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【WEB版】転生した空間魔法使いは正体隠して目立ちたい!~それ俺ですとは言いません~  作者: 岳鳥翁
第4章:瞳に映すは冒険者

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第123話:牢屋直行

「おいおい、いきなり牢屋にぶち込むなんて穏やかじゃないねぇ。こういう時は、まずカツ丼を用意して『さっさと白状すれば、これを食わせてやる』とかのやり取りがあるところだろ? どうしてそんな様式美が分からないのか……聖騎士さん達、もっと勉強した方がいいんじゃない?」


 放り込まれた牢屋の中で外にいる聖騎士たちに文句を垂れるが、バイザーで隠された表情を覗き見ることはできない。

 そんな鉄格子の向こう側の騎士たちは、お互いの顔を見合わせると俺が掴んでいた鉄格子を蹴りつけて怒鳴った。


「さっきから訳の分からんことばかり……真面目に答えろ! 数日前、お前が宿に連れ込んだ子供をどこへやった! その居場所をさっさと吐け!」


「言っておくが、貴様がその子供と接触していることは確認済みだ。一緒に泊まったということも宿の女将から聞いている。これ以上罪を被りたくないのなら、素直に吐いた方が身のためだぞ」


「はぁ、なるほど。こりゃ冤罪ですなぁ! 冤罪にする気満々って感じだねぇ! やってもないことをやったことにされるやつだ。いやぁ聖女神国って聖女様の教えを守っている素晴らしい宗教国家なのかと思ってたけど、平気で無実の人を犯罪者に仕立て上げるクソ国家だったとは驚いて声も出ないなぁ! ギルドに来た時の態度とは打って変わって教会に入った途端にこれとは、てめぇらが崇める聖女様ってのは随分と性格の悪いことで!」


「お前、聖女様を愚弄するかっ……!」


「クソ宗教にクソと言って何が悪いのか、そこんところお答え願えます? それとも、俺がギルドマスターを殺した、なんて容疑がかかっている理由でも教えてもらおうかねぇ? ほれ言ってみろよ。ギルドはソドマスさんが死んだなんて情報は入ってないぜ? それなのにどうして、お前らの方が先にそれを知った? 死んでいたとしてそれを俺がやったという証拠は何処? 色々と杜撰なんだよなぁ! 俺を悪者にするためとはいえ、適当言い過ぎたんじゃないの? ほら、ちゃんと俺の疑問に返せる? まぁ当然できないだろうけどな。それとも何? 暴力? 暴力ですか? 暴力は全てを解決ってな! ほれ、やってみろよ」


「このっ……!!」


「おい、今はまだ手を出すな」


 牢屋の中でまくし立てるように、ペラペラケラケラと煽るように言葉を吐き捨てる。

 先ほどから怒鳴っている聖騎士は今すぐにでもこちらに斬りかかりたいのか、腰に携えた剣の柄を握ってはもう一人に止められていた。


 腰の剣も鎧も、マリーンからもらった灰色のローブも没収されているため、今の状態で剣なんて向けられたら怖いわー。ビビッて涙が出るわー。はぁーくっそ! これだけ煽ってるんだからはやく仕掛けて来いっての。


「で、どうなんだ冒険者。お前が宿へと連れこんだ少女は、今どこにいる」


「質問の答えになってませーん。そんなん知るかよ。見間違えたんじゃないの?」


「お前……! まだシラを切る気か!」


 ガンッ! とこちらを脅すように鉄格子を蹴りつける聖騎士の姿を見て、俺は呆れたようにため息を吐く。

 そして顔を上げ、心底バカにしたように鼻で笑ってやった。


「シラを切るっつってもねぇ。いないもんはいないんだろ? じゃあそれが答えじゃないか」


「だから、貴様が別の場所へ連れ出したんだろ!」


「はいはい、ちょっとは考えましょうねぇ。思考もせずに答えを求めてばかりだと、脳の皺が増えないぞ? もっと頭を使えよ。剣しか振れない騎士なんて、この先生き残れないんだからさ」


「こいつっ……!!」


「落ち着け。挑発に乗るな」


 頭を指さし、おどけたようにくるくると回して見せる。

 短気な方の聖騎士がいよいよ剣を抜き放つが、それをもう一人が宥めたことで短気な聖騎士は剣を収めた。

 牢の扉を開けて斬りかかってきてくれれば楽なのだが、そうはいかないのはなかなか難しいところである。


「どうしても話す気はない、ということでいいのか。冒険者」


「さぁ? 知らないもんは知らないからねぇ」


「……なら仕方ない。貴様にはさらにもう一つ、罪を被ってもらうことにしよう」


 冷静な方の聖騎士がそう言うと、今迄隣でカンカンに怒っていた聖騎士も「そうだそうだ!」と何やら楽しげな様子で笑い声をあげた。

 ろくでもないことだと理解はできるが、それが何なのかわからない俺は首を傾げるしかない。


 そんな俺の様子を見て、短気な聖騎士は更に下品な声で笑った。


「ククッ……! お前が懇意にしていた家族がいたよなぁ? 確か死にぞこないのババアとジジイ。それと魔眼のガキによく似たガキだ。そいつらの首をここに並べてやれば、少しは素直に話せるだろ?」


「……へぇ?」


「やっと表情が変わったな。貴様が今どんな状況なのか、やっと理解できたか? もしこのまま何も話さないのなら、今あの家の周りに待機させている暗殺部隊が首を三つ持ち帰ることになる。当然その犯人は貴様だ、冒険者」


「……」


「お? 何だビビっちまったかぁ? ほれどうした、さっきの威勢はどこ行ったんですかぁ~? 俺たち聖騎士に盾突いたこと、お前には死ぬほど後悔させてやろうか!」


 押し黙る俺を見て気分を良くしたのか鉄格子の向こうからこちらを覗き見て笑う短気な聖騎士だったが、もう一人の「うるさいぞ」という一言に慌てて背筋を正す。


「冒険者。もしもあの子供を……魔眼の少女の居場所を話すのなら、我々はあの家族を襲うことはしないと約束しよう。貴様が死ぬことに変わりはないが、散る命は一つでも少ない方がいいだろう?」


「……へぇ。そこは俺の命も助ける、とは言わないんだな」


「悪いが、貴様はレオタイガ様が殺すと宣言しているからな。どうあがいても死は免れん」


 それでどうする? と改めて俺に問いただす聖騎士。

 表情を窺い知ることはできないが、彼の言う言葉に嘘はないのだろう。聖女祭が終わってからずっと『探知』で確認しているが、マーサさんの家の周りには暗殺部隊とやらがいるのはわかっている。ピューリスちゃんの情報を欲しているのも事実。そして話せばマーサさん達は助かるが、こいつらの上司らしきレオタイガなる男は俺を殺したがっていると。


「拒否する……といったらどうする?」


「その場合は、先程伝えた通りだ。あの家族の首をここに並べてやろう」


「へぇ……俺が抵抗する、とは思わないんだな?」


「できるものならな。のこのこと抵抗もなく捕まったバカなだけはある。貴様に武器はなく、魔法が使えたとしても大したものではないだろう? 『纏い』とやらも所詮は我ら聖騎士が使う『聖鎧(せいがい)』の劣化にすぎん。この教会にいる百もの聖騎士を相手に貴様程度が抵抗できるとは、随分と我らも舐められたものだ」


 不機嫌そうな声色で答える聖騎士の言葉に、俺はへぇ、と言葉を零した。

 確かに、百名近くがこの教会内に集まっている。神官らしき男たちも含めればそれ以上の数になるだろう。この数を真正面から、ただの星3つの冒険者として相手にするのは非常に難しいことかもしれない。


「そりゃまた随分と集まってるな。こんな冤罪、一人くらいおかしいって言ってくれる正義感溢れる聖騎士様か、あるいは子供に優しい神官様はいないのか?」


「安心しろ。この教会に残っている者達は皆、今回の任務のために派遣されたレオタイガ様の部下だ。我らはレオタイガ様、並びに教皇様の命に従う忠実な僕であり、全員等しく、お前という悪を罰する勇敢なる聖職者でもある」


「……」


「怖気づいたか? ふんっ、賢明な判断だ。わかったのなら、首が三つ増えないうちに大人しく居場所を言え。あの魔眼は、我ら聖女神国にこそ相応し――」


「けど嫌だって言うんだなこれが」


 ケラケラと煽るように笑って見せる。

 まぁこの状況下でこんなことを言い出す奴は、普通に考えれば頭の悪いバカか余程の愚か者だろう。案の定、聖騎士の男にとっても予想外の反応だったのか、ピタリと動きを止めてこちらを向いた。


「……貴様、今自分が何を言ったのか。それを理解しているのか?」


「んー? もちろん、理解してるとも。あれだろ、俺の選択で無関係の誰かが死ぬって話だ」


「それをわかっているのなら――」


「ふざけてんのはてめぇだよクソ野郎」


「ガッ!?」


 話していた聖騎士の前に立った俺は、その首を掴んで吊り上げる。

 鎧の上から掴んでいるが、それでも『纏い』による最大限の強化を施した手は容易く鎧を砕き、剥き出しになった聖騎士の男の首を掴み取っていた。


「きさっ……!? どうやって牢屋から……!!」


「さっきから聞いてりゃ、ピーチクパーチク全部俺が悪いみたいに言いやがって。そもそもてめぇらがピューリスちゃんを狙ったのがすべての元凶だろうが。責任転嫁するなっての」


「このっ……!」


 首を掴んでいる俺の腕を、聖騎士の男は両腕で掴む。

 直後、男の体を覆うように魔力が迸ると、腕を掴んでいた手の力が強くなった。


 俺と同じく、身体を強化するために魔力を使っているのだろう。力づくで首を掴んだ手を離そうと、聖騎士の男は暴れ始めた。


 だが、それだけだ。


「っ!? 何故……! 『聖鎧(せいがい)』でも外せない、だと……!?」


 いくら暴れたところで、俺が手を離すことはない。

 『聖鎧(せいがい)』で強化した手で掴み返された腕も、それほど痛いとも思わない。もがく騎士を相手に、俺はそうそうと思い出したかのように続ける。


「後これも追加だ。のこのこ捕まったバカ? アホか。どうにでもできるからわざと捕まったんだっての。一度お前らの言う通りにして懐に入った方が捕まえたと思って安心してくれるうえに、あの場で周りに被害は出ないからな。まさに一石二鳥。てことで」


 まずは一発。


「歯ぁ食いしばれや」


「ゴォッ!?」


 『分隔』で覆った拳を引き絞り、全力で強化した一撃を聖騎士の腹に叩き込む。


 最大に強化した拳は聖騎士の鎧を容易く破壊し、さらにその奥の生身に到達。拳が肉を打つ感覚と共に、聖騎士の男は俺が入っていた牢屋へと鉄格子を破壊して吹っ飛んでいった。


「ガホッゴポッ……!? おい、お前! 早く剣を抜いてこの冒険者を取り押さえろ!」


 ぶっ飛んだ際に頭の兜が取れたのか、男の端正な顔が顕わとなっていた。

 そして咳き込むと同時に口から血を垂れ流した聖騎士の男は、今もなお直立不動で黙っている短気な聖騎士へと指示を出す。

 これだけやられてもなお、『殺せ』ではなく『取り押さえろ』としているあたり悠長なものだ。


「おい、聞いているのか……!」


 まったく反応を見せない短気な聖騎士にしびれを切らしたのか、男は牢屋の破片を突っ立っている聖騎士に向かって投げつける。

 すると、破片はカァンッ、という甲高い音を鳴らして鎧に命中。直後、その場に立っていた聖騎士の男はゆっくりと後ろ向きに倒れた。


「……は?」


「ああ、そいつ。もう死んでるぞ」


 ガッシャーン! と音をたてて倒れる聖騎士だった男を見て、唖然とした顔でもう一人の聖騎士が俺を見る。


 倒れた鎧の隙間からは、真っ赤な鮮血がドクドクと溢れて流れ出ていた。

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