第113話:すごいと言われたい
「泉に謎の扉……それに加えて、調査中の襲撃。きな臭くなってきやがったな」
ハンルドに帰還して真っ直ぐギルドへと戻った俺は泉の中にあった謎の扉のこと、そして襲撃を受けたことを報告した。
すべての報告を終えると、今迄黙って話を聞いていたソドマスさんは眉間に皺を寄せながら天井を仰ぎ、大きなため息を吐く。
「ですね。調査の方は引き続き行いますか? まだ扉の向こう側がどうなっているのか確認できてませんし、襲撃犯のことも気になりますから」
「……いや、大丈夫だ。調査の方は俺が引き継ぐ」
「……はい?」
突然のその言葉に、俺は思わず言葉を零した。
そんな俺をソドマスさんは「まぁ聞いてくれ」と手で制す。どうやらちゃんとした理由があるらしい。
「元々この件を頼んだのは、俺一人じゃ進展がなかったからだ。このギルドの冒険者も、言い方は悪ぃが実力不足だったしな。そんで実力も魔法も使えて、戦闘も高いレベルでこなせそうなお前さんに頼んだわけだ」
「まぁ、そういう話でしたからね」
頷く俺に、ソドマスさんは「そうだ」と話を続ける。
「実際お前さんは、魔力の探知でその扉を見つけたわけだろ? 俺じゃ見つけられなかった手掛かりを見つけてくれたんだ。これ以上はお前さんを頼るわけにはいかねぇよ」
「別にそんなこと思ってませんが……」
「それに、襲撃を受けたんだろ? 魔物か人かはわからねぇが、危険なことに変わりはねぇ。ならいっそ、俺が出た方がいいって判断だ。これでもギルドマスターだからな」
ドン、と己の胸を叩いて力こぶを作ってみせるソドマスさん。
なんでも彼は現役こそ退いてはいるが、今でもたまに依頼をこなしているんだとか。
おまけに元星6つの冒険者とのことなので相当腕が立つのだろう。
そんな彼からすれば、俺はそこらの冒険者よりは腕が立つ星3つの冒険者だ。
だからこそ、俺と調査交代というわけか。
確かに普通に考えれば、襲撃を受けたというこの状況。より腕の立つ者が調査に出た方がいいと考えるのはその通りである。
「自分の実力くらい、把握はしてますけどね」
「だからこそ、お前さんは星3つでその強さなんだろうな。ただ今回の件、あとは俺に任せてゆっくりしてくれや」
ニカッ、と笑ったソドマスさんは、そう言って何かの袋を俺に投げてよこした。
落とさないようにそれを両手で捕ってみれば、なかなかの重さに思わず驚く。
「……報酬、なんでしょうけど……多くないですか?」
「相応の報酬だっての。ただでさえ魔法使いは少ねぇうえに、魔力探知ができるやつは更に減る。今回の件は、その技能を持ってるお前さんがいたからこそわかったんだ。それなりに色は付けるっての」
まぁなけなしの金だがな、とため息を吐く彼に、俺は「ではありがたく」と報酬の入った袋を懐にしまう。
そして報告も終わり、そろそろギルドから出ようと踵を返したところでソドマスさんから待ったの声がかかった。
「確かお前さん、知り合いに付き添ってこの街に来てるっつってたな」
「はぁ……それがなにか?」
「いやなに、ちょどいい時に来たなってことを思い出してよ。この時期は5年に一度の祭りがあるんだわ」
「祭り、ですか……?」
首を傾げた俺に、ソドマスさんは大きく頷いた。
このハンルドの街では5年に一度、教会で『聖女祭』という聖女を称える祭りがあるらしい。
祭りは誰でも参加が可能で、毎回多くの子供たちが参加しているんだとか。
「なるほど……それはまた、いい時期に来たもんですね。教会でやってるんですか?」
「そうだな。それに教会の周りじゃ屋台も出る。調査で疲れてるだろうし、ゆっくり過ごしてくれ」
教会のお祭りという情報にお礼を伝えた俺は、今度こそギルドを出て宿へと向かった。
とりあえず調査はソドマスさんが引き継ぐというし、報酬も想定以上のものを貰えたんだ。暫くは依頼を受けずにゆっくり過ごすことにしよう。リップちゃんや街の子供たちと遊ぶのもいいかもしれない。
それに、だ。
「あの女の子……ピューリス、だっけか? ある程度コミュニケーションが取れるようになっていればいいんだけど……」
とりあえず、明日の昼前位にマーサさんの家に向かうことにしよう。
「ランクについては……ちょっと考えた方がいいのかもしれないな」
首に吊るされた3つ星が描かれた鉄のタグを見る。
実力を偽るために留めているが、こういう基準として依頼の難易度を考えられるときにはあまり良くないのかもしれない。
今回はソドマスさんが変わってくれるからよかったが、今後は誰かが怪我をする可能性もある。
「……4つにすることも考慮しておこう」
昇格条件はなんだったか……上げる気がなかったためよく覚えていない。
歩きながらうんうんと頭を悩ませながら、宿へと帰る俺なのであった。
◇
翌日になり、いつもよりもゆっくりとした起床となった朝のこと。
簡単な朝食を宿で食べた俺は、そのまま街へと繰り出した。
今日は依頼を受けず、ソドマスさんの言う通りにゆっくりのんびりさせてもらうことにしよう。
「あ、兄ちゃんじゃん! 今日も依頼か?」
マーサさんの家へと向かう道すがら、途中で通りがかった広場で遊ぶ三人の子供たちを見かけた。
後でリップちゃんを連れてこようかと考えていると、その集まりの中にいたレダくんがいの一番に俺の元へと駆け寄ってくる。
戦うごっこ遊びでもしていたのか、彼らの手にはちょうど良いサイズの木の枝が握られている。
「おう、レダくん。いんや、今日のお兄さんは丸々一日……いや、こっから数日は暇になる予定だぞぉ」
そんな彼は俺の言葉を聞くと「本当か!?」と何やら嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「てことは、兄ちゃんも聖女祭に来るのか? な! な! 来るんだろ!?」
「おーう、どうどう。まずは落ち着きな。ほれ、いい子には飴ちゃんをやろう」
レダくんを含めた子供たちに、ローブのポケットから取り出した飴玉を一人一つずつ配っていく。
「おお……ていっ」
「おっと」
途中ポケットからいくらでも出てくる飴玉を見た子供の一人が、以前のブルーちゃんのように俺のポケットに手を突っ込もうとしたのだが、俺はそれをさり気なく防いでウインクして見せた。
「飴玉が出てくる不思議なポッケだろ? 気になるのはわかるが、冒険者の秘密ってことで勘弁してくれな?」
グイグイとその子供の頭に手を押し付けながら、軽く前後に揺らしてやる。
冒険者すげぇ……と感心する子供たちの様子に、内心でほっこり鼻高々して大満足だ。
「で、聖女祭だったかな? 一応見に行くつもりだけど……なんでそんなに興奮してるんだい?」
「あんな、聖女祭で聖騎士様と戦えるんだぜ! 父ちゃんが言ってたけど、毎回力自慢が挑むんだってさ!」
「へぇ……そんな催しもあるのか」
何でも、聖騎士がどれほど強いのか。それを街の人たちに示すための催しらしい。
聖騎士同士での模擬戦闘の後、一般から参加者を募ってその強さを街の人たちに実感してもらうのだとか。
前世でよく知るゲームなどの娯楽が少ないこの世界において、命のやり取りがない戦闘は派手で見ごたえがあるのだろう。参加型ともなればなおさらだ。
「そうそう! 聖騎士様が戦ってるところがみれるんだぜ!」
「それは楽しみだねぇ」
「んで、そこで兄ちゃんが戦ってるところも見れるんだろ!? 聖騎士様と兄ちゃんって、やっぱいっぱい魔物を倒してる兄ちゃんの方が強いんだよな?」
「……うん?」
「え~、レダくん。流石にそれはないよ~」
「そうだよ、聖騎士様の方が冒険者よりも強いって、僕のお父さんも言ってたよ?」
「…………うん?」
やいのやいのと、聖騎士と俺のどちらが強いのかと騒ぎだす子供たち。
そんな彼らの様子を前に、俺は笑みを浮かべたまま内心で首を傾げた。
「(つまりだ。その聖騎士に挑むという催しに俺が参加して、どっちが強いのかを見たい……って話だよな?)」
なるほど。確かに興味が湧くのも無理はないだろう。
どちらが強いのか理論。子供のときはアニメや漫画のキャラクターを並べてよく話題にしたものだ。
「でも兄ちゃんもすごいんだぜ! 馬車で話してくれたけど、こーんなでっかい魔物も倒したって言ってたぞ!」
「でも、それ見たわけじゃないだろ?」
「そうだよ~。もしかしたら、話をこちょー? してるかもだよ~」
誇張なんてよく知ってるなと感心しながら彼らの様子を見守っていると、「嘘じゃないよな兄ちゃん!」とレダくんが少々ムキになりながらこちらを見る。
俺はそんな彼の頭を両手でつかむと、グリグリと髪を撫でまわしてから手を離した。
「とりあえずそうムキになるもんじゃないぞ、レダくんや。まずは落ち着いて、そして冷静になるんだ。冒険者になりたいっていうなら、なおさら自分を落ち着かせる術は必要になる」
「う、うぅ……ふらふらする……」
「だ、大丈夫か?」
「ふらふらだ~」
視界が揺れているのか、ふらふらっとした足取りになるレダくん。
そんな彼を心配するように、他二人の友人の子らがレダくんの肩を掴んで支えていた。
「まぁレダくんにした冒険の話は、全部本当のことだからそこは安心していいぜ? そしてお兄さんはそれなりには強い。もしかしたら、聖騎士様にだって勝ってしまうかもしれないぞ?」
「「え~」」
「だ、だよな! 兄ちゃん強いもんな!」
胡散臭いものを見るような目で俺を見るレダくんの友達二人と、そんな彼らに対して目を輝かせているレダくん。
そんな三人に対して、俺はフフンと得意げな笑みを浮べて見せる。
「まぁ、見てなさいって。聖女祭で、もしその聖騎士様と戦う機会があれば腕試しをしてみようじゃないの。ふっふっふ……君たちはきっと、この俺の実力を目にすることになるぜ?」
それを聞いて、レダくん以外の二人も興味を持ったのだろう。
いつの間にか、表情も先ほどよりもワクワクしたものへと変貌していたのだが、「まぁあっさり負けちゃうかもだけどな!」と続けた俺の言葉に三人揃ってずっこけていた。
「兄ちゃん!」
「ハハハッ! まあそう怒るなって。できる限り頑張るさ」
じゃあ俺はこれで、と三人に別れを告げて広場から離れる。
まぁ実際のところ、聖騎士とやらがどの程度の実力を持っているのか気になっているのは確かだ。
それに、命のやり取りのない純粋な剣技の腕比べ。対人戦の経験とするにはもってこいの機会だろう。
「クフッ……おまけに、だ。あの二人の反応からして、冒険者は聖騎士よりも弱いという認識が子供たちにある。つまり、俺が勝てば『お兄さんすげぇ!』と子供たちから大絶賛! というわけだな」
冒険者が弱いと言われているのは、この街そのものが安全で脅威となる魔物が生息する『泉の森』にも危険な魔物がいないためだろう。強い魔物を狩って稼ぐ冒険者であれば別の街に行くだろうしな。
故に強さという面における冒険者の評価は低い。
クフフフフ……! と口元を手で隠しながらその場面を想像する。
実に、いい……!
もちろん、衆目の中であるため全力は出さない。あくまでも表の俺として出せる全力で勝つのだ。それでダメそうなら……その時は仕方ないので、笑ってごまかそう。
笑い方が気持ち悪かったのか、街で見かける聖騎士の人たちから妙な視線を向けられていることに気付いた俺は、コホン、と一つ咳払いをして取り繕ってから目的地へと急ぐのだった。




