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第819話


 話をするために集まったのは談話室。

 と言っても、俺とミレーユの2人だけだ。

 シェリアは、既に知っている話なので、席を外すように言われていた。

 あまり聞かせたくもない話なのだろう。


 あれだけ懐いている主人が、ここまで強烈なトラウマを持った原因となった話なのだ。

 聞いて気分の良い話ではない。



 「さて………どこから話そうかしらね………ああ、その前に、貴方はあの子の男嫌いについて、どこまで把握しているのかしら?」



 「残念ながら、ほとんど何も聞かされておりません。肉親すらダメになるほど強いトラウマだということは存じておりますが、それ以外は何も」



 話せない、話さない。

 どちらにせよ、俺はミレアから何も聞けていない。



 「そう………………気を悪くしないで頂戴ね。多分あの子にとっても、封じたい記憶でしょうから」


 「承知しました」



 一つ咳払いをする。

 そして、ミレーユは語り始めた。




 「さっき、私がミレアに対して男が怖いと刷り込ませたっていう話は覚えてる?」


 「もちろん、覚えております」


 「覚えているのであれば問題ないわね。だったら………」



 ミレーユは早速本題に入ろうとしていた。

 しかし、その前に一つ、俺の方から確認したいことがあった。



 「ですが」



 そう言って、俺はミレーユのセリフを遮った。

 そしてこう続ける。




 「私はお嬢様から、奥様や閣下に男嫌いを治すように求められているという趣旨の話をお聞きしました。しかし、奥様は男性に対する恐怖を、お嬢様に刷り込んだとも仰られていた。だとすれば、奥様が本当はどうお考えなのか私にはわからないのです。ですので、もしよろしければ、奥様の真意をお聞かせ願えませんか?」




 ポカンとするミレーユ。

 しかし、意味を理解したのか、後ろめたそうな表情を浮かべて、こう呟いた。




 「そう………なの。やっぱり、あの子には信用されてないのね………………いいわ。話してあげる」




 僅かに見え隠れする罪悪感を抱いた表情。

 後ろめたいなにかを持っていることは確かであった。

 そして、もじもじと手遊びをしながらミレーユは語る。




 「私、昔から結構なんでも押し通すタイプなの。言っていることはすぐにひっくり返すし、わがままな事を言って困らせる事はよくあるの」



 それはついさっき、身を以て体験した。



 「夫………ラークもあまりミレアにかまってあげられていないし、私もこんなだから、どちらかというと、あの子にとってはファリスさんの方が親になっちゃってるんじゃないかしら。だから、私たちはあまり信頼されていないんだと思う」


 「そうでしたか」


 「ええ………あの子の男嫌いに関しても、一応私が男は恐ろしいと擦り込んだ張本人だし、無理に治さなくていいとは言ったのだけれど、屋敷に呼ばれたせいで意見が変わってしまったと思われたのでしょうね。まぁ、それだけの話よ。真意なんて大袈裟なものはないわ」

 


 正直言って、同情はできない。

 警戒されているのだとすれば、それはもう自業自得としか言いようもない。



 「それじゃあ、本題に戻るわね。ミレアが男嫌いになった、大元の話を」



 ミレーユは改めて話をし始めた。



 「もう10年以上経つかしら。あの子がこの家を出る半年程前の事、実はあの子、一度誘拐されているの。若い黒髪の男よ」


 「誘拐………!?」



 まさか、そんな事があったとは。



 「それは、身代金とかそう言った目的………という事でしょうか?」



 ブンブンと首を振るミレーユ。




 「そうじゃない。狙われたのは、あの子自身。つまりはそういう事よ」


 「!!」



 飛んだ変態野郎に狙われてしまったわけだ。

 トラウマにもなるだろう。

 子供はそういった異常なものを受け入れるには、まだ未熟すぎる。

 ただでさえ、大人であっても受け入れがたいというのに。

 

 正直、そう言った気持ちを抱く事は仕方がないのかもしれないと思う。

 だが、危害を加え、危険な目に合わせた瞬間それはもう仕方ないではすまない。

 どれだけ罵倒されようと仕方ない、ゴミにすら満たない人間だ。




 「誘拐犯は、どうなりましたか?」



 そう質問をすると、突然目の色が変わり、食い気味に返事をした。



 「それ!! それについて話したいの」


 「? それはどういう………」




 俺の問いに対して、何かを答えようとしたミレーユは、ふと辺りを見回し、誰もいない事を確認し始めた。

 何か聞かれたらまずい事でもあるのだろうか。


 すると、確認を終えたミレーユは、耳元で囁くように答え始めた。




 「これはまだ確定した情報じゃないけれど、側近の貴方には耳に入れておいて欲しいの」




 ようやく前置きが終わり、本題に入る。

 そしてミレーユは、思いもよらぬ事を口にした。







 「その誘拐犯が、ミレアが嫁ぐはずだった男の可能性がある」









 「————————————」



 「はっきりとどういうつもりかは分からないけれど、多分またミレアを狙っているわ」




 それは、大事なんてものではない。

 婚約は取りやめになったが、もしそうであれば、婚約破棄など許す筈がない。

 断言できる。

 近いうちに、確実に何かが起こる。


 しかし、ミレアに危害を加えられる事に関しては、あまり心配をしていない。

 俺が付きっきりだし、あいつ自身ももう相当に強い。


 だが、トラウマの原因となった男を目にして、万が一にも気づいた場合、あいつの心には大きな傷をつけてしまう事になる。


 それだけは避けたい。




 避けたいのだが、




 「それともう一つ」



 ミレーユから、面倒な条件をつけられてしまう。



 「この件は、念のため誰にも言わないでほしいの。万一にも、ミレアに知られたくない。時期が来れば、何人かには話すつもりだけれど、今はとりあえず、ここだけの話に留めておいて。お願い。神威が使えるという、貴方だから頼める事なの」



 つまり、何かあっても一人で対処しろという事だ。

 それは全然問題ない。

 むしろ、邪魔が入らないのならやりやすい。




 「承知しました。もとより私の使命の一つは、主人を守ることです。これまで通り、この身に代えてでもお嬢様をお護り致します」




 ミレアが知らないのは俺にとっても都合がいい。

 ()()()()()()もある。



 とにかく俺は、あいつの身を護りながら面倒を見つつ、この件も解決する。

 とりあえずこれを、俺の目標として掲げることにした。


 


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