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【WEB版】転生した空間魔法使いは正体隠して目立ちたい!~それ俺ですとは言いません~  作者: 岳鳥翁
第4章:瞳に映すは冒険者

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第115話:魔眼の一族

「わたしの魔眼は、最近になってから視えるようになったのだわ」


 俺の目前で、その桃色の瞳を向けている少女はそう語る。


「お父さんが死んで逃げている時に、お母さんから聞いたのだわ。お父さんは特別な眼を持った人で、わたしにもその血が流れてるって。この桃色の瞳は、その証なんだって」


 村からこの街へと向かう馬車の中で、彼女は何故村を出るのかと母に聞いたらしい。

 そして帰ってきた答えが、彼女が持つ魔眼であったという。


「魔眼ね……知り合いから少しだけ聞いたことはあったけど、実際こうして会ったのは初めてだよ」


 フェイルさんから少しだけ話を聞いてはいたが……確か魔力を媒介として何らかの力を行使できる特別な眼、だったか。

 勇者物語にも、そのような記述があったように思える。魔眼によってその能力は異なり、中には想像をも超える現象を引き起こす強大なものまであるのだとか。


 ただし本人の魔力は全て魔眼に行使されるものであるため、魔眼以外は魔力を持たない者同然であるとも聞く。要は魔眼以外は使えない魔法使いだ。


「となると……君のお父さんは、自分たちが狙われていると魔眼で知ったわけか?」


「たぶん、なのだわ。お母さんはその言葉を信じて、わたしを連れてこの街まで逃げてくれた」


 なるほど。あくまでも予測であるが、彼女の父が持っていたのは未来視ができる魔眼だったのだろう。

 でなければ、死に別れる母娘に逃げろなんて遺言を残すはずがない。普通に暮らすだけなら村で過ごしてもいいはずだろうに、わざわざ移動という手段を取らせるはずがない。


「でも君達親子は、この街に来てから襲撃を受けた」


「そう……なのだわ」


 しかしそうなってくるとこの理由が分からなくなる。

 未来が見えていたのであれば、襲撃を受けるであろう街に行くようには言わないはずだ。


 そこまでは視えていなかったのか、はたまたそれさえも視えているからこその遺言だったのか。

 んー、と腕を組んで考えてみるが、考えてみたところで答えが出るわけがないと諦める。


 今大事なのはそこではないだろう。


 彼女らのこれまでの流れを整理するが、まずは父が死んでハンルドへ逃げるように言った。そして母娘はその言葉に従ってハンルドへ。しかし何者かによって襲撃を受け、結果娘だけが逃げのびて俺が保護することとなった。


 そして次だ。


「君達を襲った人たちに心当たりはあるかい?」


「ないのだわ! まったく! 村ではお野菜を育てただけだから、そんなことされる覚えはないのだわ!」


「恨みではない。となると……やっぱりその魔眼が目的か」


「……たぶん、そうなのだわ」


 まぁ恨みつらみよりもそちらの方が可能性が高いだろう。

 魔眼のことを誰かに言った覚えはあるかと聞いてみたが、彼女自身魔眼について聞いたのはつい最近のことであるため意味のある質問ではなかった。

 彼女の父はどうかはわからないが……仮に未来を見通す魔眼であるというのなら、その力がどういうものであるか理解はしていたはずだろう。


 自らを危険に晒すようなことをするとは思えない。


 あの誘拐犯どもを衛兵に突き出したのは失敗だったかもしれない。今となっては仕方ないことだが、この事情を知ってさえいれば誰の指示によるものなのかを突き止めることができたかもしれないのだ。


 ……宿に帰る前に、一度衛兵に聞いてみてもいいかもしれない。


「とりあえず、今のところは犯人の手掛かりは無しか……」


「ご、ごめんなさいなのだわ……」


「……ん? あ、いや、ピューリスちゃんが謝る事じゃないから大丈夫だよ。それより、次の質問に移ってもいいかな?」


 俺の問いかけにピューリスちゃんはコクリと頷いた。


「ありがとう。これはあくまでも確認だけど……ピューリスちゃんの魔眼は、相手の魔力を視る魔眼……ってことでいいのか?」


「なのだわ。お母さんが言うには、その人が持つ魔力の量が見えているんだって」


「なるほどな……」


 どのように視えているのか聞いてみれば、体を覆うオーラのような形で魔力の量が視えているらしい。

 彼女曰く、この街へ来る際に見かけた魔法使いの魔力のオーラは、その魔法使いを覆うような形で視えるそうだ。


 そして彼女ら母娘を襲った襲撃犯はそのオーラが尋常ではなく、建物一つをまるまる覆い尽くすほどの魔力を持っていた。

 それを考えれば、確かにその襲撃犯をヤバいと感じたのは納得のいく話だろう。


 魔力持ちであるかそうでないか、それだけで個人の強さには大きな偏りが生まれるものだ。

 例を挙げて言うならば冒険者が最もだろう。


 星5つと6つの違いは、魔力を持っているかどうか。例え魔法が使えなくても、魔力さえあれば『纏い』という自己強化が可能となる。

 そして魔力量は、魔力を持つ者達の間での実力差に大きく影響するものだ。


 『纏い』であれば持続時間や強化倍率などに影響し、魔法であればより魔力が込められた魔法が通るようになる。


 要は魔力が多い方が有利! ということである。


「……ちなみに、ピューリスちゃんには俺の魔力はどう映ってるんだい?」


「……ちょっと大きすぎて……前に外で見た時は、空まで届きそうだったのだわ」


「マジか……」


 一度俺を見て、そして俺の周囲を見渡し、最後には天井に視線を向けて諦めたように首を振るピューリスちゃん。

 きっと俺の魔力のオーラとやらは、今この天井を超えた向こう側まで立ち昇っているのだろう。


 正直な話、俺自身自分の魔力がどの程度あるのかは正確に把握していない。

 いや、多いことはわかってはいるんだが……こうして他視点から言われると、改めて馬鹿魔力なんだなと思わされる。


 この世界の魔法使いは、魔法が使われたかどうかはわかっても、個人がどの程度の魔力を持っているのかまではわからない。

 だからこそ、俺が望んだムーブができているというところはあるんだが。


「……っ、トーリさん」


「何かな?」


 俯いて何か考え込んでいたピューリスちゃんが顔を上げて俺を見る。


 真っ直ぐに向けられる桃色の瞳。

 何かを決心したような、そんな意志の籠った視線が俺を見る。


「トーリさんにとって、意味がない……むしろ面倒でしかないってこともわかっているのだわ。わたしは子供だし、お礼に渡せるものも何もない。でも、それでも……」


 一度下を向きそうになった顔。

 しかし、テーブルの下でパシンと脚を叩く音によって再び彼女は顔を上げた。


「わたしの……わたしのお母さんを、助けてください……!」


「わかった。助ける」


 頭を下げて口にしたその頼みに、俺は考える間もなく即答する。

 それに驚いたのか、ピューリスちゃんは目を丸くして「え?」と言葉を零した。


「い……いいのだわ……?」


 唖然とした様子のピューリスちゃん。

 そんな彼女の言葉に、俺はニカッと笑って頷いた。


「もちろんだ。君のお母さんはもとより、君のこともね。報酬は……そうだな。お母さんと会った時に、とびきりの笑顔を見せるってことで。ね?」


「ト、トーリさん……」


「子供が大人を頼る。当然のことだし、恥ずかしいことじゃないんだよ」


 それにね、と俺は懐から仮面と黒のローブを取り出して身に纏う。

 魔力についてはバレているのだ。今更隠し立てする必要はないだろう。なら少しでも彼女の母を助けられるんだと安心させられるよう、俺の正体について話しておいてもいいだろう。


「黒と……仮面……」


「おうともさ! 君が助けを求めた冒険者はものすごく強いんだぜ? お母さんは俺が……この『竜殺しの魔法使い(ドラゴンスレイヤー)』の名に誓って必ず助け出す。ふふっ……悪魔も倒した魔法使いが味方に付いたんだ。大船に乗ったつもりでいてくれて構わないぜ?」


「……お父さん……わたし、会っていたのだわ」


 何かを呟きながら、俺の姿をまじまじと見つめるピューリスちゃん。

 驚愕しているようにも見えるその顔を見た俺は、きっと誰かから俺の活躍を伝え聞いていたのだろうと推測する。

 噂を知っているのなら、より安心して俺を信じて任せてもらえるだろう。


 席を立ち、彼女の隣へと歩み寄る。


「一人でよく頑張った。後は任せてくれ」


 ポン、と彼女の頭に手を乗せ、柔らかい金髪を優しく撫でる。

 撫でていくうちに、徐々に肩を震わせるピューリスちゃんは、やがて嗚咽を零すようになると俺の胸に顔を埋めた。


「っ……! ぅ、うぅぅぅ……!! ご、ごわがっだのだわ゛ぁぁぁ……!! ひ、ひとり、で……! おがぁさん゛もいなくて……!! だれもだよれな゛くで……!! おどうさん゛のいってることも、わからなくて……!!」


「大丈夫だ。もう大丈夫だ」


 トン、トン、と彼女の背中を叩いて落ち着くのを待つ間、今後どう動くかを考える。


 厄介なのは、その襲撃犯がどこの誰なのかが分からない点だ。

 複数人で来たという以上、相手は組織立った動きができると考えてもいいだろうが……また勇者教の可能性もあるか?


 くそったれめ、と内心で悪態を吐く。

 それに子供である彼女を助けたいという気持ちに加えて、俺自身の都合もあった。


 すなわち、彼女の魔眼が狙われる理由である。


「(魔眼を使ってどうするのかは知らないが……確実にそれを活用する手があるはずだ)」


 洗脳か、はたまた魔眼そのものを摘出するのか。

 いずれにせよピューリスちゃんにとっては絶対に良くない未来であり、それは同時に俺にとってもいいとは言えない未来でもある。


「(この子の魔眼を使われた時点で、俺の正体がその組織に露見する)」


 見られただけでアウトな魔眼なんて利用されるわけにはいかない。

 ならば、彼女を助けるのは当然のことだろう。


 もっとも、そうでなくても助けるつもりはあったのだが。


 そしてこの子個人が狙われていることが確定したことで、必然的にリップちゃんの危険度が増すことになったわけだ。

 魔眼の話が出た時点で『探知』で現在地とその周囲を探っているが、今のところは彼女の周囲で怪しい動きをする人影は見られない。

 注意は続けるが、とりあえずは安心してもいいだろう。


「(……もしかして、俺が森で襲撃を受けたのと関係が合ったりするのか?)」


 あり得るかもしれない、と己の中で湧いて出た思い付きに思考を割く。

 あの泉の扉が関わっているのか?


「なんにせよ、ソドマスさんの調査を待ってからだな……」


 ちょうど今日から調査をするはずだ。

 現場で鉢合わせになる可能性もあるため、ひとまずは彼の帰還を待って情報の共有をしてもらうことにしよう。


「……おっと。疲れて寝たか」


 いつの間にか、小さな寝息を立てている少女を見て、負担にならないように抱き上げる。

 そして彼女を寝床に連れて行くのは、マーサさんとリップちゃんの二人が帰って来てからになるのだった。





「ぐぁっ……!?」


 森の中、飛来してきた何かを防ごうと剣を構えたソドマスだったが、また別方向から飛来した何かによって背中を斬り裂かれる。


「くっそ……! 何でお前らがこんなことしてんだよ……! 聖騎士……!」


「黙れよ雑魚が!」


「っ!?」


 悪態を吐いたソドマスだったが、直後背後からかけられた声に反応して剣を振るう。

 ガキン、と激しい金属音を立て、その刃は金属鉤によって止められた。


「チィッ……! 立派な図体だなぁ……!!」


「ハッ! またあの冒険者が来るかと思って張ってたが……まさかお前が来るとはなぁ! だが、言うほどじゃねぇなぁギルドマスターさんよぉ!」


 見上げるほどの大男の姿と武器を見て一度距離を取ろうとしたソドマスだったが、そうはさせじと大男――レオタイガが距離を詰める。

 巨躯に似合わない速度に驚くソドマスだったが、負けじと『纏い』に使用する魔力を増やして対抗する。


 再び、二人の得物が交差して金属音を響かせた。


「もう一度聞くぞ、聖騎士……! この森で、この街で、何を企んでいる……! あの倒木も、魔物がいなくなったのも、全部お前たちの仕業か……!?」


「そうだと言ったらどうする! それと、一つ間違えてんぞ冒険者ぁ!!」


「なっ、ぐぅっ……!?」


 片方の金属鉤は剣と交わらせたまま、もう片方の鉤を振るうレオタイガ。

 すると、振るわれた金属鉤の刃から魔力の刃が放たれ、至近距離からソドマスの体に傷をつけて吹き飛ばす。


「俺は聖騎士ども雑魚とは違うんだよ。俺の所属は聖女親衛隊だ。間違えてんじゃねぇぞ雑魚が!!」


「ハァッ……! ハァッ……! 聖女、親衛隊……? 聞いた事ねぇよそんなの……」


 幾度も傷つけられた体からは多量の血が流れ出る。

 流石に血を流しすぎたと、ふらつく体と定まらない視界で己の状態を俯瞰するソドマス。


 立ち上がろうにも立ち上がれない状態に、レオタイガはフン、と鼻を鳴らした。


「安心しろ、貴重な魔力持ちは殺しはしねぇ。師のためにも、魔力はいくらあっても足りねぇからなぁ!」


「くそっ、すまねぇ……トーリ……」


 ギャハハハとレオタイガの笑い声が響く泉の森の中。

 ソドマスの言葉は、笑い声と木々のさざめきによって掻き消されるのだった。

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