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才能の器 ~素敵なスキル横伸ばし生活~  作者: とんび
第一章

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137 嵐の前の

注:久しぶりにステータス説明が出てきます


 更に数日が経過した。


 邪神勢力の策はジワジワと浸食してきている。

 同時多発的に発生した流言が、街を飛び越えて町へ、そして町々をつなぐ村などの場所にも届くようになっているようだ。


 これに関しては完全に後手に回っている。

 本来、こういう流言への対策は発信源を潰すのが普通なのだろうが、それができないからだ。


 更に言えば、噂を繋いでいく市民たちの意識も「良く知らないけどそんな話を聞いた」という程度であるがゆえ、反対意見で打ち消すのも難しい。


 殿下からのお触れで「迷宮を刺激する可能性を考慮した軍の駐留」について発出したが、それもどこまで効果があるか……。



 一方、俺たちの準備も着々と進んできてはいる。


 まず、守備隊および迷宮突入部隊の配備は魔導列車を用いて速やかに完了された。

 物資も随時搬入が進んでいるし、有事となっても備えとしては十分だろう。


 またソウルレゾナンスについても、俺が行使試験に移ることができている。

 軍の訓練所などで使ってみたが、通常の魔法と同様に複数化・拡大化をすれば効果範囲や対象も増やすことができるようだ。


 今の俺の魔法力で戦闘に支障が出ない範囲を調べてみると、おおよそ二十人程度はカバーできることが分かった。

 迷宮突入部隊はカステリオン戦の砦攻めの時と同様、本隊十数名+後詰約十名という構成だ。つまり後詰まで全員対象にするのは多少厳しいが、入れ替わりの可能性があり魔法耐性の低い後詰の前衛までは、ソウルレゾナンスを掛けることができる格好になる。


 後詰の魔法使いたちは自分で魂魄魔法を掛けるなり自衛してもらえば問題はないだろう(クリアマインドやマインドプロテクションは習得済みらしい)。


 ところで魂魄魔法の習得率に関連して、少々面白いことが分かった。


 以前から「スキル外スキル」と言うべきもの――例えばハサミを使うスキルがあったとして、それが無くとも、不格好でも紙を切ることはできる、というようなもの――の存在には気付いていた俺だが、看破スキルのレベルが上がったことにより、それをステータス画面で見ることができるようになったのだ。


 それはステータス画面で、例えば「理力魔法(0)」と表示される。

 レベルゼロのスキル、つまり技術として言えるレベルではないが、なんとか使えはするというスキルである。

 これは王国軍の兵士が、魔法部隊でなくとも「浄化ピュリフィケーション」などのごく基礎的な魔法を使える理由でもある。


 そのレベルゼロスキルとして、それなりの数の兵士たちが明晰クリアマインド精神防壁マインドプロテクションのいずれかを習得するに至っているらしい。


 それは暗雲がやや漂う中で貴重な、ポジティブな情報だった。

 

 ちなみにその一件があってかなり久々にステータス確認をしたのだが、迷宮突入部隊の主力の現状は(レベルゼロスキルを除いて)こんな感じである。



【ステータス画面】

名前:サイトウ・リョウ

年齢:26

性別:男

職業:才能の器(97→107)

スキル:斥候(5)、片手武器(6)、理力魔法(8→9)、鑑定(5)、神聖魔法(10)、魂魄魔法(8→10)、看破(6→7)、体術(7)、並列思考(7→8)、射撃(6)、空間把握(6→7)、盾使い(7)、情報処理(7→8)、剣使い(6)、錬金術(3)、高速思考(0→3)(SP残0)



【ステータス画面】

名前:ズーグ・ガルトムート

年齢:59

性別:男

職業:戦士(28→33)

スキル:両手武器(8→9)、竜魔法(4→7)、槍使い(8→9)、片手武器(5)、投擲(3)(SP残0)



【ステータス画面】

名前:トビー・ステイン

年齢:25

性別:男

職業:戦士(34→36)

スキル:片手武器(7)、斥候(6)、盾使い(8)、剣使い(7)、体術(6)、理力魔法(0→2)(SP残0)



【ステータス画面】白竜戦前

名前:カトレア・ハートランド

年齢:43

性別:女

職業:剣闘士(18→23)

スキル:農業(1)、片手武器(5→6)、剣使い(7→8)、盾使い(5→6)、体術(0→2)(SP残0)



【ステータス画面】

名前:ガウム・スタット

年齢:25

性別:男

職業:戦士(27)

スキル:拳闘術(2)、片手武器(9)、盾使い(6)、斧使い(7)、体術(3)(SP残1)



【ステータス画面】

名前:アトラ・アルセリオン

年齢:20

性別:女

職業:巫女(18)

スキル:精霊魔法(9)、情報処理(9)(SP残2)



【ステータス画面】

名前:ホランド・ミストグローブ

年齢:124

性別:男

職業:弓使い(28)

スキル:弓術(9)、片手武器(7)、斥候(5)、体術(3)、空間把握(3)、釣り(1)(SP残0)



【ステータス画面】

名前:クリス・グレイリィ

年齢:13

性別:女

職業:信仰者(10)

スキル:神聖魔法(9)、裁縫(1)(SP残1)



 俺のスキルは流石に大魔法をいくつも習得したのもあって、かなり上昇している。ただレベル合計が100になってもSPが得られなかったから、更なる頭打ちになったということだな。

 まぁこれ以上増やすとしても、今の俺の戦闘能力を更に上昇させられるレベルにするには、時間が足りないのが実情だ。今ある技能を習熟する方を優先すべきということだろう。


 他の面々にもSPの余っている人がいるが、こっちも同様だ。

 意外と新しい技能を手に入れるというのは、タイミングが必要なのである。

 低レベルなら新規習得の影響も大きいんだろうが、今はラスボスとの決戦前なわけだし。


 軍から選抜したメンバーも、主技能はレベル8~9で主力と遜色無い。

 今回は加えて唯神教の神聖魔法使いも二名ほど含まれるが、そっちは神息ブレスがギリギリ使えるくらいのレベルだ。ブレスの魔力消費量的に、彼らには回復を主にお願いする感じになるだろうか。


 それ以外の準備で言うと、宰相から他国からの支援は難しいだろうと連絡があった。

 現在国王陛下直々に出向いて会談中ではあるが、それが終わったとしても流石に時間が足りないだろうとのことである。

 ただ、交渉が進行中ということはつまり、事情を知らない他国からの横槍は発生しないということでもある。そのため陛下には逆に会談を長引かせてもらうよう、連絡を送ったらしい。


 自身が仕える王相手に中々アレな要求のようにも思えるが、それだけ事態が切迫してきているということでもある。

 宰相の所には選別されて俺の元に届くよりも相当多くの流言の証拠が集まっているだろうからな。実際のところ、あまり心中穏やかでないのではないだろうか。


「その可能性は大いにあるだろうね」


 アルメリアの部屋になんとなく訪れて、状況を整理するために彼女に語り掛けるていでつらつらと口に出していたのだが、最後に彼女からそんな反応が返ってきた。


「ただ宰相殿もそうだけど、みんな君を煩わせないようにあえてそうしているんだ。君はそれを不安がるより、もっと頼るくらいでちょうどいいのさ」


 手に持った資料から目線を上げながら、そんな風に続ける。


 「周囲が現状に不安を感じている」ということに、俺が不安を感じ始めていることを言い当てられてしまった。

 俺が負の感情を持ってしまっては邪神勢力の思うつぼだろう。アルメリアの言う通り、皆が皆自身の領分で頑張っているんだって認識に変えていかないといけないな。


「確かにそうだな……俺が不安がってちゃ世話ないってもんか」


 俺の言葉に頷いて、アルメリアは再び資料に視線を落とす。

 彼女が見ているのは結局ソウルレゾナンスに組み込めなかった「他者との意思共有」を行う術式の資料だろう。試作はされたらしいが、実用化の目途は立っていないらしい。


 遠隔で意思を伝える魔法があればかなり戦闘も楽になるんだが……。

 流石に昨日の今日みたいな速度感で魔法を作れっていうのは無理があったか。

 とはいえポータルバニッシュメントの発動地点の伝達は戦闘中は必須だ。

 今までのように声掛けで対処してもいいが、それでは魔法の発生速度という、魔法自体のメリットを一つ消してしまいかねない。

 上手くやる方法は何かないものか……。


 沈黙の下りたアルメリアの居室で、そんな風に考えを巡らせる。

 と、アルメリアの方は資料を読み終えたのか、冊子をぽいっと放り出すようにして、長いため息を吐き出した。


「どうだった?」


 俺がテレパスっぽい魔法の出来栄えを聞くと、彼女は目元を指でもみながら「うあぁ?」みたいな曖昧な声を出した。


「……いや、駄目だね。発動安定性もそうだが、必要な魔法的出力がちょっと実現可能じゃないレベルになってる」

「ポゼッション状態の俺でも無理そうなのか?」

「単体でなら行使できるだろうけど、他の魔法は同時に行使できなくなると思う。この魔法はソウルレゾナンスの強化魔法として開発されてるから、ソウルレゾナンスを同時行使できないと意味が無い。つまり結論として行使できない。そういうことだ」


 魔法を強化する魔法、というと魔法拡大エクステンドマジックのような位置づけの魔法になるが、それで元々の魔法が使えないのでは確かに無意味である。


「ってことは、決戦で使うのは無理か。いつになるかは分からないけど、決戦が近々になることは確実だろうし」

「そうだね……ただ」

「ただ?」


 歯切れの悪いアルメリアに視線を向けると、彼女は椅子の背に預けていた体を起こし、


「これは私見だけど、実は全体的な状況は悪くないと思ってるんだ」


 と言った。


 邪神の策――つまり邪神の噂が流布され始め、不安を煽られている状況は邪神勢力の糧を生み出し続けている。俺たちはそれを放置できないため、準備が完全でない状態で、決戦の開始を迫られている。


 というのが現状で、マズイ状況ってことで関係者の認識も一致しているのだが、彼女は違う意見のようだ。


「邪神側の貯め込んでいる瘴気は私たちには見えないだろう? であれば内々で気づかないように蓄積し、一気に開放して攻め立てるのが正攻法ではないだろうか。それに流言で不安を煽ってはいるが、それに終始しているのも不自然だと思うんだ」


 そう言われてみると、確かにその通りだという気がする。

 アトラさんから悪魔たちの情報を種々取得しているが、噂を流すだけなんて生易しい連中じゃないのだ。

 親しい人に成りすまし、人心を煽って諍いを起こさせ、猜疑を植え付け、時に凄惨な殺害を見せつける。そんな徹底的な方法が、過去に見られた邪神の眷族たちのやり方なのである。


「だとして、邪神側が半端な行動を起こしたのはなんでなんだ?」

「私は、君が神気憑依ポゼッションを習得したことが鍵になっていると思う」


 眼鏡をくいと押し上げて、アルメリアが言った。

 彼女曰く「ポゼッションの存在を知って、邪神側が早期決着を望まざるを得なくなった」らしい。


「どこかでアレの発動を見られていたってことか……?」

「いや、一定以上の魔法力を持つなら、その場に居合わせなくても感知はできると思う。あの魔法はそれだけの魔法なんだよ」


 実際、初めて学内で発動させた時のことは、学内の高レベルの魔法使いたちは全員感知していたらしい。


「つまり邪神の眷族どもは流言で俺たちをせっついて、迷宮の底まで来させようとしてるってことか」

「瘴気の蓄積に寄与するのも間違いはないだろうけど、私はそっちが主目的だと考えているよ」


 瘴気の蓄積は見えないところで進行しているからこそ、本来それ自体が奇襲の策になる。

 しかしその奇襲の利点を捨てて打ってきた策が「流言」のみで、過去に行われたような、より破壊的で大量の負の感情を生むものと比較すると生易しいものだった。


 であればこの「流言」という策は、瘴気の蓄積を主目的としたものではない。

 俺のポゼッションを脅威と判断した邪神の眷族たちが、俺たちを準備不足のまま開戦に踏み切らせ、不利になる前に早期決着することを狙ったものである。


 それが、アルメリアの推理のあらましであるようだった。


「なるほど……じゃあ俺たちはもう少し落ち着いて準備を進めていいってことか」


 俺が結論付けるように言うと、アルメリアは首を振った。


「いや違う。もし私の推測が正しくて、不利な状況を悟っての動きなら……私たちが動かないなら更にとんでもない策を仕掛けてくるかもしれない。その注意はしておかないといけないと思うんだ」


 彼女の意見は一定の真実味があるものだった。


「とんでもない策、か……」


 必要な準備が整ったら決戦を仕掛ける。

 しかし焦る必要はなく、相手に合わせた急いた行動は相手の思うつぼ。


 そして、その思うつぼに誘導するために相手が策を……仕掛けてくるかもしれない。


「ははは、結局曖昧なことになっちゃったね。難しく考える必要はなくて、要は焦りすぎる必要はないって、そう言いたかっただけなんだ」

「確かに、そこだけ注意してれば良いってことだな。……じゃあとりあえず、そのことをイリスさんにでも伝えてこようかな」

「ああ、そうしてくれると助かる。もちろん、私の個人的見解だってちゃんと言い添えておいてくれよ?」

「分かってる」


 苦笑を浮かべたアルメリアにそう返し、俺は席を立った。

 各所の関係者は切迫した状況に置かれてるって認識だろうから、彼女の推理を伝えれば、少しは精神的重圧も緩和されるだろう。

 その論理的妥当性もそれぞれ考えてくれるだろうしな。




 と、そんな風に俺は思っていた。


 しかし、それを各所に伝える前に。

 俺がアルメリアの居室を出ようとしたその時に、それは起こった。


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