第808話
約1ヶ月。
すぐに終わらせられる戦争の後処理が終わるまでに、だいたいそれくらいかかった。
葬儀や叙勲、軍事的な変更等、とにかく国の中枢は慌ただしい様子であった。
突如としてミラトニアのものとなった人間界の他国の領地に関しては、処理するのに時間がかかりそうではあるが、それ以外はあらかた落ち着いたと言っていいだろう。
落ち込んでいた勇者たちや、流とウルク、ラクレーとファリスも立ち直った。
流、ウルク、チビ神はルナラージャの国を見て回る旅に出て、ファリスはレイ・ルイと共に学院に、ラクレーは再び勇者達の指南役として城にいる事になった。
蓮もだいぶ腕を上げたので、一応本人としては退屈はしないだろうとのこと。
春も城にいるかと思いきや、もう少し学院で教師をしたいと、ファリスと共に学院に向かった。
さて、俺はリンフィア達3人のいつメンと言っていいメンバーと一緒にいるのだが、少しばかり厄介ごとになってしまった。
「いやー、本当に申し訳ねぇと思ってる」
「本当に申し訳ないと思っている人は仁王立ちなんてするわけないでしょう?」
つい、ふいっと他所を向いてしまう。
申し訳なさと居心地子悪さで、みるみるうちに汗をかき始めていた。
ボーッとしていたとはいえ、まさかこんな事をやってしまうとは。
そして、ミレアの怒号が飛ぶ。
「あなたはっ!! わかっていないんですっ! 女性にとって甘いものがどれだけの癒しなのか!! わかってないんですぅぅ!!!」
空になった容器を指差しながらこれでもかと腕をぶん回すミレア。
そして荒ぶる縦ロール。
らしくない仕草だが、素が出ているという事は、やはり怒り心頭である。
しかし、そんなツッコミが出来る立場ではない俺はどうすることもできなかった。
事件の内容はこうだ。
学院で久々の休みになったとの事で遊びにやって来たミレアが、俺たちが共用で使っている家………国の悪徳大臣に脅迫して気前よく貰った家にやってきたミレアが、リンフィアに激レアスイーツを預けて出かけている間に、入れ違いに帰ってきた俺が、たまたま一緒にいた王女、フィリアにやってしまった事が発端である。
ちなみに悪徳大臣はその後何故か大臣を解任されたらしい。
めでたしめでたし。
「いや………めでたくねぇ………どうしよう………」
割と頭を抱える問題だ。
このスイーツ、国のどこかにごく稀に出没する職人が、人数限定で作るというマジの幻スイーツらしい。
その職人はもう街を出ており、場所の特定など出来るはずもなく、俺はなす術が無くなってしまっていた。
てかなんだよ幻って。
ふざけんなこの野郎。
ツチノコかテメーは。
しかも、俺が食べたわけでもないので、味の再現も出来ない。
かつて無いほど困り果てている。
「ごめんなさい、ミレア。どうか仮兄さんではなく私をお叱り下さい」
「いいえ王女様ぁ!! 全然怒っておりませんのでぇ!!」
「えぇ………すっごい怒ってる………」
“にいさん”の感じが気になったが、王女にも牙を剥くこのキレっぷりは凄まじい。
全く食い物の恨みとは恐ろしいものだ。
「悪りぃ悪りぃ。俺が出来る事であればなるべくなんでもすると思うから」
「保険のかけ方が凄いですね。ですが、言質は取りました」
「っ………………!」
怖っ。
やはり流の言う通りであった。
旅に出る前に言っていたのだ。
女の恨みは怖いのだと。
流石はスケコマシ(死語)
その後、聞いていたウルクにドロップキックを喰らっていたことは内緒にしておこう。
「それに関しては他の皆さんが帰ってきてからにしましょうか。それまでケンくんは私が納得いくまでスイーツを製作していなさい」
「えー、お前そんなこと言って、量食ったら太………」
ピッ、と。
高く鋭い音が耳のそばで弾けた。
音が聞こえたと思った頃には、耳の横に金と黒の混じった髪が飛んで、後ろの窓ガラスに1センチの穴が開いていた。
「………………………………腕あげたじゃねーか」
「うふふふふふふふふふふふ」
「ひぇ……………………」
俺はナイフを鷲掴みにしてるミレアから視線を逸らさず、ひくついた顔のまま台所に向かうのであった。
その後般若と数十分一緒になった仮妹はガクガク震えながら城へ帰ったという。
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「それはケンくんが悪いですよ」
「ですね」
「うん」
四面楚歌だった。
せめてラビは味方であれと思ったが、そんな期待も虚しく、あのクソガキは向こうについてしまった。
こういう時の女子の結束力は凄いのだ。
こうなってはもうどうしようもない。
「それで、会長はケンくんをどうするんですか?」
リンフィアは俺がミレアの好きにされる前提で話していた。
なんなのだろうか。
捨て犬の気持ちとはこういうものなのだろうか。
「実は、少し厄介な事になっているんです。元々その協力をして貰うべく頼みに来たのですが、この分だと多少無茶を言っても良さそうですね」
「おいやめろ。その新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりの邪悪な目で俺を見るんじゃない」
コホンと咳を払いをするミレア。
気を取り直して、本題に入った。
「実は、私が学院に入った理由の一つに………その………男性に対しての苦手意識を治すという目的がありまして、治っているという証拠を見せなければ………荒療治をされかねないのです。父は堅いですし、母はその………豪快な性格ですから。でも、どうにかなるにはなりそうです。何せそちらにちょうど良い方がいますから」
俺をじっと見るミレア。
なるほど、と思った。
確かに、俺が相手ならば、男性恐怖症が治ったフリが出来る。
しかし、俺は一体どういう役回りなのだろうか。
そう考えていると、
「色々と考えた結果、こうする事にしました。彼を——————臨時の執事にしてしまおう、と」
そんな事を言い出したのだった。
「「「………………………執事ィ!?」」」




