第111話:聖騎士
リップちゃんたちと別れた後、ギルドへと向かうその道中。
朝早くから外に出て遊んでいる子供たちや、家の手伝いに駆り出されている子供たちが俺を見て手を振ってくる。
そんな彼ら彼女らに手を振り返し、寄ってくる子供達には飴玉をプレゼントしてやれば「ありがとう!」と言って去っていった。
素直な言葉は実に心地が良いものだ。子供だから、何か裏があるとかそんな面倒くさいことを考えなくてもいい。
兄ちゃんちょーすげー! と知り合った子供ら全員に言われてみたい。
それはともかく、だ。
「騎士、だよな……?」
のどかな街の景色には似合わない全身鎧の者達。それが街のところどころで見られるのだ。
昨日まではあんなのがいなかったはずなんだが……と、首を傾げて彼らを見る。
「青地に白の刺繍入りマント……何か意味があるのか……?」
できるだけ視線を向けないように注視しながら彼らを見る。
王都で見かけた騎士たちはあんなマントを着用していなかったはずだが……どこかの所属を表しているのだろうか。
ちょっとかっこいいなおい。
「まぁ、考えても仕方ない」
正解を知らない俺がいくら考えたところで無駄の一言に尽きるだろう。
それにこういうのは、誰か事情を知ってそうな人に聞くのが一番早い。
というわけでそそくさとギルドにやってきた俺は、道中で見かけた騎士についてソドマスさんに聞いてみることにしたのだった。
すると、彼はキョトンとした顔を向けて来る。
「ああ、聖騎士の奴らのことか」
「聖騎士……? なんですかそれは」
「なんだ、知らねぇのかよお前さん。聖女神国が派遣してる教会付きの騎士のことだ。あのマントがその証でよ。ボーリスじゃ見かけねぇのか?」
「ですね。一度も見たことないです」
そう答えれば、「マジかよ……」というソドマスさんの呆れたような声が零れた。
どうやらこの街においては、彼らの存在は一般的なものであるらしい。
聖女神国……確か勇者と一緒にいた聖女エリュシラを称えた国だったか? 永世中立国を謳い、全国に治癒魔法の使える神官を派遣する国。
『遍く全ての人々に癒しを』、なんていう教えがあるということは知っている。立派なもんだ。
「でも俺、この街に来てから今迄見かけなかったんですけど?」
「まぁ普段は教会にいるからな。たまたま会えてなかっただけじゃないか? お前さんも街の隅々まで見て回ったわけじゃないだろ?」
「依頼である程度散策したつもりだったんですがねぇ……」
偶然、と言われてしまえばそれまでの話ではあるが……どうにも納得のいかない気分だ。
「それにしても、急に増えてたりしませんか? なんか、ここに来るまでの間で何度か見かけたんですけど」
「あん? そんなにか?」
どれちょっとみてみるか、と受付から出たソドマスさんは一度様子を伺いに外へと出る。
俺もそれに続いてみれば、右を見ても左を見ても、視線の先に騎士の姿が目に付いた。
目が合った騎士に向けて会釈したソドマスさんと共にもう一度ギルドの中へと入ると、ん~と腕を組んで考え込むソドマスさん。
そしてもう一度だけ外を覗くと、今度は受付まで戻ってこちらを見た。
「……多くねぇか? あんなに聖騎士はいなかったはずだが……」
「……やっぱり、ソドマスさんが驚くくらいにはおかしいんですね。というか、ここ王国ですよね? 何で他国の騎士が堂々と武装して歩いてるんですか」
下手したら国際問題になりかねないのでは? と聞いてみる。
しかしその質問に対して、ソドマスさんは「んなことにはならねぇよ」とはっきりと答えたのだ。
「元々この街は、王国内でも少々特殊な立場なんだよ」
「……と、言いますと?」
「聖女神国が名前の通り聖女を崇めてるのはわかるだろ? この街は王国の中でも聖女と関わりが深くて、昔から教会の力が強いんだ」
確かこの辺に……、と何やら受付の中を探り出すソドマスさん。
暫く色々と引っ張り出していた彼は、目的のものを見つけたのかそれを手に取って俺に差し出してきた。
それは一冊の本だった。
「『泉の聖女』……?」
「おう。勇者物語に登場する聖女様の話でな。あれとはまた別の話なんだが……派手さはないが、落ち着いた旅の雰囲気を味わえるってなかなか人気の話だぞ」
勇者物語と比べるとページ数が少なそうな本だった。
スピンオフ作品……のような扱いなのだろうか。内容に軽く目を通して見る。
「……なるほど。旅の途中で、一度迷宮都市に向かった勇者一行がこの街……正確には『泉の森』で休息をとった。そして泉を聖女様が清めたことで聖女様に所縁のある場所になった、と」
「そういうこった。あの森が平穏なのは、聖女様が泉を清めたおかげ、なんて話もある。なんで王国内でこの街は唯一、聖女神国との影響が強いんだよ。あのでかい教会もそういうこった」
もちろん、ただ他国の影響が大きいだけでは王国に不利益しかない。
そのため、王国には聖女神国から毎年多額の出費がある他、この街で教会での治療を受ける際にはかなり割り引かれるとのこと。
他にもいろいろとあるらしいが、要は今の王国と聖女神国の間ではこの関係をお互い納得したうえで成り立っているということだ。
その説明に、なるほど、と頷いた。
「そんなわけで、聖騎士がうろついていてもおかしいことはないって話だ。……いつもの治安維持にしては多すぎる気もするがな」
「原因は?」
「わからん。だが、考えられる可能性をあげるなら、お前さんにも頼んでいる泉の森の件だろうな。聖女所縁の泉の近くが荒らされてんだ。万が一を考えて警戒するのは当然だろうよ」
普段よりも多い騎士も、その影響で聖女神国に増援を頼んだ結果なのかもしれない、とソドマスさんは言う。
「ともかく、あんまり気にしなくてもいいと思うぞ? 聖騎士のやつらがいるのは昔からのことだし、犯罪でも起こさない限りは何もしてこねぇ」
「なら問題はないですね。ただ、仮に聖騎士の人たちも『泉の森』の件で動いている場合、冒険者の俺たちに対して何か言ってきたりはしないんですかね? 協力するならするで何か接触があってもいいでしょうし、手出しするなというならそう言いに来てもいいと思いますが」
「聖女様の土地を荒らすなどとは不届き千万! 万死に値する!」とか言って魔物の討伐隊とか編成しそうだし、そうじゃなくても「我々がけじめをつけるから手を出すな!」などといろいろ言ってきそうだ。
しかしそんな俺の疑問に対して、ソドマスさんは「いや」と首を横に振った。
「土地そのものは王国のものだし、魔物が関わる件なら冒険者ギルドの領分だ。万が一の場合はこっちから頼むことはあっても、向こうから何か言ってくることはねぇよ。ま、そうなるのは周辺ギルドからの応援を断られた場合くらいだがな」
「ああ、そうなんですか」
本当に最後の手段ということなのだろう。
聞けば、周辺ギルドから応援を頼むよりも金がかかるらしい。この街での治療費が取れない分ぼったくりやがって、と文句を言うソドマスさんの言葉に俺は苦笑を浮かべた。
「頼まれるかもわからない応援なのに、あんなに聖騎士を呼んで大丈夫なんですかね?」
「件の魔物が街を襲った場合を考えて備えてるんだろうよ。その時は街に被害を出したってことで、物理的に俺の首が飛びかねないがな」
責任問題だよ責任問題、と笑うソドマスさんの姿に、よく笑えるなこの人と呆れて肩を竦めた。
「なら、その首が飛ばないようにしっかり調査を進めますよ」
「おう、頼んだ」
そんな声を背中に投げかけられた俺は、軽く手をあげる程度で挨拶を済ませてギルドを出る。
目的地は昨日と変わらず『泉の森』だ。
「さて、それじゃあ昨日の違和感の正体。探りに行くか」
道中でやけに聖騎士たちからの視線を感じる中。
俺はハンルドの街を出て、再び『泉の森』へと向かうのだった。




