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【WEB版】転生した空間魔法使いは正体隠して目立ちたい!~それ俺ですとは言いません~  作者: 岳鳥翁
第4章:瞳に映すは冒険者

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第117話:事情の共有

「自害した……?」


「はい。牢屋の中で死亡が確認されたということで……」


「原因についてはわかりますか?」


「大まかには聞いています。なんでも、隠し持っていたであろうナイフで自らの首を刺したのだとか」


「……そうですか。情報、ありがとうございます」


 一度マーサさんの家を出た俺は、その後誘拐に動いていた三人がどうしているのかを聞くために衛兵の元までやってきていた。


 そしてできることならば面会したいという意思を衛兵に伝えたのだが、返ってきた返答は「三人とも自殺した」というもの。これにより、誘拐犯の三人から情報を得ることはできなくなった。


「(……殺された、と考えた方が俺たちへの被害は少ないか)」


 言葉の通り自殺したと考えるよりも、何らかの意思によって殺されたと考えておく方が今後の対策もしやすいだろう。過剰な警戒だったとしても、何もなければ杞憂で終わるだけだ。


 そして仮に誘拐犯たちが殺されたとするのなら、見張りの目を掻い潜って殺害可能な者がいるということだ。

 人を見た目で判断してはならないとはよく言うものだが、あの時の言動や行動を考えるに任務が失敗したからと自害する奴らだったとは到底思えない。


「(警備がザルということも考えられるが……少なくとも、自殺したと勘違いさせられるだけの何かがある)」


 暗殺したのか、それとも衛兵の内部に手の者がいるのか。その手段まではわからないが、それができるだけの組織だと考えてもいいだろう。

 そしてそんな組織に、俺の顔が割れている可能性も十分にあり得る。


 もしみられているとするなら、ピューリスちゃんを助けた時か、あるいは『泉の森』で襲撃を受けた時。あれがピューリスちゃんを誘拐しようとする何らかの関係者だったと考えると、冒険者のトーリとして相手に認知されているかもしれない。


 街の中でこっそり後を付けられている可能性もあるため、『探知』で怪しい動きをしている奴らを探しているんだが……わかることと言えば聖騎士の数が多い、ということくらいなものだ。


「……参ったな」


 ボソリと小さく言葉を漏らした。


 誘拐犯の三人からピューリスちゃんを助け出したあの日。もしもその現場を敵組織の誰かが見ていたのなら、ピューリスちゃんをマーサさん達に預けたことも知られていることになる。


 だが今日まで動きがないのなら、それはすぐには動けない何かがあるのか。それともその所在を知られていないかのどちらかだろう。

 そして後者の場合、見失ったピューリスちゃんの捜索のためにまずやることは何かと考えれば……思いつくのは彼女と接触したであろう者の周辺調査だ。


 ピューリスちゃんを助けてから二日経過している。既に探られていてもおかしくはない。


「(今のままだと、ピューリスちゃんどころかマーサさんやリップちゃんにも害が及ぶ可能性がある)」


 仕方ないと、宿に向けていた足をもう一度マーサさんの家へと向ける。

 ピューリスちゃんのお母さんの救出のためには、まずピューリスちゃん自身の安全を考える必要がある。


 そして何となくわかる。

 ピューリスちゃんとそっくりのリップちゃんも、この件に巻き込まれる可能性が高いということを。

 人違いとかで攫われそうになるのはよくある展開だ。


 よくあるなよそんなもん。


「(そうなると、だ。リップちゃんをボーリスに帰してから行動した方がいいな。幸い空間魔法のことについてはリップちゃんに知られているから、『転移』で帰還してしまえばいい。あとはピューリスちゃんだが……マーサさんの家から別の場所に移動した方がいいだろうな)」


 よし決めた、と今後の動きについての方針を立てる。

 優先すべきはリップちゃんとピューリスちゃんの安全。そのうえでピューリスちゃんのお母さんを助け出す。


 敵が分からないという難点はあれども、そこについても一応ながら考えはある。

 他人に迷惑をかけてしまう、という点については申し訳ないと思うが……これも子供と俺のためだ。できるだけ被害は出ないようにするつもりなので心の中で謝っておく。


「予定よりも早い帰還にはなるが……なに、リップちゃんもわかってくれるはずだ」





「やだぁー! リップ、まだかえらないー!」


 マーサさん宅に向かって早々、俺はリップちゃんにボーリスへ帰ろうと提案したのだが、そんな俺に対しての返答がこれである。


「あっれぇー……?」


 思わず首を傾げた。どこの誰だよ、何も考えずに帰ろうかでわかってくれるとか言った奴。

 そうだよ俺だよ。


「リップはせいじょさい、みるのー! みるまでかえらないもん!」


「あー……それがあったかぁー……」


 そう言えばこの街ではそんな催しがあるんだったとレダくんの話を思い出した。

 ボーリスではそういったお祭り行事がないため、リップちゃんからすれば新鮮なのだろう。


 そんなお楽しみが始まる前に帰るなんて言われたら、そりゃ嫌だっていうだろうさ。


「で、でもなリップちゃん……」


「そんなこというおにーさんきらい! リップかえらない!」


「ふぐぅっ……!?」


 駆け出して行ってしまったリップちゃんに手を伸ばすが、リップちゃんはこちらを振り返ることなく奥の部屋へと駆けこんでいった。

 隙間からこちらの様子を伺っていたピューリスちゃんも「いっしょにあそぼ!」とリップちゃんに手を引かれていく。


 最後に不安そうな顔を俺に向けていたが……恐らく帰ろうなどと言ったことが原因なんだろう。

 後で訳を話すつもりではあったが、不安にさせてしまったことは申し訳ないと思う。


「なにかあったのかい?」


「ああマーサさん……いやその……少々込み入った事情があって、ボーリスに帰ろうかと思っていたところなんです」


「ぬぁんだとぉ!? 小僧、じいじと孫のお祭りワイワイ大作戦を邪魔する気かぁ!?」


「いや名前よ」


 既に仕事を終えて帰宅していたゴーザさんが俺の言葉に反応して詰め寄ってくる。

 俺はそんな彼を手で制しながら苦笑を浮かべ、「ちょっとお話よろしいでしょうか」とマーサさんに一言伝えた。


「……この間の、ピューリスちゃんのことかしら?」


「はい」


「わかったわ」


「……ん? なんだ? なにかあったのか……?」


 一人理解できていないであろうゴーザさんには後で説明するとして、察してくれたマーサさんに俺は頷いた。

 そしてこっちの部屋を使いましょうか、と案内してくれるマーサさんとそんなマーサさんに訳も分からず引き摺られていくゴーザさん。そんな二人に俺も続くのだった。





「そう、だったのね……」


「むぅぅ……」


 一通り、俺の話を聞き終えたマーサさんとゴーザさん。

 話したのは、ピューリスちゃんのこれまでの経緯について。彼女が何者かに狙われており、母親がピューリスちゃんを逃がすために捕まっていること。


 そしてその流れで俺がピューリスちゃんを保護して、ここに連れてきたことだ。


 魔眼については伏せているが、二人には彼女の血筋の関係だと伝えている。

 チラと二人を見てみれば、どちらも難しそうな表情を浮かべていた。


「それでトーリさんは……」


「はい。俺はピューリスちゃんのお母さんの救出のために動くつもりです。ただ一つ懸念点をあげるのなら、ピューリスちゃんとそっくりなリップちゃんにも危険が及ぶ可能性があるかと」


「だから帰ろうとしたわけか。危険から遠ざけるために」


 ゴーザさんの言葉に頷くと、彼は再び唸るような声を漏らして天井を見上げる。

 そんな様子の二人に対して、俺は頭を下げて伝えた。


「意図していなかったこととはいえ、リップちゃんを含めた皆さんにご迷惑をおかけしてしまうことになり……本当にすみません」


「ちょ、ちょっとトーリさん? 何もあなたが謝ることではないでしょう?」


「いえ、俺がマーサさん達を頼ったことで巻き込んでしまっていることは事実です。ただお二人にはお伝えしましたが、これをリップちゃんに伝えると不安にさせてしまいます。だからこそ、何も知らないうちに避難ができればよかったのですが……」


 あんな風に断られてしまうと難しいですよね……とため息を吐きそうになるのを抑えて言えば、ゴーザさんがバツが悪そうな顔で「悪い……」と言葉を零した。


「聖女祭のことを教えたのはワシだ。まさかそんなことになってるとは夢にも思ってなくてな……」


「あ、いえ。ゴーザさんが謝る事じゃないですよ! それにゴーザさんが言わなくても、どこかで知ることにはなっていたと思いますし……」


 ときどきマーサさんと共に出かけていたリップちゃんだ。他の子供たちから話を聞くことになったかもしれないし、街の雰囲気で察していたかもしれない。

 特にここ最近は浮ついた空気がハンルドの街全体に流れているのだ。仕方のない話である。


 かなり本気で落ち込んでいるゴーザさんを慰めようと、「気にしないでください」と声をかける。

 そんな中でマーサさんから「でもトーリさん」と言葉を投げかけられた。


「もしそんなに危ないのなら、無理やりでもリップちゃんを帰した方がいいんじゃないかしら? 私達も可愛い孫が危険に会うくらいなら、嫌われる覚悟はするわよ」


「お心遣いありがとうございます。ただお二人はリップちゃんと漸く会うことができた間柄です。無理にそんな役目を押し付けられませんよ。それに……俺だって無策でいるわけではありません」


 だからどうか、と俺は二人に対してもう一度頭を下げる。


「俺に協力していただけませんでしょうか。もちろん、お二人とリップちゃんに危険が及ばないよう力を尽くします」


 お願いします、と頭を下げたまま二人の返答を待つ。

 ピューリスちゃんを狙うのが誰なのか、それが分からない以上どうしたって俺の行動は後手に回る。そしてそうなれば当然、マーサさん達に危険が及ぶ可能性もゼロではない。


 ならば二人には、ある程度の事情を説明しておく必要があるだろう。何も知らないで巻き込まれてしまうよりはよほどいい。

 そしてこれからピューリスちゃんのお母さんを救出するにあたり、どうやってもリップちゃんと一緒になれない時間が出てきてしまう。

 

「……一つ、聞きたいことがある」


「はい、何でしょうか」


 少しの沈黙の後、徐にゴーザさんが口を開いた。

 ゆっくりと顔を上げて彼の顔を見れば、彼の鋭い視線がまっすぐ俺を捉えている。


「どうしてそこまでしようと思った? 助けた流れもあるだろうが、そもそもあの子と小僧は赤の他人。冒険者として依頼を受けたにしても、今のあの子では十分な報酬は払えないはずだ」


「ちょっと、あんた……! なんてこと言って――」


「マーサ。ワシは、小僧に聞いている」


 隣で彼の言葉を咎めようとしたマーサさんだったが、彼女にも口を出させまいとするゴーザさんはただただ真っ直ぐに俺の返答を待っている。

 何故そこまでして助けるのか。至極真っ当な質問だろう。ゴーザさんのいうことももっともである。


 もちろん、彼女の魔眼が利用されることが俺にとって不利益でしかないというのは事実だ。

 けれど……


「助けてほしいと、そう頼まれたからです」


「……それだけか?」


「もちろん、そう思われても仕方がないのかもしれません。だけど彼女は……ピューリスちゃんは一人なんです。怖い思いをしても、助けてと言える人が周りにいない子供だ。そんな子が漸く、『助けて』と声をあげたんです。助けを求められると俺を信じてくれたんです」


 なら、と続ける。


「そんな子供の力になってやりたいと、そう思うのは決して間違いなんかじゃないはずだ」


「……言うだけなら、誰にでもできる」


 ゴーザさんの静かな低い声が響く。


「小僧が冒険者だというなら、確かにワシらと比べても力はあるんだろう。だがそれでも、どうしようもない場合はある。ワシらだけではない。かわいいリップちゃんにも危険が及ぶかもしれない。そうなったら小僧、ワシはお前を許すつもりはないぞ?」


「させません」


 ゴーザさんの疑問は、至極真っ当なものだろう。

 何せそんなことを宣っているのは漸く一人前となった星3つの冒険者であり、その程度の冒険者を超える奴は世の中にゴロゴロ存在しているのだ。


 だがしかし、そうではないことを誰よりも俺が理解している。


 ふざけた憧れと、ふざけた言動をしていても、その能力を誰よりも信じているのはこの俺だ。


「そうはなりません。そうはさせません。俺の持てる力を尽くして、必ずすべてをやり遂げます。守って見せます。救って見せます」


 守ることも助けることも、どちらの約束も守ってみせよう。


 ああそうだとも。

 俺にはできなくても、俺ならできる。


「……ふんっ。あのバカ息子が気に入ってるのも頷ける」


「ふふ……そうね」


「っ……じゃ、じゃあ……」


 俺の言葉に、二人は笑みを浮かべて頷いてくれた。

 椅子から立ち上がってもう一度頭を下げてお礼を言えば、そんな俺に気にするなと笑うゴーザさん。


「この人あんなこと言ってたけど、話を聞いた時から協力する気満々だったわよきっと」


「ちょ、母ちゃん!? そう言うのは言わないのがお約束だろう!?」


「なぁにかっこつけてんだい! ごめんねぇトーリさん。この人ったら変なところで照れ屋だから」


 まあそこがいいんだけどね、と笑うマーサさんの言葉にゴーザさんを見ると、彼は恥ずかしそうにそっぽを向いて黙り込んでいた。

 そんな彼に改めて礼を伝えると、「礼なんていらん」と一蹴されてしまった。


「子供を助けたいと思うのは間違っていない。そう言ったな、小僧」


「……はい」


「ならそれと同じだ。ワシらからしてみれば、お前もまだまだ子供だよ。特に、そんな青臭いこと言ってるような奴はな」


 そう言って笑って見せるゴーザさんは「まーたかっこつけてあんたは!」とマーサさんに頭をはたかれていた。

 ペシンと、気持ちの良い乾いた音と「いてぇよ母ちゃん!?」という悲鳴が部屋に響く。


 なんというかだ。

 親父さんのご両親が……リップちゃんの祖父母がこの人たちで、本当に良かったと。そう思えるのだった。

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