第818話
「それで、勝負をしていたわけですか」
ミレアはため息混じりにそう言った。
ようやく3人全員の配膳が終わり、一応試合終了となったタイミングで、何かがおかしいと思ったミレアが問い詰めた事でバレてしまった。
まぁ元々事情を話して判定をしてもらうつもりでの勝負だったので、バレたというのは正確ではないかもしれない。
が、こうも呆れた様子で言われてしまうと、まるで悪戯がバレてしまったような気分になる。
「シェリアとワイズならまだわかります。しかし、何故お母様まで? 元々然程私に興味は持って無かったでしょうに」
ガーン、という効果音が聞こえてくる程、誰の目にも明らかなくらいのショックの受け方をしていた。
「ああでも、家を出る前は少し構ってくれた記憶がありますね………」
髪をいじりながらボソボソと呟くミレア。
「構ってくれた、でございますか」
「わっ、悪いですか!?」
「いえいえ、お嬢様。そんな事はございません」
嬉しいと感じる事は悪い事ではない。
しかし、それにしてもミレアが………と思っただけだ。
放任だと語っていたミレア。
そういう思い出が少しでもあることや、今でも喜ばせようとしているのが嬉しいのだろう。
「それでお嬢様っ!! 誰のサラダが一番美味しかったんですか!?」
「ワイズよ」
即答であった。
まぁ、これに関しては絶対負けない自信はあった。
この世界は、本当に料理文化のレベルが低い。
基本食べられればマシ、くらいのものだ。
それ故に、少し工夫すれば誰でも料理上手になれる。
流石に、お偉方のところで働いている料理人の腕はなかなかのものだし、すごいやつもいる。
フェルナンキアのてんちょー、ダグラスの弟であり、ラクレーがよく入り浸っていた店の料理人のサクラスは、正直言って段違いだった。
ちなみに今、王都で二号店を構えてそこにラクレーが入り浸っているらしい。
まぁ、そんな事は知らない2人は、当然納得いくはずもなく、
「ふぇぁ!? そんな即答するくらいですか!? 私たちも結構美味しく作った自信あるのにっ!?」
「私もよ!?」
シェリアもミレーユも騒ぐので、
「このドレッシング、少し舐めてみて下さい」
「「え?………………………………………ほぁっ!?」」
ミレアは、僅かに残ったドレッシングを2人に差し出し、口にさせた事であっさり黙らせた。
全く同じ反応である。
「はい、これで彼の勝ちです。それに、私の意見無しに話を進めたところで認めるわけがないでしょう。さぁ、シェリアもお母様もお休みになって下さい。話は明日ゆっくりしますからっ」
ミレアは2人を部屋から押し出した。
「あっ、おっ、お嬢様ぁ!?」
「ちなみにまだ勝負は終わってないわよ」
「終わりです!!」
バタンとドアを閉め、さらに鍵までかけた。
そして、音魔法で結界を張る。
俺もようやくひと段落だ。
「はぁ………………使用人達は元々騒がしい家でしたが、まさかお母様まで混ざるようになったなんて………」
「濃い母だな」
「昔はこうでは無かったんです。でも、家を出る前に突然人が変わって、今思えばそれくらいの時期からはっきりと男の人が苦手になりました」
そういえば、さっきもミレアは言っていた。
こうじゃ無かった、と。
それは、あのミレーユが何かをきっかけに変わった事を意味する。
その何か。
それがきっと、ミレアが男嫌いになった原因なのだろうが、
「………」
少し影のあるこいつの顔を見て、聞くのは多分今ではないと思った。
「まだ勉強するだろ? 一応紅茶はあるけど、飲むか?」
「ふふ、気が利きますね」
「執事、だからな」
冗談めいてそういうと、少しおかしくなって思わず二人で笑ってしまった。
ペコペコするのは嫌いだが、まぁ世話を焼く事自体は特別嫌いなわけではない。
「じゃあ明日な。おやすみ」
「お休みなさい、ケン君。また明日」
結界を解除し、ドアノブに手をかける。
少し気がかりだったのでミレアの方を見ると、何も変わったところはなかった。
実家が嫌いということはないが、話を聞けばここがトラウマの始まりだ。
何かあれば助けたいが、今は特に求められていないし、必要もなさそうだった。
昼間のことも、“俺がどうにも出来ないとは思えない” と、一応は信頼はされていた。
今日のところは帰るとしよう。
そう思って外に出ると、やはり案の定そこにいた。
「………おや」
盗み聞きしようとしていたらしいが結界のせいで何も聞こえなかったのだろう、2人とも歯痒そうな顔をしていた。
「ぐぅぅ………何も聞こえなかった………」
「うちの壁の分厚さをここまで恨んだ日がないわ………!」
そんなにか。
「貴方!! どうせコソコソと2人にしか分からないような事をゴニョゴニョと言ってたりしたんでしょう!?」
「ははは、そのような恐れ多い事は致しません。あくまでも我らは主人と従僕。分を弁えてはおります。ですが………信頼はしていただいているという自負はございます」
ブチっ、と言っていた。
早いうちに帰ろうと。
俺は軽く挨拶をして部屋に戻ろうとした。
すると、
「待ちなさい」
ミレーユは、何故か俺を引き止めた。
用でもあるのだろうか。
どうせ下らない用事だろうと思っていた。
「信頼されているのがわかったわ。そもそも男である貴方とかなりの信頼関係がない限り、あれ程の無警戒に接することはないでしょうから。だから、この話だけは耳に入れておいて欲しいの」
しかし、それが俺にとって、極めて重要な話であった。
それも、つい今さっき知りたいと思ったものだ。
「あの子が、男が苦手になった原因であるとある事件。それについて貴方に話しておくわ」




