第127話:冒険者VS聖女親衛隊第2位
「っ、トーリ逃げろ! こいつは、レオタイガはかなりやべぇ……!」
「そうか、あれがレオタイガ……」
牢屋の外に立っていたのは2メートルを超える筋骨隆々の大男。あれが教会の奴らが言ってたレオタイガとかいう奴か。
「ハッ! 会いたかったぜぇ……! 殺したくてうずうずしてたところだ!」
「うわぁ……」
彼は牢屋の中にいた俺を見据えると、嬉しそうに口角と目尻を吊り上げて不気味に笑う。
満身創痍で今にも倒れそうなソドマスさんが俺たちの前に立つ中、俺は抱きかかえたアリットさんに視線を向けた。
間一髪避けられたため、今の攻撃で怪我をした様子はない。
しかし体が弱っていたことに加えて、ピューリスちゃんの無事を確認して張り詰めていた気が緩んでしまったのだろう。アリットさんは俺の腕の中で気を失ってしまったようだった。
「あぁ? 邪魔だ、退けよ雑魚が。俺の慈悲で生かしてやってることを忘れたのか?」
両腕に装着された三本爪の手甲鉤。
それをガチガチと打ち付け合わせたレオタイガは、不機嫌そうに眉間に皺を寄せると腰を落として手甲鉤を構えた。
そんなレオタイガに対峙するソドマスさんは、背後にいる俺に向けて「俺が時間を稼ぐから、お前はその人連れて先に逃げろ」と小声で言う。
「……ソドマスさん、この人のことをお願いします」
「おまっ……バカ言うんじゃねぇ……! いくらお前さんが星以上の実力があったとしても、こいつは無理だ……! ここは俺に任せて――」
「失礼を承知で言いますけど、今のソドマスさんが相手をしたところで数秒も持ちませんよ。武器だってないんでしょ? なら、まだ俺が戦う方がいいはずだ」
「ぐっ……それは、そうだが……」
立ち上がってソドマスさんを庇うように前に出た俺は、よろしくお願いしますとアリットさんを託して斬り落とした鉄格子から牢屋の外に出る。
「『纏い』は使えそうですか?」
「……ああ。体はボロボロだが、魔力はいくらか回復してる。戦闘は厳しいが、人ひとり運ぶくらいなら問題はねぇ」
「よかった。なら、この先に泉に通じる通路があります。少し登る必要がありますけど、『纏い』が使えるなら問題はないはずです。ある程度時間を稼いだら、後で追いつきます。先に行ってください」
剣を抜いた俺がレオタイガと対峙すれば、ソドマスさんは複雑そうな表情を浮かべた後、「絶対戻って来い!」と言って駆け出して行った。
『纏い』を使っているにしてはかなり遅い。そんな状態になる程、こいつにやられたということなのだろう。ここから脱出するにはそれなりに時間がかかりそうだ。
ガキンッ、と薙いだ剣と手甲鉤のぶつかり合う甲高い音が地下空間に響き渡る。
「……へぇ? これを止めるか、気にくわねぇな」
「律儀に待っていたと思ったんだが……どうやらそうでもなかったみたいだな」
「あ? 何でこの俺がてめぇら雑魚のために待たなきゃならねぇんだよ? 今の二人は逃がさねぇ。だがそれよりも、てめぇが先だ冒険者ぁ! どんな手を使ったかは知らねぇが、宿を襲わせた奴らは排除したんだろぉ? 少しは楽しませてもらおうじゃねぇか!」
「さて、何のことやら。期待されたところで困るだけだよ」
剣と手甲鉤による押し合いが続く中、レオタイガの体に魔力が巡る。
『纏い』だろうか。対抗してこちらも使用したところでレオタイガはバックステップで距離を取ると、先程の比にはならない速度で鉤爪の連撃が襲い掛かってきた。
「そらそらそらぁ! どうしたその程度かよ冒険者! それともなんだ? やっぱりてめぇも雑魚ってオチか!? あの時の森で、俺の『飛剣』を防いだのはまぐれかよ!」
「やっぱり、あの時のあれはお前か……!」
両手の手甲鉤による超接近戦からの息もつかせぬ連撃は、リーチのある剣を使う俺にとっては不利な相手だ。
なるべく躱すか、剣で受け止めてはいるが、それでもすべてを捌ききることはできずに傷を負う。
魔法が使えないため仕方のないことではあるが、まともに傷を作るのはこの世界に来てから初めてのことかもしれない。
「痛いなおい、やってくれるじゃないか……!」
「その痛みも感じねぇ体にしてやるよぉ! 冒険者の死体の出来上がりってな!」
さらに激しさを増す攻撃に少しずつ生傷が増えていく。
身に着けていた鎧がひしゃげ、一部が弾け飛び、灰色のローブも色んな箇所が破れてボロボロになる。今度マリーンに謝った方がいいだろう。
だが今は足止めが優先だ。幸いこいつは俺を殺すことに執着している様子。俺を無視してソドマスさん達の方に行かないのであれば、俺は死なないように立ち回るだけだ。
それにこの地下には明かりが少ないため薄暗い。先程のソドマスさんの足と出口までの距離を考えれば、こちらの様子が見えなくなる頃だろう。
「そろそろか……」
「あん? ……ああ、さっきの二人が俺から逃げられるってか? ハッ! だったらこれで終いにしてやるよ。貴重な魔力持ちは殺さない方が師も喜ぶんだろうが……効率は落ちても死体から魔力の抽出は可能だからなぁ!」
自ら距離を取ったレオタイガは、こちらを威嚇するように鉤爪を打ち合わせて金属音を響かせると低く構えた。
それはまるで今にも獲物に飛びかかろうとしている獣のような構えだった。
両手の手甲鉤をまるで爪のように地面に突き立てたレオタイガは、体勢を可能な限り低くしてこちらに狙いを定める。
そして先ほど以上の魔力がレオタイガの体を巡った直後、バネのように体をしならせ一直線に飛びかかってきた。
「聖女親衛隊第2位のこの俺に殺されること、泣いて喜んで死ね! 冒険者ぁ!!」
振り上げられた手甲鉤が俺を袈裟切りにしようと迫る。
おおよそ常人であれば反応することもできない攻撃だ。おまけにその一撃は魔力による強化も相まって、例え受け止めたところで容易く押し切られてしまうだろう。
勝ちを確信した笑みが迫る。
「確かに、俺は冒険者だ」
ガキンッ!! と、先程よりも鋭い音が地下に響き渡った。
「……は?」
「だが俺の名前を知らないままだと、誰がお前を殺すのか冥土の土産にもならないだろ? それくらいの土産は持たせてやるよ」
纏いによる強化の倍率を底上げした体と剣が容易く振るわれた手甲鉤を受け止める。
もうソドマスさん達も十分に離れた頃だろう。この薄暗い地下じゃもうこちらは見えないはずだ。
「てめぇっ……!?」
己の一撃を受け止められたという、その事実を目前としたレオタイガがアホ面を晒す中、俺は剣を薙ぎ払って奴を力で後退させた。
挑発のため、指で手招きをしながら剣を肩に担ぐ。
ビキリと、レオタイガが青筋を立てた。
「トーリだ。今日だけだろうが……ちゃんと覚えとけ」
「……いいぜ、楽には殺してやらねぇ。聖女に祈りもできねぇように両手足を斬り落とした後、少しずつ内臓を抉り出してから殺してやらぁ!」




