第39話:男二人をヘッドロック
以前にも語った通りなんだが、ここ最近俺はボーリスの外の依頼を中心に受けてきた。
その理由としては、噂話に尾ひれが付きすぎてもはや別の話になっていたこと、それに伴って酒が進まなくなったこと、そして『白亜の剣』による魔法使いの捜索が激化したことが挙げられる。
流石にバレないとわかっていても不安になるため、できるだけボーリスにいないようにしてきたわけだ。
「……ない」
「ん? 何がないんだ、新人遅れ……?」
ボソリと口に出た言葉は街の人たちの喧騒の中に消えていく。
開拓村での事件から少し経ったある日のこと。
いつものように外の依頼を終えて一泊し、俺は昼過ぎにボーリスへと到着した。
いつもよりも離れた村だったことに加えて、これまたいつも通りの美術館がいたことにより往復と討伐で一週間ほど留守にしていたのだが、帰ってきた街にはあるものがなくなっていたのだ。
「張り紙が、ない……」
「張り紙……? ああ、例の魔法使いのか。確かに見当たらないな。僕らが街を出る前はそこら中にあったが……」
俺の言葉に周囲を見回したヴィーヴルヴァイゼンも、不思議そうに首を傾げた。
まさか、その正体が俺だとバレたのか……? もうわかってしまったから、張り紙を張る必要がなくなったのか……?
だとしたらまずい。このままギルドに行けば、確実に捕まってしまう……!
――トーリさぁぁぁん??? あなたが例の魔法使いだったんですわねぇぇぇぇ???
――トーリ、マジ、ユルスマジ。マリーン、ゲキオコ
主に二人の顔が頭によぎり、背中には嫌な汗がダラダラと流れた。
「……おい、美術館」
「なん……っ!? 違う!! ヴィーヴルヴァイゼンだ! 最近呼ばれ慣れて、危うく反応して頷いてしまうところだったじゃないか!?」
「そんなことはどうでもいい……!! お前、今日は一人でギルドに行って依頼の達成報告をやってこい……!! 何なら今回の分の報酬はお前にくれてやる……!!」
村長のサインが書かれた写しの依頼書を懐から取り出した俺は、それをグイとヴィーヴルヴァイゼンの胸元に押し付ける。
その突然の行動に「ちょ、おい、待て『新人遅れ』!」とヴィーヴルヴァイゼンは手首をつかんで押し留める。
「いったいどうした急に貴様らしくもない……! だいたい、依頼を受注したのはお前であってこの僕ではない……! 達成報告は貴様がするべきだろう!?」
「うるせえ! いつも勝手に付いて来ては勝負挑んで負けてんだ! 今回くらい役に立ちやがれ……!」
「それはちょっと言い方がひどくないか貴様!? あ、クソ貴様『纏い』まで使って押し付ける気か!?」
生意気にも俺と力比べをしようとした馬鹿をわからせてやろうと、軽くではあるが強化した腕でその手の依頼書をヴィーヴルヴァイゼンの懐へとねじ込む。
よし、あとは俺がダッシュで離脱するだけだ、と内心で喜んだ時だった。
「お? なんだ、トーリじゃねぇか!」
ズイ、と俺とヴィーヴルヴァイゼンの横から影が差した。
二人してその影の主を見上げれば、その影の主はニカッと気持ちの良い笑みを浮かべた。
「久しぶりだな! 最近めっきり見かけねぇからマリーンの奴が寂しがってたぜ? ギルドに行ってはキョロキョロしてやがったしな」
「リ、リリタンさん……ど、どうも……」
「ごっ、ごごごご『剛槍』ぉぉぉぉぉ!?」
『剛槍』リリタン。
マリーンやアイシャさんと同じ『白亜の剣』に所属する星5つの冒険者。
魔力持ちではないものの、その膂力は『纏い』を使った者にも勝るという。
魔力がないだけであり、技量も膂力も、すべてが星6つと同等。何なら魔力無くてもこの人なら星6つでいいんじゃね? と思わなくもない。
イーケンスも星5つであったが、まさに格が違うと言えるだろう。
そんな彼女の腕が、がっしりと俺の肩を組んだ。
あっ……
「ここで会ったのも何かの縁だ。一緒にギルドに行こうぜ! どうせ今から依頼の達成報告に行くんだろ?」
「いやあの、俺はちょっと……か、代わりにこいつが報告に行く予定なんで!」
リリタンさんの登場で未だに固まるヴィーヴルヴァイゼンを指さした。
すると、リリタンさんは「あん?」とその視線を向けた。
「ウェッ!?」
「……おお、何だお前、顔がいいな。トーリ、お前ソロだったのにいつの間にパーティ組んだんだ?」
「そ、そんなことより、俺は他に用があるから離してください……! 連れて行くのはこいつだけで十分ですから……!」
「ならお前も一緒にいくか! 名前は?」
ダメだ、全然話を聞いちゃくれねぇ……!?
更にグッと力のこもった腕を何とか外そうと試みるのだが、全然ビクともしない。
「あ、ああああああのあののののの……!?」とバグっているヴィーヴルヴァイゼンの肩を俺と同じように組んだリリタンさん。
「(……っ!? ま、まさかリリタンさんも俺の正体をすでに……!?)」
いや、もしアイシャさん達にバレているのであればリリタンさんが知らない、何てことはあり得ない。
だからこそ、俺を逃がさないように捕まえているのか……?
だとしたらまずい。
本当にまずい。
何がまずいってもうすでに詰んでいるのがまずい。
「ぬ、ぬぉぉぉぉぉぉぉ!?」
俺はできる限りの全力を出してリリタンさんの拘束を外そうと試みる。
万が一俺の早とちりという可能性も考えてできる範囲での『纏い』も試すのだが、それでもリリタンさんの拘束は外れない。
この人本当に魔力無いんだよな!?
「お、何だトーリ。すげぇ元気じゃねぇか! そんなに元気なら、ちょうど両手にいい男が揃ってることだし、オレと一緒に歓楽街にしゃれ込むか?」
拘束してくる腕にさらに力がこもる。
たぶんリリタンさんもやりすぎないよう気を付けているのだろう。絶妙な力加減で抜け出せないほどの力なのに痛くないという摩訶不思議現象が起きていた。
そしてそのせいか、俺の顔に彼女の大きくて柔らかいものが押し当てられている。
かなり鍛えられているというのに、その部分だけはこれほどまでに柔らかいだと……!? と内心で声をあげている男の子を鋼の精神で抑え込みながら言葉を紡いだ。
「……え、遠慮しておきます」
「あわっ、あわわあわああわわわ……!?!?」
ヴィーヴルヴァイゼンはダメそうだった。
「ま、冗談だ冗談。そんなことしちまったら、オレがマリーンに殺されちまうよ」
んじゃ行こうか、とリリタンさんに引きずられる形でギルドへ直行(傍から見れば連行)する俺たち三人。
「(もし万が一、正体がバレていての追求だったら……『転移』で逃げて国を出るかぁ)」
マリーンや親父さん、リップちゃんたちには悪いと思うが、それでも俺は夢を追いたい。
また別の、全く関係のない場所でやり直すことにしよう。
何故か気に入られてリリタンさんに話しかけられるたびに、きょどりまくって口ごもるヴィーヴルヴァイゼンを見ながら、俺は素直に連行される。
頼むから正体バレしてないでくれ、と転生して初めて俺は神に祈るのだった。




