第46話:魔法使いのローブ
魔法区の出入り口を守る兵士に赤のヒヒイロカネを借り、魔法が使えることの証明とギルド所属の冒険者である星3つの金属板を見せることで何事もなく入ることができた。
まぁ、何事もなくというか、最初は剣士が何の用だ? みたいに聞かれたんだが、ちゃんと魔法が使えることを証明して無事に入ることができた。
で、だ。
「おぉ……何か全員魔法使いっぽいな」
入って早々、目についた街並みはボーリスや警邏区でも見かけたような建物ばかり。
しかし、その街中を歩く人々の格好が全く異なっていた。
「全員ローブを着てるんだな……」
「ん。ローブは魔法使いの証」
「いつからかはわかりませんが、それが一般的になってるんですよね。魔法使いはローブを着るものだーって」
ウィーネの言葉にそうなのか、と街の様子を観察しながら呟いた。
「おい、見ろよあれ――」
「……ん?」
街の様子を観察していると、不意に近くから声が聞こえた。
何かと思ってそちらを見れば、俺たちの近くにたむろしていたローブの集団がこちらを見て声を潜めて何かを話している。
いったいどうしたのかと思っていると、同じくその様子を見たであろうウィーネが「あー、そうでした」とこちらを向く。
「あなたの格好ですよ」
「恰好?」
言われて自分の姿を見る。
隊商の護衛時から変わらず、軽鎧に剣を携えた剣士スタイルだ。
「魔法区に、明らかに魔法使いじゃない人がいれば目立ちます。むしろ通報ものですよ」
「それ入る前に教えてくれない?」
魔法区に連れてきた本人を見れば、サッと目を逸らされる。
こいつ忘れてやがったな。
「はぁ……あなたが捕まって拷問されて最終的にこの世から姿を消してしまうことには何の問題もないのですが、このままだと一緒にいる私達にも迷惑がかかります。とりあえずはローブを買いましょう」
「それはすごくありがたい提案なんだが、もう少し君の中での俺に慈悲はなかったのか?」
「ないです」
「ないのか」
「トーリ、何色がいい?」
「特に決めてはないなぁ……」
一人先立って歩くマリーンを追いかける形で俺とウィーネが続く。
道中でものすごくチラチラと見られては何かを言われているのだが、ローブを身につけないことがそこまでのことなのだろうか。
少しばかり居心地の悪い視線に晒されながら暫く歩く。
すると、マリーンがとある一軒の店の前で立ち止まり、俺の方を向いてその店を指さした。
「ついた」
「ここでローブが買えるのか?」
ショーケースに人体を模した木製の人形が置かれ、その人形が厚手の生地でできた真っ青なローブを身に纏っている。
その木製人形の奥にも、色とりどりのローブが飾られていた。
「ここは魔法学校の生徒御用達のお店でもあります。あなたに教えるのは癪ですが」
「あたりきついなぁ……」
「トーリ、早く入る」
見れば、すでに半身を店の中に入れたマリーンが手招きして呼んでいたため、それに招かれるように店に入る。
店に入ると、視界に広がるのはローブばかり。
どうやら魔法使い用のローブの専門店らしい。
出てきた店員さんが俺の姿を見て、顔を顰めたが隣にいたマリーンを見てすぐに揉み手で近づいてきた。
「どうもマリーン様にウィーネ様! 本日はどんなローブをお求めでしょうか?」
「ん。この人に合う物を探しに」
「この人の……ですか? 魔法使いのようには見えませんが……」
「あ、すみません。一応、魔法も使えるってだけなんですが……その、やはり魔法区だと周囲の目が気になりまして」
店員の視線がこちらに向いたタイミングで、自ら事情を説明する。
すると店員はなるほど、と頷いた。
「確かに、そういう事情であれば当然でしょう。ではいくつか私がローブを――」
「いい。ボクが選ぶ」
「し、師匠!?」
店員が俺用のローブを見繕うためにその場から去ろうとしたが、そんな店員にマリーンが待ったをかけた。
「いくつか候補を見繕うこともできますが……」
「不要」
「そ、そうですか……」
すごすごと店の奥に引っ込んでいく店員の寂しそうな背中を見送る。
そして俺たち三人だけになると、マリーンが「こっち」と俺の手を引いた。
「………………」
「あの、マリーン。固まってどうした?」
ローブが陳列された商品棚をジィ~っと穴が開くほど見つめて動かなくなったマリーンに声をかけてみるが、一向に反応する気配はない。
助けを求めようと俺はウィーネの方を振り返ってみたが、先ほどまでそこにいたはずの彼女が見当たらなかった。
どこかへ行ったのかと諦めて視線をマリーンに戻す。
「……」
「……ぐすっ」
「……なんでそんなところに?」
「うるさいケダモノ」
なんかマリーンの足にしがみ付いていた。
「ししょぉぉ~、どうして私じゃなくてこんな奴のローブを選ぶんですかぁ~……私だって師匠が選んだのがいいですよぉ~!」
「……」
「うわぁぁぁぁぁししょぉが無視するぅぅぅ!」
「トーリ、これ試着」
「何だこの状況」
言われるがままに受け取ったのは灰色のローブだった。
割と薄手で、身に纏ってもあまり邪魔にはならなさそうである。
「ん。本当は白がよかった。けど、白は魔法学校の卒業生の証。断念」
「そうなのか……」
「ししょぉ~私にも選んで下さいぃ~!」
「ん。だから近い色にした。薄いからトーリも普段使いできる。ボクからプレゼント。ぶい」
「え、いや払うぞ」
理由はあれだが、これでも最近は遠征依頼でそれなりに稼いでいるんだ。
ローブくらいは払えるから、と会計しようと店員を呼ぶマリーンを止めようとするが「いい」といつもよりも目力の強いジト目が俺に向けられた。
「ボクが払う」
「そ……そうか……ならありがたく受け取るよ」
「ん」
それでいい、と頷いたマリーンは、出てきた店員に代金を払うと特に何も言うことなく店の出入り口へと向かっていった。
「えぐっ……ひぐっ……ししょぉ~どうしてなんですかぁ~……」
「……えっと、そんな落ち込むなよ、な?」
「うるさいですケダモノォォ……」
おいおいおいと店の床に伏せて涙を流すウィーネに声をかけてみたが、涙目で罵倒された。
俺が言っても動きそうにないと諦めていると、出入り口の扉を開けたマリーンが振り返って一言。
「ん。次はウィーネの杖を買う」
「何してるんですか、さっさとここを出ますよ」
「やだこの娘すごく面白い」
先ほどまでの泣きっ面はどこへ行ったのか。
光の速さでマリーンの後ろに陣取ったウィーネの動きに内心で笑いそうになりながら、俺も店員さんにお礼を告げて店を出る。
軽鎧を身に着けた上からローブと言うのも、なかなか見た目的にかっこいいのではないだろうか。
「トーリ、杖も買う?」
「師匠!? まだこいつに買い与えるつもりですか!?」
「その言い方だと俺ペットかなにかなのか?」
「……一考の余地。アイシャに相談する」
「やめてね? アイシャさんたぶん頭抱えるから」
「ペット……師匠から餌付け……ヨシヨシナデナデ……師匠! 私がなります!」
「それでいいのかお前は」
マリーンを俺とウィーネで挟み込むような形で魔法区の街並みを歩く。
そうして、その日一日が終わるまで、俺は二人と魔法区ならではの買い物を楽しむのだった。




