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才能の器 ~素敵なスキル横伸ばし生活~  作者: とんび
第一章

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136 潜むもの


 魔法学園に足を向けた俺は、受付に急ぎの用件と伝え教授室へと案内してもらった。


 面会を希望したのは魔法学園の教授――御前会議では魔法学会の理事長と紹介されていた、ラザフォード・エインズワースという白髪の老爺である。


「お忙しいところすみません。ひとつ、急ぎの用件がありまして伺いました」

「聖騎士殿が直々にとは、剣呑なことですな」


 エインズワース翁は来客用のソファに腰を下ろすと、そう言って大きく一つ息をついた。

 ため息と言うより、久しぶりに柔らかい椅子に腰を落ち着けて休憩体勢に入った、というような反応である。かなり疲労が溜まっているようで、目の下には深い隈があり、顔にも御前会議の時のような覇気が無い。


「かなり……お疲れのようですね」

「魔法学の革新の時が訪れているのです。休んでなどいられませんよ。……それで、要件と言うのは」

「邪神側の動きと思われるものが観測されました。それで、魔法開発の優先順位についてご相談をと思いまして」


 この教授は御前会議に参加しているため邪神のことを知っている。

 だからそう率直に伝えたのだが、言葉にした瞬間の反応は劇的だった。


 隈の浮く座った眼がすっと細められ、視線に力が宿る。

 口を付けていたお茶のカップをそっとテーブルに戻して、背もたれに預けていた体を起こし前のめりになった。


「いよいよですか」

「はい。それで……ソウルレゾナンスを第一優先で開発いただきたいんですが、具体的にどれくらいの日数がかかりそうですか?」

「そうですな……そもそも、残された猶予は如何程で?」

「不明です。ただ……これは後程宰相殿あたりから通達があると思いますが、邪神の動きというのが人心を惑わせるものでして。恐らく放置すればするほど、こちらが不利になると考えられます」


 俺の言葉に、エインズワース翁は思考を巡らせるように顔を上に向けて目を瞑り、すっと息を吸い込んだ。

 そして顔を下ろしてこちらに視線を戻し、


「分かりました。では、術式を四、五日中にはお渡しできるよう、進めておきましょう」


 とそう言った。


「それは……こちらから依頼しておいてなんですが、そんなに早く?」

「ひとつ条件があります。ソウルレゾナンスの術式は現状、半ばまでは完成しております。本来ならば残りの術式作成と細部の確認、行使試験と進めていく必要がありますが、行使試験をそちらにお任せしたい」


 具体的なところを聞くと、行使試験というのは「その魔法の正確な性能を確定する」部分に当たるようだ。 

 魔法の発動可否、そして安全性のところまでを学会が担当する。そして実際に発動させた時の消費魔力量、効果範囲、効果出力、複数化・拡大化の限界などなどの調査を、俺が実地で行うというわけだな。


 行使試験の調査結果は「習得者がその魔法を習得するかを決める」際の判断材料となるものだ。要はカタログスペックというわけである。しかし現状、この魔法を行使できるレベルの魂魄魔法使いは俺だけだから、そんなに細部を詰める必要も無い。


 というかそもそも、俺が習得したポゼッションなどの魔法は安全性確認の段階すらほぼ理論ベースでやってきたからな。そうした離れ業の習得も、今更驚くようなことではないだろう。


「何を重視されるかは、聖騎士殿の方でご判断いただければよいでしょう。魔法目録への記載も、今急ぐ必要は無いでしょうからな」


 本来ならば魔法目録への記載が、魔法の開発完了の証となる。

 しかしあくまでそれは公の話で、ついでに言えば平時の話なのだ。


 戦いに臨むにあたって、わざわざそれを待つ必要も無い、ということなのである。


「承知しました。ありがとうございます。……と言うか、色々と仕事を押し付けていて申し訳ない。決戦の後と言うことになりそうですが、この埋め合わせはいずれ」


 俺の言葉に、エインズワース翁は厳しい表情を和らげ、ニヤリと笑った。


「はっはっ、もちろん、聖騎士殿には色々と埋め合わせていただけねばなりませんな。その身に宿る力は調べるに大いに値することでしょうし」

「ええ、存分に協力させていただきますよ」


 そう言葉を交わし、二人して再び茶に口をつける。

 そして必要なことも相談できたし、そろそろ退出しようかと俺が思った時、教授が「迷宮は踏破された後、どうなるのだろうか」とぽつりと言った。


「魔石経済がようやく軌道に乗り始めた昨今ですからな……。それが白紙に戻ってしまうのは少々惜しくも感じます」


 決戦後、そのことを話題にしたから、そんな感想が湧いたのだろうか。

 

 フェリシアは決戦後の迷宮(そのこと)について「いきなり無に還ることは無い」と言っていた。邪神を退けても瘴気は残留するだろうし、迷宮そのものを形作る虚神由来の上位魔力が尽きるのに、十年二十年のスケールでは間違いなく足りないらしい。


「だとしても、いつかは尽きるものでしょう」


 俺の説明にそんな反応が返ってくる。


「持続的なエネルギーとして利用する方法を考えていかないといけませんね」

「持続的? 聖騎士殿には何か考えがおありで?」

「素人考えにはなりますが、瘴気を魔石に変換する方法を用いて、大気の魔力を魔石にする方法、とか。まあ、それだと結局消費するばかりになってしまいますが……」


 聞かれた返しに適当なことを言ってしまった。

 だがエインズワース翁は俺の言葉を聞いて何か着想があったのか、顎に手を当てて目を瞑り、考え込む。

 そしてすぐにはっと目を空けた。


「いやはや、申し訳ない。こんな雑談に付き合わせている場合ではありませんな……。しかし、魔法学にはこうして課題が山積みです」


 エインズワース翁が立ち上がり、手を差し出してくる。

 そして、


「それを解決するための時間を……。未来を、頼みますぞ」

「……はい、必ず」


 立ち上がって握手を交わし、俺はその場を後にした。




 ======




 それからの数日で、状況は徐々に推移していく。


 俺は方々に転移で跳び、必要な場所に情報を伝えて回った。

 魔導列車で人員と物資の移動が始まり、ズーグ他二名の竜人もマイトリスへと呼び寄せた。

 

 ズーグには、迷宮突入部隊に交じっての連携訓練を開始してもらっている。

 参加してくれた二人の竜人、オクタとリルドは守備隊に入ってもらうことになるので、そっちも同じくだ。


 ちなみに彼らはズーグの同郷ということもあって、俺の家に泊まることになった。(部屋数はギリギリ足りた)


 レイアとシータには迷惑を掛けることになるが、戦士が二人寝起きしてくれるだけで、不測の事態に対しての安心感は増すだろう。

 と言うか、悪辣な悪魔どもなら、俺の家を狙ってくる可能性も全然ありうるしな。むしろ二人には守備隊の訓練に参加してもらいつつ、ウチの常駐にしてもらっても良いかもしれない。


 ソウルレゾナンス開発は、術式の完成までこぎつけたとの報告があった。

 細部や安全性確認は済んでいないが、俺も術式を入手して概要を頭に入れ始めている。

 最終版で多少変わっても、これですぐに習得と行使試験に移れるだろう。


 そして、流言の出所の調査。

 これは国側が調査していることを公にできないため、少々動きが遅い。


 事情を知る少数の探索者(主にエイトとかだが)によって、酒場での聞き込み、あるいは物資調達のていで市場の噂の聞き込みが進んでいるが、情報源の姿が見えてこない。


 誰かが話していた。

 どこで聞いたんだっけ。

 俺はそんなこと言った覚えがないよ。


 聞き込み辿っていった先で、必ずそうした回答が出てきたのだと言う。


 その情報は、情報源が謎であると言う以上に、邪神の関与を色濃く示すものでもあった。

 アトラさんの精霊祈祷で大悪魔どもの情報が増えてきている中で、同様の事例が過去に見られたことが分かってきたからだ。


 惑乱と増殖の悪魔。

 大悪魔ネザーブラッド。


 不安と猜疑を煽る、最大の敵手の常套手段だったのだ。


 恐らく大悪魔がどこかに隠れ潜んでいる。

 それを知った関係者たちの心にじわりと不安を生まれるのを、俺は推測ながら感じ取っていた。


 もちろん、俺自身の内心ですらそうであるのだから、そう感じてしまったとしても仕方のないことだろう。

 だがその仕方のないこと、不可抗力的に生まれざるを得ないものと、俺たちはこれから戦わなければならないのだ。


 戦いの準備を進める中で、俺は邪神が、あるいは大悪魔がニタリと笑うのを幻視した。


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