第43話:『輝炎』の憧れ
「ふっふっふ……よもや、貴様だけを王都に……しかも『魔女』様たちと一緒に行かせるなんてそんな羨ま――羨ましいこと許すわけがないだろう『新人遅れ』ィィ……!!」
「言いなおせよ。あと、夜番くらい静かにできないのかお前は」
こんなことなら、面倒だからと普段から依頼に付きまとわせるんじゃなかった……!! と後悔しながら焚火に薪をくべる。
悪い奴ではないからと甘やかしすぎたかもしれん。
王都へは『白亜の剣』がよくお世話になっている隊商の方々が向かうそうなので、その護衛として一緒に乗せてもらうことになった。
一週間程かかるらしいのだが、パレードの始まる三日前には到着するとのこと。
んで、今俺の目の前でペラペラと小言ばかりのアホは、アイシャさんに俺のパーティメンバーだと言ってついてきたんだとか。
マジで何なんだお前は。ストーカーかよ嬉しくねぇよ……
美少女なら一考するが、こいつなら即粗大ゴミに出したい。切実に。
そして何が嫌かって、こいつがいることで王都での俺の行動に支障が出る可能性が出てきたということだ。
護衛で動けない『白亜の剣』だけならともかく、俺と同じく自由行動になるであろうヴィーヴルヴァイゼン。
はっきり言おう。めちゃくちゃ邪魔である。
早くも俺の完璧な計画に狂いが生じているのが解せん。
「(……マリーンたちと別れたら、絶対にこいつとも別行動にしよう。なお付きまとうなら全力で撒く)」
「おい、聞いているのか。そもそも僕は――」
「うっせぇな、そんなに暇ならいつも通り魔法の鍛錬でもやってろよ」
悪態を吐きながら枯れ木を焚火に投げ入れ、その枯れ木がパキパキと音をたてて炎に包まれる様子をボーッと眺める。
すると、焚火の向こう側に口を開けてこちらを見るヴィーヴルヴァイゼンが見えた。
「なんだ、変顔向けて。黙っていればかっこいいとでも思ってんのか? お前のキャラ知ってると残念にしか思わないぞ」
「いつもに増して口が悪いな貴様!? ……いや、そういうことじゃない」
「じゃあなんだよ」
一度落ち着くように息を吐き出すヴィーヴルヴァイゼン。
その行動を不思議に思っていると、唐突に「見ていたのか」と口にした。
「何をだ?」
「この僕の……魔法の鍛錬のことだ」
「そりゃ俺だって魔力があるし魔法も使うんだ。当然感知もできる。お前の夜番で急に魔法が使われたら、何かあったと思って気にはなるだろうよ」
村への遠征依頼の道中、当然ながら野営することもあった。
付いて来てるんだからと夜番をヴィーヴルヴァイゼンに任せていた際、魔力の高まりを感じて起きたことがある。
その時に見たのが、焚火の横で魔法を使うヴィーヴルヴァイゼンだった。
白い炎を手の中で大きくしたり小さくしたり、はたまた形を変えたり込める魔力の限界を試したりと夜番ができる範囲での制御訓練をやっていた。
「そう、か……ふんっ、別に隠してやっていたわけじゃないさ。魔法の才能にあふれるこの僕が、さらに努力までしているなんて知ってしまえば、実力差ができてしまうと貴様が落ち込むと思ってね」
「はいはい、すごいすごい」
まぁでも、実際凄いとは思う。ウザいけど、そこは認めなくてはならないだろう。
普段の大言壮語を真にするために行動できているのだ。
頭の中で考えていただけの俺よりもよほど立派だろう。
ウザいけど。
「貴様はやらないのか、『新人遅れ』。魔法は使えるんだろ?」
「使えてもメインじゃないからな。魔法だけのお前とは違うんだよ」
「ふん、わかってないな貴様。魔法があれば剣も『纏い』も不要なんだ。むしろ、貴様こそ今からでも魔法を鍛えるべきじゃないか? もっとも、貴様のカスのような魔法を鍛えたところでこの僕には及ばないがなぁ!」
「ここぞとばかりに煽ってくるなお前」
打って変わって得意げな様子のヴィーヴルヴァイゼンが俺に見せつけるように白い炎をワンドの先端に灯した。
「どうだこの驚きの白さ。焚火の炎もいいものだが、この僕の炎よりも尊き灯はこの世界どこを探しても見つからないだろう! ふっふっふ……どうだ、羨ましいか『新人遅れ』ぃぃ?」
「ん。白い……なんで?」
「……えらく素直だな貴様。どうした、熱でも出たのか?」
「俺じゃないぞ。ほれ、隣見ろ隣を」
「隣……?」
俺の言葉に従ってそちらに視線を向けたヴィーヴルヴァイゼン。
すると、いつの間にそこにいたのかヴィーヴルヴァイゼンの指先に灯った炎をジィーッと凝視する魔女っ娘がいた。
「……ま、まま『魔女』様ぁ!?」
「おう、マリーン。そろそろ交代の時間か?」
「ん、そう。ところでこの人……げいにん?」
「あ、ああああのあのあのあのののの……! ぼ、ぼぼぼ……!?」
マリーンの登場でいきなりバグり散らかすヴィーヴルヴァイゼン。
そんなヴィーヴルヴァイゼンの姿を首を傾げて不思議そうに見つめるマリーン。
見つめられてさらに言語がバグっていくヴィーヴルヴァイゼン。
何だこの地獄は。
「はぁ……マリーン。そいつは美術館。星3つの魔法使いだ」
「ど、どうも『魔女』様! き、『輝炎』のヴィーヴルヴァイゼンと言います!」
「いつものツッコみどうしたお前」
ヴィーヴルヴァイゼンだけではどうにもなら無そうだったので、俺の方から助け船を出してやればガッチガチに固まって訂正する余裕もないらしい。
元気よく挨拶をかますヴィーヴルヴァイゼンにいつものジト目を向けるマリーンは、暫くしてから「そう」と口を開いた。
「よろしく、白い人」
「それ物理的に白くなってないか?」
「お、『新人遅れ』……『魔女』様によろしくと言われてしまった……ど、どうしたらいいんだ……!?」
「それでいいのかよお前。字面が白粉塗ってる人みたいになってるんだぞ」
嬉しそうに俺に話しかけるヴィーヴルヴァイゼンに思わず顔を顰めた俺は悪くないはずだ。
もともと不思議っ娘のマリーンに、マリーンがいると更にポンコツと化すヴィーヴルヴァイゼン。
何だここ、ツッコミ不在か?
「何で白い?」
「ウェッ!? え、えっと……そ、それは僕にもワカラナイデス……ハイ……」
「そう」
「そんなことより、マリーン。次の夜番は任せるぞ。誰と一緒なんだ?」
「ん。リリタン。これから起こす。ボクは魔力が気になって先に起きた」
「なら起こして代わってくれ」
「ん」
トーリはおやすみ、とだけ言い残して『白亜の剣』のテントへと引き返していくマリーンの背中を見送った俺は、やっと交代かと一度大きく伸びをしてから自分のテントへと戻る。
なお、ヴィーヴルヴァイゼンが急に参加したことで本来一人用のテントを二人で使用だ。少し手狭である。
おのれヴィーヴルヴァイゼンまたしても……!
「……ん? おい、どうした。寝ないなら俺一人でテントを使うぞ」
てっきりヴィーヴルヴァイゼンも戻るかと思っていたら、焚火の前から動く気配がない。
どうしたのかと気になって問いかけると、マリーンの背中を見送っていたヴィーヴルヴァイゼンから「なあ、『新人遅れ』」と話しかけられた。
「なんだ」
「貴様に聞きたい。僕は『魔女』様に追いつけると思うか?」
「……? 追いかけたら追いつくだろ」
「違う、物理的な話じゃない。魔法の実力で、と言う意味だ」
「無理だろ」
ヴィーヴルヴァイゼンの魔法は村への遠征依頼で何度か目にしているが、それがマリーンに程かといえばそんなことはない。
細かな制御に加えて、コボルトの巣をまるごと水没させた魔法の規模など比較にはならないだろう。
努力はしているようだが、ヴィーヴルヴァイゼンのは威力のある魔法をただぶっぱしているようなものだ。
そしてその威力もマリーンが勝るだろう。
それに使える属性にしても、ヴィーヴルヴァイゼンが一種に対してマリーンは三種類。まぁこれに関してはマリーンが異常なのだが。
その答えに、「そうか……」と一言呟いたヴィーヴルヴァイゼンは立ち上がると俺よりも先にテントへと入っていった。
「何だ、お前マリーンが目標なのか?」
後に続く形でテントに入ると、すでに毛布を一枚体に巻き付けて寝る体勢に入っていたヴィーヴルヴァイゼン。
そんな彼が暗闇の中、徐に言葉を発した。
「……眠る前の余興だ。貴様にはこの僕の過去について聞かせてやろう」
「結構です」
「あれは二年前のことだ」
「聞けよ」
俺の言葉を聞くつもりもないのか、勝手にヴィーヴルヴァイゼンの過去が語り始める。
もともとは王国の端にある村の出身だったヴィーヴルヴァイゼンは、生まれながらにして魔力をもち、そして魔法を扱う素養があったということで魔法学校へと入学したそうだ。
魔法が使えて学ぶ意思があるなら平民でも貴族でも通えるところらしく、定められた三年間、継続して優秀な成績を残せば宮廷魔法使いにもなれるとのこと。
当然、ヴィーヴルヴァイゼンはそれを目指した。
だが、平民で魔法が使えるのは稀で学園の生徒のほとんどは貴族。当然ながら平民であるヴィーヴルヴァイゼンは疎まれる存在だった。
それでも、「お前なら宮廷魔法使いになれる」と信じて送り出してくれた親御さんや村の人たちに誇れるようにと励んだヴィーヴルヴァイゼンは、一年目にしてトップの成績を収めたそうだ。
「ほーん、すごいじゃん。それで?」
魔法学校、そんなところがあるのか。
意外と聞ける内容であったため、大人しく話を聞くことにした俺は続きを促した。
「ふふん、この僕にかかれば当然のことだ。……けど、その時の僕は平民がその場で目立つことの意味をよく知らなかったんだよ」
その翌年からヴィーヴルヴァイゼンに対する周囲からの反応が変わったそうだ。もちろん、悪い方向に。
所謂いじめと言う奴だが、貴族から平民へのそれは周囲で止める者がいなかった。
勉学に必要な教科書はいつのまにか読めない程引き裂かれ、筆記具は頻繁に壊される。
魔法の実習では集中的に的にされて重症を負ったこともあるらしい。
「抗議はしたさ。貴族相手には無駄だったけどね。教師には『平民なんだから仕方ない』と言われたよ」
「まったく、困ったものだったよ」と当時のことでも思い出したのかため息を吐いたヴィーヴルヴァイゼン。
そして、「そこで折れたんだ」とらしくない言葉を口にした。
自身が平民だからと諦め、退学にならない程度にわざと成績を下位にまで落としたらしい。
成績優秀者であれば宮廷魔法使いにもなれたそうだが、一年目以外下位の成績だった彼にはその可能性は残っていなかった。
関われば巻き込まれると、学校では常に一人。
「そんな時だよ。全部諦めて学校に通うだけだった僕が、彼女を知ったのは」
「彼女……?」
「『魔女』様だよ。僕が最終学年……三年のころに魔法学校に入学してきたんだが……ふふっ、今思い出してもすごかった」
なんとここで関係ありそうな話になったか、と考えながら続きを聞く。
入学早々の魔法の実技で周りの貴族たちを圧倒したマリーンは、知識も相当なもので一年目からトップを取ったらしい。
当然ながらそれが面白くない貴族の学生たちはヴィーヴルヴァイゼンの時と同じようにマリーンへの嫌がらせを開始。
しかし、まったくもって無駄だった。
知識はすべて頭の中であるため、教科書はなくても問題はない。
実技で的にしようものならみんなまとめて返り討ち。
お前らの都合など知らんと言わんばかりの圧倒的な差があったそうだ。
「絶対的な強さと、周りに関係なく堂々と我が道を行くその生き様は、同じ平民の……それも諦めてしまった僕には眩しく映ったんだ」
憧れたんだよ、と今度は嬉しそうに語るヴィーヴルヴァイゼン。
目にできたのは彼が三年生の一年間だったが、それでも十分なほど彼女の存在は彼に深く刻み込まれた。
自分も周りに関係なく、自分の意思を通して、これだと決めた道を行きたい。
そしていつか、彼女に並び立てるほどの魔法使いになった時には直接お礼を言いたいんだそうだ。
「……まぁ、星3つの僕にはまだまだ先の話だがな」
「……行動に移してるのがすげぇよ」
「……何か言ったか?」
「別に。ま、応援はしてやるよ」
それじゃおやすみ、と窮屈になりながら目を閉じる。
少しだけ。
少しだけ、俺はヴィーヴルヴァイゼンのことを羨ましいと思うのだった。




