第38話:異変の報告
ボーリスまで戻った俺たち二人は、ギルドに事の次第を報告した。
内容を確認したエリーゼさんが慌てた様子で後ろの扉へと引っ込んでいくと、暫くしてから俺とヴィーヴルヴァイゼンを受付まで呼び出す。
「ギルドマスターがお二人から直接お話を聞きたいそうです」
「ギルドマスターが?」
「はい。この後お時間はよろしいでしょうか?」
その問いに了承すれば、早速とエリーゼさんに案内される。
普段は入ることができない受付の奥の扉。
その奥へと進むのだが、俺とは対照的にもう一人はガッチガチに緊張している様子だった。
「なんでそんなに固くなってんだよお前は……」
「ぎゃ、逆に何故そんなに落ち着いていられるんだ貴様は……!? ギルドマスターと言えばソロで星6つにまで至った伝説的な冒険者だぞ!? 僕ら冒険者の憧れと言っても過言ではない……! そ、そんな伝説がこの、ぼ、僕にちょ、直接話を聞きたいと言ってるんだぞ……!?」
「俺とお前だし、お前はそもそも俺の依頼に勝手についてきただけだけどな」
興奮気味のヴィーヴルヴァイゼンに辟易としながら、エリーゼさんの後に続いて階段を上る。
しかしここにきて直接あのマッチョじいさんとご対面になるとは思わなかった。
一応、この間話したときは声も意識して変えていたため大丈夫だとは思うが、それでも会いたいと思う相手ではない。
しかし、謎の魔法使いのスタイルならともかく、今はこのギルドに所属する冒険者身分であることに変わりはない。
今日だけは仕方ないと諦めるしかないだろう。
「ギルドマスター。お二人をお連れしました」
「わかった、入ってくれ」
失礼します、とエリーゼさんが部屋へと入る。
その際、壁際に罅割れた扉の残骸が目についたのだが、入室早々に「気になるか?」と声をかけられる。
その声に前を向けば、そこにいたのは以前見かけた上裸のマッチョ。
のトライセップス。
……なんでポーズとってんだこの人。
「扉が壊れてるのが気になるか?」
気にしてるのはそこじゃないです。
「は、話しかけてもらったぞ『新人遅れ』……! あの伝説の『魔物食い』に……! お、同じポーズをとった方がいいだろうか……!?」
「絶対やめろ」
ツッコミが追い付かなくなる。
ボーリスのギルドマスターにしてソロで活躍したという元星6つの冒険者。
『魔物食い』ボールス。
一人で『帰らずの森』へと何日も潜り、時には狩った魔物を喰らって狩りを続けていたという。
そんな、冒険者たちにとっての伝説が目の前にいるからか、先程から美術館の頭がおめでたいことになっている。
「ついこの間、『白亜の剣』の『斬姫』がぶっ壊しやがってな。まだ修理できてねぇんだわ」
「そ、そうですか……」
「ではギルドマスター。私はこれで」
「おう、ご苦労さん」
頭を下げて部屋を出て行くエリーゼさんを見送れば、ギルドマスターが「まあ座れ」と部屋の隅にあったソファを顎で指した。
それに従い、俺とヴィーヴルヴァイゼンは席に着くのだが、となりのアホは足と手が同時にでる珍妙な歩き方をしている。
「では早速だが、説明の方を頼む。一応エリーゼからも話は聞いているが、本人たちの口からもう一度聞きたい」
「わかりました」
着席して早々に切り出したギルドマスターの言葉に頷いた俺は、昨日開拓村で見たこと全てを話した。
人のいない静かな村、家から湧き出て来るゴブリン、銀色の首輪。全滅した開拓村。
そして俺が出会った深紅のローブの男。
「なっ……!? 貴様、『新人遅れ』! 僕はその話聞いていないぞ!!」
「今話したからいいだろうが。第一、お前勝手についてきただけだろ。あの場で全部話す必要はない」
まぁ一番は面倒くさかったってだけだが。
「ん? なんだお前たち。パーティの仲間じゃねぇのか?」
「違います」
「ふんっ、むしろこの僕が善意で組んでやっているにすぎないというもの。この『輝炎』ヴィーヴルヴァイゼンが、そう簡単に仲間になると思わないことだな!」
「お前後ではったおすぞ」
「……まぁ、そこらへんは自分たちで折り合いをつけてくれ。今は報告の続きだ」
個人的には、勝手についてくる隣の馬鹿にギルドマスター自ら注意してほしかったんですがねぇ。
はぁ、と内心で溜息を零しながら俺は報告を続ける。
そして男が最後に残した言葉について伝えた際に、ギルドマスターの表情が曇った。
「勇者様万歳……?」
「はい。確かにそう言っていました」
そう言えばギルドマスターは「そうか……」と俯いて黙り込む。
何か心当たりでもあるのかと考えたが、それっきりギルドマスターは何か言うことはなかった。
そして話が終わると徐にソファから立ち上がった。
「とりあえず、開拓村周辺には調査の冒険者を送っておく。お前さんらの報告、感謝するよ。少し考えることができちまったがな。報酬は通常の額に色付けて渡してやらぁ」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます……」
それだけ言って俺たちも立ち上がり、ギルドマスターの執務室を後にするのだった。
◇
「……勇者様万歳、ね」
トーリたちが部屋を出た後、ギルドマスターであるボールスはぼそりと呟いた。
「勇者教……どっかで噂には聞いたことがあったが……確か勇者を神と崇めるイカレ集団、だったか? まったく、こっちは地竜の件で天手古舞だってのに余計な面倒を持ち込むんじゃねぇよ……」
はぁ、とため息を吐いたボールスは引き出しから葉巻を取り出す。
吸わなきゃやってらんねーよ、と自身に言い訳するように火をつけた。
「かつては魔王と魔王が操った魔物の脅威から世界を救った勇者。その勇者を崇める連中が、勇者が守った平和を乱そうとしてるとはなぁ……」
いったい何がしたいのやら、と煙を吐き出した。
実のところ、ボールス自身勇者教の実態について詳しいことはわからない。
そもそもの話、勇者教なんてものはいつの間にか消えている新興宗教のうちの一つだったのだ。
神ではなく、勇者を崇める、という物珍しさからその名を覚えていたにすぎない。
「魔物を操る首輪……そんなものが存在しているとして、奴らは何がしたいんだ……?」
今回の件で明らかになったのは開拓村が一つ全滅したこと。その原因がゴブリンであること。そしてそのゴブリンに勇者教が関わっている可能性があること。
開拓村を潰すことが勇者教の果たしたかった目的なのか?
「……ダメだな考えてもわからねぇ。そもそも俺は頭使うより体を動かすのが性に合ってんだよなぁ……」
とりあえず、注意だけはしておくか、と葉巻を吹かすのだった。
◇
「ほれ、報酬」
エリーゼさんから受け取った報酬の内、半分ほどを別の袋に入れてヴィーヴルヴァイゼンへと放って渡した。
投げ渡された袋を慌てて受け止めたヴィーヴルヴァイゼンは、その中身を見て俺を見る。
「半分も……い、いいのか……? 貴様が言う通り、僕は勝手について行っただけなんだが……」
「今回に関しては、な。いつもは勝手についてきて迷惑にしかならねぇから夜番の報酬くらいしか渡してないが、今回に関しては事故みたいなもんだ。巻き込まれたお前も被害者だろ」
後はこいつの魔法を見れた、そのお礼みたいなものだ。
こいつのせいで空間魔法が使えなかったことは確かだが、それでもマリーン以外の魔法使いの魔法を見れたというのは大きい。
「ま、運がよかったくらいに思って受け取っとけ。お前の魔法も役には立ってたしな」
「……ふふん、何だ『新人遅れ』。さては、この僕のすごさにようやく気付いたな? まぁこの僕! の魔法を目の当たりにしたのだ。当然のことではあるだろうが、貴様の剣もなかなかのものだった。どーしても、と言うのであれば、まぁ仕方なくではあるがこの僕が貴様とパーティを――」
「それは別にいいわ」
ヴィーヴルヴァイゼンの戯言を無視し、「んじゃ、お疲れさん」と言って俺はギルドを後にする。
多めに報酬ももらったし、今日はリップちゃんにお菓子を買って帰ることにしよう。
「さて、何を買って帰ろうか」
そう口にした俺は、まだ陽の高いボーリスのメインストリートをぶらぶらと物色するのだった。




