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【WEB版】転生した空間魔法使いは正体隠して目立ちたい!~それ俺ですとは言いません~  作者: 岳鳥翁
第4章:瞳に映すは冒険者

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第130話:騒動のその後で

「災難だったな、お互いに……」


「ですねぇ……」


 受付に座る包帯でぐるぐる巻きになったソドマスさんの言葉に同意するように頷いた俺は、その辺で買ってきた肉串を頬張りながらギルドの椅子に座って寛いでいた。

 そんな様子を、「暢気すぎないかお前さん……」と呆れたようにソドマスさんが肩を落としてため息を吐く。


「一応怪我人だったろ? あの時は血だらけだったのに、安静にしてなくていいのかよ」


「俺の怪我は全部軽傷ですよ。血が出てたから酷く見えただけで、ポーションを使えばすぐに復帰できる程度の傷でしたから。……まぁ、傷はともかく、服装がボロボロだったのでリップちゃん達には心配されましたけど」


 ほらこのとおりと元気に力こぶを作ってみせると、ソドマスさんは「若いっていいよなぁ」と一人ぼやいていた。もっと若いと思っていたのだが、意外にもソドマスさんは四十を超えていたらしい。


 そう、俺は若いのである。


 とまぁ、そんなどうでもいい話は置いておこう。肝心なのは、あれから今までの間の数日間で何があったのかということだろうか。


 まずはレオタイガとの戦いについて。

 無魔領域という魔法が使えないあの場において、俺の剣の技量と『纏い』による力のごり押しではレオタイガの速さを捉えることはできなかっただろう。

 もちろん慣れさえすればいつかは撃破可能だったが、それはそれでかなり時間がかかることも事実。


 ではどうすればいいのか。それを考えて出した作戦が、捕まえるために近づいてもらおう、というものであった。


 フェイルさんが説明していた通り、体外へ放出した魔力が霧散するために魔法が使用できないのが無魔領域だ。そのため体の内部……つまり魔力を体内で使用する『纏い』あるいはレオタイガが使用していた『聖鎧(せいがい)』は使用可能となっていた。


 ならばそれは、体内であれば魔法が使用可能である、ということにならないだろうか。

 体外の魔力が霧散するなら、霧散しない体内であれば問題はないはず。


 そう考えて体内で試し、そして成功したからこそ実行に移した。予想以上に早く成功できたのは、フェイルさんの作った補助魔道具による制御によるところも大きかっただろう。


 では俺が何をしたのかだが……やったことは至極単純で、俺の皮膚下に『分隔』の壁を展開するというものだ。

 違和感を持たれてしまうと作戦が失敗する可能性もあったため、使用したのは話して戦闘が中断していた時と、死を偽装するための攻撃を受けた時の二回だけである。例え魔力の感知ができていたとしても、『纏い』も使用していたためわからなかっただろう。


 そして作戦は無事成功。死体をどうこうと話していたため、死んだように見せれば近づいてくれる可能性が高いとは考えていたが……上手くいって何よりである。


「……フェイルさんにも礼を言っておくか」


「何か言ったか?」


「ソドマスさんにお礼を言ったんですよ。あの後、俺が冤罪だったって街の人たちに説明してくれたんですよね? ありがとうございます。助かりました」


 串に残った最後の肉にかぶりついて言えば、「食いながら言うことじゃねぇだろ……」とソドマスさんは苦笑を浮かべた。

 そもそもの話、俺は言いがかりで教会に捕えられていたため、街に戻った際には脱走したのでは? と街の住民の目は懐疑的であった。


 それを解決してくれたのが、何を隠そうソドマスさんである。

 街の顔役だというあの言葉は嘘ではなかったらしく、俺自身にかけられていた疑いは事実無根の冤罪であったことを説明してくれた。おかげで、晴れて俺は身の潔白を証明できたのだ。

 俺としても、その辺のことを考えていなかったので本当にありがたい。無計画で行動することの弊害を改めて考えさせられたというものだ。これからは足を向けて寝れんなこりゃ。


「よせよ。俺も、お前さんには助けられた側だ。それに借りを作りっぱなしは性に合わねぇ」


「それでもですよ。おかげで街の人たちの誤解も解けたし、また子供たちと遊べるんですから」


 この後も広場で冒険者ごっこに誘われてるんですよ、と自慢げに言えば、ソドマスさんはよかったなと笑ってくれた。

 ソドマスさんも一緒に遊ぶかと聞いてはみたが、そんな年でもないし怪我してるから無理だと断られてしまう。そりゃそうだ。


「それよりトーリ。アリットさんだっけか? 俺と一緒の牢屋に入ってた人の容体はどうなんだ。確かお前さんの知り合いの家で療養中なんだろ?」


「彼女のことなら問題はありませんよ。今もマーサさん……俺の知り合いの家で休んでいます。あんな環境で十分な食事がとれない状態が続いてたので弱っていましたけど、今はもうだいぶ回復しています」


「そうか、ならいい。確か娘さんも一緒なんだろ? 再会できてよかったじゃねぇか」


 ソドマスさんの言葉に、俺は笑みを浮かべて「ええ」と頷いて見せた。


 本来であればアリットさんのように療養が必要な人を寝かせるには教会が一番適しているのだろう。しかし今の教会には治療の出来る神官は一人として残っていない上に、そもそも彼女が弱っている主たる原因は教会にある。


 目が覚めた時に教会の中であればいい気分ではないはずだ。だからこそ、俺は他に休める場所としてアリットさんをマーサさんの家に連れて行ったのだ。

 マーサさん達も彼女がピューリスちゃんのお母さんであると知って、快く休める場所を提供してくれた。更には食事まで作ってくれるとのことだったので、それに甘えさせてもらった形である。


 改めてお礼と、療養でかかった代金を受け取ってもらわなければ。


 そしてピューリスちゃんであるが、あの戦いの翌朝には俺と一緒に研究室から戻ってこちらに合流している。今頃はマーサさん宅でアリットさんと一緒に過ごしているだろう。


 迎えに行った際の「私の『ウツセルクン!』がぁ~!? 食費がぁ~!?」と延々と泣いて転げまわっていたチクショウエルフの姿を記憶の端へと追いやり、俺は肉のなくなった串を手にして立ち上がる。


「それじゃ、俺はこの辺で。串を返して子供たちに合流しないとですから」


「おう、明日にはボーリスに戻るんだっけか? いいんだぜ、このままこの街にいてもよ。大歓迎だぞ?」


「ありがたい話ですけど、それをすると拗ねそうな友人がいますので……」


 ふと青髪の少女のジト目が思い浮かぶ。

 想像の中でも相変わらず無表情で、しかし何となくしょげているのがわかる魔法使い。


「……女か?」


「言い方よ」


 ニヤリとからかうように笑うソドマスさんの言葉に眉を顰めるのだが、そんなことは知らんとばかりに受付から出てきたソドマスさんが俺の背中はバシンと叩いた。


「いいかトーリ、人生の先輩からの助言だ。好きな女がいるなら、とっとと捕まえろ。俺たちは命を掛け金にする冒険者だからな。手を出さずに死んで後悔する、なんてことにならねぇようにしておけよ」


「……ソドマスさん、独り身なのでは?」


「下手な誤魔化し方すんなっての。……ま、あくまでも助言だ。どう行動するかは自分で決めるこった」


 もう一度、今度は軽く叩くように俺の背を叩いたソドマスさん。

 そんな彼に向けて一度礼をしてからギルドを出ようとした俺だったのだが、直前で「トーリ」と名前を呼ばれて振り返った。


「最後に聞きてぇ。お前さんは俺たちが地下から逃げた後、顔を隠した誰かに助けられたと言ったが……あれは本当のことか?」


「ええ。本当ですよ」


 向けられた疑問に、俺は悩むことなく即答する。

 ソドマスさんが地下から脱出した後について、俺は「レオタイガ相手に時間を稼ぎ、もうダメだと思ったところで仮面の男に助けられた」と説明している。

 

 普通に考えれば、元星6つの冒険者であるソドマスさんが敵わなかった相手に星3つの俺が勝てるはずはない。

 そしてそれが事実だと広まってしまうのは俺個人としても望むところではないため、お粗末であっても俺ではないと話さなければならなかった。


 ……まぁ、俺を助けた仮面の男がどれだけすごかったのか、あることないこと捏造して話すのは正直すごく楽しかったです。何せ真実を知るのは俺ただ一人。つまり話は盛り放題ということだ。

 今度は自分から噂話の発起人になるのもありかもしれない、などと頭の片隅で考えていると、「はぁ……」とソドマスさんは息を吐いた。


「わーったよ。ほれ、ガキどもと遊んでくるんだろ? ちゃんと楽しませてやってくれ」


「わかってますって」


 それじゃあと俺は片手を上げ、急ぎ足でギルドを出る。

 レダくんたちとの約束の時間までもうあまり時間がない。遅れたらきっと、冒険者ごっこでも不人気な討伐される魔物役だ。


「……その時は地竜役でもやるか!」


 討伐せんと襲い来る冒険者など何するものぞ。

 ギャオー! などと記憶にある地竜の咆哮を真似しながら、俺は駆け足で広場へと向かった。


 なお、案の定地竜になりきった俺は、子供たちに討伐されるのだった。



「……その誤魔化し方は、さっきよりも無理があるっての」


 トーリの背中を見送ったソドマスは、一人ギルドの受付に座ってそうごちた。


「冤罪で捕まってた教会から助けてくれたのも、あの地下でレオタイガを倒したのも、全部その仮面の男ってのはなぁ……」


 思い出すのは、ソドマスがアリットを背負って街へ向かっていた時のこと。

 後ろから追いかけてきた人物を警戒して振り向けば、そこにいたのがトーリだった。


 『た、助けてもらったんです! ここは俺に任せて先に行けって! あと、倒してしまっても構わないんだろう? って言われました!』


 レオタイガはどうしたのかと、そう問うたソドマスに対するトーリの返答である。

 興奮しているためか、血だらけの体からは更に血が流れ出るその姿には流石のソドマスも焦りを覚えた。


 だがハンルドへと戻って休み、翌朝になって事態の詳細を調べてわかったことがある。


 ハンルドの特徴でもある巨大な教会。

 その教会には昨日までいたはずの聖騎士と神官の姿がどこにもなく、教会の大聖堂には微かな血痕が残されていたのだ。


 この場所で何があったのか、誰が死んだのか。ソドマスには何となく理解できた。


 そして更に調べれば、聖騎士たちによってトーリが教会に連行されていたという。 


『俺も冤罪だって言ってたんですけどね? 聖騎士の人たち全く話を聞いてくれないんですよ。取り調べはまた後日だー、なんて言われてたんですが……夜になって仮面の男が俺を牢から出してくれたんですよ! そして彼は言うんです。異界の御使いが共にした聖なる乙女。清浄たる彼女の加護を得た泉に、己が無実を証明する獣がいる、と! だから教会を出てすぐ、泉の森に向かったんですよ!』


 連行された後のことを聞いた際の、トーリの言葉である。

 正直なところ、後半の意味はよく分からなかったソドマスだったが、要は仮面の男が泉の森へ向かうように言った、ということなのだろう。


「だがなぁトーリよ。向かえと指示された人間は、助けに来ました、なんて言わねえんだ」


 地下の牢屋で彼が口にした言葉を思い出したソドマスは小さく笑う。

 他にも、あの時手に持っていた魔道具は何なのか。あのレオタイガという凶暴な男を相手にして、軽傷で済んでいるのは何故なのか。色々と聞きたいことはあった。


 しかし


「……まぁ、命の恩人だ。野暮なことは聞かねぇよ」


 体の負担にならないようにゆっくりと立ち上がったソドマスは、今朝届いたばかりの資料を手に取った。

 そこに書かれていた内容は、今後のハンルドにおける教会の動向について。

 

「……調査と人員の再配置、ねぇ。一ギルドの……それもこんな小規模なギルドのギルドマスターの言葉じゃ、抗議にもならねぇってか?」


 舐められたもんだぜ、と放り投げるように資料を手放して考えるソドマスだったが、実際のところはその通りである。

 何せ今回の事件で裁かれるはずの者はすでにいないのだ。レオタイガも聖騎士も神官も、その全員が街では行方不明。彼らの悪行を実際に知るのはソドマスとアリット。そしてトーリのみ。


 街の住民にトーリの無実こそ説明したものの、長年この街に根を張っていた教会の悪事を証明するまでには至らなかった。

 ギルドマスターに就くソドマスがハンルドの一帯を治める領主に今回の件について聖女神国に抗議するように申し出てもいたのだが、結果がこれではやりきれないだろう。流石に一国相手では下手に動けないということなのか。


 はぁ、ともう一度ため息を吐く。


「……聖女神国、もうちょい俺の方でも探ってみるか」


 暫くするとうつらうつらと舟を漕ぎ始めたソドマスだったが、無理な体勢と怪我の影響か「いってぇっ!?」と体を跳ねさせて目を覚ます。


 そして今度は飛び起きなくてもいいように、とソドマスは仮眠室へと引き下がるのだった。

 どこからともなく、大人げなく魔物役をする青年の鳴き声が聞こえたような気がしたソドマス。


 平和なハンルドの街の、のどかな午後のことであった。


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