第1215話
ツァリオと共に入ってきた奴隷達は、皆それぞれ徒党を組んでいた。
中には人間や亜人も混ざっていたので、それも印象に残った要因ではある。
しかし、ツァリオだけは孤立していた。
いや、そもそも加入するグループが異なっていたらしい。
それ故にか、彼はずっと1人で訓練をしていた。
ただひたすら、贖罪をするように。
己を傷つけるべくして、戦い続けた。
そうするうちに、気づけば彼はコロシアムでも多くの試合に出ていた。
そしてまた、戦い続けた。
しかし、彼はまだ少年。
齢は——————17。
そう、人間だ。
それを告げた時、エルやハルバードは少なからず驚いていたが、そこは置いておこう。
そんな少年が放っておけなくなり、ハルバードの両親は共に、彼と交流を持つ様になった。
と言っても、日にせいぜい30分程度の交流だ。
しかし、それも毎日続けば、一月ほどでそれなりの友好関係は築くことが出来た。
とりわけ彼は、口下手でどこか人恋しそうにしていた節もあったらしいので、暖かく迎え入れた夫婦に心を開きやすかったのだろう。
さぁ、ここが終点だ。
そう、母と父が生き別れ、母が名を失った日へと繋がる。
ツァリオとハルバードの両親が交流を持ってかれこれ3ヶ月が経った頃。
ある日突然彼はハルバードの両親にこう言った。
——————息子を連れて逃げろ。
何を言っているのか、両親共々始めは理解できなかったが、話を聞いてすぐに納得をした。
その内容は、コロシアムに孤児が集められているというもの。
ツァリオは、偶然それを目撃したのだ。
孤児が集められ、その子供が、幽閉されるところまで。
これを聞いた彼は、すぐに両親の話に出てきた息子のことを思い出し、ハルバードの両親にその事実を伝えた。
その幽閉された子供の特徴を両親が尋ねたところ、その子供はかつてハルバードの実家によく来ていた犯罪者孤児の内、ハルバードの両親の様に奴隷にされた元義賊の子供であるとわかった。
繋がる。
繋がっていく。
目的は見えないが、それは重要なピースではない。
事実を見るために必要なピースは全て組み合った。
そして、浮かび上がる。
このままでは、ハルバードが危険である、と。
しかし、彼らにはお告げが下っていた。
逆らえば、名を奪われ、強さを奪われ、進歩と機能を奪われる厄災。
恐るべきと言っていい。
だが、それはあくまでも、ただ逆らう代償がそうだったならという話。
逆らって、それで息子の身を守れるのであれば、むしろ安い代償であった。
故に、彼らの決意は自ずと決まっていく。
そして、彼らにとって幸運だったのは、味方にツァリオがいたこと。
その正体が、鍵であった。
ここまで語ってきて、ツァリオの正体には皆感づきている。
母も、本人からの話を聞いて知っていた。
彼は——————プレイヤーであった。
つまり、お告げによる強制を受けていない。
それ故に、1人でハルバードの救出をする事が可能であった。
はて。
ここで一同首を傾げる。
特に、ハルバードは頭上時いくつもはてなを浮かべていた。
それも当然だ。
ハルバードには、そこで助けられた記憶などない。
もしもあったのなら、誘拐された時にツァリオに気づいている筈だ。
思考は再び繋がっていく。
疑問は消え、一つの事実へ繋がる。
そう。
彼らは、失敗した。
先程が最高の幸運だとすれば、これは最低の不運だ。
両親の算段としては、人が減るタイミング、つまり訓練のために山を降りるタイミングで脱走を図り、ツァリオが連れてきたハルバードと共に街を脱出するつもりだった。
ただ、山の中で戦えるはずのツァリオが一緒に山を下るのは不自然だったので、ツァリオは先に行動を開始。
両親のみでロープウェイに向かった。
不運はそこで起こった。
それが、至ってシンプルなもの。
彼らは、逃げ出す瞬間を目撃されてしまった。
ここで、運命は別れる。
目撃者と増援を食い止めるべく父のが残り、母は1人逃がされてしまったのだ。
それが、父は名前を失わず、母だけが名を失った理由。
父は、そもそも逃げる事が出来なかった。
故に、ルールに抵触しなかった。
単純な話だ。
そしてその後、騒ぎを察知したツァリオが、名を失い、追ってから逃げきれずにいた母をなんとか助け、今に至る——————
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「ツァリオ君は、もうウチの近くにいたの。でも、ロープウェイもその近くだった。だから、ハルの救出より先に私の救出が行われたの」
「………そのあと俺を助けに来なかったのは?」
少し、非難がましげな視線を母に向けるハルバード。
納得がいっていないのは、ここにいる誰もがひしひしと感じ取っていた。
「この隠れががバレたらマズいからって。ウチは領主に見張られてるから、仮にツァリオ君がハルを救出しても、お父さんの救出はまず出来ないって。彼も2人は同時に守りきれないもの。だから………」
「………もういい」
「!」
ギリっと奥歯を噛み締めるハルバード。
我儘なのは自覚していた。
これは、自己嫌悪だ。
違うとわかっているのに、見捨てられたようで拗ねている。
子供じみた整合性のない感情。
わかっていても、止められない。
ハルバードも理解はしている。
だから、ツァリオは遠くからハルバードを毎日見守り、領主から守っていたのだ。
何ヶ月も。
だから、ツァリオには感謝している。
しかし、何日も自分をほったらかしにし、そして冷静に最善を選んでいる母には、どうしても怒りを向けてしまうのだ。
「………」
黙って背を向けるハルバード。
そのまま何も言うことなく、この場を去ったのだった。
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「ハァ………ホントにガキだなあいつも」
エルを通して全て聞いた。
正直イラっとする。
が、ガキのやる事だ。
多めに見てやらねば。
「でも、事情を知れてよかったですね。ご両親が生きてるなら、まだ希望がありますし」
「ああ………」
嬉しそうにしているリンフィアには申し訳ないが、俺がそんな気のない返事しかする事が出来なかった。
何か、妙に引っかかるのだ。
この話は、どこか気持ち悪い。
そして、まだ謎も多い。
消えた犯罪者………捕まった孤児………未だハルバードを狙う目的………ハルバードの母たちが訓練を受けされられた理由………
一向に目的が見えてこない。
ここまで一貫性のないのは初めてだ。
いや、まさか——————
「おい金髪、これもらうぞ」
「………ん? あぁン!? テメェ穀潰しのくせに俺のカツサンドを………」
「へっ、ぼーっとしてる方が悪いんだよーん。代わりにたまごサンドをやろう」
「肉と卵じゃ取引にならねーだろうが!!」
どうでもいい会話で吹き飛んでしまった。
しかし、頭の片隅に入れておこう。
これまでの領主の動きから見える、鍵の様なものを。
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・キーポイント
消えた犯罪者の行方
孤児を捕まえた理由
未だハルバードを狙う目的
ハルバードの母たちが訓練を受けされられた理由
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