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【WEB版】転生した空間魔法使いは正体隠して目立ちたい!~それ俺ですとは言いません~  作者: 岳鳥翁
第4章:瞳に映すは冒険者

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第112話:泉の調査

 ハンルドの街を出て『泉の森』へとやってきた俺は、『纏い』を使用し、疲れない程度の速さで森の奥を目指した。

 昨日見た倒木エリアのさらに奥。昔の聖女様と所縁があるという泉が今回の目的地である。


「というわけで、やってきましたよっと。おぉ……綺麗な場所」


 速度を緩めて立ち止まり、眼前に広がった景色に舌を巻いた。


 それなりに深い森の中だが、この泉がある場所だけは陽の光が差し込んでいてかなり明るい。

 そしてその光が泉の表面で乱反射することで、周囲がよりいっそう明るく感じるのだ。


 泉という名前ではあるが、かなり広大なのではないだろうか。スワンボートでも浮かべて漕げば、一周するのにも少し時間がかかりそうである。


「へぇ……そこらの川なんかよりも断然綺麗に見える。飲むのは……煮沸しないと怖いし、やめておくか」


 しかし、透明で澄んでいる水のおかげか泉の中の様子がはっきり見える。

 泉の縁に寄って中を覗き込めば、近場に生えた水草とその水草に隠れる小さな虫型の魔物。そしてその魔物を狙う魚型の魔物の姿が目に入った。


「……泉の中にはいるのか。まぁいても害がないくらい小さな奴と……あと淡水系の魚みたいな魔物ぐらいだな」 


 森にはいないのにここにはいるのかと疑問に思うが、泉自体はどこかの川に繋がっていたりはしない閉じた生態系を形成している。単純にここ以外に逃げる場所がなかっただけなのだろう。


 魔力のソナーに反応しなかったのは、地面よりも下の水中にいたからか。魔力を薄く広く放って反応を探るソナーは俺の立ち位置から平行に飛ばすため、こういった場合や今回のような木々が遮蔽物となっている場面ではあまり有用ではなかったりする。


 だからこそ、『探知』を併用しているわけだ。


「まぁそれでも今の森には水の中以外、魔物の一匹もいないがな」


 念のためにその魔力ソナーと『探知』で周囲を探りながらここまで来たが、反応は昨日と変わらず無しである。

 大型の魔物が一匹もいない今、小型の魔物が戻って来て姿を見せてもいいような気がするが、それすらもないとはいったいどういうことなのだろうか。


「これも清めた泉の力、ということなのかねぇ」


 その泉の中に害がないとはいえ、魔物の生態系があるというのは皮肉な話である。

 魔物を滅する力ではなく、寄せ付けない力なのだろう。元から泉にいた魔物には無意味なのかもしれない。

 

「……まぁ理由はどうであれ、だ。今日は昨日の違和感を調べに来たんだし、早速取り掛かることにするか」


 泉を覗き込んでいた体勢から立ち上がり、一度周囲に目を向ける。

 泉の周囲を取り囲む森の木々と、目の前に広がる広大な泉。その泉の中心には、元々そこに在るのであろう岩の先端が顔を出してこんにちはしている。


 一見すればただ綺麗な自然の景色だ。


「『探知』」


 俺を中心とした周囲1キロメートルほどを対象に『探知』を発動させた。

 昨日反応があったのはこの辺だったはず、と当たりを付けて探ってみる。


 だがしかし、昨日の違和感は感じ取れなかった。


「……いや、違う。これは……下だな。確かに、下方向に探知はしてなかったな……」


 試しに、と泉を調べてみると見事にヒットした。


 泉の水の中、魚型、あるいは虫のような形をした小型の魔物の反応が複数あり。ソドマスさん、泉の中は確認していなかったのだろうか。

 ……まぁ、気にする程のものではないという判断だったのだろう。俺が顔を覗かせても襲ってこないみたいだし。


 だがしかし、気にするべきなのはこれではない。


「(……水底の、()()()。反応なし)」


 いや、この場合は反応がないという反応がある、というところだろうか。


 言葉にすると何を言ってるんだとお前は、などと言われそうな表現だが、実際そうなのだから仕方ない。

 要は、『探知』がまったく反応していないのである。


「……あそこか」


 水の中だろうが地中だろうが、俺の『探知』はそこにあるものの形状が分かる魔法だ。土の中を移動する虫でさえ、注意深く探ればその形の詳細を把握することができる。


 だがしかし、この泉の更に下。水底よりも下からの反応が何もない。『探知』による物体の形の把握すらできないと来た。石ころ一つと言うか、土も含めて何もかもがないという反応である。


 下手に『転移』で飛ぶのもリスクしかないなこりゃ。


 泉の縁に沿って歩き、目的の場所へと向かう。

 今向かっているのは、先程俺がいた場所の向こう正面。『探知』による把握ができずとも、それと関わりのありそうなものが確認できたのだ。


 暫く歩いて、向こう正面へとやってきた俺は再び『探知』を使用して先ほど見えたものを探した。


「あった、が……どうやって行くかねぇ」


 泉の中。

 水草などに隠れているため、肉眼では注意深く見なければわからないであろう場所。そこに見えたのは、石造りの扉のようなものだった。


 すぐそこなら水の中に入るのも我慢はできるが、扉がある場所までは少し距離がある。あそこまで行こうと思えば、胸のあたりまで水に濡れる覚悟を決めなければならないだろう。


「……いや、『分隔』で体を覆えば問題はないか?」


 どうせ人が来ない森の中だ。見られる心配がないのであれば、堂々と空間魔法も使用できる。

 大雑把に俺の周囲を『分隔』の壁で囲ってしまえば水に濡れる心配もない。いやむしろ、この方法を使えば全く濡れないスキューバダイビングもできるし、竹を使ったシュノーケルが必要ない完璧な水遁の術も再現できるのではないだろうか。


「流石俺……また空間魔法の新たなる可能性を見出してしまったぜ。……ん?」


 では早速、と『分隔』で壁を作ろうとした寸前のことだった。


 ザワリ、と森が騒がしくなった……ような気がした。


「……気のせいか?」


 腰に携えた剣の柄に手を添え、辺りの森に視線を巡らせる。

 魔物はいなかったはずだが、まさか件の魔物か? と『探知』と魔力のソナーで森の中を探った。


 だがしかし、それが何かを把握するよりも前。


 森の中を突っ切って『何か』が俺に向かって飛んでくる。

 飛んできている……はずなのだが、その何かは『探知』に反応していても俺の目には映っていない。


「っ!? っぶな……!?」


 『探知』で把握しているその正体不明の何か。

 それが俺にぶつかる直前に合わせ、俺は腰の剣を抜いて斬り払う。


 計三つ。同時に跳んできていたその何かは、剣で弾いたその瞬間に周囲に露散してしまった。


「今のは……空気?」


 衝撃波、ソニックブーム……言い方は色々あるかもしれないが、そういった目に見えない実態のある攻撃。

 魔物か? と改めて『探知』とソナーで攻撃が飛んできた方向を探ってみるが、反応らしきものはない。『探知』での索敵も、その攻撃を仕掛けてきたものの姿を捉えらえないでいる。


「……逃げた、のか?」


 念のため『探知』の範囲を森中に広げてみるが、それでもその正体を掴むことはできなかった。

 索敵に引っかからない以上、考えられるのは既に逃げ去ったか、あるいは俺の『探知』から逃れられる何らかの方法があるかの二択。より可能性が高いのは前者だろうが、そんな短時間で俺の『探知』範囲から離れられるのかという疑問も残るため後者の可能性も切り捨てられない。


「魔物……ではないか。遠距離攻撃での様子見と、それが防がれた途端に撤退、もしくは姿を隠しての潜伏。知性のある行動からして人か……あるいは俺が知らないだけで、人に近い知性を持つ魔物がいるか」


 どちらにせよ、一筋縄ではいかない状況だ。


 逃げたか、潜伏か。そして人か魔物か。

 逃げている場合は一番楽なのだが、確定できない以上は楽観視はできない。そして潜伏している場合、俺が発見できていないため先手を譲ることになる。


 そんな状況下で呑気に水の中の扉の調査を進められないだろう。おまけに、濡れないようにする場合は『分隔』の使用も検討するが、もし使ってしまえば潜伏中の敵に情報を与えることになる。


 かといってずぶ濡れになって調査を進める状況でもない。最悪、背後からまた奇襲を受けることになる。


「……悔しいが、ここは一度引き返すか」


 厄介なのは俺の『探知』を無効化している場合。

 以前にびっくりどっきりな魔道具を使う敵を相手にしたばかりだ。人であれば魔法を無効化する魔道具、なんてものを使用している可能性がある。

 魔物なら、そう言った特性を持つのかもしれない。


 その場合、俺の弱体化は必至。『纏い』も使用できない場合は更に最悪だ。

 一人っきりのこの状況において、無理に踏み込む場面ではないだろう。


 重要なのは、泉の中にある扉の件と正体不明の敵についてソドマスさんに報告することだ。『探知』については話せないが、ソナーを使ったことにして話せばいい。


 抜き放っていた剣を腰の鞘に戻し、半径1キロメートルで『探知』を使用。

 範囲を絞ることで把握の精度を上げ、範囲内で何か変化があればすぐに気づける状態を維持しておく。


「また厄介事の気配がしてきたなおい……」


 神社があればすぐにでも厄払いに行きたいほどだと、攻撃が飛んできた森の奥をもう一度見据えた俺は、『纏い』を使用してできるだけ急いでハンルドの街まで戻るのだった。





「……チッ。厄介な野郎だ」


 トーリが去り、人の気配がなくなった『泉の森』。

 そんな森の中、泉から少し離れた先の木の影から一人の男が姿を現した。


 多くの人が見上げるであろう巨大な体躯を持つ大男だった。


 そんな大男は姿が見えなくなった冒険者に対して悪態を吐くと、体ほぐすようにぐるぐると腕を回して身に着けていた首飾りを手に取った。


「魔法使いが使う魔力の感知か。魔眼対策に師から渡されていた魔力隠蔽の魔道具がなけりゃ、バレてたところだったなありゃ。加えて『飛剣』を防ぐ剣の腕。メインは剣で魔法も使えるってところか? ただの雑魚じゃねぇのが腹が立ちやがる」


「レ、レオタイガ様……あの冒険者は……」


 ハンルドの街がある方角を睨む男……レオタイガは、隣へと目を向ける。

 そこには恐る恐ると言った様子で顔を出した神官の姿があった。彼にも同じく首飾りの魔道具を渡していたため、先程の冒険者にバレるようなヘマはなかったはず。


 ビクビクと怯える神官の姿に、レオタイガはチッ、と舌を打つ。


「おい、お前。勇者教のクソどもから買った魔道具……あれは効果があるんだろうな?」


 不機嫌そうなその顔を見て殺されるかもしれないと恐怖した神官は、小さな悲鳴を上げて顔を強張らせた。


「は、はい、恐らくは……この地下空間は魔法を無力化する『無魔の鳥籠(むまのとりかご)』の影響下にあります。この要石さえあれば、操作可能なことも実証済みです。魔法使いの使う魔力の感知でも、内部の魔力に気付くことはあり得ません……!」


 そう言って神官が取り出したのは、掌サイズの真っ白な石だった。


 その言葉に「そうかよ」と一言だけ呟いたレオタイガは、要石と呼ばれたそれを受け取って懐にしまうと、何かを考えるように目を瞑った。

 対して神官は、何か機嫌を損ねるようなことを言ってしまったのではないかという恐怖に打ち震えながらレオタイガの言葉を待った。


 そしてついに一言。「ガキはどうなってる」という言葉が神官に投げかけられる。


「っ……そ、その……た、ただいま捜索中でありまして……で、ですが必ず見つけ出しますので、どうかお待ちを……!」


 目的の子供を取り逃がしたのが昨夜のこと。

 おまけに子供を助けたという冒険者を見た男は、レオタイガの手に寄って殺されたため情報がない。


 流石にまだ時間がかかる、と言いたくても言えない状況に男は泣きそうになりながらも言葉を続けた。


「レ、レオタイガ様がおっしゃられていた冒険者についても、まだ誰なのかが把握できておらず……」


「さっきの奴だ」


「……はい?」


 レオタイガの言葉に一瞬気の抜けたような言葉を返してしまった神官の男。

 その瞬間、男のすぐそばの地面が三本爪の形に抉れた。


 ヒュッ、と無意識に口から空気が漏れる。


「さっきの冒険者だ。間違いねぇ。剣を持った黒髪の冒険者だ。灰色のローブを着てるからすぐにわかる」


「な、なぜあの男だと……」


「……チッ。あの街はギルドマスター以外の冒険者は雑魚しかいねぇ……が、さっきの奴は別だ。魔力持ちで『聖鎧(せいがい)』……こっちじゃ『纏い』っつー名前の劣化技能が使える冒険者だ。他にいない以上は奴しかいねぇよ」


 わかったか、と神官を不機嫌な目つきで睨みつけるレオタイガ。

 そんな彼の様子を見てまずいと思ったのか、「流石レオタイガ様です!」と全力でよいしょする。


 そんな態度に、レオタイガは不機嫌そうなままフンッ、と鼻を鳴らした。


「計画を早める。お前はすぐ街に戻って教会の奴らに伝えろ。ついでにさっきの冒険者について調べることもな」


「は、早める……ですか?」


「さっさとしろ。殺されてぇのか?」


「す、すぐに伝えてきます!!」


 脱兎のごとくその場から去っていく神官の姿を舌打ちと共に見送ったレオタイガは、森の中を一人歩く。


「間違いねぇ。あの冒険者、地下への扉を把握してやがった」


 聖騎士たちからの連絡で、『泉の森』に向かった冒険者がいると聞いてその後を追ったレオタイガ。

 彼はトーリが森に入ったその後、魔道具によって己の魔力を隠蔽して泉まで先回りした。


 ギルドマスター以外に森への調査で入った冒険者。あのギルドマスターが他の冒険者を立ち入らせていない中、ただ一人で調査によこした冒険者である。

 邪魔になる前に先制攻撃で仕留めようとしたが、失敗したことで警戒を強めて姿を隠すことに努めたのだった。


 奇襲が失敗した以上は仕方がないだろう。

 だが師の目的を優先するためとはいえ逃げ隠れしなければならない己に対して、彼は(はらわた)が煮えくり返るような怒りを覚えた。


 すぐにも飛び出して切り刻んでやろうと、そう考えていたレオタイガであったが、そうしなかったのは彼の師の目的を優先したからであった。

 己の存在が万が一にもバレれば支障をきたす可能性がある。


「……ガキの確保ができ次第、殺す。次は確実にだ」


 両手の手甲鉤を打ち合わせ、怒りを顕わにするレオタイガ。

 当然のことであるが、伝令役となった部下の男はレオタイガが帰還した直後、その役目を終えて殉職することとなるのだった。


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