が訓練場内に響き渡った。
その音の発信源に、俺は思わず興味を向けた。
「こんな魔法使いは、田舎にはいねぇだろっ!!」
「なっ!?」
小さなクレーターができるほどの踏み込みを見せたアデルハイトは、文字通り岩となった拳を振り上げてヴィーヴルヴァイゼンの目前へと迫っていた。
瞬きするような、たった一瞬の出来事。
眼前の光景に目を見開いたヴィーヴルヴァイゼンは、反応が遅れて魔法を使う暇もないのか何とか拳を避けようと身を捩る。
「そうくるよなぁ!!」
「ガフッ!?」
だがその動きも読めていたのか、アデルハイトは拳を引いた反動を利用して半回転すると、勢いそのままに蹴りを叩き込む。
直撃したヴィーヴルヴァイゼンは、簡単に訓練場の壁際まで飛ばされてしまった。
「いいぞー! アデルハイト! ボーリスの冒険者なんざやっちまえ!!」
「王都の冒険者の強さをみせてやれー!」
「ふっざけんなよおい!? あんなでかい口たたいて一撃でやられてんじゃねぇよ!? 大損じゃねぇか!?」
「カーッ! こんなことなら大穴に賭けるんじゃなかったぜ」
観戦している冒険者たちの色んな歓声が轟く訓練場。
うるせぇー……と耳をふさぎたくなる中、一人あのアデルハイトとやらの戦い方について考える。
「(ローブを着てるから魔法使い……と思っていたが、まさか殴り合い仕掛けて来る魔法使いとはなぁ……)」
赤髪の魔法使いアデルハイト。
今の動きを見た限りでは、腕と拳を岩石で固めて殴りつける戦闘スタイルと見ていいだろう。ご丁寧に『纏い』まで使っていらっしゃる。
「驚いたかい? アデルハイトは魔法を放つことがすごく苦手でね。じゃあ代わりに叩き込めばいいってああなった魔法使いなんだ」
「それでいいのか魔法使い」
「土魔法の使えるアデルハイトは、手足に岩を纏った超近接特化の魔法使い。ついた通り名は『岩拳』アデルハイト。星4つの中でも有望株で、僕自慢の仲間だよ」
解説役みたいに話しかけて来るハインツに飽きれながら試合を見ていると、不意にそのアデルハイトとやらの視線が俺に向いた。
そしてズビシィッ!! と俺を指さした。
「次はお前だ! まさか仲間がやられて黙っているほど、ボーリスの冒険者ってのは臆病じゃねぇよな?」
……
…………
え、俺なの?
「ちょ、アデルハイト! 何もそこまで――」
「いいぞー! 『岩拳』! 連れの奴もぶちのめせぇ!!」
「やれやれー! それでお前も殴り飛ばされろ!」
「そうだ! お前も戦え! そんで負け分を返しやがれ!」
アデルハイトの言葉に止めようと声を張り上げるハインツだったが、そんな声は知らんとばかりに周りの冒険者のボルテージが上がっていく。
まるで俺の参戦が決定したかのように、そして敗北も確定しているかのように、冒険者たちが煽っていく。
おれしってる。これ、どうちょうあつりょくってやつだ。
訓練場内の視線が一斉に俺へと向けられる。
「……ん?」
立ち昇る土煙の中にゆらりと影が揺れる。
それを見た俺は、問題はなさそうだと周りの視線に構わず立ち上がり、くるりと背を向け歩き出した。
向かうのはもちろん、訓練場の外だ。
「はぁ!? おいお前! 逃げるな!」
「何逃げてんだよ!? それでも冒険者かお前!!」
「ふざけんじゃねぇぞ!? 金返せぇ!!」
「逃げるな卑怯者ぉ!!」
歓声が罵声に変わる。
唯一心配そうな目を向けるハインツは、今俺にとっての唯一の良心だろう。
「てめぇ!! 仲間がやられたってのにそれでいいのかよ!?」
そんな中、アデルハイトの怒声が訓練場内に響いた。
立ち止まり、あからさまなため息を吐いて振り返る。
「別に、仲間じゃないからな。やられたところで何とも思わねぇよ」
「はぁ!? おまっ、そんなことが――」
「ああ、それと」
アデルハイトの言葉を遮り、再び訓練場の外に向かって歩を進める。
「ついてくるならいつも通り、勝手にな。俺は置いていくけど」
「わかっているとも。『白炎砲』!」
「っ!?」
よそ見をしていたアデルハイトに、横合いから飛んできた白炎の塊が直撃し、そして大爆発を起こす。
あれで殺すつもりがない威力にしているというのだから、魔法と言うのは不思議なものだ。
「フゥ……貴様は優雅に茶でも飲んでおけ、『新人遅れ』。すぐに行こう」
足取りはおぼつかないうえに、打ち付けて頭でも切ったのか血を流しているヴィーヴルヴァイゼン。
それでもワンドを構えて立ち上がると、余裕ぶって笑って見せた。
知らない間に習得したのか、拙いながらも『纏い』を使えるようにはなっていたらしい。ダメージはあるが、辛うじて防御は間に合っていたようだ。
その姿をチラと確認だけした俺は、何も言わずに訓練場を後にする。
直後、「『白竜咆哮』!!」という声と共に訓練場内にとてつもない轟音が轟くのだった。
さて
「見学がてら、医療区も見に行ってみよっと」
とんずら成功! と内心で喜びながら、俺はルンルンスキップで医療区へと向かい、病院や教会を見て回りながらその日一日を終えるのだった。
美術館は来てないな、ヨシッ!
◇
「ふははは! 待たせたな『新人遅れ』! 昨日はすまなかった。何せアッくんと妙に気が合ってしまってね。貴様を追いかける暇がなかったんだ。許してくれ」
「ナーハッハッハ! 昨日はすまねぇな! だが安心してくれ! 俺も反省して今じゃヴィーともこの通りよ! 昨日の詫びも兼ねて、今日一日は是非王都の案内をさせてくれ! もちろん、夜は俺たちが奢るぜ!」
「あ、あの、その……ご、ごめんね? 僕は止めたんだけど、ちょっと止まらなくて……」
「……お祓い、行こうかな」
宿から出たら、何かいた。
そして増えてた。




