第47話:王都二日目は厄日
「今日こそはこの僕だ!」
「うーわ……」
「も、もっと何か言うことがあるだろ!?」
王都二日目。
マリーンたちからおすすめの宿として紹介された商業区の宿。
朝になって確実に親父さんのよりもおいしい食事をとり、レシピとかもらえないだろうかと考えながら外に出る。
もちろん、昨日貰った灰色のローブを身に着けて、だ。せっかくのものだしありがたく使わせてもらうことにしよう。
「何でいるんだ」
「ふふふ……それはもちろん、貴様の泊った宿にこの僕も泊まっていたからなぁ!」
そしたらなんか出た。
まぁ、おすすめされた宿が同じなんだ。当たり前だろう。
「別に宿が同じだからって俺といる必要もないだろ。俺は一人で回るから、お前も一人で楽しんで来いよ美術館」
「ヴィーヴルヴァイゼンだ。ふんっ……王都が初めての貴様は、『魔女』様たちがいなければ昨日の僕のように場所もわからず彷徨うことになるだろうと思ってな。ありがたく思うがいいさ」
「迷ったんだ昨日」
「迷ってない」
そうか、と特に興味もないため一人歩き出せば、慌てたようにヴィーヴルヴァイゼンがついてくる。
朝から俺に付きまとうほど、こいつは暇なのだろうか。
「一応聞いてやろう、『新人遅れ』。貴様は今日どこに行く予定だ?」
「冒険者区だな。王都のギルドも見てみたいし」
「ほう、なるほど。ならちょうどいい。この僕もギルドに用事だったんだ。仕方ないからついて行ってやろう」
感謝するといい、と前髪を指で払い気障に決めるヴィーヴルヴァイゼン。
「(うぜぇ……こいつ本当に冒険者区までついてくる気かよ……)」
真横に陣取って行く先々の店や建物を指さしては「貴様に教えてやろう!」と話しかけて来る。
輸送区
「ここは輸送区! 王都の荷物は個人や緊急のものでない限りは一度この区域にすべて集められるんだ! 見ろあの巨大な建物を! あそこはクルーナ区長の集積場で数百数千の荷物が毎日入れ替わりで集められているらしい。流石王都と言わざるを得ないだろう? そしてあそこを見るんだ『新人遅れ』。あのプロプトホーフの数を! 王都だけではなく近隣の街や国外への荷物も請け負う輸送区が保有するプロプトホーフは、まさにこのグレーアイル王国一と言えるだろう!」
「そうか」
冒険者区
「そしてここが冒険者区! どうだみろ今迄の街並みと違うこの如何にもな光景を。どこを見ても武器を身に着けた荒くれ者ばかりだ。一般市民など武器やポーションの店の店主たちを除けばいないに等しい場所だろう。ほら見ろ『新人遅れ』。僕らの視線の先に見えるあの建物が王都のギルドだ! ボーリスは『帰らずの森』が近いことから他の街と比べても冒険者が多いが、王都のギルドは魔法区があることに加えて、後を継げない貴族の子供が冒険者に流れてくることから所属する魔法使いの数が多いんだ! ふっ、だがしかし、この僕ほどの魔法使いなどなかなかいないだろうな! そんな僕がパーティとして貴様を仲間に加えてやっているんだ、是非ありがたく思って感謝の言葉を述べてくれてもいいんだぞ?」
「ほーん」
「もう少し興味を持つということをしないのか貴様!?」
「いやだって、ずっと勝手にしゃべってるし」
むしろ、いつ黙るのだろうかと気になっていたくらいである。
俺の眼前に飛び出て抗議の声をあげるヴィーヴルヴァイゼンの顔面を押しのけて冒険者区を進む。
しかしヴィーヴルヴァイゼンのいう通り、今迄の街並みに比べても雰囲気は一番物騒なのがよくわかる。
表を歩く人は基本的に武器を所持しており、そこかしこに厳つい店主のいる酒場と真昼間から酒を飲んで騒ぐ人相の悪そうな冒険者たちで溢れていた。
だがそれと同時に、杖を手にしたりワンドを腰に携えたローブ姿の冒険者の姿もそれなりの頻度で見かける。
ボーリスではマリーンやウィーネ、ヴィーヴルヴァイゼン以外にはちらほらとしか見かけなかったが、確かに王都では魔法使いの冒険者が多いようだ。
「(でもだいたいは貴族の出なんだよなぁ……マリーンたちが珍しいだけで。別に依頼受けるわけでもないし、王都の冒険者にはあんまり関わらないでおこう)」
「てめぇ今何て言いやがった! この俺の魔法よりもお前の方が優れているだと!? 星3つが言ってくれるじゃねぇか、ああ!?」
「フン、実力も知らずに突っかかってきた貴様がこの僕に適うはずがないだろう! では何度でも言ってやろうじゃないか。この『輝炎』ヴィーヴルヴァイゼンの白き炎は貴様の魔法如きに遅れはとらない!」
「ほざくじゃねぇか! 『白亜の剣』はともかく、ボーリスなんて田舎に居ついてる雑魚がよぉ! 『岩拳』のアデルハイトを知らねぇで挑んできたことを後悔させてやる!!」
「ハッ! 王都の魔法使いにしては言葉遣いがゴロツキのそれじゃないか! いいだろう、そこまで言うのならこの僕自らが貴様を返り討ちにしてやろうじゃないか! 星の数が決定的な実力差ではないことを教えてやろう!」
…………
「(本当にお前何してくれてんだおいいいいいいいいいい!!!!!)」
◇
「とりあえず、今日の打ち合わせは終わりね」
「カァーッ! 疲れたぜ全く……」
「あんたは黙ってただけでしょ」
トーリが美術館のせいで苦労している頃。
アイシャ達『白亜の剣』は、二日後に控えたパレードでの護衛の話を中央区副区長であるバイセロンと冒険者区区長ゲリウスとともに、当日の配置やパレードが通る場所の確認などを行った。
そんな大事で、しかしリリタンにとっては面倒くさい打ち合わせを終えた5人は、宿泊用にとリュミネール王女の厚意で貸し出された王城の一室に集まっている。
「でも疲れるもんは疲れんだよぉー」
「もう、だらしないわねぇ。ほら、しゃんとなさい。あんたのベッドが用意されてるんだから、疲れてるならそっちに寝転びなさい」
「サランはママ」
「はい師匠。サランさんは私達のママですね」
「ん。じゃあアイシャはパパ?」
「誰がママよ誰が」
「私の性別を変えないでくださいまし」
備え付けのソファに寄りかかって溶けているリリタンを見て、呆れたようにため息を吐くサランは、リリタンの手を取ってひっぱりあげながらベッドに誘導する。
その様子を見ていたマリーンとウィーネの言葉にサランがキッと睨みを利かせれば、二人そろってそっぽを向いた。
「ふふ……でもサランは子供の相手は得意そうですわね」
「おいアイシャ、それだとオレが子供になるんだが? 一番オレが年長者だぞ?」
「あんた、よく言えたわねそれ」
ベッドに寝かしつけられているリリタンがまるで子供のように見えたアイシャはそう言って少し笑った。
そんな折、彼女らの部屋の扉がノックされる。
「あたしが出るわ」
誰かが訪ねてくる予定はなかったはず、と警戒してショートローブを身に纏ったサランが扉へと近づき、そして扉をそっと開いた。
「こんばんは」
「……あら、リュミネール様じゃない」
扉の外にいたのは、袋を手にしたリュミネールだった。
警戒して損したわ、とサランがリュミネールを招き入れれば、その来訪者に「ようこそいらっしゃいました」とアイシャが声をかけた。
「そんなかしこまらないで、アイシャ。私たちの仲じゃない」
「ふふ、形だけでも、というのは意外と大事ですわよ?」
「相変わらず律儀ね。それと……」
リュミネールは一度部屋を見渡し、アイシャ以外の『白亜の剣』の面々に視線を向ける。
「突然お邪魔して、迷惑じゃなかったかしら?」
「いーよいーよ気にしてねぇからな!」
「あんたはもう少し王女様を敬いなさい」
「あいてっ」
「ふふっ」
サランに頭をはたかれるリリタンを見て緊張がほぐれたのか、リュミネールが小さく笑った。
そんな彼女の様子を見たアイシャは「それで、わざわざ訪ねて来てどうしたのかしら?」とリュミネールに問う。
すると、リュミネールは手にしていた袋から何かを取り出した。
「……『勇者物語』の本?」
「ごめんなさい、アイシャ。あなたが昔私にくれた本がこんなことになってしまって……」
リュミネールが取り出したのは、元は本だったと思われる残骸だった。
辛うじてタイトルは読めるが、切り刻まれたような跡が目立つそれを申し訳なさそうに胸に抱きしめるリュミネール。
普通の破れ方ではない、何かしらの人為的な行為によるものだと判断したアイシャは彼女に何があったのかと問うた。
「……『竜殺しの魔法使い』、シルヴァ・バンデランよ。ちょっと口論になってね」
「っ……そう。それと、本については大丈夫よ。別に怒ったりなんかしないわ」
「ありがとう、アイシャ」
はぁ、とため息を吐いたリュミネールは続ける。
「本当に……本当に下品で聞くに堪えない戯言ばかりの、短気でどうしようもない男よ。なんであんなのが竜種を討伐できたのか不思議で仕方ないわ。ただお父様が決めた以上、私は自分を無理やり納得させるしかないのだけれど」
「ん。王女様だいぶキテる」
「ですね。紅茶を淹れますが飲んで行かれますか?」
「いただくわ」
ありがとう、と紅茶の準備を始めるウィーネに礼を言うリュミネールはふらふらとした足取りでソファに腰を落ち着けた。
精神的にだいぶ参っている様子が見て取れる。
「でも、聞けば聞くほど、シルヴァ・バンデランが『竜殺しの魔法使い』だと思えないのですが……」
「ええ、私もそう思うわ。けど、それを確かめる方法がないんじゃ仕方ないわ」
ソファに腰かけたリュミネールが更に深いため息を吐く。
「……彼の実力はどうですの? サランにも調べてもらいましたが、魔法学校時代の彼の実力は並み以下だと聞いていますわ」
「それについてはお父様もちゃんと確かめたわ。結果、どういうわけか魔法学校時代とは比べ物にならない程の風魔法の使い手であることが証明されたのよ。風魔法なのに、その威力は宮廷魔法使い以上だったわ」
「じゃあ、本当に実力を隠していた……?」
「そうなるわ。あの性格からは考えられないけど」
おかしな話よね、と天井を仰いだリュミネール。
そんな彼女に、アイシャはそうねと同意した。
リュミネールの言う通り、あの魔法使いがシルヴァ・バンデランであるとは考えられない。
しかし宮廷魔法使い以上の実力者であったことが証明されている以上、今この場ではシルヴァ・バンデランが『竜殺しの魔法使い』ではないと否定する方法もない。
「……いえ、確認はできますわね」
「? アイシャ、何か言ったかしら?」
「本物の証明のため、また竜種でも出てきてくれないかしら、と」
「アイシャ、この国が滅ぶかもしれない物騒なことを言わないでちょうだい」
冗談ですわ、と冗談には聞こえない口ぶりだったアイシャの笑顔にジト目を向けるリュミネールは「ともかく」と話を続けた。
「アイシャ。当日私の護衛に着くあなた達は、シルヴァ・バンデランと接触することは間違いないわ。その時にきっと……いいえ、間違いなく彼はあなた達にちょっかいをかけて来ると思うの。とてつもなく面倒で不快だとは思うのだけど、パレードの間だけは手を出さないように頼むわ」
「……それを聞くとすごく当日が憂鬱ですわね。でもいいですわ。依頼主のお願いですもの。殴り飛ばすのはやめておきましょう」
「……斬り刻むのもなしよ? パレードが血に染まっちゃうわ」
「……オホホホ……まさかそんなこと、この私がするはずがないですわ」
「「「「(絶対考えてた)」」」」
アイシャの作り笑いを見て、『白亜の剣』の四人の内心がぴったりと一致するのだった。




