第41話:王都行き
サランさんからの話(筆談)を聞くに、王都にいるという魔法使いの正体は子爵家の嫡子であるシルヴァ・バンデランという男らしい。年齢は22歳。
マリーンと同じく魔法学校の出身で、どちらかと言えば落ちこぼれといえる成績で卒業した風魔法の使い手。
そして身分が下の女の子に積極的に手を出していたとのこと。
だがその姿は世間を欺くための物であり、実は宮廷魔法使いを超えて竜種さえも討伐するほどの実力者だという。魔法学校ではその強大すぎる力で周りを傷つけぬよう敢えて抑えていたと。
そんな彼は竜種の出現に伴い、国のために自分が何とかしなければと行動したのだとか。今まで隠してきた強大な力をさらけ出すことになろうともだ。
隠していた実力も、実際に宮廷魔法使いと腕比べをして圧倒して見せたことで証明したらしい。
曰く、宮廷魔法使いは優秀な成績で魔法学校を卒業した者のみがなれる、希少な魔法使いの中でも上澄みの連中なんだと。
それを圧倒できるということは、まぁかなりの実力者であることは本当なんだろう。
そして竜種2体の討伐という前代未聞の大偉業を成したシルヴァ・バンデランはその偉業を称えられ、第一王女であるリュミネール王女と結婚することを求めた。
学生時代にいろんな女の子に手を出していたことについても、今回の一件で英雄色を好むという解釈がされているらしい。
近日には王都でシルヴァ・バンデランとリュミネール第一王女の結婚を祝うパレードが催されるのだとか。
『あたしが調べた『竜殺しの魔法使い』の話は以上よ。アイシャの頼みだから引き受けたけど、調べただけで嫌悪感がすごいわ』
「……そ、そうですか」
はっきり言おう。
キレそう。
サランさんによってツラツラと書かれていく文章を見ながら怒声をあげなかった俺を褒めてやりたいが、きっと我慢できずに頬が引きつっているだろう。
俺の顔を見たサランさんが首を傾げるが、気にしないでくれと手で制して下がった。
要はあれか? 俺の功績を丸々横取りしていい思いをしようとしてる奴がいるってことだよなぁ???
は? 何それ許せないんだが?
強大な力を隠してきたが国の危機だからとさらけ出したぁ? 自分が何とかしなければぁ? はぁ? よく言ったものである。
挙句には王女様と結婚? 今まで周りを傷つけないように実力を隠してきたやつがいきなりそんなこと言いだすものかよ。
それに気づかない程、王家というものは愚鈍か?
ふ、ふざけやがってぇ……!! 俺の名声で好き勝手とか、許せねぇよなぁ!?
「トーリ、怒ってる?」
「怒ってないよ」
こちらを覗き見るマリーンに、笑顔で答えれば「そう」と一言だけ呟いてマリーンは下がっていった。
「しっかしパレードとは……随分と盛大にやるんだな」
「何せ国を救った英雄とリュミネール王女の結婚式だもの。国を挙げての催しになるでしょうね」
「……? その割には浮かない顔だな、アイシャさんは」
「大ありよっ!! あっ」
ダンッ! とアイシャさんがカウンターの席に拳を振り下ろすと同時に、カウンターの木材がバキッ!! という音をたてて割れた。
いつか見た日の焼き直しだなぁ、と俺は店員さんを呼んで事情を説明してから下がってもらった。
「……すみません、つい」
「俺は良いけど、後で弁償した方がいい。それで? アイシャさんは何が不満なんだ? さっきは入れ違いになったって憤ってたと思うんだが」
反省したのか、シュンとした様子のアイシャさん。
そんな彼女の先ほどの意見に賛同しながら話を聞こうと、俺は彼女の隣の席に腰を下ろした。
「見つからなかったのが別の場所で見つかったのなら、文句の一つでも言いたくなりますわ。それにトーリさんは知らないと思いますが、私は以前『竜殺しの魔法使い』に会っていますの」
「へぇ……そうなのか。それがシルヴァ・バンデランだったと?」
本人だから知ってます、と内心で零しながら驚いたように先を促す。
「わかりませんわ。ちゃんと姿を見たわけではありませんし……でも、一度言葉を交わしているからこそ、『竜殺しの魔法使い』が噂に聞くシルヴァ・バンデランの人物像と結びつかないのですわ」
確信めいたようにそう言い放ったアイシャさん。
何でも、シルヴァ・バンデランという男はとんでもなく女癖が悪いらしく、貴族の子女たちの間でもあまり良くない噂が流れているらしい。
「そんな男がもし『竜殺しの魔法使い』であったなら、あの時……私達に何かしらの報酬を求めてもおかしくはありませんもの。女癖が悪いなら特に」
「……なぁ、マリーン。あれ、自分は顔がいいって堂々と言ってるよな」
「ん。でも実際そう。トーリは思わない?」
「……いや、お前ら皆容姿はいいからなぁ。間違ってはいないと思う。しかし、人物像が結びつかないと来たかぁ……」
「ん。アイシャは実際に会って話したって聞いてる」
ずるい、といつものジト目の三割増しでアイシャさんを見るマリーンに呆れていると、「ですから!」とアイシャさんが再び立ち上がった。
「改めて、この目で確かめるのですわ!」
「ん? どうやって確かめるんだ?」
「今度な、オレたち『白亜の剣』全員で王都に行くんだよ。はむっ……パレードの間、王女様の護衛を頼まれてんだ」
俺の疑問に答えたのは、カウンターの背後の席でいつの間にかランページファングのステーキを食べているリリタンさんだった。
彼女は「うめぇー」と一気にステーキを平らげると、口の端に着いたソースを指で拭う。
「なんせ、アイシャはリュミネール王女と親友の間柄だからな!」
「ああ、確かそんな話も聞きましたね」
「ええ。護衛として近くにいるのなら、シルヴァ・バンデラン本人とも話す機会もあるはず。もし彼が本当に『竜殺しの魔法使い』であるなら、リュミネール王女との結婚も納得は致しますわ」
「違ったら?」
興味本位で聞いてみれば、アイシャさんは「そうですわねぇ……」としばらく考えた後、片手を鞘に添える。
「『斬姫』の名の通り、切り刻んであげますわ」
待っていなさい、シルヴァ・バンデラン……! と意気込みも殺る気も十分のアイシャさんを苦笑交じりに見ていると、不意に背中を突かれた。
見れば、マリーンがジィッとこちらを見ていた。
「……どうした?」
「ん。ボク、今度また王都に行く」
「お、おう。そうみたいだな」
「…………むぅ」
「え、なに。な、なんで今怒ったんだ?」
意味もなく急にムスーっとし始めたマリーン。
そんなマリーンの態度に対して、目の前で手を振りながら「どうした?」と話しかけているのだが何故かまるっとジト目を逸らして無視される。
仕方ない奥の手だ、と突き出した四本指のそれぞれに炎と水球と小石と小さな竜巻を浮かして見せれば、その一瞬だけものすごい食いつきを見せる。
が、何かを思い出したかのようにハッとするとすぐさまそっぽを向かれ……向か……いやめっちゃ見てるわこの娘。俺の指先の宴会芸が気になって仕方ないらしい。
そんな俺たち二人の様子を見ていたのか、アイシャさんがクスリと笑った。
「もしよければトーリさん。あなたも私達に同行して、王都に行ってみませんこと? 私たちがパレードの護衛をしている間は自由行動になってしまいますけど」
「……え、俺が?」
驚く俺にアイシャさんは「もちろん」と頷いて見せる。
「でも俺、まだ星3つだぞ? 『白亜の剣』と一緒になんてそんな恐れ多いこと……」
もちろん、興味はある。
何せ王都。この国で一番の都市だし、一度行けば『転移』先にも指定できる。
いつかは行こうと思っていたが、こんな風に誘われるとは思ってもみなかった。
「あら、私たちは気にしてませんわよ? それに昇格試験とは言え一度はご一緒してますし、あなたなら信用もできますわ。それに……」
チラ、と俺の背後へと視線を向けたアイシャさん。
すると後ろからヌゥッとマリーンが現れる。
「トーリ、王都来る」
「どうした急に」
「むぅ……今なら、ボクの案内付き。……お、おいしいお菓子のお店もある」
「うふふ……素直に言えばよろしいのに」
アイシャさんが何か呟いたように聞こえたため視線を向けてみたが、何でもありませんわと首を振られた。
しかしマリーンのやつ、何故そこまでして俺を王都に誘いたがるのか。行くなら自分で行く方が『転移』が使える分楽だし、わざわざ『白亜の剣』の面々と共に行動する必要はな――
「(……待てよ?)」
トーリ、天啓降りる。
「(もし俺がこいつらと王都に行ったとしよう。とすると、当然ながら俺は王都でのパレードに居合わせるわけだ……)」
ピンときた。
見えたぞ、次なる俺の舞台が……!
「(王都のパレード中に、俺を騙るそのシルヴァ何とかの前に颯爽と登場! 俺の名を騙る偽物だと煽ってやれば、当然ふざけるなと、奴を捕らえよとこうなるわけだ。そこで見せつける圧倒的な実力! 見事そのシルヴァなんとかの計画を打ち砕き、俺の存在を王都中に知らしめた上で姿を消す。王都に現れた謎の魔法使いこと真の『竜殺しの魔法使い』……シルヴァ何某ではないと判明した今、ではその正体は誰なのか! どこから現れたのか! 噂が噂を呼び、王都の民たちは新たな伝説を語り継ぐようになる……! そして偽物ことシル何とかは全ての悪行を晒され、手を出してきた女の子達の手でボッコボコよぉ! ざまぁみろぉ! ハーレムなんか許すか馬鹿たれぇ!)」
フッ……完璧だ。完璧すぎる計画だ……!
最後は観光に来た星3つの冒険者として王都の酒場で飲めばいい。
実に……良い……!!
「……クフッ」
「トーリ?」
「何でもない」
ただ唯一の懸念点は、この作戦を実行する場合彼女ら『白亜の剣』とともに王都に向かう必要があるということだろう。
残念なことに、俺は王都までの道をまだ知らない。
まだ知らない場所には『転移』で行くことはできないため、当然ながら王都まで向かう必要がある。
一人で道を調べて向かうことも考えたが、その場合王都で彼女らと鉢合わせた際に何を言われるかわかったものではない。特にマリーン。
断ったくせにとか言って水攻めにされる未来が容易に想像できる。
ならいっそ、行きは彼女らとともに移動すればいい。普通にしている分には彼女らに俺がその魔法使いであるとバレる心配もなさそうだし、肝心の場面では俺と彼女らは護衛と自由行動で別になる。
魔法使いの俺が出たときに剣士の俺がいない……まさか!? みたいな展開には決してならない!
ふっふっふ……この勝負、勝ったな!!
ババーンッ! と効果音でも突きそうな内心の興奮は表に出さず、努めて冷静に「ぜひ、よろしくお願いします」とアイシャさんに頭を下げる。
「ふふ、決まりですわね! では、二日後の朝に西門に準備をして集合ですわ!」
「トーリ、王都のお菓子屋さん、教えるっ」
「あ、おいちょっとマリーン」
服の裾を掴んだマリーンに連れていかれる形で、ギルドを出る。
その後、俺は王都のおいしいお菓子についてマリーンからレクチャーされながら、明後日に迫る王都行きの準備を進めるのだった。
◇
「この僕もいるのさ! 『新人遅れ』、同じパーティの仲間として、ついて行ってやろうじゃないか!」
「あ、トーリさん。最近よく一緒にいらっしゃったので彼も誘っておきましたわ。サランが許してませんので、寝泊まりは私たちから離れてもらうことになりますけど」
「……オマエ、ケンノサビニスル」
「そ、そこまで言うことはないだろう!?」
何かいた。




